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1   プロポーズ?

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「ちょっと、あれ、何かな、告白!?」 

 それは心地よい風が吹く、よく晴れた日の出来事。
 始業前の時間は、各々が自由に過ごす時間でもあるので、私は友人と一緒に自分の席で話をしていた。
 そんな時に、窓際で話をしていたクラスメイトの女子達が騒ぎ始め、その声を聞いた男子達が、窓の外を確認したあと、その内の一人が面白がって他のクラスにまで教えに行くのか、急いで教室を出ていく。

「ちょっと、リディア、あれ! あなたの婚約者じゃなくって?」
「え? どうかしたの?」

 こげ茶色の長い髪をポニーテールにしている私は、友人の言葉に椅子から立ち上がって聞き返した。
 私が通っているカナイ魔法学園は、貴族も平民も一緒になって学ぶ為、先輩後輩などの上下関係はあっても、同じ学年の生徒は身分関係なく会話ができる。
 制服は女子はノースリーブのワンピースに、その下に白シャツ。首元には学年によって色が違うリボンタイ。
 男子は白シャツにネクタイにズボン、ネクタイの色は、リボンタイと同じく、学年によって違い、私の学年である17歳の学年は赤色だ。
 制服も当たり前だけど、貴族だから生地が良いとか、そういう差別的なものは一切ない。
 だから、私に話しかけてきたのが公爵令嬢で、私、リディア・トゥーラルが男爵令嬢という身分の差があっても、クラスメイトから敬語を使えだとか言われる事はない。
 
「いいから、こちらにいらっしゃいな!」

 アンジェリカに手招きされ、私は友人のキキと一緒に、窓際に近寄り、アンジェリカから場所を譲ってもらう。
 私達のクラスは2階なので、注目を集めている二人の顔はしっかりと確認する事ができる。
 注目を集めていた二人の内、女子生徒の方は誰だかわからないけれど、もじゃもじゃ髪の茶髪の男子生徒の事は知っていた。

 私の婚約者である、ジッシー・アンダーソンだ。

 向かい側の校舎も窓際に張り付いている私達を見て、彼ら二人に気が付いたのか、私達と同じように窓際にたくさんの人が張り付いて静かにしている。
 もしかすると、誰かが二人がこのギャラリーに気が付かない様に、魔法をかけているのかもしれない。
 そうでなければ、黙っているといっても、これだけ大勢の人間に見られていれば、さすがに気付くだろうから。
 静まり返っているせいか、中庭の道に立って、私達には横顔を見せて話している2人の会話がかすかに聞こえてくる。

「私、ずっと、ジッシーが好きだったの!」
「クリステル…! 僕もだ! もう気持ちを隠す事ができない! 君が好きだよ! でも、婚約を解消したいだなんて言ったら、親になんて言われるかわからない。だから、秘密の関係でもいいかな?」

 思っきしバレてるわよ。
 この野郎。
 何を普通に二股宣言してるのよ。

「一緒にいられるなら何でもいいわ!」
「ああ、クリステル、僕もだよ!」

 2人が抱き合った瞬間、そこら中から歓声が上がった。

 私のクラスを除いてだけど。

「おい、大丈夫か、リディア」
「うわ、あいつ最低野郎だな。二股かける気かよ。どうする、トゥーラル、ボコるか?」
「なんですの、あれ! ちょっとリディア! 黙ってみていていいんですの!?」
「ジッシーの奴! 何が内緒の関係よ!」

 男子のクラスメイトが気の毒そうに私に声を掛けてくるし、アンジェリカやキキ達、女子のクラスメイトは怒り始める。

 ジッシーは私より1つ年下の商人の息子で、彼の父が私に息子の嫁になってほしいとお願いしてきたため、その時には特に断る理由もなかったからか、私と彼は3年前から婚約関係にあった。
 現在、私は16歳で今年17歳になる。
 婚約3年目だけれど、別に彼に対しての愛情はなかった。

 ジッシー達は歓声が上がった事により、やっと自分達が見られている事に気付き、抱き合った状態で左右を見回している。

 2人の世界に入っていたから、今までこんなに多くの人に見られていた事に気付かなかったのね。

「ジッシー」

 私は彼を見下ろしながら、大きな声を出して続ける。

「残念ね。内緒の関係は無理だわ。これだけの証人がいれば、私が今、見ていなかったとしても、誰かが教えてくれるはずだしねぇ?」
 
 修羅場だ修羅場。
 なんて言葉が色んなところから聞こえてくる。
 だけど、気にしない。
 悪いのは私ではない。
 こんな人目につくような所で、あんな馬鹿な事をした二人なんだから。

「リ、リディア! 君には申し訳ないと思ってる! だけど、こうなった以上、僕の本心を言うよ! 僕はずっと前からクリステルが好きだった! 僕との婚約を解消してくれ!」
「リディア様、愛し合う私達をお許し下さい! そして、私達の結婚をお許し下さい!」

 は?
 結婚?
 どういう事?
 結婚するの?

 クリステルとかいう茶髪の猫っ毛のセミロング、小柄で可愛らしい顔立ちの女性の言葉に、聞いていたクラスメイト以外の女子生徒からも反感の声が響く。

「許すって何を?」
「そんな話、大勢の前でするもんじゃないでしょ!」

 責められて、中庭の二人は慌てた表情になる。

「愛し合う私達って言う必要ありまして!? 普通に謝りなさいな!」
「人の男とっといてよく言うわ! っていうか結婚って何よ!?」

 アンジェリカやキキ達も窓の手すりから身を乗り出して叫ぶ。

「こんな所で婚約解消を言い渡された方が可哀想だろ。土下座して謝れ」
「浮気しておいて開きなおんなよな」

 クラスの男子も味方してくれているのか、叫び始めた時だった。

「リディア」

 私の背後に誰かが立つ気配を感じ、動きを止めた。
 私にとって低くて落ち着いた心地よい声のトーン。
 振り返らなくてもわかっていた。
 なぜなら、好きな人の声だから。

「…ミラン?」
 
 ミラン・ミーグス。
 同じクラスの公爵令息。
 素直になれない私は、彼とはいつも喧嘩ばかりしている。

 彼はいつになく真剣な表情で私の手をとって言った。

「婚約解消したんなら、僕と結婚してくれ」
「……は?」

 私だけではなく、ミランの声が聞こえていた範囲の全員が動きを止めた。
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