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22 何しに来たの?
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男性と女性が二人で経営しているから、勝手に私が夫婦だと思い込んでいただけで、本人達に確認していた訳ではなかった。
向こうだって、わざわざ聞かれなければ、自分達の関係性を言う必要もないと思っていたんだと思う。
ご近所さんから、すでに聞いていると思ったのかもしれないし。
姉弟とわかってしまえば、二人が似ているような気もしてきたけど、毎日の様に会っていたのに気付かなかった。
何より、夫婦になって似てきた、という人の話を聞いた事もあるくらいだし、そんなもんかな、と思っていた。
「困ったなぁ」
「ドウカシタノ?」
「近所のお店のほとんどに行きづらくなってしまったから」
「ンー。モウスコシノ、シンボウ、ナンジャナイカナァ?」
今日は仕事がお休みの日なのでソファーに座って、ワイズとのんびり話をしていると、扉が叩かれる音がした。
誰か来る予定がないだけに、警戒しながら扉に近付いていく。
「どちら様ですか?」
普通なら誰か名乗るはず。
なのに、何も言わないという事は怪しい。
もしかして、パン屋さんのブレックさんかもしれない…。
自分の事がバレたと思ったとか?
いやいや、そんな事はないわよね?
ドキドキしながら、もう一度尋ねる。
「あの、どちら様ですか?」
さすがに誰かわからないのに開ける勇気はない。
いくらリュシリュー男爵が手配してくれた人達が近くにいて、家の中には魔法で入ってこれないとはいえ、扉を開けるのは違う。
静かに覗き窓から見てみると、普通なら何か見えるはずなのに、指で窓の部分をおさえているのか、全く外が見えない。
これは良くない相手だ。
誰か確認しなくてもわかる。
だって、普通の人なら、こんな事をしないもの。
静かに扉から離れようとすると、また、トントンと扉が叩かれた。
足音を立てない様に気を付けて階段をのぼり、窓から外の様子を見ている。
訝しげに客を見つめている、平民の格好をしているけれど、屈強な体の男性が二人。
そして、その視線の先には、よく知っている人物がいた。
「どうしてここに…」
「リディア、ドウシタノ?」
ワイズが飛んで来て、心配げに聞いてくる。
今日は学園は休みじゃないはずだし、何より、彼の家からここまではだいぶ離れているじゃない…。
「ミランに尋ねてみてほしいんだけど…」
「ナニヲ?」
「ジッシー・アンダーソンは、今、どうしてるかって…」
「ワカッタ」
ワイズとミランは離れていた場所でも会話が出来るので、すぐにワイズが連絡を取ってくれた。
その間も、トントンと扉は叩かれ続けている。
いいかげん、諦めてくれないかしら?
そう思っていると、不審に思ってくれたのか、男性達の一人がジッシーに声を掛けた。
「留守なのかもしれませんよ」
「いや、違うんです! 声が聞こえたんです! 僕だから出て来てくれないんです!」
「どういう事です? あなたは、この家の方とは、どのようなご関係で?」
「婚約者です!」
迷う事なく、ジッシーは告げた。
もちろん、そう言われたって、男性が信じる訳がない。
「婚約者なのに、出て来てくれないだなんて、おかしいでしょう。警察を呼びますよ」
「そ、それは困ります! 僕はここには内緒で来ているんですよ」
ジッシーの弱々しい声が聞こえた。
「ミランニ、キイテミタケド、ジッシーハ、アタラシイ、コンヤクシャニアウタメニ、ガクエンヲヤスンデルミタイダヨ」
「そう…。ジッシーの新しい婚約者の家に行くのには、この地は通り道なのかしら?」
「チョット、マッテネー」
ワイズが確認してくれている間、私は外の会話を聞く。
「怪しい人ですね」
「怪しくなんかありませんよ! 大体、あなたは誰なんですか?」
「あなたに関係ないでしょう。それに、人に尋ねるのであれば、まずはあなたのお名前から聞かせてもらいましょうか」
「そ、それは…。リディアに会わせてくれたら、怪しくないってわかります!」
いや、怪しい人物って言うわよ。
関わりたくないもの。
一体、ジッシーは何をしに来たの?
