おっとり令嬢ではありますが、何も考えていないわけではございません

風見ゆうみ

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26  それはこっちのセリフです

 まさか、本人が来てくださるとは思っていませんでした。この家に通してもらいたい気持ちもありますが、私と旦那様の関係が知られてしまいます。
 今大事なのは、真犯人は誰か、です。

「大変! 部屋に帰って準備をしなくっちゃ!」

 ツヤラ様は勢いよく立ち上がり、部屋を出ていこうとしました。

「ま、待て、ツヤラ。今帰ったら、どこにいたのか聞かれる可能性がある。応接に案内させよう」
「はい! お願いします!」

 旦那様がメイドに指示を出すと、ツヤラ様はうっとりした表情で話し始めます。

「シサヤ卿が私に会いに来てくださるなんて信じられない! もしかして、婚約の申し込みだったりするのかしら!」

 きゃーと叫びながら両頬に手を当てるツヤラ様に尋ねます。

「どうしてそう思うのですか?」
「それ以外、ここに来る理由がわからないではないですか!」
「私宛の手紙をシサヤ卿にお渡ししたままなのです。それを届けに来てくださっただけかもしれません」
「リリコット様、自分が相手にしてもらえないからって、そんなことを言ってはいけませんよ?」

 ツヤラ様は憐れむような目で私を見つめて言いました。私はため息をついて答えます。

「私は名義上は旦那様の妻ですから、そんなことを考えたりはしません」
「言い訳はいいんです。それにすぐに嘘はばれますわよ」

 それはこっちのセリフです。

 そう言い返したいところでしたが、ぐっと飲み込みました。

 どうしたらこんなポジティブ思考になれるのか、お聞きしたいものです。

 メイドがシサヤ卿を応接室に案内したと報告に来ると、ツヤラ様は早速動き出します。

「さあ、化粧を直しに行かなくちゃ。それから、真犯人を捕まえたこともお知らせしなくっちゃ!」

 今にもスキップを始めそうなツヤラ様を、彼女の両親は温かな目で見守っています。
 本気でシサヤ卿が婚約を申し込みに来たと思っているのでしょうか。

 あきれ返っている私に「では、リリコット様、失礼いたします。シサヤ卿の迷惑になりますから家で大人しくしておいてくださいね」

 満面の笑みを浮かべて出ていくツヤラ様を、旦那様たちが追いかけていきました。残されたメイドに話しかけます。

「私ではどうにもならないことでも、シサヤ卿なら何とかなるかもしれません。必ず、真実を伝えてください」
「……わかりました」

 メイドは何度もうなずき、一足遅れて邸に戻っていったのでした。 
 そして、約十分後「シサヤ卿がリリコット様に会いたいとおっしゃっています」と執事が伝えに来てくれたのです。

 


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