【完結】もう二度とあなたを選ぶことはありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
28 / 28

28 感謝と願い

しおりを挟む
 ロビンがウロイカ辺境伯家を出てすぐの間は、ガンチャは必死になって彼女を捜していた。私のところにも母親経由で連絡が来たが、嘘をつくのは嫌なので、返答しないでいた。そうしているうちにガンチャたちは先代のウロイカ辺境伯を殺害した容疑で捕まった。

 逃げたロビンは、数日は男爵家でのんびり暮らしていたが、現在は平民になり、修道院と併設している孤児院で夫と共に真面目に働いている。
 ロビンが真面目に働いていることに驚いたが、彼女なりの理由はちゃんとあった。
 レイネ様がレタ様の名で隣の修道院に寄付をしていて、孤児院にも様子を見に来るようになったからだ。
 最初は文句ばかり言っていたが、レイネ様の目があるとわかってからは、子供たちの相手を積極的にするようになったらしい。
 彼女の夫は、ロビンが音を上げて仕事をサボったり、子供たちにひどい態度をとるようなら、即離婚をして家から追い出すと言っている。
 ロビンが犯罪の隠匿をしたことは間違いない。そのため、孤児院のボランティアとして、私の家から騎士とメイドが派遣され、ロビンを監視している。ある意味、ロビンは時間が巻き戻され、私を殺さなかったことで罪が軽くなっているのかもしれない。
 無邪気な子供たちと生活して、自分の心の歪みに気づけるかは彼女次第だ。

 ガンチャたちが捕まったことで安全が確保されたので、アルフは公爵家に帰っていった。長い間一緒に暮らしていたから、彼がいなくなるととても寂しくなった。

 そんなアルフに久しぶりに会えることになったのは、ガンチャの裁判が行われる日だった。
 毒見役は釈放され、今は実家に戻って静養中だ。
 ガンチャの母は殺人幇助の罪で既に労働の罰が科せられることが決定していた。肥汲みとなり、農家へ運ぶという大変な作業だ。
 刑が確定した時、ガンチャの母は泣きながら暴れ回ったらしい。
 ガンチャは父親など複数の殺人の罪に問われている。
 罰が何になるかは裁判が行われなくても目に見えていた。
 開廷の5分前。法廷には入らずに重厚な扉の前に立ち、私は深呼吸をした。

「入らないの?」
 
 アルフに尋ねられた私は苦笑してうなずく。

「やっぱりやめておくわ。命乞いされても困るもの」
「それは……、助けたくなってしまうから?」
「違うわ。助ける気がないからよ。命乞いをされているのに知らんぷりなんて、他の人に冷たい女性だと思われてしまうでしょう?」
「そうかな」
「元婚約者だもの。悲しんでいる素振りを見せないとおかしくない? みんなは私が彼に殺されたことを知らないんだもの」
「そうだね。処刑を反対する人は多いし、君の言う通り、その場にいないほうがいいかもしれない」

 アルフは納得してくれたあと、優しい笑みを浮かべる。

「家まで送るよ」
「ありがとう。無駄足にさせてしまってごめんなさい」
「君に会えたんだから無駄足なんかじゃない」
「そう言ってもらえて良かった。本当は裁判を傍聴することは乗り気じゃなかったの。だけど、あなたに会う口実になるかなと思って」

 照れくさくなって視線をそらして言うと、アルフからは何も返答がなかった。

 怒らせてしまったのかもしれないと思い、慌てて彼の顔を見ると、真逆の反応でとても嬉しそうな顔をしていた。

「……アルフ?」
「そう言ってもらえると嬉しい」
「アルフがそう言ってくれて私も嬉しいわ」

 私たちは微笑み合うと、自然とお互いに手を取って歩き始めた。
 あとから傍聴席にいた人から話を聞くと、ガンチャは刑が確定した瞬間、私の名を呼んで助けを求めていたそうだ。

 ガンチャは裁判で処刑が確定し、元ウロイカ辺境伯領にある広場での公開処刑となった。

 当日は朝から曇天で、今にも雨が降り出しそうなほど空は厚くて黒い雲に覆われていた。
 設置された処刑台の周りには多くの人が集まり、これから人が処刑されるとは思えないほどの騒がしさだった。

 時間が近づき処刑台の上に連行されたガンチャは、薄汚れた囚人服姿で、髪や髭が伸び、昔の面影がないくらいに痩せ細っていた。それでも、処刑具に首が固定されたその時、まだそんな力が残っていたのかと驚くほどの大声で叫び始めた。

「助けてくれ! 嫌だ! 死にたくない! 悪かった! アリアナ! お前は俺を愛しているんだろう!? 助けてくれ! 助けてくれるなら何でもする! お前を幸せにしてみせる! アルフレッド様よりも俺を選んでくれ!」

