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7  戻りましょう!

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 お姉様からのメッセージなんて聞きたくはない。
 でも、今、聞かなかったとしても、どうせ何度も送りつけてくるだろうから覚悟を決めた。

「お願いします」
「では、読み上げさせていただきます。ミレニア、あなたがしんぱい。いますぐ、あいにいくから、まっててね」

 そこで言葉を区切り、執事は私を見つめて口を開く。

「以上でございます」
「会いに行くから待っててですって!?」

 執事は何も悪くないとわかっているのに、お姉様への嫌悪感が強くて声を荒らげてしまった。
 そのせいで、ハヤテくんとメルちゃんが「どうしたの?」と言わんばかりに近寄ってきた。
 
「大きな声を上げてしまってごめんなさい」
「君の姉は本当に君のことが好きみたいだね」

 ロード様が呆れた顔になって言った。
 わたしは声を荒らげてしまったことを改めて執事とロード様に謝ったあと、ハヤテくんとメルちゃんの頭を撫でて、心を落ち着かせてから言う。

「私はもうお姉様には会いたくないんです。お姉様は私のことが心配というわけではなく、ロード様がどんな方か知りたいだけだと思うんです」
「僕のことを知りたい? ……いまいち意味がわからないな。申し訳ないが散歩しながら詳しい話を聞かせてもらえないか」
「もちろんです」

 こんなに早く、私に接触しようとしてくるだなんて思っていなかった。
 まだ、私とロード様の間に信頼関係がない状態で、お姉様とロード様が会ってしまったらどうなるかわからない。

「そんなに嫌がるなら、君の姉を敷地内に入れたりしないし、ミレニアには会わせないようにするから心配しなくていい」
「……ありがとうございます」
「ワンッ!」

 私がロード様にいじめられていると思ったのか、ハヤテくんがロード様に向かって吠えた。

「どうして僕に怒るんだよ」
 
 困った顔をするロード様を見て笑みをこぼすと、メルちゃんが尻尾を振ってくれた。

 その後、私は散歩をしながら、ロード様に今までに起きた姉との出来事を話すことになったのだった。



*****



「事情はわかった。大変だったんだな」
「申し訳ございません。ご迷惑をおかけするとはわかってはいますが、どうしても姉と会うことは嫌なんです」
「謝らなくていいよ。僕にとっての父上みたいなものだろうし、変な家族を持って苦労する気持ちはわかる。あ、あと、僕はジーギスにも会いたくないから、人数としては僕のほうが多いな」

 よっぽど、お二人のことが嫌いなのか、ロード様は苦虫を噛み潰したような顔をした。
 その様子が子供らしい感じがして微笑むと、ロード様は表情を戻して聞いてくる。

「そういえば、君には弟がいたんじゃなかったかな」
「はい。今は戸籍上では弟ではありませんが、血の繋がっている弟は父が持っていた伯爵位を継ぐ予定です。でも、まだ若いので叔父が代理をしてくれていて、今は叔父と一緒に私の実家に住んでいます」
「弟が爵位を継いでしまったら、君たちは平民になってしまう。そうならないように侯爵家の養女になったということか」
「そうです。弟は私たちを外へ放り出すつもりはなかったでしょうけれど、私たちは嫁がない限り平民扱いになりますので」

 苦笑して言うと、ロード様は少し考えてから聞いてくる。

「でも、それは侯爵家の養女になっても同じなんじゃないのか?」
「それはそうなんですけれど、弟の場合はあと5年以内に継ぐと決まってます。でも、伯父の場合は十年は頑張ると言っていましたから」
「そういうことか」
 
 ロード様は納得したように頷いた。

 メルちゃんはご機嫌な様子でロード様の横を歩き、私にリードを持たれているハヤテくんは元気よく私の前を歩いている。
 ロード様がリードを持つと、ハヤテくんはロード様の隣を歩くから、躾はちゃんとされているのだなと感じた。
 ハヤテくんにとっては、私のことはまだお客様、もしくは自分が上といった感じなのかもしれない。

 でもまあ、時々、振り返って私が付いてきているか確認してくれているし、嫌われていないみたいなので良かった。

 弱そうな人間が来たから守ってあげないとって感じかしら。
 ハヤテくんを見て微笑んでから、ロード様に話しかける。

「そういえば、お姉様が来るということはジーギス殿下もこちらに来られる可能性があるのでしょうか」
「兄上から聞いた話では、ジーギスは君の姉上にひっ付いて歩いてるみたいだから、その可能性はある。さすがに父上は母上がいるから違うようだけど」
「それはそうですよね。王妃陛下が戻られているのに、そんなことをしていたら大変です」

 そこまで言って、王妃陛下は今回の国王陛下の件を許されるおつもりなのか気になった。

「王妃陛下は今回の件は、どうされるおつもりなんでしょうか」
「母上は王城に残ると言っている。自分の息子と年が変わらない女性にうつつを抜かしている夫なんて見たくもないみたいだから、父上を少しでも早く追い出そうとしてるよ」
「お気持ちはわかります。そんな話を聞いたら、顔も見たくなくなると思います」

 私なら離婚を考えるでしょうけれど、王妃陛下ともなると簡単に別れられないものなんでしょうね。

「王太子殿下はいつ頃、即位されるおつもりなんでしょうか」
「そう遠くない未来だと思う。そうなった時は父上はジーギスと一緒に住むか、ジーギスの母親であるピロンナ様がいる別邸に行くかもしれない」
「ジーギス殿下は家が建ったら、すぐにそちらに移られるんでしょうか」
「そうなるね。でも、そこで何か馬鹿なことをすれば、今度は公爵の爵位が剥奪されるだろうから、そうなった時は退去だろうけど」

 そこで言葉を一度区切ってから、ロード様は笑顔で言う。

「ジーギスが何もしないなんてことはないだろうし、たとえ、ジーギスとミレニアの姉が結婚したとしても、新しい家にそう長くは住めないと思うよ。だから、少しの辛抱だ」
「少しといっても、さすがに1年以上はありますよね」
「うーん。そうだな。ジーギス次第かな」

 ロード様が遠い目をして答えた。

 今のところ、私たちが受け身になるのはしょうがないわよね。
 ジーギス殿下のことは王太子殿下が決めたことなんだもの。

 屋敷の門の近くまで来たところで、門番と誰かが揉めているのが見えて足を止めた。
 そして、その揉めている人物が誰だかわかった瞬間、ロード様に訴える。

「ロード様、邸内に戻りましょう!」
「どうしたんだ? ……って、あれはジーギスじゃないか。それに女性が一緒にいるけれど、もしかしてあれが、君の姉だったりするのかな」

 ロード様が尋ねてきたと同時に、ジーギス殿下が私たちを見つけて叫ぶ。

「おい! ロード! ここを開けろ! 俺様が来てやったんだぞ」
「誰も来てくれなんて言ってないのに、偉そうに言われてもなあ」

 ロード様が面倒くさそうな顔をして呟いた。


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