婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

風見ゆうみ

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46 婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

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 ジーギス様はお姉様のことを忘れ、私と再婚約しようと考えたようだった。
 だけど、私と接触しようにも、ロード様がジーギス様を邸内に入れるわけがない。
 私は私で門よりも外に出ないから、ジーギス様に気づくこともなかった。
 そうしている内に、手持ちのお金がなくなり、お金を色々な所から借りたりして過ごしていたらしい。

「どうして私と再婚約できるなんて思えたんでしょうか」
「さあな。ああいう人間の考えてることはわからないし考えるだけ無駄な気もする」
「それはそうですね。ジーギス様の考えを理解しようと思っても無理ですよね」

 頷くと、ロード様は苦笑し、隣りに座っているメルちゃんを撫でた。

「ジーギス様はどうなるんでしょうか」
「今は警察に保護されてるけど、お金を返さなければ同じことだし、立て替えておいて、どこかに働きに行ってもらおうかなと思ってる」
「自分の使ったお金ですから、働いて返すのは良いことだと思いますが、どこか良いところがあるんですか?」

 ジーギス様は仕事らしい仕事は今までに何もしていない。

 だから、即戦力になれそうな所なんてないはずだ。

「海に出そうかと思って」
「……うみ?」
「ああ。遠くにある海でしかとれない魚をとりに行く漁船があるんだ。少なくとも三十日以上、陸地に戻ってこれない」
「長い時間、海の上にいるということなんですね。とても大変そうなお仕事ですが、ジーギス様にできるんでしょうか」
「やってもらわなくちゃ駄目だ」

 ジーギス様のことだから、注意されても反抗してルールを守らない気がするわ。
 自ら海に落ちたりしてしまいそうね。
 そうなったら、もう終わりだわ。

「ロード様はそれで良いんですか?」
「……ああ」
 
 頷いたロード様は、ほんの少しだけ憐れむような顔をしていた。



*****


 ジーギス様は背に腹は代えられないと、漁船に乗り込んでいった。

 給料の二割は借金の立替分として、ロード様に支払うことになった。

 船員に自分は元王子だと言い続けていたジーギス様だったけど、周りには本気にしてもらえず、一年近く経った今は心を入れ替えて、真面目に働いているらしい。

 スカディ殿下は留学期間を延ばし、今も同じ学園で楽しく過ごしている。
 でも、相変わらず依存は激しいらしく、ターゲットにした女性から、愛が重いとか鬱陶しいとかいう理由でフラれ続けているとのことだった。

 私たちはというと、特に関係は変わっていない。
 いや、メルちゃんとハヤテくんを連れて、デートに出かけるようにはなったから進展はあったのかもしれない。

 私は意識しているけど、ロード様は私のことをどう思っているのかはわからない。
 家族扱いしてもらっているから、大事にしてくれているのはわかる。
 でも、恋愛とは別物のようにも思える。

 今日はメルちゃんたちと一緒に近くの湖に来ていた。
 公爵家の敷地内にある湖だから、一般の人は近づけない。

 メルちゃんとハヤテくんはリード無しで楽しそうに走り回っている。

 そんな姿を見つめているロード様の目は、すごく慈愛に満ちているのよね。
 私も同じように、メルちゃんたちに視線を移した時、私の手に何かが触れた。

 見てみると、ロード様の手だった。
 驚いてロード様を見つめると、視線はメルちゃんたちに向けたまま話し始める。

「その、来年くらいには、結婚の話を、したいんだが」
「……はい」
「その、僕で良いだろうか」
「はい!」

 頷くと、ロード様は私を見てはにかんだ笑みを浮かべた。

 恥ずかしくなって俯くと、足元にメルちゃんがいた。
 しかも、何かくわえている。

「え? ね、猫!?」

 ふさふさと尻尾を振るメルちゃんにくわえられた子猫はぐったりしていて動かない。

「メル! 駄目だ!」

 クゥンと鳴いて、メルちゃんは子猫を地面に落とす。
 メルちゃんは弱っている子猫を持ってきたみたいだった。

「助けろと言ってるんだな」

 ロード様は私の手を離すと、持っていたハンカチに子猫を包んだ。

「悪い。子猫とメルを連れて病院に行ってくる。感染症だったりしたら大変だからな。ハヤテを頼む」
「承知しました」

 近寄ってきていたハヤテくんを抱き上げて頷く。

 病院に連れて行かれるなんて思っていないメルちゃんを連れて走っていくロード様の背中を見て思う。

 人によってはデートが台無しになったと怒る人もいるかもしれない。
 でも、私は助けられる動物を助けない人のほうが好きじゃないわ。

 ロード様たちに出会う前、ジーギス様とお姉様の話を聞いた時には信じられなかった。

 でも、今の幸せな生活を考えると、二人に感謝だわ。

 ジーギス様、婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最後までお読みいただきありがとうございました。

ハヤテは昔の我が愛犬を思い出しながら書きました。
この頃は今よりも母の死をひきずっていたので楽しいお話を、そして更新停まっていたので書き直そうと思った結果が今回の話です。

少しでも癒やされたという方がいらっしゃれば幸いです。

お気に入り、しおり、エール、いいねをありがとうございました!
励みになりました。

「ここはあなたの家ではありません」という新作を投稿しておりますので、よろしければ読んでやってくださいませ。


お読みいただき、本当にありがとうございました。
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感想 57

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みんなの感想(57件)

ぽん桔
2024.05.18 ぽん桔
ネタバレ含む
2024.05.19 風見ゆうみ

お祝いのお言葉をありがとうございます✨


そして号外もありがとうございます(´∀`*)ウフフ
無事に逃げ切れましたでしょうか😱

最後までお読みいただきありがとうございました✨

解除
pinkmoon
2024.05.18 pinkmoon
ネタバレ含む
2024.05.18 風見ゆうみ

感想をありがとうございます✨

書いている途中でテンションが下がるコメントとかを見ると、今まではすーっと冷めてしまって途中で停まるになってました😢

待っていただきありがとうございました🙇‍♀
猫ちゃんはお仲間になります☺️

最後まで読んでいただき、ありがとうございました✨

解除
川崎悠
2024.05.09 川崎悠

これだけ豹変するのは、なんか魅了魔法とかにやられてたのでは?疑惑

2024.05.10 風見ゆうみ

ネタバレ含むを押し忘れました。
申し訳ございません。


ある人に言われるとその人の言っていることは絶対に間違っていないと思い込んでる人が実際にいました。(明らかに間違ってるという事実があっても)
スカディは良い依存相手を見つけたようです。

解除

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