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35 第二王子の主張 ①
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テイスン殿下の住んでいる屋敷は、三階建の木造建築の屋敷で、白く塗られた壁と赤い屋根のせいかメルヘンチックに見えた。
幸せな家族が暮らしていそうな可愛らしい屋敷に一夫と多妻が暮らしていると思うと、あまり似つかわしいとは思えない。
馬車から降りた私を迎えてくれたのは、髪をシニヨンにした、気の強そうな中年の女性だった。
「そちらの方は?」
自分をメイド長だと言った女性は、護衛騎士として付いてきてくれたエルを見て眉根を寄せた。
「私の護衛騎士です。今日の訪問については、第二王子殿下ではなく国王陛下から許可をいただいています」
書状を手渡すと、メイド長は内容を確認して頭を下げる。
「失礼いたしました。こちらへどうぞ」
声の低いメイド長の声が響くほど、屋敷の中は静まり返っていて、本当に人が住んでいるのか疑いたくなる。
他のメイドの姿は見えないし、メイド長が客を案内するのも珍しい気がした。
私が来ることをお姉様が知っているのかはわからない。知っていたらうるさそうだと思っていると、メイド長はとある部屋の前で足を止めて扉を開けた。
「中でおかけになってお待ちください」
応接セットしか置かれていない殺風景な部屋に入り、ソファの前で立って待つことにした。エルは騎士としてやって来てくれているので、私の後ろに立って話しかけてくる。
「不気味なくらいに静かだな」
「うん。音を立てたら恐ろしいことが起こりそうな雰囲気ね」
私たちの声も自然と小さくなり、身を寄せて話を続ける。
「側妃の話は聞いたが、正妃についての話はあまり調べられなかっただけに会えたらいいと思っていたんだが、この様子だと無理そうだな」
「もしかしたら、妨害されているのかもしれないわね」
正妃が誰かはわかるのだが、ここでの生活の様子がわからない。面談をしても『幸せに暮らしている』としか言わないそうだ。
扉がノックされる音がして、私とエルは会話をやめ、入ってきたテイソン殿下に頭を下げた。
テイソン殿下は金色の髪に緑色の瞳を持つ中肉中背の青年だった。
私を見つめる目はとても冷ややかで、これから良い話をしてくれるとは到底思えない。
「よく来てくれた。お前の話はエイミーから聞いているぞ」
テイソン殿下は私からエルに視線を移し、笑みを浮かべて続ける。
「お前はサフレン辺境伯家の次期当主だな」
「殿下にお目にかかれて光栄です」
「オレも会ってみたかったんだ。婚約者を奪った男の弟はどんな奴かってな」
言われるだろうとは思っていたけれど、初っ端からくこの話を出してくるとは思っていなかった。
相手が第二王子であれ、多少の無礼は大目にみてもらえることになっているため、私は会話に割って入る。
「私に話があるとのことでしたが、どのようなお話でしょうか」
「そうだった。まあ、座ってくれ」
殿下が向かいに腰を下ろしたのを確認し、私もソファに座る。
「お前は姉と仲が良いんだよな」
「昔の話です。今は縁を切っております」
「何だって?」
殿下は細い目をより細くして私を見つめる。
「エイミーはお前がオレの妻になりたがっていると言っていたが、それは嘘なのか?」
「元姉とそのような話をした覚えはございません」
「くそっ、あの女。騙しやがったな」
殿下は舌打ちをしたあと、眉毛を寄せる。
「いい女だと思って娶ってみたら容姿も依然と比べ物にならないほどに醜い上に、泣いてばかりで嘘つきだ。オレはお前の姉にがっかりしている」
間違ってはないけど、私にそれを言って何になるんだろうか。
「アイミー、お前が責任を取ってオレの犬……、いや嫁になれ。これは第二王子の命令だ」
薄ら笑いを浮かべて、殿下はとんでもないことを言い出した。
背後のエルが動きそうになったので、名前を呼んで制止すると、渋々といった様子で後ろに下がってくれた。
犬になれと言われるとは思っていなかっが、無茶なことを言われるだろうことは織り込み済みだ。
