あなたに未練などありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
22 / 40

第20話 ファブロー公爵令息はどんな人?

しおりを挟む
「心配していた事が早速起きたみたいだね」

 どうやら、ジェレミー殿下は手紙を送ってくるかもしれないと言おうとしていた様で、わたしに向かってそう言ってから尋ねてくる。

「どうする? ヘイストからの手紙を読んでみたい?」
「読んでみたいという好奇心がないわけではないですが、書かれてある事が予想できますので難しいところですね」
「じゃあ、私が対応してもいいかな? あと、ヘイストからの手紙は私を通してでしかアニエスに渡す事は出来ないという事にしても良いかな? 私に読まれるのは嫌だろうから、さすがに手紙は書いてこないだろうから」
「ご迷惑でなければ、それでお願いいたします」

 わたしが大きく頷くと、ジェレミー殿下は立ち上がり、扉の方に向かった。

 そして、ゆっくりと扉を開けて優しい口調で言う。

「ヘイストに伝えてくれないか。アニエスへの手紙は何であっても私を通すようにと。今回に関しても私が受け取ったと伝えてくれ」
「しょ、承知いたしました」

 私のいる場所からは、ヘイスト殿下に頼まれたというメイドの表情は見えないけれど、かなり焦っているような声だった。

 ソフィーから来客中だと聞いていたけれど、相手が誰だかは聞いていなかったみたい。

「これからは来客中だと聞いたら、よほど急ぎの場合でない限り、この様な事はやめたほうがいい」
「申し訳ございませんでした! ヘイスト殿下から急用で、必ず手渡しするようにと申し付けられましたので、つい…」
「私も止める事が出来ず、申し訳ございませんでした」

 ヘイスト殿下に頼まれたメイドが謝る声の後に、ソフィーが謝る声が聞こえた。
 ソフィーが怒られたらどうしようと思って、思わず立ち上がろうとしたけれど、ジェレミー殿下の声が聞こえたので耳を澄ます。

「今回はしょうがない。相手がヘイストだったから君も断りにくかったんだろう? 次からは気を付けてくれればいい」
「寛大なお言葉をいただき、ありがとうございます」

 ソフィーが怒られなくて良かった。
 相手がヘイスト殿下の使いだったから、ソフィーも声を掛ける事を許さざるを得なかったんだと思う。
 本来なら断るべきところでしょうけれど、ヘイスト殿下から急ぎで、手渡しでなければいけないとか言われてしまったら、わたしに断る様に指示をされていたならまだしも、メイドが今は駄目だと勝手に判断して良いものではないでしょうから。

 これについては、指示をしておかなかったわたしのミスだわ。

 ジェレミー殿下がヘイスト殿下からの手紙を手にして戻ってきたので、立ち上がって頭を下げる。

「対処していただき、ありがとうございます。それから、メイドの件ですが…」
「今回は私の詰めの甘さもあるからね。部屋から出るなとは言っていたけれど、手紙を書くなとは言っていなかった。禁止事項を書いた紙をヘイストに渡すようにするよ。暗記は得意なようだからね」
「ヘイスト殿下は学園での成績は良いのですもの。覚えようと思えば覚えられるでしょうし、考えればわかる事だと思います。ですから、きっと自分の事しか考えていないのでしょうね。わたしに対する発言もそうです」

 未練がないと言っているわたしに、自分には未練があると言ってのけたヘイスト殿下には、わたしの気持ちを理解はできなくても、もうわたしと彼が元のような関係に戻る事が出来ないという事だけは理解してもらいたかった。

「ヘイストは君なら許してくれるという、甘い考えでいるのかもしれない。君が傷付いたという事をちゃんと理解出来ていないんだろう。痛い目に合わないとわからないのかもしれない…」 

 ジェレミー殿下が苦笑する。

 色々と考えるところなんでしょうね…。
 野放しにしたら、ヘイスト殿下は何をするかわからないし…。
 きっと、ヘイスト殿下は人の気持ちを慮るという事を知らない。
 だから、王家から除籍されたとしたら、自分が元王族だった事を忘れて、好きな様に動こうとされるかもしれない。

「ヘイストの性格は叔父上の影響かもしれない。学園だけの勉強とは別に幼い頃からマナーなどの教育はされているんだ。だから、王子として生きていく上で最低限、必要な事は学んできているはずなんだよ」
「ヘイスト殿下はそんなにファブロー公爵にべったりだったんですか?」
「ああ。叔父上はヘイストに特に甘かったからね。自分の子供よりも可愛がっていたと思う。もちろん、それには理由があったんだけど」
「その頃のファブロー公爵はジェレミー殿下が病弱だと思っておられたから、王位継承出来ないと考えておられていたから、次期国王の可能性が高いヘイスト殿下に近付いたという事でしょうか?」
「だろうね。父上も母上もヘイストを可愛がっていたけれど、叱らなければいけないところは叱っていた。ヘイストはそれが気に食わなかった。だから、何でも肯定してくれる叔父上のところに逃げたんだろう」

 自分の事を心配して叱ってくれているという事が、子供の頃は特にわからなかったんでしょうね。
 だから、自分を肯定してくれる人間の所に行きたくなる気持ちはわかるけれど、物心がついてきたら、どうして叱られていたかくらいわかってくるはずなのに…。

 そして、未だにヘイスト殿下はファブロー公爵に依存しているのね。

「そういえば、ファブロー公爵令息はどんな方なのですか? パーティーではお見かけする事がなくて…」

 この国では夜会は15歳以上からしか参加できない。
 私の場合は相手が第2王子という事もあり、特例で13歳から出席できていたけれど、ファブロー公爵令息はたしか、今年、12歳になるかどうかだし、昼のパーティーにはファブロー公爵が出席されないからかお見かけした事がなかった。

「そうだね。叔父上とは違って良い子だよ。幼いけれど賢い。本当は離縁された元夫人に付いていきたかったようだけれど、叔父上に邪魔をされた上に、叔父上は元夫人に酷い事をしたようで、彼は叔父上の事を憎んでいる」
「…という事は」
「彼は味方だよ。今は無邪気な子供のふりをしてもらって、叔父上の動きを探ってもらっている。彼の名前はアーリーというんだけど、アーリーの執事も王家側の人間だよ」

 ジェレミー殿下の言葉を聞いて思ったのは、ヘイスト殿下が普通の性格だったなら、もっと早くにファブロー公爵の尻尾をつかめたのではないか、だった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

昨日から「私にだって幸せになる権利はあるはずです!」の投稿を開始しています。
読んでいただけたら嬉しいです。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

私より幼馴染を選んだ婚約者に別れを告げたら謝罪に来ましたが、契約を守れない貴族とは取引しませんので

藤原遊
恋愛
祖父が創立した大商会で、跡継ぎとして働いている私。 けれど婚約者は、私より幼馴染を選びました。 それなら構いません。 婚約という契約を守れない相手と、これ以上関係を続けるつもりはありませんから。 祖父の商会は隣国と新たな取引を始めることになりました。 ――その途端、なぜか元婚約者が謝罪に来るようになりましたが、もう遅いです。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...