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18  ほっこりしていたと思ったら?

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 ミランに詳しい話をしてもらったところ、やはり、ミーグス公爵がアンダーソン家の後押しをしていたみたいだった。
 それを聞いた、ミランが私の家を経由して話を持ちかけ、アンダーソン家にとって、損にはならない提案をしたらしい。

 この国の貴族がギャンブルをする人が多い事を、ジッシーの父親は知っていて、今回のミランの提案を受ける事で、自分も貴族の仲間入りを果たせた様な気がしたのかもしれない。

 実際にこの国の貴族がやってる賭け事ってポーカーとか、そういうのが多いのだろうけれど、社交場に行った事のない、ジッシーの父親はそれを知らない。
 知っていたとしても、こういう賭け事もあるのだな、というくらいで、自分の損にならないから、素直にミランの提案を受け入れたみたいだった。

 それにまさか、ミランがすでに私の行方を突き止めているなんて思ってもいなかったんでしょうね。
 だって、ワイズの存在を知らないから。

 一応、ミランも人を使って、私を探しているフリをしていたみたいだけど、私を本屋で確認した後、通信の魔道具を使って、アンダーソン家には私を見つけた事を連絡したみたい。

 アンダーソン家は賭けに負けても他の令嬢を紹介してもらえるから損はないし、私が見つかったとミランから聞いた後は、私の家には他に良い女性が見つかったから、とお断りの連絡を入れてくれたらしい。
 だから、家に帰った時には婚約解消が成立したという手紙が両親から届いていた。

 それにしても、あれだけ渋っていたのに、簡単に婚約解消できてしまったのは、どうしてかしら?
 とりあえず、貴族と結婚できたら良いって事?
 それに、ジッシーのお相手の女性が可哀想にも思えてきた。

 家に帰って、晩御飯の用意をしながら、ダイニングテーブルの椅子に座っているミランに話しかける。

「お相手の女性はジッシーで大丈夫なのかしら?」
「相手はアンダーソン家の財力を当てにしていて、政略結婚になるんだ。彼がどんな人間かは理解してくれているみたいで、手のひらで転がしやすそうだから良いと言ってくれてるんだよ」
「そうなの? 迷惑じゃないなら良いけれど」
「ああ、彼女は旦那様に早くに先立たれて、自らが子爵となって動いている人なんだ。アンダーソン家も男爵家の婿よりも子爵家の婿の方が魅力があるんだろう。それに、ジッシーの両親の要望は貴族であれば良いという条件しかなかったから、彼女にとっても俺にとっても好条件だったわけ」
「そう…。なら良かったわ」
「彼女は子持ちだから、跡継ぎも問題ないし」

 聞いてみると、ジッシーが可哀相にも思えてきた。
 もちろん、相手方の女性がどうこうというわけではなく、自分で何一つ決められずに、親の示した道をひたすら歩いていくだけの人生になりそうだから。

 って、私が心配してあげる義理はないか。
 最低な事をしたのは向こうだし。

「あ、ミラン、あなたの分の食事を用意してもいいのよね?」
「え?」
「お腹減ってない? 私は食べようと思うんだけど」
「減ってる…けど、君が作るの?」
「何よ? 私の作った料理は食べれないって言いたいの?」

 少しムッとして聞くと、ミランが慌てて首を横に振る。

「いや、そういう意味じゃなくて、作れるのかと思って、びっくりしただけ」
「貴族って自分では作らないものね。だけど、平民は私くらいの年の女の子は普通にキッチンに立ってるわ。まあ、私は元々は貴族だったし、上手ではないけれど、レシピがあるから少しずつ作れるようになってるの」
「野菜の皮をむいたりするのって大変じゃないのか? なんなら手伝うけど」
「慣れるまでは大変ね。最初の方はむきおわったら、一回り以上、小さくなっちゃってたけど、今はさすがにマシよ。それに、今日は作り置きを温めるだけだから大丈夫。お客様は座ってて」

 作り置きしていたポトフを取り出して、鍋に入れて温めている間に、買い置きしていたパンを取り出す。

「ワイズノ、ゴハンハー?」
「ワイズには今日はなんと、ご馳走です!」
「ナァニ?」

 パタパタと体を動かしてワイズが急かすので、目の前に差し出してから言う。

「今日はトウモロコシです!」
「トウモロコシ!!」

 ワイズには表情はないはずなんだけど、口を開けて、バタバタと動くから喜んでいるのがわかる。

「ワイズ、トウモロコシが好きだって言ってたでしょ? 高かったけど、奮発して買っちゃいました!」
「ワーイ、リディア、アリガト!」
「もう茹でてあるからね。ワイズが食べやすいようにして皿に入れてあげるから、ちょっと待ってて」
「ワイズセンヨウノ、オサラ、イイデショー?」

 ワイズがミランの前に行って、なぜか胸を張る様なポーズを取っているのが可愛くて微笑ましい。
 ミランも同じ気持ちなのか、微笑みながら、ワイズの頭を撫でた。

「可愛がってもらえてる様で良かったよ」
「イッショニ、スムカラネ、ナカヨクシテモラエテ、ウレシーイ」
「良かったな」
「そういえば、ミラン」
「ん?」
 
 ミランの前にカトラリーやコップを置いたりしながら尋ねる。

「あなたがいない事、家の人には不審に思われない?」
「今日は出掛けると言ってあるし、悪友達にアリバイ作りは頼んできた」
「そう。なら、いいけど、あなたのご両親、あなたを心配してるみたいだから」
「僕が死ぬんじゃないかと思ってるんだろ」
「何よ、それ。どういう事?」
「あんまり言いたくないかな。君も聞きたくなかったと思うかもしれない。それでも良いなら答えてもいいけど…」
「うっ。そんな事を言われると聞きづらいしいいわ!」
 
 ミランに言われ、首を横に振ると、ワイズが言う。

「ドウセ、イツカワカルカラ、キイテオイテモラッタラー?  ミラン、イガイノ、ヒトガ、イツカ、イウカモヨ?」
「そうだな…」

 ミランは苦笑してから、私を見て言った。

「という訳で、いい機会でもあるし、話をしてもいいかな」
「は、はい!」
「…僕の本当の父は、自分で死を選んだんだ。だから、両親は僕が同じ事をするんじゃないかと心配してる」

 どんな反応をすればいいかわからず、私はミランの言葉を聞いて固まってしまったのだった。
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