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8 魔王というワード
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ジーギス殿下がいるということは、お姉様も一緒なのよね。
見つからないうちに隠れないと。
私が不安そうにしているのがわかったのか、ロード様が話しかけてくる。
「ミレニア、君は邸の中に入っててくれ」
「……よろしいんですか?」
「姉と顔を合わせたくないんだろう?」
「はい。あ、あの、良ければメルちゃんを連れて行って姉に見せてもらえますか? 姉は犬が苦手なので怖がって逃げると思います」
何とかお姉様に見つからないように、ロード様の体で身を隠すようにしながらお願いした。
でも、時すでに遅しだった。
お姉様の声が私の耳に飛び込んできた。
「ミレニア! 会いたかったわぁ! あなたのお姉様が会いに来たわよぉ! ミレニアぁ! こっちを見てぇ! わたしはここよぉ!」
「……鬱陶しそうな人だね」
ロード様は後ろを振り返って呟くと、ハヤテくんに話しかける。
「ハヤテ、ミレニアを頼むよ」
「バウっ!」
意味がわかっているのかはわからないけれど、ハヤテくんは「任せて」と返事をするかのように吠えた。
そして、私を見上げて付いてこいと言わんばかりに邸のほうへ向かって歩き出す。
本当に任せて良いのか迷いつつも、ハヤテくんを追って歩き出す。
「メル、あいつらは敵だ。いいな? お前が知らない人は敵だからな」
ロード様の声が聞こえて振り返ると、メルちゃんの横にしゃがみ言い聞かせるように言っているロード様の姿があった。
すると、メルちゃんは門のほうに向かって走り出す。
「ワンッ! ワンワンッ!」
あっという間に門の近くまで走ったメルちゃんは門を挟んでではあるけれど、お姉様の前に行って何度か吠えた。
すると、涙目になったお姉様が私に助けを求めてくる。
「ミ、ミレニア! わ、わたしに向かってきている犬がいるわぁっ! ミレニア、助けてぇ! 怖い!」
どうして、私に助けを求めてくるのかしら。
すぐ近くにジーギス殿下がいるんだから、殿下に助けてもらえばいいじゃないの。
ハヤテくんもメルちゃんたちの様子が気になるのか足を止めたので、私も足を止めて遠くから冷めた目で見つめる。
お姉様は私が助けてくれないことがわかったのか、ジーギス殿下の後ろに隠れて叫ぶ。
「ジーギス殿下ぁ、怖いですぅっ! わたしは犬がとっても苦手なんです! 助けてください!」
「な、なんだ、この犬は!」
ジーギス殿下は犬が苦手じゃないようだけれど、メルちゃんは大型犬だから恐怖を感じているらしく、声が引きつっている。
ウーッ!
メルちゃんが唸り声をあげると、お姉様がぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた。
「いやあっ! 怖いっ! 殺されちゃうわ! 食べられちゃうわ! あっちに行ってよぉ!」
「おい、ロード! レニスが怖がっているだろ! この獣をどうにかしろ!」
「獣じゃない。招かれざる客に対して吠えているんだよ。彼女は君よりも賢いよ。それから、バカを食べたりしないから安心していいよ。メルは口が綺麗なんだ」
ロード様はお姉様たちに向かって歩いていきながら話を続ける。
「ジーギス、忠告しておくけど、その犬に何かしたら許さないよ。犬だけじゃなく、そこにいる門番や使用人、領民、ミレニアだってそうだ。誰かに迷惑をかけることをするなら黙っていないからね」
「な、な、何を偉そうに言ってるんだよ! 俺よりも犬が大事だと言うのか!?」
「そうだよ。だって、僕にとってはそうだから。ジーギスは今のところ、クズの一歩手前ってとこだから。いや、もう、クズ認定していいのか」
ロード様が答えると、ジーギス殿下は怒りの声を上げる。
「俺がクズだと!? ロード、貴様! 覚えてろよ!」
「君がまともになるまでは忘れるよ。なる日がくるかはわからないけど。……で、ジーギス、今日は何をしに来たんだ? さっさと帰ってほしいんだけど」
ロード様が2人の近くまでやって来ると、メルちゃんは吠えるのをやめて、ロード様に駆け寄り、ちょこんと隣でお座りをした。
