価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ

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35 現れた元妹②

 アズに一緒に行ってもらおうかと思ったけれど、彼を連れていけば、ルピノを喜ばせるだけのような気がしてやめておいた。

 アザレアも一緒に行くと言ってくれたので、ルピノに見えないところで、話を聞いていてほしいとお願いした。
 
 地下牢に続く石造りの階段をおりていくと、独房がいくつかあった。
 今のところ、使われているのはルピノがいるところだけだった。

 きっと、ここは一時的に入れられて、あとは違う場所に移されるか、処刑されてしまうか、どちらかなんだと思われる。

 一番奥にルピノはいた。

「ルピノ」

 私が名を呼ぶと、鉄格子の向こうのベッドの上で、膝を抱えていたルピノは、びくりと体を震わせたあと、こちらに振り返った。

 ルピノの顔は、誰かに殴られたのか、鼻は曲がり、目の上は腫れて、口の周りには青あざが出来ていて、思わず、目を背けたくなった。

「お姉様……! いいえ、ルリ様! 私とお母様を助けてください!」

 ルピノは立ち上がり、こちらに向かってくると、鉄格子をつかんで叫んだ。

「一体、何があったの?」

 ルピノを助けるつもりはないのに、あまりの彼女の変わりように驚いて、つい聞いてしまった。

「シイナレンラジ家の令息が、私のことを好きみたいで服従させようとしてくるんです!」
「……それで、殴られたの?」
「伯父様を殺そうとしたから、殺さないでほしいとお願いしたんです! そうしたら……」
「暴力をふるわれたのね」
「はい」

 ルピノは首を縦に振ったあと、曲がってしまっている鼻を軽く触って、痛みのせいか眉を寄せた。

「あの……、鏡を見ていなくて、今の私はどうなっていますか?」
「それよりもあなた、よく、その状態で逃げ出せたわね?」

 素直に話してくれている間に、聞き出せるものは聞き出すことにして聞いてみた。

「伯父様もシイナレンラジ家の別邸にいるので、伯父様と公爵令息が喧嘩をしたすきに逃げだしたんです。二人共、私がお手洗いに行きたいと言ったら信じてくれて……」

 本当にその言葉を信じたというのなら驚きだわ。

 お二人共、そんな嘘に簡単にひっかかるかしら?

「お願いです、ルリ様! お母様と私を助けてください!」
「ノーラル様はどうなっているの?」
「私を逃がす時にも手伝ってくれたんです。だから、元気だと思います」
「そんなことは聞いていないわ。ノーラル様はどうしたの?」
「わかりません。私が考えることでもないと思ったので」
「あなた、ノーラル様は自分の母親でしょう? 心配じゃないの?」

 驚いてしまい、大きな声で尋ねると、ルピノは苦笑する。

「ここに来たから安心したんです。それに、お母様のことを考えなくてもいいかなって。お母様も自分のことは気にしなくて良いと言ってましたし」
「あなた自身の気持ちの話をしているのよ。助けてほしいと言っていたじゃない」
「……そんな事よりも早く、私をここから出してください! あ、あと、アズを返してください!」
 
 ルピノの発言を聞いて、自分の耳を疑った。

 けれど、それは聞き間違いではなかったと、ルピノの口から語られる。

「さっきまではお母様のことを心配だったんですけど、お母様に何かあっても、私が幸せなら、お母様は幸せですよね?」

 笑顔で聞いてくるルピノに、私は首を横に振る。

「ノーラル様はそれで幸せなのかもしれないけれど、私があなたの立場なら、そんなことは絶対に言えないわ」
「そんなものでしょうか?」
「人それぞれだから、絶対だとは言えないけれど、私は絶対に言わないし、そうとは思わない。助けに行くと思うわ」
「だから、助けてくださいってお願いしているんです!」

 最初は大人しかったルピノの態度が、今までと変わらなくなってきたように感じた。

「わかったわ。ノーラル様に関しては調べましょう」
「ありがとうございます! で、私はいつここから出られるんです?」
「出してはあげるけれど、あなたをレブルンに戻すと決まってからよ」
「レブルンに……? お祖母様達、迎えに来てくれるかしら?」

 呑気なルピノを見て、少しだけ気の毒に思えた。

 可愛い自慢の顔も、今では見る影もない。

 今までのように、彼女にチヤホヤしなくなるでしょう。
 
 もしかしたら、可愛くなくなったから捨てられて、簡単に逃げることができたのかもしれない。

「さあ、どうかしら。ヤイネバ家は警察にマークされているから難しいかもしれないわ」
「でも、お祖父様なら、怪しいくらいならもみ消せるはずです」
「私はそんな事をさせるつもりはないけど」

 ルピノは私の言葉を聞いて眉を寄せた。

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