婚約解消しろ? 頼む相手を間違えていますよ?

風見ゆうみ

文字の大きさ
15 / 30

閑話 いつか必ず 中編

しおりを挟む
※前編は7話と8話の間にあります。わかりにくくて申し訳ないです。



「な、なぜ君がここに…?」

 普通ならリノアの挨拶に応えないといけないところだったが、ラルフはそれどころではなく、尋ねるだけで精一杯だった。

「お困りの女性がいらっしゃったので、つい出しゃばってしまいましたの。でも、ご安心下さい。負けはしませんから」

 リノアはラルフ達に笑顔を向けて一礼したあと、今度は対戦相手に向かって言った。

「クラーク辺境伯様がいらっしゃった事ですし、お酒の度数をあげましょう。その方が勝負が早くつきますでしょう?」

 言って、リノアは横に並べられていた酒瓶を見回し、その内の一本を手に取った。

「私、これ、飲んでみたかったんです! 値段がお高めで手が出せなくて。だって、お酒は貴族の女性にはあまり必要ないものですからね」

 リノアが手に取ったのは、誰がどこから持ってきたのかは不明だが、アルコール度数が高く、希少な酒だった。

「え、あれ、本当にブルーミング嬢ですよね?」
「俺が間違えるはずないだろう」
「酒を飲むと人が変わるんですかね」
「それよりもどうして彼女が」

 ラルフが呟くと、声が聞こえたのか泣いていた女が近づいてきて、彼の前に跪いた。
 彼女は部下の恋人で賭けの対象となった人物だった。
 男爵家の令嬢で、リノアとは友人の友人という程度でしか付き合いはなかったが、友人からリノアが酒豪であるという話を聞いていたらしい。
 それを思い出した彼女が、リノアに頼んだようだった。

「身内の前でしか飲まないなら、ラルフ様の耳に届かないはずです」
 
 遠い目をしながら、ケインがラルフを慰める。
 どうやら勝ち抜き戦の飲み比べらしく、リノアになってから、もう何人もが酔いつぶれているのに対し、彼女は余裕の表情で酒を堪能している。
 そして、目の前の席に誰も座る者がいなくなると立ち上がった。

「私の勝ちでよろしかったかしら? 正確にはダラス様組? かもしれませんが」

 リノアは満足そうな笑みを浮かべ、酔いつぶれている男達を見下ろし、ため息を吐いてから続ける。

「どちらの騎士の方々なのでしょう? これでは仕事なんかできませんね? 困ったものなのです。あ、後片付けはお願いできますか? それから賭けに関しては無効です! そのかわり、当人に謝って下さい!」
「ラルフ様、チャンスですよ!」

 リノアが酔いつぶれている騎士達に笑顔で話しかけている間に、ケインがラルフに耳打ちする。

「何がだ?」
「声をかけるチャンスじゃないですか。口説き落として婚約破棄させちゃいましょう」
「それは駄目だ。彼女の評判が悪くなるかもしれない」
「という事は、相手から婚約破棄させるしかないんですね?  たしか、相手はディーン・カンタスでしたっけ」

 ケインはうーん、と悩んだあと、女性と話をしていたリノアに近付いていくと言った。

「ブルーミング伯爵令嬢、大変申し訳ないのですが、お願いをきいていただけないでしょうか?」
「…なんでしょう?」
「私の主と話をしていただいてもよろしいでしょうか」
「クラーク辺境伯様とですか?」

 リノアは不思議そうに聞き返したあと、ラルフの方を見た。

「い、いや、あの」
「とりあえずぶつけるだけぶつけて下さいよ」

 ケインが言うと、周りにいたクラーク家の騎士達が騒ぎ立てる。

「頑張って下さい!」
「ブルーミング伯爵令嬢は俺の恩人です!」

 彼女を賭けてしまった人物の言葉に、リノアは厳しい顔をして言う。

「あなたのされた事は最低な行為ですからね! いくら酔っ払っていたとしてもいけません! 女性を賭けるだなんて!」

 リノアはぷりぷり怒っていたが、ラルフの視線に気付き笑いかけた。

「貴族の女性はお酒に弱いほうが可愛いと言われておりますのに、見苦しい姿をお見せいたしまして申し訳ありません」
「い、いや」
「ところで何か私に御用でしょうか」

 小首を傾げるリノアに、ラルフが焦って、ケインの姿を探すけれど、気が付けばケインだけではなく、他のメンバーまで姿を消してしまっていた。
 酔いつぶれた他の家の騎士達はいるが、役には立たない。

「いや」

 何も、と言いかけて、そうではないことに気付く。

(まずは礼を言わなければ)

「あなたのおかげで助かった。礼を言うよ。もちろん、皆、酔った勢いであって、本気ではないだろうけどな」
「そうであっても女性を巻き込もうとするなんて許せません」
「その事に関しては俺からも叱ってはおく」
 
 ラルフが頷くと、リノアも厳しい表情のまま頷いた。
 パーティー会場にゆっくりと歩を進めながら、無言の時間が続く。

(このままではいけない。思いを告げて、フラれたら、次の恋を…)

 考えただけで気分が重くなり、ラルフは大きなため息を吐いた。

「どうかされましたか?」
「あ、いや。そういえば、君には婚約者がいるらしいな?」
「おりますが…」

 なぜか、リノアが眉を寄せるので、ラルフは不思議に思って聞いてみる。

「どうかしたのか?」
「いえ。どうせ、あの人の事ですから、他に女性を作っているんじゃないかと思いまして」

(当たっている)

 なんと答えたらいいのかわからず、ラルフが口ごもっていると、リノアは彼に笑顔を向けて言う。

「あら。本当にそうでしたか。そうではないかと思っていたんです」
「いや、それはまだ、わからないぞ?」
「傷付いたりしませんから、気になさらないで下さい」

 リノアは微笑したまま、ラルフに向かって続ける。

「私が今回の件をお話しないかわりに、ラルフ様も私がこれから言う事を他言しないでいただけますか?」

 今回の件というのは、先程の賭け事の話だろうと判断したラルフが頷くと、リノアは躊躇うことなく言った。

「私、婚約解消したいのです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

処理中です...