気になって立ち止まったままでいると、早く帰ろうと言わんばかりにハヤテくんがグイグイ引っ張ってくる。
そうよ、そうよね。
せっかく、ロード様がお姉様に会わなくていいように気を遣ってくださったんだもの。
気にはなるけれど、邸内にましょう。
そう思って歩き出した時、お姉様の声が聞こえてきた。
「ミレニアを返しなさいよ、この魔王っ!」
出たわ、魔王というワードが……。
自分に対して気に入らないことをする人は、お姉様にとっては、皆、魔王なのよね。
私の友人もよく魔王って言われていたわ。
明らかに友人は馬鹿にしていて気にしていなかったから良かったけど。
「魔王って何だよ。本人が帰りたがってないし。大体、僕は魔王でもない」
「ジーギス様ぁ! 魔王があんなことを言ってますぅっ!」
「おい、ロード! こんなにか弱い女性がお願いしているんだぞ! 少しは感情が動かないのか!?」
「人のことを魔王とかいう人間に、感情を動かす必要はないよね」
ロード様は一度言葉を止めたあと、すぐに口を開く。
「とにかくお帰り願おうか」
「嫌よ! いやいやっ! せっかく、ミレニアに会えると思ったのに! ミレニア! 聞こえないの!? お姉様はここよ!」
「ミレニアはあなたの顔も見たくないんだそうだよ」
「そ……、そんな……っ、あの時、嫌わないでって言ったのに! 酷い、ミレニアの嘘つき! うっ……うっ! わたしはっ、結婚もしないで……、ミレニアのために頑張ってきたのにっ!」
「ああ、泣くなよレニス! 貴様らはなんて冷たい奴らなんだ! レニス、もう泣かなくていいんだ! 俺が何とかするから心配するな!」
地面に座り込んで泣き始めたお姉様を抱きしめて慰めるジーギス殿下を見て、これ以上見ているのもバカバカしくなったので、急いで屋敷の中に入った。
見つからないうちに隠れないと。
私が不安そうにしているのがわかったのか、ロード様が話しかけてくる。
「ミレニア、君は邸の中に入っててくれ」
「……よろしいんですか?」
「姉と顔を合わせたくないんだろう?」
「はい。あ、あの、良ければメルちゃんを連れて行って姉に見せてもらえますか? 姉は犬が苦手なので怖がって逃げると思います」
何とかお姉様に見つからないように、ロード様の体で身を隠すようにしながらお願いした。
でも、時すでに遅しだった。
お姉様の声が私の耳に飛び込んできた。
「ミレニア! 会いたかったわぁ! あなたのお姉様が会いに来たわよぉ! ミレニアぁ! こっちを見てぇ! わたしはここよぉ!」
「……鬱陶しそうな人だね」
ロード様は後ろを振り返って呟くと、ハヤテくんに話しかける。
「ハヤテ、ミレニアを頼むよ」
「バウっ!」
意味がわかっているのかはわからないけれど、ハヤテくんは「任せて」と返事をするかのように吠えた。
そして、私を見上げて付いてこいと言わんばかりに邸のほうへ向かって歩き出す。
本当に任せて良いのか迷いつつも、ハヤテくんを追って歩き出す。
「メル、あいつらは敵だ。いいな? お前が知らない人は敵だからな」
ロード様の声が聞こえて振り返ると、メルちゃんの横にしゃがみ言い聞かせるように言っているロード様の姿があった。
すると、メルちゃんは門のほうに向かって走り出す。
「ワンッ! ワンワンッ!」
あっという間に門の近くまで走ったメルちゃんは門を挟んでではあるけれど、お姉様の前に行って何度か吠えた。
すると、涙目になったお姉様が私に助けを求めてくる。
「ミ、ミレニア! わ、わたしに向かってきている犬がいるわぁっ! ミレニア、助けてぇ! 怖い!」
どうして、私に助けを求めてくるのかしら。
すぐ近くにジーギス殿下がいるんだから、殿下に助けてもらえばいいじゃないの。
ハヤテくんもメルちゃんたちの様子が気になるのか足を止めたので、私も足を止めて遠くから冷めた目で見つめる。
お姉様は私が助けてくれないことがわかったのか、ジーギス殿下の後ろに隠れて叫ぶ。
「ジーギス殿下ぁ、怖いですぅっ! わたしは犬がとっても苦手なんです! 助けてください!」
「な、なんだ、この犬は!」
ジーギス殿下は犬が苦手じゃないようだけれど、メルちゃんは大型犬だから恐怖を感じているらしく、声が引きつっている。
ウーッ!
