1 / 34
プロローグ
しおりを挟む
「レイシール様、お慕い申し上げております」
「僕もだよ。でも、僕たちの関係は二人だけの秘密だ。いいね?」
「ええ。もちろんですわ」
秘密だと言いながらも、誰が通るかわからない城の中庭のガゼボの中で抱き合う婚約者と親友の姿を目にして、私は大きく息を吐いた。
憂鬱な気分になることが多い毎日の生活の中で、庭園での散歩は私、エアリー・ブロンクスにとって、ストレス発散方法の一つでもあった。
今日は天気も良く、仕事が一段落したので、気分転換にお気に入りの場所に向かった。
一人しかいない侍女は休みの日で、城のメイドは頼まれたら仕事をしてくれるけれど、自分からは何もしてくれない。
それは私が、この城内では余所者で歓迎されていないからだ。
だから、侍女もメイドも騎士も誰一人付けずに、庭園にやって来た。
そこで、私は婚約者と親友の逢引シーンに出くわしたというわけだ。
隠れることもせずに、小道に立ち尽くしている私に二人が気付く様子はなかった。
完全に二人だけの世界らしい。
抱き合ったまま、レイシール様は口を開く。
「エアリーにバレたら大変だ。彼女が何を言い出すかわからないからね。この関係を絶対に君から口にしてはいけないよ?」
「もちろんわかっていますわ。私はこうやって、少しの時間でも殿下と一緒にいられるだけで幸せなのでございます。多くのことは望みませんわ」
「ああ、可愛いことを言ってくれるね。エアリーも君のように甘えてくれたら良いのに」
「気の強いエアリーには無理ですわ。それに、レイシール様には私だけ見ていてほしいのです。エアリーが可愛くなってしまえば、私のことなど見てくださらなくなるでしょう?」
「そんなことはないよ。安心してくれ。今の僕は君に夢中だ」
そう言って、二人は私のお気に入りの白いガゼボの中で口づけを交わした。
最悪だわ。
一瞬でお気に入りの場所が穢れてしまった。
今すぐに二人の前に出て行っても良いのだけど、この時の私は動揺していた。
だから、その場から急いで離れてしまった。
私はレイシールと呼ばれた男性の婚約者である。
私は他国の公爵令嬢だった。
政略結婚だというのに、妹がレイシール様に嫁ぐことを嫌がったため、17歳の時に、テベンナス国にレイシール様の婚約者としてやって来た。
漆黒のストレートのお尻まである長い髪をハーフアップにした私は、愛想笑いが苦手で可愛げがないとよく言われていた。
この国では珍しいと言われているオレンジ色の瞳を、レイシール様は特に嫌っているようで、目が合うと、すぐに視線を逸らされる。
だから、ここに来て1年以上経っているのに、彼と二人きりで会話をしたこともなければ、夜会などに出席したこともない。
レイシール様はデルカ国の王太子だ。
ということは婚約者である私は、王太子妃になる人間である。
それなのに、さっきも言ったようにレイシール様からは冷遇されているため、城内では誰からも敬われることはなかった。
レイシール様には十数人の愛人がいて、全ての愛人は城内にそれぞれの部屋が設けられている。
そして、誰か一人を特別扱いしないようにと、レイシール様は使用人に指示していた。
私は城内ではお飾りの婚約者だとして有名で、最近では貴族の間でも、役立たずの王太子妃として噂されていると、メイドが話をしているのを聞いた。
実際、私は王太子の婚約者として仕事はしているものの、国の役に立てているのかはわからない、
だから、役立たずだと言われても文句は言えない。
跡継問題のことを考えたら、特に役立たずだと言われてもおかしくない。
ただ、レイシール様にはたくさんの愛人がいるから、跡継ぎに困ることはないと思われる。
私は私が出来る範囲のことをやろうと決めた。
自分自身のことで精一杯で、自由気ままに生きる婚約者のことなど、国民に不安感を与えなければ、国王に即位するまでは好きなようにすれば良いと思っていた。
愛人が数え切れないほどいるのだから、レイシール様が私の侍女にまで手を出すとは思わなかった。
そして、その侍女も彼を好きになるだなんて思ってもいなかった。
侍女のベラは私の親友だった。
彼女だけがこの国に私と一緒に来てくれたのだ。
私はこの日、親友と婚約者に裏切られていたことを知った。
婚約者が親友と恋愛関係になっていたことについては、元々、見限っていたこともあり、そうショックではない。
親友が浮気相手だということが一番のショックだった。
愛人といちゃいちゃしているレイシール様を見ても呆れるだけだった。
それなのに今回は、レイシール様と婚約を解消したい。
そう、強く思った。
ただ、私と彼との婚約は政略的なものである。
簡単に婚約を解消したり破棄できるものではない。
私が彼と婚約を解消すれば、母国への支援が打ち切られる可能性がある。
そんなことになれば、多くの国民が苦しむことになってしまう。
それに、私も実家には戻れない。
実家には私の居場所なんてないのだから、環境が整うまでは我慢するしかない。
婚約破棄して慰謝料をもらえば、ここを放り出されても、私だけなら何とか生きていくことはできる。
母国の国民に迷惑をかけずに、婚約を解消、婚約破棄できる状況に持ち込むにはどうすれば良いのか。
その日はそのことばかり考えていた。
カーテンの隙間から朝の光が漏れていて、私はその日の夜、自分が一睡もできていなかったことに気がついた。
「僕もだよ。でも、僕たちの関係は二人だけの秘密だ。いいね?」
「ええ。もちろんですわ」
秘密だと言いながらも、誰が通るかわからない城の中庭のガゼボの中で抱き合う婚約者と親友の姿を目にして、私は大きく息を吐いた。
憂鬱な気分になることが多い毎日の生活の中で、庭園での散歩は私、エアリー・ブロンクスにとって、ストレス発散方法の一つでもあった。
今日は天気も良く、仕事が一段落したので、気分転換にお気に入りの場所に向かった。
一人しかいない侍女は休みの日で、城のメイドは頼まれたら仕事をしてくれるけれど、自分からは何もしてくれない。
それは私が、この城内では余所者で歓迎されていないからだ。
だから、侍女もメイドも騎士も誰一人付けずに、庭園にやって来た。
そこで、私は婚約者と親友の逢引シーンに出くわしたというわけだ。
隠れることもせずに、小道に立ち尽くしている私に二人が気付く様子はなかった。
完全に二人だけの世界らしい。
抱き合ったまま、レイシール様は口を開く。
「エアリーにバレたら大変だ。彼女が何を言い出すかわからないからね。この関係を絶対に君から口にしてはいけないよ?」
「もちろんわかっていますわ。私はこうやって、少しの時間でも殿下と一緒にいられるだけで幸せなのでございます。多くのことは望みませんわ」
「ああ、可愛いことを言ってくれるね。エアリーも君のように甘えてくれたら良いのに」
