47 / 59
42 婚約者の元継母との話②
しおりを挟む
※いじめについての胸糞発言があります。
苦手な方はお控えくださいませ。
取り調べをしていた人達が出ていくと、しんと部屋の中が静まり返った。
ジェリー様はとりあえず、私を見守ってくれるようで、黙って、私の横に立ってくれている。
「その時は幸せそうだったから良いと思ったのよ……」
「そんな答えでは納得いきません。あなたはセイ様に裏切られたから、同じようにセイ様を売ったんだけですよね?」
「うるさいわね! 私は何も悪くないわ!」
イアーラ様は椅子から立ち上がって叫ぶ。
「セイが勝手に使用人達を使って、子供を入れ替えさせたのよ! 私はそれを聞いただけ! 何も悪くないわ!」
「だから、それをいつ聞いたのです?」
「彼女が病院を出てからすぐのことだけれど……?」
イアーラ様が訝しげな顔で答えた。
どうして、時期を知りたがるのかが分からないみたいだった。
知っていて言わなかったというだけなら、まさか、その時はそうだと思っていなかったと言えば良いし、罪に問われることはないので、イアーラ様としては余裕なのだと思う。
ただ、私がこの質問をしたのは、イアーラ様の罪がどうこうという話ではない。
「そうですか……。答えていただき、ありがとうございます」
「何よ。その時に言えば良かったのにって? 言うわけないじゃないの、そんな楽しい話を! だって、ありえないでしょう? 子供を取りかえるのよ? 以前、いじめていた女の子供を好き勝手できるなんてなんて楽しいの!」
「最低だな」
イアーラ様の言葉を聞いたジェリー様が呟いた。
すると、イアーラ様は鼻で笑う。
「ジェラルド様にはわからないでしょうね。あなたはソワレ様の子供ですもの。ソワレ様はいじめられていましたし、いじめをするような子には育てなかったでしょう」
そこで一度言葉を止めたあと、イアーラ様は笑いながら続ける。
「私だってやりたくてやったわけじゃなかったんです。でも、一度、味わった興奮はくせになるのです。私の一言で不幸になっていくんですのよ? それは、私にそんな力があるからなのです! だから、あの女も死んだのよ!」
「意味がわからない。そんな力とは何だ?」
「人に崇められる力です。私は選ばれた者なの。だから、何をしても許されるのです」
「そんなわけないだろう!」
「そんなわけないわ!」
ジェリー様と私のイアーラ様の言葉を否定する声が重なった。
イアーラ様は怒りをあらわにしている私達を見て言う。
「いじめられた側はそう言うでしょう。痛みを知っているからね。でも、私はその痛みを知らないんです。だから、人の気持ちを考えろと言われてもわからないのよ」
「……わかろうともしていないんでしょう?」
私が尋ねると、イアーラ様は頷く。
「そうね。私には絶対にありえないことだから」
「……それはどうかな」
「……何が言いたいの?」
イアーラ様が尋ねると、ジェリー様は冷たい笑みを浮かべて答える。
「あなたはルワ侯爵夫妻を脅していたようだが、司法取引をした結果、あなたが、セイを拉致監禁するように指示したと話した」
「……嘘でしょう!? そんな!」
「嘘じゃない。だから、あなたは捕まるんだ」
「嫌よ、そんな……! どうして、話したりするのよ! 侯爵達は馬鹿なの!?」
「馬鹿なんかじゃない。賢いんだよ。自分達のダメージが最小で済むようにしたんだ」
ジェリー様の言葉を聞いたイアーラ様の体がガタガタと震え始めた。
「私はどうなるの!?」
「あなたには特別な罰を用意してある。これについては、父から連絡があると思うから、楽しみにしておいてくれ」
ジェリー様が答えたタイミングで、ヨウビル公爵閣下が中に入ってきた。
「父上、良いタイミングです」
「話が聞こえていたからな」
「高級宿なのに筒抜けですか」
ジェリー様が苦笑すると、閣下は私の方に顔を向ける。
「聞きたいことはもうないか?」
「はい。結局、イアーラ様は自分がやったことの意味を理解していても後悔したりしていません。それがわかったので、彼女がどうなっても、私は気にせずにいられます」
「ちょっと待ちなさい! そんな言い方はないでしょう!」
イアーラ様は閣下が現れたことにも驚いているけれど、自分がこれからどうなるのか不安でたまらないようだった。
「イアーラ、君には今まで私の夫人でいてくれたお礼に楽な罰にしてもらうことにする」
「ら、楽な……罰?」
イアーラ様の不安そうにしていた表情が少しだけ緩んだ。
「そうだ。君には隣国の国王の側室になってもらう」
「なんですって!?」
イアーラ様の表情が悲痛なものに変わった。
それもそのはず。
隣国の国王陛下には複数の側室がおり、側室になった順番に側室同士だけで通じる権力があたえられているらしい。
だから、新入りは何をされるかわからない。
側室の間で争いが激しく、側室だけが住む離れでは、いじめだけでなく、つい最近、殺人までもが起こっていたからだった。
※次話はイアーラsideです。
苦手な方はお控えくださいませ。
取り調べをしていた人達が出ていくと、しんと部屋の中が静まり返った。
ジェリー様はとりあえず、私を見守ってくれるようで、黙って、私の横に立ってくれている。