メルちゃんが唸り声をあげると、お姉様がぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた。
「いやあっ! 怖いっ! 殺されちゃうわ! 食べられちゃうわ! あっちに行ってよぉ!」
「おい、ロード! レニスが怖がっているだろ! この獣をどうにかしろ!」
「獣じゃない。招かれざる客に対して吠えているんだよ。彼女は君よりも賢いよ。それから、バカを食べたりしないから安心していいよ。メルは口が綺麗なんだ」
ロード様はお姉様たちに向かって歩いていきながら話を続ける。
「ジーギス、忠告しておくけど、その犬に何かしたら許さないよ。犬だけじゃなく、そこにいる門番や使用人、領民、ミレニアだってそうだ。誰かに迷惑をかけることをするなら黙っていないからね」
「な、な、何を偉そうに言ってるんだよ! 俺よりも犬が大事だと言うのか!?」
「そうだよ。だって、僕にとってはそうだから。ジーギスは今のところ、クズの一歩手前ってとこだから。いや、もう、クズ認定していいのか」
ロード様が答えると、ジーギス殿下は怒りの声を上げる。
「俺がクズだと!? ロード、貴様! 覚えてろよ!」
「君がまともになるまでは忘れるよ。なる日がくるかはわからないけど。……で、ジーギス、今日は何をしに来たんだ? さっさと帰ってほしいんだけど」
ロード様が2人の近くまでやって来ると、メルちゃんは吠えるのをやめて、ロード様に駆け寄り、ちょこんと隣でお座りをした。
気になって立ち止まったままでいると、早く帰ろうと言わんばかりにハヤテくんがグイグイ引っ張ってくる。
そうよ、そうよね。
せっかく、ロード様がお姉様に会わなくていいように気を遣ってくださったんだもの。
気にはなるけれど、邸内にましょう。
そう思って歩き出した時、お姉様の声が聞こえてきた。
「ミレニアを返しなさいよ、この魔王っ!」
出たわ、魔王というワードが……。
自分に対して気に入らないことをする人は、お姉様にとっては、皆、魔王なのよね。
私の友人もよく魔王って言われていたわ。
明らかに友人は馬鹿にしていて気にしていなかったから良かったけど。
「魔王って何だよ。本人が帰りたがってないし。大体、僕は魔王でもない」
「ジーギス様ぁ! 魔王があんなことを言ってますぅっ!」
「おい、ロード! こんなにか弱い女性がお願いしているんだぞ! 少しは感情が動かないのか!?」
「人のことを魔王とかいう人間に、感情を動かす必要はないよね」
ロード様は一度言葉を止めたあと、すぐに口を開く。
「とにかくお帰り願おうか」
「嫌よ! いやいやっ! せっかく、ミレニアに会えると思ったのに! ミレニア! 聞こえないの!? お姉様はここよ!」
「ミレニアはあなたの顔も見たくないんだそうだよ」
「そ……、そんな……っ、あの時、嫌わないでって言ったのに! 酷い、ミレニアの嘘つき! うっ……うっ! わたしはっ、結婚もしないで……、ミレニアのために頑張ってきたのにっ!」
「ああ、泣くなよレニス! 貴様らはなんて冷たい奴らなんだ! レニス、もう泣かなくていいんだ! 俺が何とかするから心配するな!」
地面に座り込んで泣き始めたお姉様を抱きしめて慰めるジーギス殿下を見て、これ以上見ているのもバカバカしくなったので、急いで屋敷の中に入った。
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