あなたとずっと一緒にいられますように

風見ゆうみ

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第一部

27 平気でそんなことをするんですよ

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 ルイス様の部屋の扉をノックすると、珍しく不機嫌そうな声が聞こえた。

「誰だ?」
「私です。フィリアです。不快な思いをさせてしまっていたら申し訳ございません」
「フィリアなら良い。入っていいぞ」

 部屋に入ると、ティーテーブルの椅子に座って、苦虫を噛み潰したような顔をしているルイス様がいた。

「あの、何かありましたか?」
「……さっきのメイドは見ない顔だったが新人か?」
「あ、はい。そうです」
「お茶をいれるのに不慣れなのは多めに見るが、フィリアから意地悪をされて、俺の好きなお茶について何一つ教えてもらってないって言うんだ。もし誰かに俺のお茶をいれるのを頼むくらいなら、その時にフィリアは、俺の好みを教えるだろう? それに、そんな意地悪をする様な人間じゃないことはよくわかってる」

 ルイス様はそこまで言ってから、眉間のシワを深くする。

「なぜ、そんな嘘をついたのかがわからないんだ」
「そのことなのですが……」

 先程までの話をルイス様にすると、彼は苦々しい表情のままで尋ねてくる。

「ふむ。彼女は面倒なことは人にやらせて美味しいところだけ持っていくということだな?」
「そうかと思われます」
「そんなことを平気でできる奴がいるのか? 他の人が頑張って手に入れたものを横取りするようなものだろう?」
「自分のことしか考えていない人間は平気でそんなことをするんですよ」

 素直に答えると、ルイス様は「信じられんな」と呟いて、カップに入っていたお茶を一気に飲み干した。

「熱くないんですか?」
「冷めてるから大丈夫だ。本人には言えなかったが、少し口に合わなかった。悪いが、フィリアがいれ直してくれるか? ちょっと俺には濃すぎたんだ。毒見役の代わりに毒見をしてくれた騎士もそう言ってくれたのだが聞いてくれなくてな」
「ルイス様の言うことを聞かないなんて、本当にメイドなんですか?」
「ああ。残念ながらそうだ。彼女がどうやってこの屋敷の面接に受かったのかわからん。誰かからの推薦なんだろうが」
「そうですね。閣下が紹介もなしに変な人物を雇ったりしないでしょうから……。あ、ルイス様、お湯が冷めてしまったので温めなおしてきます」
「悪いな。フィリアが戻ってきたら、先程の話の続きをしよう」
「承知いたしました」

 世の中には色々な子もいるものね、と呆れ返りながら、サービングワゴンを押してキッチンに向かっていると、エレストさんの声が聞こえてきた。

「メイドのくせに裁縫も出来ないんですか? こんな状態じゃ人に渡せませんよ。もう一度やり直して下さい!」

 声は扉が開け放たれていたメイドの休憩室から聞こえてきていた。
 気になって足を止めると同時にエレストさんが中から出て来ると、勢いよく扉を閉めた。
 そんた彼女を無言で見つめていると、私の視線に気が付いたのか、エレストさんは笑顔を作る。

「ちょっと気分が悪くなって休憩してました」
「そうなの? 辛いなら今日は早退しても良いと思うわ」
「大丈夫です! ありがとうございます」
 
 エレストさんは、頭を下げてから走り去っていった。
 走る元気があるなら、本当に大丈夫そうね。

 厨房で、調理場の担当のメイドにお湯を沸かしなおすのをお願いしてから、近くにあるメイドの休憩室に向かった。

 ノックをすると返事が帰ってきたので、扉を開ける。
 狭い部屋の隅で男性物の白いシャツと針を持ち、途方に暮れている眼鏡をかけた少女がいた。
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