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11 鳥に助けられる
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引っ越してきて15日程経った頃から、ふと、何かの視線を感じる様になった。
お店からの行き帰り、買い物の時もそうだけど、誰かに見られている様な、つけられたりしている様な気がした。
自意識過剰だと思われるのが嫌で、誰にも相談できずにいたんだけど、向かいのパン屋さんのご夫婦に、世間話のついでに、ついつい話してしまった。
「うーん。実際にそんな人影を見たりした訳じゃないのね?」
「そうなんです。視線を感じるだけで、話しかけられたりする訳じゃないんです。かといって、自分でそんな事をしているのは誰か確かめるのもな、と思いまして」
「自分で確かめるなんて危ないよ。でも、やっぱり気味が悪いよな。警察に相談しても対応してくれないだろうし。自分で身を守るくらいしかできないしなあ。もし、変な奴がいたら、教える様にするよ」
旦那さんの方が袋にパンを詰めてくれながら言ったのを聞いて思い出した。
そうだ。
こういう時にこそ、リュシリュー男爵にお願いしてもいいのかも?
といっても、リュシリュー男爵の所へ訪ねるにも、いきなり押しかける訳にはいかないし、手紙でもまずは書こうかな。
いやいや、普通の平民が男爵に力を借りる訳ないか…。
それに、お願いなんてしようものなら、それこそ、周りからリュシリュー男爵との関係を疑われかねない。
今のところ、被害が出ている訳じゃないないし、いいかな。
気が付かないフリをしてたら、エスカレートするかな?
まあ、家に入れば、絶対に安全だし、火を点けられても、私は水魔法を使えるから、すぐに消火は出来るし。
つけられているという話をしている最中に、ローズがやって来たので、彼女にも先程の話をして、パン屋さんのご夫婦とローズにはトータスの耳には入れない様にお願いした。
「どうして、トータスに話しちゃ駄目なのぉ?」
お店を出てすぐに、ローズが不思議そうな顔をして聞いてきたので答える。
「危ないから、私の仕事先までの送り迎えをするとか言い出したらどうするの」
「そ、そうね。それは困るわ! 言わない様にしておくけど、本当に大丈夫? トータスの友達もあなたの事を可愛いって言ってた人がいるらしいわよ? もちろん、私もあなたの事を可愛いと思うし」
「うーん。ローズにそう言ってもらえるのは嬉しいけど、人の好みもあるからね…。私はローズの方が可愛いと思うし…。それに、好きな人に可愛いって思われたくて、今まで頑張ってきたのもあるから、そう見えるのかも?」
「恋すると綺麗になるって言うものね」
うんうんとローズが頷く。
「ローズだって好きな人には可愛く思われたいでしょ?」
「思うわよ! 努力もしているし! だけど、トータスは私の魅了に全然、気付いてくれないけどね!」
「近くにいすぎて気付かないのもあるかもしれないわね。ずっとローズが自分の事を好きでいてくれると思ってるのかもよ」
家の前でローズと話をしていると、私達の話し声が聞こえたのか、トータスがシャツとハーフパンツというラフな格好で外へ出て来た。
「おはよ」
「おはよう。ちょうどあなたの話をしてたのよ」
「俺の?」
トータスが聞き返してきたと同時に、ローズがトータスに飛びつく。
「おはよう、トータス!」
「うわ! 何だよ、朝っぱらから。パンが落ちるぞ!」
「いつになったら抱きしめ返してくれるのよぅ」
「そんな日は来ない」
「ちょっと! リディア、聞いた? ひどいと思わない!?」
「そうね。本当にそう思うなら、もっと早くにその気持ちを伝えてあげるべきだったんじゃない?」
冷たい言い方だったかな…。
言ってから気付いて、トータスの顔を見ると、いつもの生意気そうな表情は消え去り、しょげた顔になっていた。
「トータス、言い過ぎたわ、ごめん」
「リディアが謝る事はないわよ! でも、トータス、リディアは駄目よ! リディアはまだ好きな人の事が忘れられないんだから!」
「まだ、昔の男の事が忘れられねぇのかよ!」
謝った私の後にローズが言うと、しょげていたトータスが急に怒った顔になって、私の腕をつかもうとした時だった。
「サワルナ!」
グレーの羽根を持った大きな鳥が飛んできたかと思うと、トータスの頭をつつき始めた。
「うわっ!? なんだ!?」
「サワルナ! ランボウ! ユルサナイ!」
「と、鳥っ!?」
驚いていると、普通のインコを、かなり大きくした見た目の鳥が、私の目の前に飛んできたので、腕を差し出すと、そこにとまって言葉を話す。
「ミタメハ、ヨウムダヨ! ナマエ、ワイズ! カワイイ!」
「うん…可愛い」
笑って頷くと、ワイズが羽根を広げて言う。
「ワイズ、カワイイ! リディアモ、カワイイ!」
「ありがとう! でも、どうして私の名前を知ってるの?」
「ミラ…、ゴシュジン、ワイズ、カワイイッテ、イッテタ」
「ん? そうだね、可愛いね」
会話が出来るのかな、と思ったけど、そうでもないのかな?
「サッキ、ヨンデタ」
ワイズは羽根を片方だけ広げてローズを示した。
それで名前がわかったのかな?
「賢い鳥ね。誰かに飼われてるんでしょうけど…」
ローズが頭を撫でると、ワイズは返事をするように体を縦に動かした。
「ゴシュジン、コワーイ、ケド、タマニ、ヤサシイ」
「怖いけど、たまに優しいってなんだよ。結局は怖い奴なんじゃねえの?」
嘴でつつかれた事に腹を立てているのか、トータスが不機嫌そうに言うので、私が言葉を返す。
「少なくとも、トータスよりも優しいんじゃないかしら」
「そ、それは…」
「そうよ、トータス! リディアに何をしようとしてたの!?」
ローズも一緒になってトータスに怒ってくれる。
女子ってこういう場合、私の方を責めてくる事が多いんだけど、ローズは違っていて、思ったよりも良い子なのだな、なんて事を思ってしまった。
「わ、悪かったよ」
「そう。なら、今日一日、私の前に現れないで。じゃあね、ローズ」
「またね、リディア」
謝ってきたトータスに冷たく言葉を放った後、ローズに手を振ると、ローズも振り返してくれた。
「ワイズはどうする? お礼にパンでも食べてく?」
「パン! ワカラナイ! デモ、オナカヘッタ! オミズ、チョーダイ?」
「いいわよ」
頷いてから、誰かがヨウムにパンをあげてはいけない、と言っていたのを聞いた様な気がした。
あれは誰だった?
ミランだったっけ?
そういえば、ワイズの羽根から、少しだけ感じた香りは、もしかして…?
って、そんな訳ないか…。
とにかく、パンは止めておこう。
果物ならいいかな?
いつも何を食べているか聞いてみたら、教えてくれるかしら?
何か言いたげなトータスをその場に残して、私はワイズを連れて一緒に家の中に入った。
お店からの行き帰り、買い物の時もそうだけど、誰かに見られている様な、つけられたりしている様な気がした。
自意識過剰だと思われるのが嫌で、誰にも相談できずにいたんだけど、向かいのパン屋さんのご夫婦に、世間話のついでに、ついつい話してしまった。
「うーん。実際にそんな人影を見たりした訳じゃないのね?」
「そうなんです。視線を感じるだけで、話しかけられたりする訳じゃないんです。かといって、自分でそんな事をしているのは誰か確かめるのもな、と思いまして」
「自分で確かめるなんて危ないよ。でも、やっぱり気味が悪いよな。警察に相談しても対応してくれないだろうし。自分で身を守るくらいしかできないしなあ。もし、変な奴がいたら、教える様にするよ」
旦那さんの方が袋にパンを詰めてくれながら言ったのを聞いて思い出した。
そうだ。
こういう時にこそ、リュシリュー男爵にお願いしてもいいのかも?
といっても、リュシリュー男爵の所へ訪ねるにも、いきなり押しかける訳にはいかないし、手紙でもまずは書こうかな。
いやいや、普通の平民が男爵に力を借りる訳ないか…。
それに、お願いなんてしようものなら、それこそ、周りからリュシリュー男爵との関係を疑われかねない。
今のところ、被害が出ている訳じゃないないし、いいかな。
気が付かないフリをしてたら、エスカレートするかな?
まあ、家に入れば、絶対に安全だし、火を点けられても、私は水魔法を使えるから、すぐに消火は出来るし。
つけられているという話をしている最中に、ローズがやって来たので、彼女にも先程の話をして、パン屋さんのご夫婦とローズにはトータスの耳には入れない様にお願いした。
「どうして、トータスに話しちゃ駄目なのぉ?」
お店を出てすぐに、ローズが不思議そうな顔をして聞いてきたので答える。
「危ないから、私の仕事先までの送り迎えをするとか言い出したらどうするの」
「そ、そうね。それは困るわ! 言わない様にしておくけど、本当に大丈夫? トータスの友達もあなたの事を可愛いって言ってた人がいるらしいわよ? もちろん、私もあなたの事を可愛いと思うし」
「うーん。ローズにそう言ってもらえるのは嬉しいけど、人の好みもあるからね…。私はローズの方が可愛いと思うし…。それに、好きな人に可愛いって思われたくて、今まで頑張ってきたのもあるから、そう見えるのかも?」
「恋すると綺麗になるって言うものね」
うんうんとローズが頷く。
「ローズだって好きな人には可愛く思われたいでしょ?」
「思うわよ! 努力もしているし! だけど、トータスは私の魅了に全然、気付いてくれないけどね!」
「近くにいすぎて気付かないのもあるかもしれないわね。ずっとローズが自分の事を好きでいてくれると思ってるのかもよ」
家の前でローズと話をしていると、私達の話し声が聞こえたのか、トータスがシャツとハーフパンツというラフな格好で外へ出て来た。
「おはよ」
「おはよう。ちょうどあなたの話をしてたのよ」
「俺の?」
トータスが聞き返してきたと同時に、ローズがトータスに飛びつく。
「おはよう、トータス!」
「うわ! 何だよ、朝っぱらから。パンが落ちるぞ!」
「いつになったら抱きしめ返してくれるのよぅ」
「そんな日は来ない」
「ちょっと! リディア、聞いた? ひどいと思わない!?」
「そうね。本当にそう思うなら、もっと早くにその気持ちを伝えてあげるべきだったんじゃない?」
冷たい言い方だったかな…。
言ってから気付いて、トータスの顔を見ると、いつもの生意気そうな表情は消え去り、しょげた顔になっていた。
「トータス、言い過ぎたわ、ごめん」
「リディアが謝る事はないわよ! でも、トータス、リディアは駄目よ! リディアはまだ好きな人の事が忘れられないんだから!」
「まだ、昔の男の事が忘れられねぇのかよ!」
謝った私の後にローズが言うと、しょげていたトータスが急に怒った顔になって、私の腕をつかもうとした時だった。
「サワルナ!」
グレーの羽根を持った大きな鳥が飛んできたかと思うと、トータスの頭をつつき始めた。
「うわっ!? なんだ!?」
「サワルナ! ランボウ! ユルサナイ!」
「と、鳥っ!?」
驚いていると、普通のインコを、かなり大きくした見た目の鳥が、私の目の前に飛んできたので、腕を差し出すと、そこにとまって言葉を話す。
「ミタメハ、ヨウムダヨ! ナマエ、ワイズ! カワイイ!」
「うん…可愛い」
笑って頷くと、ワイズが羽根を広げて言う。
「ワイズ、カワイイ! リディアモ、カワイイ!」
「ありがとう! でも、どうして私の名前を知ってるの?」
「ミラ…、ゴシュジン、ワイズ、カワイイッテ、イッテタ」
「ん? そうだね、可愛いね」
会話が出来るのかな、と思ったけど、そうでもないのかな?
「サッキ、ヨンデタ」
ワイズは羽根を片方だけ広げてローズを示した。
それで名前がわかったのかな?
「賢い鳥ね。誰かに飼われてるんでしょうけど…」
ローズが頭を撫でると、ワイズは返事をするように体を縦に動かした。
「ゴシュジン、コワーイ、ケド、タマニ、ヤサシイ」
「怖いけど、たまに優しいってなんだよ。結局は怖い奴なんじゃねえの?」
嘴でつつかれた事に腹を立てているのか、トータスが不機嫌そうに言うので、私が言葉を返す。
「少なくとも、トータスよりも優しいんじゃないかしら」
「そ、それは…」
「そうよ、トータス! リディアに何をしようとしてたの!?」
ローズも一緒になってトータスに怒ってくれる。
女子ってこういう場合、私の方を責めてくる事が多いんだけど、ローズは違っていて、思ったよりも良い子なのだな、なんて事を思ってしまった。
「わ、悪かったよ」
「そう。なら、今日一日、私の前に現れないで。じゃあね、ローズ」
「またね、リディア」
謝ってきたトータスに冷たく言葉を放った後、ローズに手を振ると、ローズも振り返してくれた。
「ワイズはどうする? お礼にパンでも食べてく?」
「パン! ワカラナイ! デモ、オナカヘッタ! オミズ、チョーダイ?」
「いいわよ」
頷いてから、誰かがヨウムにパンをあげてはいけない、と言っていたのを聞いた様な気がした。
あれは誰だった?
ミランだったっけ?
そういえば、ワイズの羽根から、少しだけ感じた香りは、もしかして…?
って、そんな訳ないか…。
とにかく、パンは止めておこう。
果物ならいいかな?
いつも何を食べているか聞いてみたら、教えてくれるかしら?
何か言いたげなトータスをその場に残して、私はワイズを連れて一緒に家の中に入った。
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