価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ

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17.5 企むルピノ視点

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※ ルピノの一人称になります。






「私とセイン殿下の婚約がなくなったんですか?」
「ああ、そうだ…」

 お姉様とセイン殿下の婚約が破棄された夜、お父様が私の部屋に来て話をしてくれた。

 とても、嬉しいニュースだったから、心が弾んだ。

「じゃあ、私とアズアルド殿下が婚約できるんですね!?」

 笑顔で言うと、お父様は扉の前に立ったまま、首を横に振る。

「アズアルド殿下とルリの婚約が決まった。だから、お前とアズアルド殿下が婚約するだなんて事はない」
「………嘘よ!」
「嘘じゃない」

 お父様は胸の前で腕を組み、呆れた表情で続ける。

「どうして、お前がアズアルド殿下と婚約できると思い込んでいるのかが私にはわからない」
「それはっ、運命だからです!」
「……運命?」
「だって、私の婚約者が決まる前に、アズアルド殿下自らが、私の前に現れてくれたんです。運命以外の何ものでもないと思うんです!」
「ルピノ…」

 お父様は憐れむ様な目をして、私を見る。

「前にも言ったと思うんだが、アズアルド殿下が現れたのはお前がセイン殿下と関係があると知った私が、アズアルド殿下のお父上である国王陛下にご連絡を差し上げたからだ」
「お父様が…、連絡した?」
「言っただろう? …ああ、そういう事か。……ルピノ、どうやら、お前は自分に都合の悪い事は忘れるようにしているようだな…」
「そ、そんな事ありません!」

 どういう事?
 アズが私の前に現れたのは、お姉様の婚約が破棄されるとわかったからって事!?

 ううん、そんな訳ない。
 セイン殿下と私の噂を聞いて、アズは私を彼に奪われたくなかったのよ!

「……お父様、アズアルド殿下に会わせてもらえませんか…」
「無理だ。殿下はお前と会うつもりはないんだそうだ」
「どうしてですか!? もし、お姉様と結婚するにしても、私は義理の妹ですよ!?」
「もうすぐそうではなくなる」
「……どういう事ですか?」

 意味がわからなくて、お父様に聞き返した時だった。

「どこにいるんですか! 絶対に私は別れませんから!」

 お母様の叫ぶ声が聞こえた。
 そして、直後に、お兄様の声も聞こえた。

「ノーラル! 落ち着いて下さい! トニア家の名は名乗れませんが、伯爵の爵位をもらえるんです! 私と結婚すれば良いんですよ!」
「やめてよ、気持ちが悪い! 私はあなたなんて好きじゃないのよ! ねぇ、旦那様! どこにいるんですか!?」

 お母様の声はどこか切羽詰まっていた。
 お父様の方を見ると、額を手でおさえて、目を伏せていた。

「一体、何があったんですか?」

 聞いてみると、お父様はゆっくりと目を開け、手をおろしてから私を見て言う。

「ルピノ、悪いが、私とノーラルは離婚する。セイン殿下とお前が結婚するのであれば、養子の手続きを解消しないつもりだったが、そうでないようだから、そちらも解消する」
「そんな…、じゃあ、私はどうなるんですか!?」
「ノーラルの実家に戻るか、ここでボラウンと一緒に暮せばいい。ノーラルの実家は伯爵家だし、ボウランはトニア家の籍から抜けるが、新たに家名と伯爵の爵位を与えるし、この屋敷の土地家屋も与える。ノーラルには共有財産の分の金も渡すつもりだ。それから、ノーラルがボラウンと結婚すればお前は伯爵令嬢にはなれる」
「嫌です! 私は、ルピノ・トニア公爵令嬢なんです! 学園の友人になんて言ったらいいんですか!? いじめられたりしたらどうしてくれるんですか!?」

 私の叫びを聞いたお父様は、大きく息を吐いて首を縦に振る。

「……わかった。離婚はするが、お前は未成年だし、お前が学園を卒業するまでは面倒を見よう。養育費も支払うし、お前はトニア家を名乗っても良い」

 その言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。

 今まで、公爵家だからチヤホヤされていたのに、その肩書きがなくなったら大変なところだったわ。

 というよりかは、本当なら離婚なんてしてほしくないのだけれど…。
 だって、学園を卒業したら、赤の他人になるわけでしょう?

「……本当に離婚されるのですか?」
「そうだ。本来ならば、もっと早くにすべきだった」

 お父様は頷いて、これ以上、話すことはないと言わんばかりに私の部屋から出ていく。

 最悪な事ばかり続くわ…。

 ため息をついていると、私がフットマンが部屋に入ってきて言う。

「ルリ様の周りには中々近づけません。彼女は人の気配に敏感になってます。それからアズアルド殿下の近くにも近づけません。城には入れませんし、城から出ても側近の男がすぐに気配に気付くもので面倒です」

 ふわふわの赤い髪を持つ少年のような顔立ちのフットマンは、そう言うと、大きなため息を吐いた。

 彼は変装の名人だから、貴族に化けて城には入れなかったけれど、城内の敷地内に入ってくれたようだった。

「どうにか手は打てないのかしら。お姉様をキズモノにしてしまえればいいんだけど、私が関わっている事を知られたくないのよ」
「なら、こういう手はいかがでしょう?」

 フットマンは爽やかな笑みを見せて言う。

「ルリ様の侍女になる予定の女性、アザレア様ですが、実の姉に恨まれているようで…」
「……ターゲットを交換するのね?」
「そうです」
「その姉に連絡は取れる?」
「もちろんです」

 フットマンは笑顔で頷くから聞いてみる。

「その姉というのは、どんな人なの?」
「元伯爵令嬢で、マーニャという女性です」





※わかる人にはわかる…マーニャ…。
きっと、皆さん、待ってたマーニャ…。(え? いらない…?)
気になる方は過去作の「わたしの婚約者の好きな人」を読んでいただければ…。
読まなくても本作には支障ありません。
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