会いたくはないけど、彼の目的は知りたかったりする。
「コノヘンハ、トオリミチジャナイッテ。ミラン、イマ、マセキヲモッテナイカラ、ソウタイスルッテ」
「別に来てくれなくても大丈夫よ。何とかなりそうだから」
ワイズに言ってから、一階に降りて、扉の向こうの会話に耳を澄ませる。
といっても、耳を澄まさなくても聞こえてくるのだけど…。
「リディアと話がしたいだけなんですよ!」
「話したいなら、まず、名前を名乗ったらどうなんだ!」
ジッシーに対応する男の人の声が荒くなった。
すると、扉の向こうから私に話しかけてくる。
「リディア! 僕が悪かったよ! 僕が誰と結婚させられるか聞いた? ひどいよ! 僕より20近く年上で、子供の年齢も僕より年上なんだ! しかも、両親から仕事を継いだら、実権は僕じゃなく、彼女か息子が握るって言うんだ!」
こんな事を言うのもなんだけど、その方がアンダーソン家の為にもなりそう。
もしかして、ジッシーの両親は、こうなっても良いと思っていたのかも。
普通の親なら、こんな息子は心配になるから、しっかりした人に継がせたいわよね。
「リディア、頼むよ! こんな事なら、君と婚約したままでいたら良かった!」
「はあ?」
ジッシーの勝手な発言に、思わず声を上げてしまった。
「リディア!? 聞いてくれてるのか?! 僕の事を可哀想だと思うだろ? 君との婚約を諦めるようにミーグス公爵令息に言ってくれないか?!」
「何を考えてるのよ!?」
さすがに頭にきて、言い返したと同時だった。
「お前もリディアちゃんにつきまとう虫なのか! トータスといい、エイディといい、リディアちゃんを先に好きになったのは僕なんだぞ!」
ブレックさんらしき人の意味のわからない叫び声が聞こえた。
「リディア、モテモテダネー」
「失礼かもしれないけど、扉の向こうにいる二人にモテても、全然嬉しくない」
ワイズの言葉に大きく息を吐いてから答えた。
向こうだって、わざわざ聞かれなければ、自分達の関係性を言う必要もないと思っていたんだと思う。
ご近所さんから、すでに聞いていると思ったのかもしれないし。
姉弟とわかってしまえば、二人が似ているような気もしてきたけど、毎日の様に会っていたのに気付かなかった。
何より、夫婦になって似てきた、という人の話を聞いた事もあるくらいだし、そんなもんかな、と思っていた。
「困ったなぁ」
「ドウカシタノ?」
「近所のお店のほとんどに行きづらくなってしまったから」
「ンー。モウスコシノ、シンボウ、ナンジャナイカナァ?」
今日は仕事がお休みの日なのでソファーに座って、ワイズとのんびり話をしていると、扉が叩かれる音がした。
誰か来る予定がないだけに、警戒しながら扉に近付いていく。
「どちら様ですか?」
普通なら誰か名乗るはず。
なのに、何も言わないという事は怪しい。
もしかして、パン屋さんのブレックさんかもしれない…。
自分の事がバレたと思ったとか?
いやいや、そんな事はないわよね?
ドキドキしながら、もう一度尋ねる。
「あの、どちら様ですか?」
さすがに誰かわからないのに開ける勇気はない。
いくらリュシリュー男爵が手配してくれた人達が近くにいて、家の中には魔法で入ってこれないとはいえ、扉を開けるのは違う。
静かに覗き窓から見てみると、普通なら何か見えるはずなのに、指で窓の部分をおさえているのか、全く外が見えない。
これは良くない相手だ。
誰か確認しなくてもわかる。
だって、普通の人なら、こんな事をしないもの。
静かに扉から離れようとすると、また、トントンと扉が叩かれた。
足音を立てない様に気を付けて階段をのぼり、窓から外の様子を見ている。
訝しげに客を見つめている、平民の格好をしているけれど、屈強な体の男性が二人。
そして、その視線の先には、よく知っている人物がいた。
「どうしてここに…」
「リディア、ドウシタノ?」
ワイズが飛んで来て、心配げに聞いてくる。
今日は学園は休みじゃないはずだし、何より、彼の家からここまではだいぶ離れているじゃない…。
「ミランに尋ねてみてほしいんだけど…」
「ナニヲ?」
「ジッシー・アンダーソンは、今、どうしてるかって…」
「ワカッタ」
ワイズとミランは離れていた場所でも会話が出来るので、すぐにワイズが連絡を取ってくれた。
その間も、トントンと扉は叩かれ続けている。
いいかげん、諦めてくれないかしら?
そう思っていると、不審に思ってくれたのか、男性達の一人がジッシーに声を掛けた。
「留守なのかもしれませんよ」
「いや、違うんです! 声が聞こえたんです! 僕だから出て来てくれないんです!」
「どういう事です? あなたは、この家の方とは、どのようなご関係で?」
「婚約者です!」
迷う事なく、ジッシーは告げた。
もちろん、そう言われたって、男性が信じる訳がない。
「婚約者なのに、出て来てくれないだなんて、おかしいでしょう。警察を呼びますよ」
「そ、それは困ります! 僕はここには内緒で来ているんですよ」
ジッシーの弱々しい声が聞こえた。
「ミランニ、キイテミタケド、ジッシーハ、アタラシイ、コンヤクシャニアウタメニ、ガクエンヲヤスンデルミタイダヨ」
「そう…。ジッシーの新しい婚約者の家に行くのには、この地は通り道なのかしら?」
「チョット、マッテネー」
ワイズが確認してくれている間、私は外の会話を聞く。
「怪しい人ですね」
「怪しくなんかありませんよ! 大体、あなたは誰なんですか?」
「あなたに関係ないでしょう。それに、人に尋ねるのであれば、まずはあなたのお名前から聞かせてもらいましょうか」
「そ、それは…。リディアに会わせてくれたら、怪しくないってわかります!」
いや、怪しい人物って言うわよ。
関わりたくないもの。
一体、ジッシーは何をしに来たの?
会いたくはないけど、彼の目的は知りたかったりする。
「コノヘンハ、トオリミチジャナイッテ。ミラン、イマ、マセキヲモッテナイカラ、ソウタイスルッテ」
「別に来てくれなくても大丈夫よ。何とかなりそうだから」
ワイズに言ってから、一階に降りて、扉の向こうの会話に耳を澄ませる。
といっても、耳を澄まさなくても聞こえてくるのだけど…。
「リディアと話がしたいだけなんですよ!」
「話したいなら、まず、名前を名乗ったらどうなんだ!」
ジッシーに対応する男の人の声が荒くなった。
すると、扉の向こうから私に話しかけてくる。
「リディア! 僕が悪かったよ! 僕が誰と結婚させられるか聞いた? ひどいよ! 僕より20近く年上で、子供の年齢も僕より年上なんだ! しかも、両親から仕事を継いだら、実権は僕じゃなく、彼女か息子が握るって言うんだ!」
こんな事を言うのもなんだけど、その方がアンダーソン家の為にもなりそう。
もしかして、ジッシーの両親は、こうなっても良いと思っていたのかも。
普通の親なら、こんな息子は心配になるから、しっかりした人に継がせたいわよね。
「リディア、頼むよ! こんな事なら、君と婚約したままでいたら良かった!」
「はあ?」
ジッシーの勝手な発言に、思わず声を上げてしまった。
「リディア!? 聞いてくれてるのか?! 僕の事を可哀想だと思うだろ? 君との婚約を諦めるようにミーグス公爵令息に言ってくれないか?!」
「何を考えてるのよ!?」
さすがに頭にきて、言い返したと同時だった。
「お前もリディアちゃんにつきまとう虫なのか! トータスといい、エイディといい、リディアちゃんを先に好きになったのは僕なんだぞ!」
ブレックさんらしき人の意味のわからない叫び声が聞こえた。
「リディア、モテモテダネー」
「失礼かもしれないけど、扉の向こうにいる二人にモテても、全然嬉しくない」
ワイズの言葉に大きく息を吐いてから答えた。
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