そんなに欲しいのでしたらお譲りします

風見ゆうみ

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12 母の過去の犯罪

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 二人は過去の話をしてくれたあとに、今、現在のお母様達の話もしてくれた。
 聞いているだけで気が重くなる話で、よくもまあ、そんな風に生きていけるものだと呆れてしまうものだった。

 次の日に、ジェリー様とルドルフ様の別邸で会って話をした。

「やはり、イアーラは女性だけの集まりの場では好き勝手やっているんだな」
「そうみたいです。お茶会の場ではターゲットを毎回作って意地悪をしているそうです。他の貴族としては、お茶会に誘いたくないようですが、イアーラ様の場合は公爵夫人なので呼ばざるを得ないみたいです」
「厄介だな」

 ジェリー様は小さく息を吐いてから、話題を変えてくる。

「で、君は何かあったのか?」
「はい?」
「あまり眠れていないんじゃないか? 疲れているように見える」
「そ、そうですか? そんな風に見えますか?」
「昨日の今日だから疲れているのかもしれないが、それだけじゃないんじゃないか?」

 ジェリー様はそこまで言ったあと、無言で私を見つめてくる。

 結局、昨日はお母様達の話でショックを受けたということもあるけれど、私が生まれた時のことについての話が出たことから、そちらの言葉が気になって、中々、眠ることができなかった。

 起きる時間になる頃には、さすがにウトウトはしていたけれど、睡眠が短いからか、いつもよりも表情に明るさがない感じだった。
 
 こんなことをジェリー様に話しても良いのか迷っていた。
 婚約者だからといって、何でもかんでも話す必要はないはず。
 だって、もし、私が違う家の子供だったらと思うと、ジェリー様にも軽蔑されてしまうかもしれない。

「僕のことはまだ信用できないか? 素直にそう言ってくれたらいい。別におかしいことじゃないから」
「そういうわけじゃないんです。知られたら、嫌われてしまうかもしれないので……」
「嫌われる? 何をしたんだ? 浮気でもしたんじゃないだろうな」
「違います! そんなわけないじゃないですか!」
「じゃあ、何の罪もない人をいじめたり、殺害したとか?」
「そんなことしません!」

 ムキになって叫ぶと、ジェリー様は笑う。

「じゃあ、嫌わないから安心してくれ」
「いじめをしたり、それ以上のことをすると嫌うというのはわかりますけど、浮気も駄目なんですね?」
「君は僕が浮気をしてもいいのか?」
「男性は愛人を持つことが許されていますから」
「ああ、そういうことか。僕は愛人は持たない。君だけを大事にすると誓うよ」

 ジェリー様はさらりと言ってのけたけれど、私の心臓の鼓動が早くなりすぎて苦しくなった。

 顔が良い上に、そんな口説き文句を言われたら、元々、浮気するつもりなんてないですけど、絶対に浮気なんてできませんよね!

 私は覚悟を決めて口を開く。

「昨日、言われたんです。もし、お母様を本当のお母様と思いたくないのなら、私が生まれた日のことを調べろと」
「……なるほどな」

 ジェリー様は足を組み、何か思い当たることがあるのか頷いてから顎に手を当てた。

「どういう意味でしょうか」
「君はまだ答えを聞く覚悟は出来てないんだろう?」
「……はい」
「じゃあ、今の段階では言えない」
「どういうことでしょう? 思い当たることがあるということでしょうか……」

 聞きたくないと思いつつも、やはり気になって聞いてしまう。

「聞く覚悟が出来ない限り教えられない」

 真剣な眼差しで見つめられて、私はごくりと唾をのみこんだ。

 どうしたら良いのかわからない。
 でも、いつかは絶対に知らないといけないことだわ。

 覚悟を決めなくちゃ。
 いつかは、絶対に知りたくなることだから。

「ジェリー様の推測を聞かせていただけませんか」
「……」

 ジェリー様は無言で私を見つめる。
 私に本当に覚悟が出来ているか見極めているようにも思えた。

 すこしの沈黙のあと、ジェリー様が確認してくる。

「後悔しないな?」
「もちろんです」

 大きく首を縦に振ると、ジェリー様は組んでいた足をほどき話し始める。

「ソルトに婚約者が出来ただろう?」
「あ、はい。セファ伯爵令嬢の次女だとお聞きしてます」
「シスコンのソルトが押し付けられたからといって、素直に女性を婚約者にするわけがない」
「……どういうことでしょう?」
「彼女、誰かの雰囲気に似てないか?」
「良さそうな、感じの」

 そこまで言って、私は口を押さえた。

「私の髪色と瞳の色も同じです。それに、顔立ちも……」
「彼女の母親はイアーラと君の母親らしき人物にいじめられていた」
「そんな……。でも、私は小さい頃は何もされていませんでした! 虐待を受けるようになったのは、ソルトが来てからで」

 そこまで言って、私は言葉を止めた。

 お母様にも最初は後ろめたさがあったのかもしれない。
 けれど、私がソルトを守るという反抗的な態度を取った。

 だから、態度が豹変した?
 やっぱり、自分にとって憎い女の子供だったと、いじめることに決めたの?

「でも、どうしてお母様は、自分の子供と私を取り替えた、もしくは、誰かに取り替えさせたのでしょうか?」
「……」

 ジェリー様は答えはわかっているけれど、答えたくなさそうだった。

 そして、私も、その答えがわかるような気がした。

「そんなことが出来る人間がいるんですか」

 両手で顔を覆って呟くと、椅子が動く音と、私に近付いてくる足音が聞こえた。
 
「悪い奴は世の中には思った以上に多くいる。ただ、これだけは言える。君は何も悪くない。だから泣くな」

 ジェリー様はそう言って、私を優しく抱きしめてくれた。

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