「その時は幸せそうだったから良いと思ったのよ……」
「そんな答えでは納得いきません。あなたはセイ様に裏切られたから、同じようにセイ様を売ったんだけですよね?」
「うるさいわね! 私は何も悪くないわ!」
イアーラ様は椅子から立ち上がって叫ぶ。
「セイが勝手に使用人達を使って、子供を入れ替えさせたのよ! 私はそれを聞いただけ! 何も悪くないわ!」
「だから、それをいつ聞いたのです?」
「彼女が病院を出てからすぐのことだけれど……?」
イアーラ様が訝しげな顔で答えた。
どうして、時期を知りたがるのかが分からないみたいだった。
知っていて言わなかったというだけなら、まさか、その時はそうだと思っていなかったと言えば良いし、罪に問われることはないので、イアーラ様としては余裕なのだと思う。
ただ、私がこの質問をしたのは、イアーラ様の罪がどうこうという話ではない。
「そうですか……。答えていただき、ありがとうございます」
「何よ。その時に言えば良かったのにって? 言うわけないじゃないの、そんな楽しい話を! だって、ありえないでしょう? 子供を取りかえるのよ? 以前、いじめていた女の子供を好き勝手できるなんてなんて楽しいの!」
「最低だな」
イアーラ様の言葉を聞いたジェリー様が呟いた。
すると、イアーラ様は鼻で笑う。
「ジェラルド様にはわからないでしょうね。あなたはソワレ様の子供ですもの。ソワレ様はいじめられていましたし、いじめをするような子には育てなかったでしょう」
そこで一度言葉を止めたあと、イアーラ様は笑いながら続ける。
「私だってやりたくてやったわけじゃなかったんです。でも、一度、味わった興奮はくせになるのです。私の一言で不幸になっていくんですのよ? それは、私にそんな力があるからなのです! だから、あの女も死んだのよ!」
「意味がわからない。そんな力とは何だ?」
「人に崇められる力です。私は選ばれた者なの。だから、何をしても許されるのです」
「そんなわけないだろう!」
「そんなわけないわ!」
ジェリー様と私のイアーラ様の言葉を否定する声が重なった。
イアーラ様は怒りをあらわにしている私達を見て言う。
「いじめられた側はそう言うでしょう。痛みを知っているからね。でも、私はその痛みを知らないんです。だから、人の気持ちを考えろと言われてもわからないのよ」
「……わかろうともしていないんでしょう?」
私が尋ねると、イアーラ様は頷く。
「そうね。私には絶対にありえないことだから」
「……それはどうかな」
「……何が言いたいの?」
イアーラ様が尋ねると、ジェリー様は冷たい笑みを浮かべて答える。
「あなたはルワ侯爵夫妻を脅していたようだが、司法取引をした結果、あなたが、セイを拉致監禁するように指示したと話した」
「……嘘でしょう!? そんな!」
「嘘じゃない。だから、あなたは捕まるんだ」
「嫌よ、そんな……! どうして、話したりするのよ! 侯爵達は馬鹿なの!?」
「馬鹿なんかじゃない。賢いんだよ。自分達のダメージが最小で済むようにしたんだ」
ジェリー様の言葉を聞いたイアーラ様の体がガタガタと震え始めた。
「私はどうなるの!?」
「あなたには特別な罰を用意してある。これについては、父から連絡があると思うから、楽しみにしておいてくれ」
ジェリー様が答えたタイミングで、ヨウビル公爵閣下が中に入ってきた。
「父上、良いタイミングです」
「話が聞こえていたからな」
「高級宿なのに筒抜けですか」
ジェリー様が苦笑すると、閣下は私の方に顔を向ける。
「聞きたいことはもうないか?」
「はい。結局、イアーラ様は自分がやったことの意味を理解していても後悔したりしていません。それがわかったので、彼女がどうなっても、私は気にせずにいられます」
「ちょっと待ちなさい! そんな言い方はないでしょう!」
イアーラ様は閣下が現れたことにも驚いているけれど、自分がこれからどうなるのか不安でたまらないようだった。
「イアーラ、君には今まで私の夫人でいてくれたお礼に楽な罰にしてもらうことにする」
「ら、楽な……罰?」
イアーラ様の不安そうにしていた表情が少しだけ緩んだ。
「そうだ。君には隣国の国王の側室になってもらう」
「なんですって!?」
イアーラ様の表情が悲痛なものに変わった。
それもそのはず。
隣国の国王陛下には複数の側室がおり、側室になった順番に側室同士だけで通じる権力があたえられているらしい。
だから、新入りは何をされるかわからない。
側室の間で争いが激しく、側室だけが住む離れでは、いじめだけでなく、つい最近、殺人までもが起こっていたからだった。
※次話はイアーラsideです。
168
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
陛下を捨てた理由
甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。
そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。
※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる