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12  予想していなかった知らせ

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 ワイズに何が好きかと聞いたら、果物やトウモロコシだというので、テーブルの上で、皿に入れた水を飲んでもらっている間に、家にあったオレンジの皮を向いて実を小さくを切り分けた。

「ごめんね、トウモロコシはないの。オレンジで我慢してね?」
「イイヨー」

 ワイズは水を飲み終えた後、用意したオレンジを食べ始めた。

「美味しい?」
「オイシーイ」

 羽根を広げて体を動かす動作が可愛くて、ついつい、食事中なのに触ってしまう。

 ご飯食べてる時は邪魔しちゃいけないんだろうけど、すごく美味しそうに食べてるんだもん。
 今回だけという事で許してもらおう。
 ワイズも嫌がってないみたいだし。

「ワイズノスキナ、フルーツ、リディアモ、ドーゾ!」

 小さく切ったオレンジの実を一つくわえて、ワイズが私の前に落としてくれた。

「ありがとう! でも、これはあなたの分だから食べていいわよ。まだオレンジはあるから」

 お皿の上に戻してあげてから、駄目元で聞いてみる。

「ねえ、ワイズ、うちの子にならない?」
「チョットサキニナルケド、リディアト、ワイズ、イッショニスムヨー」
「えっ!? どういう事?」
「ヒミツ」

 そう言って、またワイズはオレンジの実を食べ始める。

「よくわからないけど、一緒に住めるのは嬉しいかな」
「ワイズモ、ウレシイ、デモ、リディア、キヲツケテ」
「え?」
「リディア、ネラワレテルヨー」
「え? 狙われてる?」

 物騒な事を言ってくるので聞き返すと、ワイズが何か言おうとしたのか口を開けた時だった。
 家の扉が叩かれる音が聞こえた。

 今日はクリーニング屋さんの日でもないし、誰かが訪ねてくる予定もないんだけど…。
 不思議に思って、返事を返す。

「どちら様ですか?」
「ローズの友達なんですけど!」

 甲高くて、聞き覚えのない声が返ってきた。

 どうして、ローズの友達が私を訪ねてくるの?
 もしかして、訪ねる家を間違ってる?

「あの、ローズの家は隣ですけど?」
「ローズに用事じゃありません! リディアさん! あなたに用事があって来たんです!」
「…ちょっと待って下さいね」 

 訪ねてきた相手に言葉を返してから、ワイズに話しかける。

「ちょっと待っててね」
「ゴハン、タベトク」
「うん。それでいいよ。フルーツ以外に、勝手に何か口に入れちゃ駄目よ?」

 ワイズに言い聞かせてから、扉を開けると、外で待っていたのが、女性一人じゃなかった事がわかった。
 合わせて五人の少女が私を睨み付けて言う。

「トータスに色目を使わないでよ! それに他の男の事も誘惑してるんでしょ!?」
「は?」
「間抜けな顔しないで! トータスは、こんな人のどこがいいんだか!」
 
 ギャーギャーと集団でわめき始めた。

 面倒くさい。
 ローズが何も言ってこなかったと思ったら、ローズの友達が代わりに文句を言いにきたって感じかしら。
 ローズが愚痴って、それを聞いた友達がトータスではなく、私を責めに来たという感じ?
 ローズが指示した様には思えないし、そうだと思うんだけど…。

 とりあえず、帰ってもらおう。

「色目なんて使ってないわよ。大体、私、トータスに興味ないから。それに、ローズの恋を応援してるの。だから、もういいでしょ、帰って?」
「そんなの信用できないわ!」
「あなた達、私が何を言っても、どうせ信用なんてしないんでしょ!? さっきも言ったけど、私はトータスに男性として興味はないの! 私には好きな人がいるし、その人は、私の中では、そんなに性格は良くないけど、トータスよりもイケメンだし、私の好みの性格なの!」
「じゃあ、その好きな人ってのを連れて来なさいよ!」

 それが出来たら、私はここにいないのよ!

 って、叫びたいけど無理よね…。

「ちょっと!」

 なんて答えを返そうか迷っていると、ローズが家から出てきて叫ぶ。

「私は、リディアが悪いだなんて言ってなかったでしょう!? それに忘れたの!? リディアにはリュシリュー男爵が付いてるのよ!?」
「あ…」

 ローズの言葉を聞いて、少女達の表情が一変し、恐ろしいものでも見た様な顔をして後退る。

 こんなに怖がられているなんて、リュシリュー男爵、私の前では低姿勢だったけど、他の平民の前では横柄だったりするのかしら?

「リディア、ごめんなさい。こんな事になるなんて思ってなかったの。あまりにもトータスにムカついちゃって、つい、この子達に話をしちゃったのよぅ」
「別にかまわないわ。私が現れたせいで、ローズとトータスの関係に支障をきたしたっていうなら謝りたいし」
「リディアが謝る事なんてないわよ! これは、私とトータスの問題なんだからぁ。本当にごめんね!」

 ローズが両手を合わせて謝ってくる。

 本気で謝っているのか、リュシリュー男爵に目をつけられたくないからかわからないけど、せっかく出来た友達だし、今回は信じてみる事にする。

「そうね。もうこんな事がない様にしてくれるなら、お友達も許してあげるわ」

 ローズに向かって笑顔で言うと、ローズが友人達を見て言う。

「私の事を考えてくれたのはわかるけど、こんな事されたら、愚痴も言えないじゃない! それに、私、リディアの悪口は言ってないわよね!?」
「い、言ってなかったけど…」

 モゴモゴしていた、ローズの友人達は私に向かって一斉に頭を下げる。

「すみませんでした!」
「わかってくれたならいいわ。じゃあね、ローズ」
「リディア、ごめんね!」

 ローズが本当に申し訳なさそうに頭を下げてくるのを見てから、扉を閉めて振り返ると、ワイズが何かをくわえていた。

「どうしたの?」
「オテガミ」

 ワイズは手紙をテーブルの上に置いてから答えて、またくわえた。

 家族との手紙は魔法で送っている為、ポストではなく、いつも家の中に届いていて、今までもテーブルの上に現れる事が多かったので、今回もそんな感じで、ワイズの近くに落ちてきたんだと思う。

「貸して」

 ワイズから封筒を受け取り、差出人を見ると、お父様の名前だった。
 ペーパーナイフで封を開けて、手紙を取り出し、内容を途中まで読んだところで、思わず声を上げてしまう。

「どういう事よ!?」

 お父様の手紙に書かれていたのは、ジッシーの両親が婚約の解消を認めたくないと言っていると書かれていた。

「え? ちょっと待って! 今、私、婚約破棄が出来てない状態って事!?」

 婚約破棄の書類を送ったけれど、ジッシーの方からは何も言われなかったから、すんなり、事が運んだと思っていたのに!?
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