「気の強いエアリーには無理ですわ。それに、レイシール様には私だけ見ていてほしいのです。エアリーが可愛くなってしまえば、私のことなど見てくださらなくなるでしょう?」
「そんなことはないよ。安心してくれ。今の僕は君に夢中だ」
そう言って、二人は私のお気に入りの白いガゼボの中で口づけを交わした。
最悪だわ。
一瞬でお気に入りの場所が穢れてしまった。
今すぐに二人の前に出て行っても良いのだけど、この時の私は動揺していた。
だから、その場から急いで離れてしまった。
私はレイシールと呼ばれた男性の婚約者である。
私は他国の公爵令嬢だった。
政略結婚だというのに、妹がレイシール様に嫁ぐことを嫌がったため、17歳の時に、テベンナス国にレイシール様の婚約者としてやって来た。
漆黒のストレートのお尻まである長い髪をハーフアップにした私は、愛想笑いが苦手で可愛げがないとよく言われていた。
この国では珍しいと言われているオレンジ色の瞳を、レイシール様は特に嫌っているようで、目が合うと、すぐに視線を逸らされる。
だから、ここに来て1年以上経っているのに、彼と二人きりで会話をしたこともなければ、夜会などに出席したこともない。
レイシール様はデルカ国の王太子だ。
ということは婚約者である私は、王太子妃になる人間である。
それなのに、さっきも言ったようにレイシール様からは冷遇されているため、城内では誰からも敬われることはなかった。
レイシール様には十数人の愛人がいて、全ての愛人は城内にそれぞれの部屋が設けられている。
そして、誰か一人を特別扱いしないようにと、レイシール様は使用人に指示していた。
私は城内ではお飾りの婚約者だとして有名で、最近では貴族の間でも、役立たずの王太子妃として噂されていると、メイドが話をしているのを聞いた。
実際、私は王太子の婚約者として仕事はしているものの、国の役に立てているのかはわからない、
だから、役立たずだと言われても文句は言えない。
跡継問題のことを考えたら、特に役立たずだと言われてもおかしくない。
ただ、レイシール様にはたくさんの愛人がいるから、跡継ぎに困ることはないと思われる。
私は私が出来る範囲のことをやろうと決めた。
自分自身のことで精一杯で、自由気ままに生きる婚約者のことなど、国民に不安感を与えなければ、国王に即位するまでは好きなようにすれば良いと思っていた。
愛人が数え切れないほどいるのだから、レイシール様が私の侍女にまで手を出すとは思わなかった。
そして、その侍女も彼を好きになるだなんて思ってもいなかった。
侍女のベラは私の親友だった。
彼女だけがこの国に私と一緒に来てくれたのだ。
私はこの日、親友と婚約者に裏切られていたことを知った。
婚約者が親友と恋愛関係になっていたことについては、元々、見限っていたこともあり、そうショックではない。
親友が浮気相手だということが一番のショックだった。
愛人といちゃいちゃしているレイシール様を見ても呆れるだけだった。
それなのに今回は、レイシール様と婚約を解消したい。
そう、強く思った。
ただ、私と彼との婚約は政略的なものである。
簡単に婚約を解消したり破棄できるものではない。
私が彼と婚約を解消すれば、母国への支援が打ち切られる可能性がある。
そんなことになれば、多くの国民が苦しむことになってしまう。
それに、私も実家には戻れない。
実家には私の居場所なんてないのだから、環境が整うまでは我慢するしかない。
婚約破棄して慰謝料をもらえば、ここを放り出されても、私だけなら何とか生きていくことはできる。
母国の国民に迷惑をかけずに、婚約を解消、婚約破棄できる状況に持ち込むにはどうすれば良いのか。
その日はそのことばかり考えていた。
カーテンの隙間から朝の光が漏れていて、私はその日の夜、自分が一睡もできていなかったことに気がついた。
32
あなたにおすすめの小説
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした
迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」
結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。
彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。
見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。
けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。
筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。
人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。
彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。
たとえ彼に好かれなくてもいい。
私は彼が好きだから!
大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。
ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。
と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)
ジェリー・ベケットは愛を信じられない
砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。
母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。
それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。
しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。
だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。
学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。
そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。
※世界観はゆるゆる
※ざまぁはちょっぴり
※他サイトにも掲載
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる