価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ

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29 束の間の休息

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 パーティーは無事に終わり、セイン殿下も国へと帰っていった。
 彼がメンナナ国でどんな風に過ごすのかはわからないけれど、その内、噂くらいは耳に届くだろうし、私にはそれで十分だった。

 パーティーの2日後は王太子妃教育もなく、完全な休みの日だった。

 特にする事がなく暇だったので、トーリとアザレアを会わせようと、アズの執務室に向かった。

 仕事の邪魔をしてはいけないので、アザレアは外に待たせておき、忙しそうなら、トーリには会わせないようにするつもりだった。

 けれど、思った以上に、執務室の中は和やかで、トーリ以外の側近、ファラスもいた。

「ルリ!」

 中に入ると、アズが嬉しそうな表情で近寄ってくる。

「どうかしたのか?」
「よろしければ、トーリをお借りしたくて」
「トーリ?」

 自分に会いに来てくれたと思っていたのか、あからさまにアズは落胆した。

「ご、ごめんなさい! アズは忙しいかと思いまして」
「僕だって仕事に追われていない時はあるよ。先日のパーティーの前に、やらないといけない事を片付けたから、今はかなり楽なんだ」
「では、今のうちに少しでも捌いておけば、もっと楽になりますわね!」
「ルリは仕事が好きだな」

 アズは苦笑したあと、首を傾げる。

「で、ルリはアザレアの為にトーリを借りたいのか?」
「そうですわ。でも、やはり難しいでしょうか」

 尋ねると、トーリはアズを見た。

「今日の仕事は終わりにするか」
「やったー!」

 ファラスはガッツポーズをして、私に涙目で言う。

「この何日か、城で寝泊まりしていたんです! 家のベッドで眠りたい! ありがとうございます、ルリ様! あなたは僕にとって女神です!」

 ファラスは金色の大きな目を私に向けて言ったあと、アズの方を見る。

「では、本日は失礼しても?」
「ああ。明日も休みにすればいい」
「ほ、ほ、本当ですかぁ!?」

 ファラスはスキップをしはじめそうなテンションで「失礼します!」と私達に挨拶してから部屋を出ていった。

「そこまで働かせるなんて……」

 ファラスが出ていったあと、アズに文句を言うと、彼は苦笑する。

「彼もルリと同じで目の前にある仕事は片付けたいタイプなんだよ。帰れと言っても聞かないんだ。だから、夜中に無理矢理、用意した部屋に連れて行って休ませてたんだ」
「ファラスも困った人ですわね。あ、そうでした。アザレアを待たせていたんです!」

 慌てたけれど、トーリの姿も見えなくなっていた。
 慌てて執務室の中から廊下を見ると、トーリはアザレアの所にいた。

「悪いわけではないのですけれど、トーリったら……」
「そうだね。でも、仲が悪いよりいいだろう」
「そうですわね」

 この後は、トーリもアザレアも強制的に休みにさせて、2人でゆっくりするように伝えた。
 そして、私とアズもお茶をしながら話す事になった。

 その日はとても穏やかで幸せな日だった。

 けれど、次の日には嫌なニュースが届けられた。

 朝からアズがやって来たので、朝食を撮りながら話す事になった。

「ヤイネバ侯爵家が動き出した……?」
「ああ。正確にはノーラルがだが」
「どういう動きなのでしょう?」
「ソラウに入国しようとしている」
「……ノーラル様は、ソラウ国に知り合いはいるのでしょうか?」
「今、調べさせてはいるが、もしかすると……」

 アズは難しい顔をして言葉を止めた。

 アズの言葉の先は言われなくてもわかった。

 ノーラル様はルピノに会いに行こうとしているのかもしれない……。





次話はルピノ視点になります。


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