 フードを目深にかぶり、遠くから見ていた私はガンチャの勝手な叫びに苦笑した。

「アリアナ、行こう」
「……そうね」

 同じくフードを目深に被ったアルフに促され、私は背を向けようとしたが、もう一度だけ、ガンチャに目を向けた。

「さようならガンチャ。もしまた、人生をやり直すことがあったとしても、もう二度とあなたを選ぶことはありません」

 私の声は遠すぎて届くわけがない。それなのに、その時だけ、ガンチャの叫びが止まった。

 私たちが馬車に乗ったあとも、少しの間はガンチャの叫びは耳に届いていた。遠ざかったからか、それとも別の理由かはわからない。
 しばらくすると、彼の叫びは一切聞こえなくなっていた。


******


 ガンチャの処刑から約10ヶ月後、私とアルフは結婚した。そして、ちょうど同時期にレイネ様のおめでたがわかった。
 天気の良い日にアルフと公爵邸の中庭を散策していると、彼が笑顔で私に尋ねる。

「二度目の結婚生活はどう?」
「今回の旦那様は私をとっても大事にしてくれるから幸せよ」
「妻を大事にするのは当たり前のことだよ」

 そう言って、アルフは私の髪に優しく口づけた。

「もうすぐ流星群の日だけど、アリアナは何を願うの?」
「まだ決めかねてるの。あなたは?」
「君を含めた家族や親族、友人、それから領民が幸せに暮らせること、かな」
「じゃあ私は、あなたや私に生きていてほしいと願ってくれた人たちが幸せに暮らせるように祈るわ」

 アルフにとっては2回目の流星群だけど、私は初めてだ。1度目の人生では味わうことのできなかった幸せをかみしめ、感謝しながら生きていく。

 そう思いながら、アルフを見つめて微笑んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お読みいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
新作「王女殿下に婚約者を奪われた私が隣国の訳あり国王に嫁いだ結果」を投稿しております。
気が向かれましたら読んでいただけますと幸いです!  


感想を書いてくださる方、あとがきという言い訳に付き合ってくださる方はスクロールをお願いします。








最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ロビンについて終わりが曖昧になっているのは、読者様に選んでいただきたかったからです。
ロビンは改心すると思われた方は、孤児院で苦労しながらも平民として暮らす。
改心しないと思われた方は、ロビンは離婚されて路頭に迷う形になります。そしてその後は……まあ、悲惨な運命しか待っていません。

 人様のお話では気にならないのですが、自分の話では巻き戻る理由がほしくて、今回は流れ星に願いを……という形にしてみました。

 ガンチャのような思い込みの激しい人は実際にいますし、お気をつけくださいませ!(目をつけられたら気をつけようがないのか……)

 少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです!

たくさんのお気に入り、しおり、エール、いいねをありがとうございました。感想もありがとうございました!


そして、恒例の宣伝を!
「王女殿下に婚約者を奪われた私が隣国の訳あり国王に嫁いだ結果」という新作を投稿しています。

また、新作や他の作品でお会いできますと幸いです。
皆さま、季節の変わり目で体調を崩されないようにご自愛くださいませ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


風見ゆうみ

しおりを挟む
感想 62

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(62件)

エコ
2025.10.05 エコ
ネタバレ含む
2025.10.05 風見ゆうみ

お祝いのお言葉をありがとうございます✨️

母親は自分の夫が死んでもよいと思っていましたからね😱
ある意味先代は被害者なのかもです💦

最後までお読みいただきありがとうございました✨️

解除
ペコ
2025.10.04 ペコ
ネタバレ含む
2025.10.04 風見ゆうみ

お祝いのお言葉をありがとうございます。

ガンチャは反省する気はなしですから、ああするしかないかと😅
ロビンは最初は文句ばかり陰で言ってそうですが、いつしか母性的なものが芽生えるかも?

最後までお読みいただき、ありがとうございました✨️

解除
ぽん桔
2025.10.04 ぽん桔
ネタバレ含む
2025.10.04 風見ゆうみ

お祝いのお言葉をありがとうございます✨️

ガンチャはただの◯人鬼になってましたからね😱

ちゃぶ台くん、親方の所に行ったのですね!
また新たなアイテムを持って帰るのでしょうか(´∀`*)ウフフ


最後までお読みいただきありがとうございました✨️

解除

あなたにおすすめの小説

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

殿下、もう何もかも手遅れです

魚谷
恋愛
偉大なる国王が崩御した。 葬儀の場で、王太子アドルフォスは、父王が病床にいるのを良いことに国を思うがままにしようとする、婚約者である公爵令嬢ロザリンデと、その父である宰相を断罪しようと決意する。 全ては自分が次の王に相応しいことを、その場にいる全ての貴族たちに示すため。 アドルフォスは自分の勝利を信じて疑わなかった。 自分には、麗しい子爵令嬢で、数百年に一度生まれる聖女の力に覚醒したエレインという心強い味方がいるのだから。 勝利は揺るぎないはずだった……そう、アドルフォスの頭の中では。 これはひとつの国の終わりの物語。 ★他のサイトにも掲載しております ★13000字程度でサクッとお読み頂けます

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。