14 / 59
13 母の企み
しおりを挟む
あくまでも、ジェリー様の話は推測であり、絶対だとは言えない。
けれど、そうである可能性は高いと思った。
お姉様達がソルトに婚約者を決めたのも、本当はお母様がメインで、私の本当の妹らしき人をソルトの嫁にさせて、いじめるつもりでいるのかもしれない。
ソルトはお母様のことはよくわかっているから、彼女をそんな目にあわせないようにするだろうし、結婚をしたら、その時に後を継いでいなかったとしても、お母様を別邸に追い出すと思われる。
ジェリー様の仮説については、ソルトや私の本当の両親も薄々気がついているかもしれない。
だけど、悪いのは取りかえられた子ではないのはわかっているはずだし、本当のレナス侯爵家の子が、セファ伯爵家で幸せに暮らせているのであれば、それで良いと思うし、彼女に知らせることもないように思う。
きっと、育てていくうちに愛情はわくはずだもの。
私の本当の両親なら、気付いていても大事に育ててくれているわよね。
私の本当の両親らしき人達の外見は、注意して見たら私と似ているところがあるけれど、すぐにわかるほど似ているわけではないとジェリー様は言ってくれたので、ソルトの結婚式で顔を合わすことがあっても、他の人に気付かれたりすることはないだろうからホッとした。
そのことがわかってからは、お母様に冷たいことを言われても、大して傷付かなくなった。
他人から言われるのと、本当の母から言われていると思うのとでは、言葉によっては受け止め方が違ってくるものなのだと感じた。
そんなある日の午前中、お父様の仕事を手伝っていると、お母様がやって来た。
「ちょっと、ミリエル。買ってきてほしいものがあるのだけど」
「使用人に頼んだらいかがですか?」
「あなたのセンスを試したいの。今度、お茶会を開くでしょう? その茶会で出す茶葉をあなたが選んできてほしいのよ」
「お断りします」
きっぱりと断ると、お母様の表情が歪む。
「なんですって!?」
「私が主催するお茶会ならまだしも、お母様が主催する茶会なのでしょう? おもてなしされるお母様が決めるべきだと思います」
「私は忙しいのよ! 茶葉を見に行っている余裕なんてないの!」
「では、茶葉を売っている商店から人を呼びましょう。その手配はいたします。いつがよろしいのですか?」
お父様の仕事を手伝っていた手を止めて、冷たく尋ねると、お母様はお父様に向かって叫ぶ。
「あなた! 母に対して娘がこんな態度を取っているのに、何も言わないんですか!」
「いつものことだろう。そんなに面倒なら茶会などしなければ良い。無駄にお金を使うだけだろう」
「何を言っているんですか! 他の家は皆、定期的に開いているんですよ!? 淑女の情報交換の場なのです!」
「誰を呼ぶつもりなんだ」
「もちろん、ヨウビル公爵夫人ですわ。それから……」
お母様は意味ありげに私のほうにちらりと視線を向けたあと、すぐにお父様のほうを見て、言葉を続ける。
「セファ伯爵家の奥様とお嬢様達も呼ぶつもりですわ」
「家族で呼ぶのか」
「ええ。ソルトの婚約者のご家族ですから、ぜひ会っておかないといけないでしょう?」
お母様は持っていた扇で口元を隠し、うふふと笑う。
何が面白いのかわからないわ。
それに、すでに会っているはずなのに、わざわざそんなことを言うなんて。
お母様は私と本当のお母様を会わせようとしているのね。
このお茶会で何を考えているつもりなのかしら。
私の目の前でセファ伯爵夫人達をいじめるつもり?
でも、本当の娘も呼んでいるのよね?
本当の娘の前で汚い自分をさらけだすつもり?