私は大きく息を吐くと、殿下にはっきりと伝える。
「殿下、その命令に従うことはできません」
伝えた瞬間、殿下の眉間に深いシワが刻まれたのがわかった。
幸せな家族が暮らしていそうな可愛らしい屋敷に一夫と多妻が暮らしていると思うと、あまり似つかわしいとは思えない。
馬車から降りた私を迎えてくれたのは、髪をシニヨンにした、気の強そうな中年の女性だった。
「そちらの方は?」
自分をメイド長だと言った女性は、護衛騎士として付いてきてくれたエルを見て眉根を寄せた。
「私の護衛騎士です。今日の訪問については、第二王子殿下ではなく国王陛下から許可をいただいています」
書状を手渡すと、メイド長は内容を確認して頭を下げる。
「失礼いたしました。こちらへどうぞ」
声の低いメイド長の声が響くほど、屋敷の中は静まり返っていて、本当に人が住んでいるのか疑いたくなる。
他のメイドの姿は見えないし、メイド長が客を案内するのも珍しい気がした。
私が来ることをお姉様が知っているのかはわからない。知っていたらうるさそうだと思っていると、メイド長はとある部屋の前で足を止めて扉を開けた。
「中でおかけになってお待ちください」
応接セットしか置かれていない殺風景な部屋に入り、ソファの前で立って待つことにした。エルは騎士としてやって来てくれているので、私の後ろに立って話しかけてくる。
「不気味なくらいに静かだな」
「うん。音を立てたら恐ろしいことが起こりそうな雰囲気ね」
私たちの声も自然と小さくなり、身を寄せて話を続ける。
「側妃の話は聞いたが、正妃についての話はあまり調べられなかっただけに会えたらいいと思っていたんだが、この様子だと無理そうだな」
「もしかしたら、妨害されているのかもしれないわね」
正妃が誰かはわかるのだが、ここでの生活の様子がわからない。面談をしても『幸せに暮らしている』としか言わないそうだ。
扉がノックされる音がして、私とエルは会話をやめ、入ってきたテイソン殿下に頭を下げた。
テイソン殿下は金色の髪に緑色の瞳を持つ中肉中背の青年だった。
私を見つめる目はとても冷ややかで、これから良い話をしてくれるとは到底思えない。
「よく来てくれた。お前の話はエイミーから聞いているぞ」
テイソン殿下は私からエルに視線を移し、笑みを浮かべて続ける。
「お前はサフレン辺境伯家の次期当主だな」
「殿下にお目にかかれて光栄です」
「オレも会ってみたかったんだ。婚約者を奪った男の弟はどんな奴かってな」
言われるだろうとは思っていたけれど、初っ端からくこの話を出してくるとは思っていなかった。
相手が第二王子であれ、多少の無礼は大目にみてもらえることになっているため、私は会話に割って入る。
「私に話があるとのことでしたが、どのようなお話でしょうか」
「そうだった。まあ、座ってくれ」
殿下が向かいに腰を下ろしたのを確認し、私もソファに座る。
「お前は姉と仲が良いんだよな」
「昔の話です。今は縁を切っております」
「何だって?」
殿下は細い目をより細くして私を見つめる。
「エイミーはお前がオレの妻になりたがっていると言っていたが、それは嘘なのか?」
「元姉とそのような話をした覚えはございません」
「くそっ、あの女。騙しやがったな」
殿下は舌打ちをしたあと、眉毛を寄せる。
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間違ってはないけど、私にそれを言って何になるんだろうか。
「アイミー、お前が責任を取ってオレの犬……、いや嫁になれ。これは第二王子の命令だ」
薄ら笑いを浮かべて、殿下はとんでもないことを言い出した。
背後のエルが動きそうになったので、名前を呼んで制止すると、渋々といった様子で後ろに下がってくれた。
犬になれと言われるとは思っていなかっが、無茶なことを言われるだろうことは織り込み済みだ。
私は大きく息を吐くと、殿下にはっきりと伝える。
「殿下、その命令に従うことはできません」
伝えた瞬間、殿下の眉間に深いシワが刻まれたのがわかった。
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