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30 「愛人になりましょう」

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 レイシール様は不機嫌そうな顔で私を睨みつける。

「子供に僕とエアリーの絆がわかるわけないだろう! 黙っていろ!」
「いやでしゅ! こどもでもわかりましゅ! エアリーしゃまがレイシールしゃまのものだなんて、そうぞうしただけできもちわるいでしゅ! きずななんてありゅわけないでしゅ!」
「なんだと!?」
「エア……、シャーロット、落ち着け。大丈夫だよ」

 ダニエル殿下は興奮している私の背中を優しく撫でて落ち着かせてくれる。

 これはさすがにレイシール様から、不敬だと言われてしまうかしら。

 でも、あまりにも嫌な気分になってしまって口に出してしまった。

「ごめんなしゃい。しゃいあくなきぶんでしゅ。なきたいでしゅ」
「泣いてもいいよ。泣くことは悪くない。口に出してしまった気持ちもわかる」

 ダニエル殿下は、ぽんぽんと私の頭を優しく撫でてくれる。

 上手く言えないけれど、心がふんわりと温かくなったような気がした。

「ダニエルでんか、やさしいでしゅ。ありがとうございましゅ」
「気にしなくていいよ」

 ダニエル殿下が微笑む。
 私の婚約者がダニエル殿下なら良かったのに……。

「もう、ベラさまたちのケンカはおわりまちたし、ほうっておきましょう」
「そうだな。シャーロット、さっきの二人のような女性は悪い見本だからな?」
「わかってましゅ。はしたないでしゅから、シャーロットはあんなことしましぇん!」

 べーっとベラとミュウミュウに向かって舌を出すと、二人共がムッとした顔になった。

「散歩に行こうか」
「はい。おなかしゅいたでしゅ」
「コーンポタージュ以外のものを頼もうか」

 私と話をしながら、ダニエル殿下が歩きだすと、レイシール様が追いかけてくる。

「ダニエル、わかっているだろうな? エアリーは僕の婚約者であって、お前のものではない!」
「わかっていますよ。ただ、兄上だって婚約者なだけです。エアリー嬢はあなたのものではありません」
「そのうち、僕のものになるから良いんだよ!」
「どうしたら、そんな自信が湧いてくるんですか」
「僕だからに決まっているだろう! 僕はかなりモテるんだ!」
 
 レイシール様は自信満々な様子で言った。
 でも、ダニエル殿下は興味がなさそうだった。

「そうですね。かなりモテているのだと思いますよ。でも、弟として一つ言わせていただきたいのですが」
「何だ?」
「愛人との間に男子が生まれてきた場合は、その時には愛人を本妻にしてはいかがでしょうか?」
 
 ダニエル殿下の提案に、レイシール様は目を丸くする。

「ど、どういうことだよ?」
「今の兄上を見ていますと、好みの女性であれば、誰でも良いように思えます」
「そ、そんなわけないだろう!」

 レイシール様はベラとミュウミュウの顔を見て焦った顔になった。

「誰でも良いという言い方はおかしかったですね。失礼しました」
 
 ダニエル殿下は軽く一礼して話を戻す。

「兄上の子供を一番に身ごもった方が王妃になるということでいかがでしょう? それから、エアリー嬢との婚約も解消してあげてください」
「絶対に嫌だ! 僕はエアリーと結婚するんだ!」
「では、どうして愛人が必要なのです? 婚約者に愛人がいるだなんて、どんな気持ちになるのか、兄上は想像できませんか?」
「できるわけないだろう! エアリーには愛人がいないんだから!」
「では、エアリー嬢に許していただけるのであれば、僕が彼女の愛人になりましょう」

 ダニエル殿下は笑顔で、衝撃の発言をしたのだった。
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