あなたとずっと一緒にいられますように

風見ゆうみ

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第一部

5  気にしてないから大丈夫よ

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 その日、家に帰った私は、早速、お父様とお母様に今日の話を報告した。
 ジェイコブの家のほうから連絡がいっているかと思ったけれど、まだだったようで、二人共、婚約破棄の理由を聞いた途端、烈火の如く怒り始め、お父様は、もう夜だというのに、ジェイコブの家に慰謝料についての話をするために出かけて行かれた。

 というか、ジェイコブ、彼の両親と話し合いは上手くいかなかったのかしら?
 こっちから出向かないといけないなんて、おかしいでしょ。

 お母様に慰めてもらった後は、アットンから借りたハンカチをメイドに洗濯に出す様にお願いしてから、お湯をはってもらったバスタブに浸かってゆっくりしながら、今日のことを考えた。

 ジェイコブのことは腹が立つから考えないようにして、他の事を考える。

 アットンは私のことを嫌っているわけじゃなくて、ミュウ様の命令で冷たくしていたみたいだけど、どうして私限定なの?

 あと、ルイス様の新しい好きな人はどんな子なのかしら。

 ルイス様は見た目も性格も可愛らしい人が好きらしく、今回の好きな人は、私と同じ髪色で同じ色の瞳、サラサラのストレートの腰までの髪をハーフアップにした、私とは違って、とても大人しそうな少女らしい。
 ルイス様と同じクラスではないけれど、同じ学年らしく、廊下でぶつかった時に、申し訳無さそうに何度も謝ってくる彼女に、ルイス様は一目惚れしてしまったんだそうだ。

 彼女と話をしたのは、その時の一回だけらしく、名前もわからないらしい。

 よほど、存在の目立たない大人しい子なんでしょうね。

 全クラスを見て回ったら良いのに、自分のせいでその子が目立つことになっても良くないと考えているらしい。

 気持ちはわかる。
 ルイス様は目立つから、他の女の子が嫉妬にかられて、ルイス様の好きな子をいじめる可能性がある。
 
 それにしても、私の髪色はまだしも、同じ色の瞳って結構珍しいと思うんだけど、どんな子なんだろう。

 バスタブから出てシャワーを浴びてから、家着にしている膝丈の地味なドレスに着替えた。

 こういうことをメイドや侍女にしてもらう人は多いけれど、お風呂は一人でゆっくりしたいタイプなので、メイド達には遠慮してもらっている。

 髪の毛をタオルで拭いていると、部屋の扉を叩く音が聞こえた。

「お姉様。お部屋に入ってもいいですか?」

 可愛らしい声が聞こえて、彼女の顔が見えていないのに笑顔で答える。

「いいわよ」
「お姉様! 今日は大変だったみたいですね?」

 扉を開けて中に入ってくると、私よりも一回り体の小さい、八歳になる妹が、長い髪を揺らして、ソファーに座っている私に向かって飛びついてきた。

「心配してくれてるの?」
「もちろん! だって、わたしはお姉様のことが大好きですもの」

 私の可愛い可愛い妹の名前はラナ。
 可愛いは大事なことなので二回言ってみた。

 彼女はルイス様の通う学園に通っていて、髪色と瞳の色も私と同じ。
 腰まである長いストレートに、小顔で、小動物を思わせる潤んだ大きな瞳
 ルイス様と同じ年だし、ルイス様の好きな人の事を知ってるかも…。

 って、ちょっと待って。

「……ねえ、ラナ」
「なんでしょうか?」

 ラナの髪を優しくなでてやりながら、恐る恐る聞いてみる。

「もしかして最近、廊下で誰かと派手にぶつかったりしたことはある?」
「昨日、ぶつかってしまいました。わたし、そのお話をお姉様にしましたでしょうか?」

 不思議そうにするラナに、何と説明をしたら良いか迷う。

 いや、私の主人のルイス様がどうやら、あなたを好きみたいなんだけど?
 
 ……とか言うわけにはいかないわよね。
 間違っていても駄目だし、ルイス様はちゃんと自分の口から告白したいはず。
 とにかく、ルイス様に確認するのと、ラナにルイス様を認識してもらうようにしよう。

「あのね、ラナ、実は、あなたが昨日ぶつかった人は、私のご主人様かもしれないの」
「ええっ!?」

 ラナが可愛らしい顔を両手で覆って驚く。

「どうしましょう。私ったら、公爵令息のルイス様にぶつかってしまったんですか? 何度も謝りましたが、申し訳なくてお顔を見れなかったんです」
「本人は気にしてないから大丈夫よ」
「でも、お姉様にお話をされたんですよね……」

 あなたに恋しちゃったって話をされてましたよ。

「お姉様、私、どうしたら良いんでしょうか…」

 まだ幼いからかもしれないけれど、ラナは私と違って泣き虫だ。
 ぷるぷると震え始めたので、優しく抱きしめてあげてからお願いする。

「明日は学園はお休みよね? 一緒に、ルイス様に謝りに行かない?」
「わかりました。謝罪は早いうちの方が良いですものね」

 ラナは真剣な表情で頷いた。

 明日、ルイス様はラナを見たら、どんな顔をされるかしら?

 ルイス様は、今、私が思ったような気持ちで、ジェイコブを招いてくれたんでしょうね。

 ジェイコブのことを思い出して、胸が少しだけ痛んだ。
 まったく好きじゃなかったわけでもないから余計に辛い。

 だけど、大丈夫。
 ルイス様だって何回ふられても、新たに好きな人が出来ている。

 私だって、また恋をすればいい。
 だけど、今度こそは好きになる人を間違えないようにしなくっちゃ!
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