ああ、色々と疑問が浮かんでしまって、考えがまとまらないわ。
何にしても、絶対に茶葉を私が選ぶわけにはいかない。
「お母様、仕事の邪魔になりますので出て行っていただいてもよろしいでしょうか?」
「ちょっと、あなた! ミリエルに何か言ってください!」
「ミリエル、茶葉を売っている店に連絡だけしておいてやれ」
「あなた!? そんなことを言えって言っているんじゃないんです!」
「承知しました。お母様、今から来てもらうように手配いたしますので、よろしくお願い致します」
贔屓にしている茶葉の店があるので、使用人にお願いして店まで行ってもらえば、店員を一緒に連れてきてくれるはず。
「ミリエル! あなた、そんな生意気な態度だと、ルドルフ辺境伯との婚約はなしになるわよ!? 今、レジーノ達はルドルフ辺境伯領に旅行に行っているんだから!」
「勝手にどうぞ」
だって、私はルドルフ様と婚約しているわけじゃないもの。
文句を言い続けているお母様を無視して、お父様の執務室を出た。
けれど、そうである可能性は高いと思った。
お姉様達がソルトに婚約者を決めたのも、本当はお母様がメインで、私の本当の妹らしき人をソルトの嫁にさせて、いじめるつもりでいるのかもしれない。
ソルトはお母様のことはよくわかっているから、彼女をそんな目にあわせないようにするだろうし、結婚をしたら、その時に後を継いでいなかったとしても、お母様を別邸に追い出すと思われる。
ジェリー様の仮説については、ソルトや私の本当の両親も薄々気がついているかもしれない。
だけど、悪いのは取りかえられた子ではないのはわかっているはずだし、本当のレナス侯爵家の子が、セファ伯爵家で幸せに暮らせているのであれば、それで良いと思うし、彼女に知らせることもないように思う。
きっと、育てていくうちに愛情はわくはずだもの。
私の本当の両親なら、気付いていても大事に育ててくれているわよね。
私の本当の両親らしき人達の外見は、注意して見たら私と似ているところがあるけれど、すぐにわかるほど似ているわけではないとジェリー様は言ってくれたので、ソルトの結婚式で顔を合わすことがあっても、他の人に気付かれたりすることはないだろうからホッとした。
そのことがわかってからは、お母様に冷たいことを言われても、大して傷付かなくなった。
他人から言われるのと、本当の母から言われていると思うのとでは、言葉によっては受け止め方が違ってくるものなのだと感じた。
そんなある日の午前中、お父様の仕事を手伝っていると、お母様がやって来た。
「ちょっと、ミリエル。買ってきてほしいものがあるのだけど」
「使用人に頼んだらいかがですか?」
「あなたのセンスを試したいの。今度、お茶会を開くでしょう? その茶会で出す茶葉をあなたが選んできてほしいのよ」
「お断りします」
きっぱりと断ると、お母様の表情が歪む。
「なんですって!?」
「私が主催するお茶会ならまだしも、お母様が主催する茶会なのでしょう? おもてなしされるお母様が決めるべきだと思います」
「私は忙しいのよ! 茶葉を見に行っている余裕なんてないの!」
「では、茶葉を売っている商店から人を呼びましょう。その手配はいたします。いつがよろしいのですか?」
お父様の仕事を手伝っていた手を止めて、冷たく尋ねると、お母様はお父様に向かって叫ぶ。
「あなた! 母に対して娘がこんな態度を取っているのに、何も言わないんですか!」
「いつものことだろう。そんなに面倒なら茶会などしなければ良い。無駄にお金を使うだけだろう」
「何を言っているんですか! 他の家は皆、定期的に開いているんですよ!? 淑女の情報交換の場なのです!」
「誰を呼ぶつもりなんだ」
「もちろん、ヨウビル公爵夫人ですわ。それから……」
お母様は意味ありげに私のほうにちらりと視線を向けたあと、すぐにお父様のほうを見て、言葉を続ける。
「セファ伯爵家の奥様とお嬢様達も呼ぶつもりですわ」
「家族で呼ぶのか」
「ええ。ソルトの婚約者のご家族ですから、ぜひ会っておかないといけないでしょう?」
お母様は持っていた扇で口元を隠し、うふふと笑う。
何が面白いのかわからないわ。
それに、すでに会っているはずなのに、わざわざそんなことを言うなんて。
お母様は私と本当のお母様を会わせようとしているのね。
このお茶会で何を考えているつもりなのかしら。
私の目の前でセファ伯爵夫人達をいじめるつもり?
でも、本当の娘も呼んでいるのよね?
本当の娘の前で汚い自分をさらけだすつもり?
ああ、色々と疑問が浮かんでしまって、考えがまとまらないわ。
何にしても、絶対に茶葉を私が選ぶわけにはいかない。
「お母様、仕事の邪魔になりますので出て行っていただいてもよろしいでしょうか?」
「ちょっと、あなた! ミリエルに何か言ってください!」
「ミリエル、茶葉を売っている店に連絡だけしておいてやれ」
「あなた!? そんなことを言えって言っているんじゃないんです!」
「承知しました。お母様、今から来てもらうように手配いたしますので、よろしくお願い致します」
贔屓にしている茶葉の店があるので、使用人にお願いして店まで行ってもらえば、店員を一緒に連れてきてくれるはず。
「ミリエル! あなた、そんな生意気な態度だと、ルドルフ辺境伯との婚約はなしになるわよ!? 今、レジーノ達はルドルフ辺境伯領に旅行に行っているんだから!」
「勝手にどうぞ」
だって、私はルドルフ様と婚約しているわけじゃないもの。
文句を言い続けているお母様を無視して、お父様の執務室を出た。
174
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる