残念ながらすべてお見通しです

風見ゆうみ

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プロローグ

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「レイシール様、お慕い申し上げております」
「僕もだよ。でも、僕たちの関係は二人だけの秘密だ。いいね?」
「ええ。もちろんですわ」

 秘密だと言いながらも、誰が通るかわからない城の中庭のガゼボの中で抱き合う婚約者と親友の姿を目にして、私は大きく息を吐いた。

 憂鬱な気分になることが多い毎日の生活の中で、庭園での散歩は私、エアリー・ブロンクスにとって、ストレス発散方法の一つでもあった。

 今日は天気も良く、仕事が一段落したので、気分転換にお気に入りの場所に向かった。
 一人しかいない侍女は休みの日で、城のメイドは頼まれたら仕事をしてくれるけれど、自分からは何もしてくれない。

 それは私が、この城内では余所者で歓迎されていないからだ。

 だから、侍女もメイドも騎士も誰一人付けずに、庭園にやって来た。

 そこで、私は婚約者と親友の逢引シーンに出くわしたというわけだ。

 隠れることもせずに、小道に立ち尽くしている私に二人が気付く様子はなかった。
 完全に二人だけの世界らしい。
 抱き合ったまま、レイシール様は口を開く。

「エアリーにバレたら大変だ。彼女が何を言い出すかわからないからね。この関係を絶対に君から口にしてはいけないよ?」
「もちろんわかっていますわ。私はこうやって、少しの時間でも殿下と一緒にいられるだけで幸せなのでございます。多くのことは望みませんわ」
「ああ、可愛いことを言ってくれるね。エアリーも君のように甘えてくれたら良いのに」
「気の強いエアリーには無理ですわ。それに、レイシール様には私だけ見ていてほしいのです。エアリーが可愛くなってしまえば、私のことなど見てくださらなくなるでしょう?」
「そんなことはないよ。安心してくれ。君に夢中だ」

 そう言って、二人は私のお気に入りの白いガゼボの中で口づけを交わした。

 最悪だわ。
 一瞬でお気に入りの場所が穢れてしまった。

 今すぐに二人の前に出て行っても良いのだけど、この時の私は動揺していた。
 だから、その場から急いで離れてしまった。

 私はレイシールと呼ばれた男性の婚約者である。

 私は他国の公爵令嬢だった。
 政略結婚だというのに、妹がレイシール様に嫁ぐことを嫌がったため、17歳の時に、テベンナス国にレイシール様の婚約者としてやって来た。

 漆黒のストレートのお尻まである長い髪をハーフアップにした私は、愛想笑いが苦手で可愛げがないとよく言われていた。
 この国では珍しいと言われているオレンジ色の瞳を、レイシール様は特に嫌っているようで、目が合うと、すぐに視線を逸らされる。
 だから、ここに来て1年以上経っているのに、彼と二人きりで会話をしたこともなければ、夜会などに出席したこともない。

 レイシール様はデルカ国の王太子だ。
 ということは婚約者である私は、王太子妃になる人間である。
 
 それなのに、さっきも言ったようにレイシール様からは冷遇されているため、城内では誰からも敬われることはなかった。

 レイシール様には十数人の愛人がいて、全ての愛人は城内にそれぞれの部屋が設けられている。
 そして、誰か一人を特別扱いしないようにと、レイシール様は使用人に指示していた。

 私は城内ではお飾りの婚約者だとして有名で、最近では貴族の間でも、役立たずの王太子妃として噂されていると、メイドが話をしているのを聞いた。

 実際、私は王太子の婚約者として仕事はしているものの、国の役に立てているのかはわからない、
 だから、役立たずだと言われても文句は言えない。

 跡継問題のことを考えたら、特に役立たずだと言われてもおかしくない。

 ただ、レイシール様にはたくさんの愛人がいるから、跡継ぎに困ることはないと思われる。

 私は私が出来る範囲のことをやろうと決めた。
 自分自身のことで精一杯で、自由気ままに生きる婚約者のことなど、国民に不安感を与えなければ、国王に即位するまでは好きなようにすれば良いと思っていた。

 愛人が数え切れないほどいるのだから、レイシール様が私の侍女にまで手を出すとは思わなかった。
 そして、その侍女も彼を好きになるだなんて思ってもいなかった。

 侍女のベラは私の親友だった。
 彼女だけがこの国に私と一緒に来てくれたのだ。
 
 私はこの日、親友と婚約者に裏切られていたことを知った。
 
 婚約者が親友と恋愛関係になっていたことについては、元々、見限っていたこともあり、そうショックではない。

 親友が浮気相手だということが一番のショックだった。

 愛人といちゃいちゃしているレイシール様を見ても呆れるだけだった。
 それなのに今回は、レイシール様と婚約を解消したい。
 そう、強く思った。

 ただ、私と彼との婚約は政略的なものである。

 簡単に婚約を解消したり破棄できるものではない。

 私が彼と婚約を解消すれば、母国への支援が打ち切られる可能性がある。
 そんなことになれば、多くの国民が苦しむことになってしまう。

 それに、私も実家には戻れない。
 実家には私の居場所なんてないのだから、環境が整うまでは我慢するしかない。

 婚約破棄して慰謝料をもらえば、ここを放り出されても、私だけなら何とか生きていくことはできる。

 母国の国民に迷惑をかけずに、婚約を解消、婚約破棄できる状況に持ち込むにはどうすれば良いのか。

 その日はそのことばかり考えていた。
 
 カーテンの隙間から朝の光が漏れていて、私はその日の夜、自分が一睡もできていなかったことに気がついた。
    
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