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14 姉の焦り
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「その日は一緒に出かけないか」
数日後、ジェリー様にお母様からされた話をしたところ、お茶会の日を聞かれたので、素直に日時を伝えると、ジェリー様は私にそう言った。
「え?」
「そろそろ、ダブル辺境伯のことはネタバラシをしても良いかと思ってな」
「どういうことでしょうか?」
今日はルドルフ様の別邸の談話室でのんびりさせていただいていて、私の質問に、ジェリー様はダークブラウンのカバーが掛けられたふかふかのソファーに背中を預けて答える。
「レジーノ嬢がダブル辺境伯に近付いた」
「……旅行に行っていると聞いていましたが、本人に近付いたのですか?」
「そうだ。しかも二人そろってな」
「二人というのは、テイン様も一緒に、ということですね?」
「そうだ」
ジェリー様は小さく息を吐いたあと、ルドルフ様から聞いた話を教えてくれる。
「二人はまずは手紙で婚前旅行でダブル辺境伯の領地に来たから、妹の件でダブル辺境伯に挨拶をしたいと言ってきたんだそうだ。五日後くらいまでは会う時間はないと返事をしたら、本当に待っていたそうだ」
「どれだけ暇なんですか……。テイン様のお仕事は大丈夫なんですか?」
「使用人は他にもいるし、元々、父上はテインが役に立つとは思っていなかったみたいだ。使用人の仕事なんてしたことないだろうからな」
「そう言われてみればそうですね。元々は、ヨウビル公爵閣下の側近の予定だったわけですし、生徒会の役員などもされていましたから、書類仕事が出来ない方ではないのですけど、使用人は無理ですよね」
頷くと、ジェリー様はズレてしまった話題を戻してくれる。
「二人はダブル辺境伯に君の悪口をひたすら言ってきたんだそうだ」
「悪口……ですか」
「内容については聞いていない。どうせ、自分達の憶測や嘘などを好きなように言っただけだろうからな。ダブル辺境伯もくだらなすぎて笑い出しそうになるのを何とかこらえたと言っていたくらいだ」
「ルドルフ様には無駄な時間をつかわせてしまったのですね」
「その時は、君と自分が婚約なんてしていないということを伝えるか伝えまいか迷ったそうだが、許可を取ってからにしたほうが良いだろうと思って言っていないらしい。ただ、ミリエル嬢と結婚するつもりはないと答えたそうだ。そうすると、二人は満足そうな顔をして帰っていったらしい」
私とルドルフ様が婚約していると思っているから、お姉様にしてみれば、その言葉が聞ければ目的は達成したことになる。
「それはいつ頃の話ですか?」
「僕が聞いたのは昨日だ」
ということは、お姉様は今日か明日くらいには家に帰ってきそうね。
「お姉様は帰ってきたら、きっと、何か言ってくるのでしょうね」
「ああ。だから、そろそろ素直に伝えればいい」
「そうしようとは思いますが、ジェリー様とのことはどうしますか?」
「相手が誰だかはわざわざ伝えなくても良いだろう。聞かれたら、ルド様、とだけ言えばいいんじゃないか? 君が言いたいなら、僕だと伝えてもらってもかまわないが」
「そうですね。伝えるタイミングは考えることにします。お出かけしているところを、お姉様の知り合いに見られる可能性もありますし、そこでバレても良いかもですね」
その後、初デートはどこに行きたいかという話になり、お互いにすぐには思い浮かばなかったため、お茶会まで時間もあるので、次に会う時までに考えておくという話をして別れた。
そして、家に帰るとすぐに、お姉様が私の部屋までやって来た。
部屋の鍵をかけていたのだけれど、メイド長から無理矢理、鍵を奪ったようで勝手に開けて中に入ってくると、着替えようとしていた私のことなどおかまいなしに、ソファーに座って聞いてくる。
「どこへ行っていたの?」
「おかえりなさい、お姉様」
「姉を出迎えないなんてどういうことなの?」
「帰る日にちや時刻をあらかじめ教えていただいていれば出迎えたかもしれませんが、突然帰ってこられたのに出迎えは無理です」
「……まあいいわ、それよりも、私、ルドルフ様に会ってきたのよ」
お姉様は誇らしげな顔をして続ける。
「あなたの本当の姿を、ルドルフ様に話しておいてあげたからね? そうしたら、彼、なんて言ったと思う?」
「……なんと言われたんですか?」
「あなたとは結婚しないって! 婚約者なのによ!? やっぱり、あなたは愛人止まりなのよ! ねえ、どうせ愛人になるのなら、テインの愛人になったらどう? そうすれば幸せになれるわよ? 私だって、あなたのそばにずっといてあげられるわ」
「お断りします」
「どうして? 私はあなたのためを思ってるのよ? あなたに幸せになってほしいから」
「私の婚約者はルドルフ様ではございませんから」
お姉様のほうには顔は向けずに、メイドが持ってきてくれた服に着替えながら答えると、お姉様が聞き返してくる。
「は? どういうこと?」
「私、ダブル辺境伯と婚約しただなんて一言も言っておりませんが?」
「え!? だって、ルドルフ様は何も……!」
「婚約なんてしていないから、ルドルフ様は私と結婚はしないと言ったのだと思いますが?」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! 違うの!? 私、皆に言いふらしちゃったんだけど!?」
「はい?」
意味が分からなくて聞き返すと、お姉様は立ち上がって叫ぶ。
「ルドルフ様はあなたを愛人にするつもりだって、友人に言っちゃったのよ!」
「……では、今すぐ、間違っていたというお話をされてきてはどうです?」
「するわ! するけれど、じゃあ、一体、ルド様って誰なの!?」
「さあ? そのうち、わかると思います」
にっこりと笑ってみせると、お姉様は怒りで顔を真っ赤にして、私の部屋から出て行った。
数日後、ジェリー様にお母様からされた話をしたところ、お茶会の日を聞かれたので、素直に日時を伝えると、ジェリー様は私にそう言った。
「え?」
「そろそろ、ダブル辺境伯のことはネタバラシをしても良いかと思ってな」
「どういうことでしょうか?」
今日はルドルフ様の別邸の談話室でのんびりさせていただいていて、私の質問に、ジェリー様はダークブラウンのカバーが掛けられたふかふかのソファーに背中を預けて答える。
「レジーノ嬢がダブル辺境伯に近付いた」
「……旅行に行っていると聞いていましたが、本人に近付いたのですか?」
「そうだ。しかも二人そろってな」
「二人というのは、テイン様も一緒に、ということですね?」
「そうだ」
ジェリー様は小さく息を吐いたあと、ルドルフ様から聞いた話を教えてくれる。
「二人はまずは手紙で婚前旅行でダブル辺境伯の領地に来たから、妹の件でダブル辺境伯に挨拶をしたいと言ってきたんだそうだ。五日後くらいまでは会う時間はないと返事をしたら、本当に待っていたそうだ」
「どれだけ暇なんですか……。テイン様のお仕事は大丈夫なんですか?」
「使用人は他にもいるし、元々、父上はテインが役に立つとは思っていなかったみたいだ。使用人の仕事なんてしたことないだろうからな」
「そう言われてみればそうですね。元々は、ヨウビル公爵閣下の側近の予定だったわけですし、生徒会の役員などもされていましたから、書類仕事が出来ない方ではないのですけど、使用人は無理ですよね」
頷くと、ジェリー様はズレてしまった話題を戻してくれる。
「二人はダブル辺境伯に君の悪口をひたすら言ってきたんだそうだ」
「悪口……ですか」
「内容については聞いていない。どうせ、自分達の憶測や嘘などを好きなように言っただけだろうからな。ダブル辺境伯もくだらなすぎて笑い出しそうになるのを何とかこらえたと言っていたくらいだ」
「ルドルフ様には無駄な時間をつかわせてしまったのですね」
「その時は、君と自分が婚約なんてしていないということを伝えるか伝えまいか迷ったそうだが、許可を取ってからにしたほうが良いだろうと思って言っていないらしい。ただ、ミリエル嬢と結婚するつもりはないと答えたそうだ。そうすると、二人は満足そうな顔をして帰っていったらしい」
私とルドルフ様が婚約していると思っているから、お姉様にしてみれば、その言葉が聞ければ目的は達成したことになる。
「それはいつ頃の話ですか?」
「僕が聞いたのは昨日だ」
ということは、お姉様は今日か明日くらいには家に帰ってきそうね。
「お姉様は帰ってきたら、きっと、何か言ってくるのでしょうね」
「ああ。だから、そろそろ素直に伝えればいい」
「そうしようとは思いますが、ジェリー様とのことはどうしますか?」
「相手が誰だかはわざわざ伝えなくても良いだろう。聞かれたら、ルド様、とだけ言えばいいんじゃないか? 君が言いたいなら、僕だと伝えてもらってもかまわないが」
「そうですね。伝えるタイミングは考えることにします。お出かけしているところを、お姉様の知り合いに見られる可能性もありますし、そこでバレても良いかもですね」
その後、初デートはどこに行きたいかという話になり、お互いにすぐには思い浮かばなかったため、お茶会まで時間もあるので、次に会う時までに考えておくという話をして別れた。
そして、家に帰るとすぐに、お姉様が私の部屋までやって来た。
部屋の鍵をかけていたのだけれど、メイド長から無理矢理、鍵を奪ったようで勝手に開けて中に入ってくると、着替えようとしていた私のことなどおかまいなしに、ソファーに座って聞いてくる。
「どこへ行っていたの?」
「おかえりなさい、お姉様」
「姉を出迎えないなんてどういうことなの?」
「帰る日にちや時刻をあらかじめ教えていただいていれば出迎えたかもしれませんが、突然帰ってこられたのに出迎えは無理です」
「……まあいいわ、それよりも、私、ルドルフ様に会ってきたのよ」
お姉様は誇らしげな顔をして続ける。
「あなたの本当の姿を、ルドルフ様に話しておいてあげたからね? そうしたら、彼、なんて言ったと思う?」
「……なんと言われたんですか?」
「あなたとは結婚しないって! 婚約者なのによ!? やっぱり、あなたは愛人止まりなのよ! ねえ、どうせ愛人になるのなら、テインの愛人になったらどう? そうすれば幸せになれるわよ? 私だって、あなたのそばにずっといてあげられるわ」
「お断りします」
「どうして? 私はあなたのためを思ってるのよ? あなたに幸せになってほしいから」
「私の婚約者はルドルフ様ではございませんから」
お姉様のほうには顔は向けずに、メイドが持ってきてくれた服に着替えながら答えると、お姉様が聞き返してくる。
「は? どういうこと?」
「私、ダブル辺境伯と婚約しただなんて一言も言っておりませんが?」
「え!? だって、ルドルフ様は何も……!」
「婚約なんてしていないから、ルドルフ様は私と結婚はしないと言ったのだと思いますが?」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! 違うの!? 私、皆に言いふらしちゃったんだけど!?」
「はい?」
意味が分からなくて聞き返すと、お姉様は立ち上がって叫ぶ。
「ルドルフ様はあなたを愛人にするつもりだって、友人に言っちゃったのよ!」
「……では、今すぐ、間違っていたというお話をされてきてはどうです?」
「するわ! するけれど、じゃあ、一体、ルド様って誰なの!?」
「さあ? そのうち、わかると思います」
にっこりと笑ってみせると、お姉様は怒りで顔を真っ赤にして、私の部屋から出て行った。
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