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57 元婚約者の人生が転落するまで ② (ゲッティSide)
ゲッティを愛している女性たちは、彼に攻撃をする鳩たちを良く思わなかった。追い払ってやりたかったが、相手は鳩でも高貴な飼い主を持つ鳩である。
しかも、どの鳩がどの人に飼われているかなど、一日目の彼女たちにわかるはずがない。
手で払った時に傷をつけては大変なことになる。ゲッティのことも大事だが、やはり自分の命は惜しい。
口で文句を言うだけで、体を張ってでも鳩を止めようとしない女性たちに、ゲッティは苛立ちをぶつけた。
「僕が酷い目に遭っているのに、どうしてみんな助けてくれないんだよ!? 君たちが身を挺して守ってくれれば、僕はこんなことにならなかったのに!」
興奮して体を揺らしたせいで、ゲッティの額に頭から流れてきたフンがだらりと落ちてきた。たとえ愛する人が相手であっても、やはり気持ち悪く感じる人もおり、二人の女性は顔を引きつらせる。
(どうして初っ端から、こんな嫌な思いをしなくちゃいけないんだ?)
ゲッティが泣きべそをかく。すると、鳩たちは何事もなかったかのように、自分のスペースに戻り「ホッホロー」と鳴いた。
鳩たちの攻撃が落ち着いたとわかり、責任者は苦笑してゲッティに話しかける。
「そのままではさすがに仕事ができませんね。洗い場がありますから、あなたの先輩になる方に案内してもらいましょう。それから服も用意しておきますので、そちらに着替えてください」
責任者はそう言って、鳩舎から出て行った。
「可哀想なゲッティ」
五人の中で一番ゲッティに心酔している赤髪の女性がゲッティを慰めようとした時だった。
「ホッホロー」と低い鳴き声が聞こえて振り返る。鳩たちが自分を見ていると気づき、慌てて彼女はゲッティから離れた。
「どうしたんだよ。僕が可哀想なんだろう? もっと慰めてくれよ」
「え……、あ、ええ。そうね」
背後から圧を感じ、赤髪の女性はまた鳩たちに目を向ける。複数の鳩たちと目が合い、恐怖を覚えて体を震わせた。敵かどうか見極めようとしているかのように、鳩たちは彼女を凝視している。
「可哀想。そうね、あなたは本当に可哀想だわ」
うんうんと頷いたものの、女性はゲッティから少し距離を取る。そのことに気がついた彼が口を開こうとした時、責任者が女性を引き連れて戻ってきた。
そして、その女性を見たゲッティは目を見開いた。
(そうだった。彼女はここに来ていたんだった。まあ、大丈夫だろう。彼女は僕のことが好きだしな)
わかってはいたが、そう大した問題ではない。そう判断して、ゲッティは笑顔で話しかける。
「ノーリー様、お久しぶりですね」
「あら、ゲッティじゃないの。その無様な姿はどうしたの? 私でさえそこまでやられたことはないわ。あなた、よっぽど鳩たちに嫌われているのね」
髪をシニヨンにし、薄汚れたドレスを着たノーリーは、フンまみれのゲッティを見て鼻で笑った。
「不幸な目に遭った人を笑うなんて失礼だろう!」
「何を言っているのよ! 私はあなたのせいで、今、こんな不幸な目に遭っているの! 笑うことくらいさせてくれなくちゃやっていられないわ!」
「僕のせいにしないでくれ! 僕や君がこんな所で再会することになったのはティファリーのせいだ! ティファリーがっ」
ゲッティは怒りに任せて、暴言を吐こうとした。しかし、慌てて口を閉ざした。
責任者の背後に屈強な男たちの姿が見えたからだ。
(ティファリーの悪口なんて言ったら、後ろの男たちに何をされるかわからない!)
黙り込んだゲッティに、赤髪の女性が問いかける。
「ねえ、ゲッティ。この方はノーリー様よね? あなたに付きまとっていた人でしょう?」
ゲッティは女性たちにその場その場で嘘をついてきた。ノーリーのことも正直に話していなかった。
「はあ? 何を言っているの? 近づいたのは私だけど付きまとってなんかいないわ」
(やばい。やばいぞ。どうにかしなくちゃ)
ゲッティの頭の中は、この場をどうおさめるか。
そのことしかなく、自分の体が汚れていることなどどうでも良かった。
しかも、どの鳩がどの人に飼われているかなど、一日目の彼女たちにわかるはずがない。
手で払った時に傷をつけては大変なことになる。ゲッティのことも大事だが、やはり自分の命は惜しい。
口で文句を言うだけで、体を張ってでも鳩を止めようとしない女性たちに、ゲッティは苛立ちをぶつけた。
「僕が酷い目に遭っているのに、どうしてみんな助けてくれないんだよ!? 君たちが身を挺して守ってくれれば、僕はこんなことにならなかったのに!」
興奮して体を揺らしたせいで、ゲッティの額に頭から流れてきたフンがだらりと落ちてきた。たとえ愛する人が相手であっても、やはり気持ち悪く感じる人もおり、二人の女性は顔を引きつらせる。
(どうして初っ端から、こんな嫌な思いをしなくちゃいけないんだ?)
ゲッティが泣きべそをかく。すると、鳩たちは何事もなかったかのように、自分のスペースに戻り「ホッホロー」と鳴いた。
鳩たちの攻撃が落ち着いたとわかり、責任者は苦笑してゲッティに話しかける。
「そのままではさすがに仕事ができませんね。洗い場がありますから、あなたの先輩になる方に案内してもらいましょう。それから服も用意しておきますので、そちらに着替えてください」
責任者はそう言って、鳩舎から出て行った。
「可哀想なゲッティ」
五人の中で一番ゲッティに心酔している赤髪の女性がゲッティを慰めようとした時だった。
「ホッホロー」と低い鳴き声が聞こえて振り返る。鳩たちが自分を見ていると気づき、慌てて彼女はゲッティから離れた。
「どうしたんだよ。僕が可哀想なんだろう? もっと慰めてくれよ」
「え……、あ、ええ。そうね」
背後から圧を感じ、赤髪の女性はまた鳩たちに目を向ける。複数の鳩たちと目が合い、恐怖を覚えて体を震わせた。敵かどうか見極めようとしているかのように、鳩たちは彼女を凝視している。
「可哀想。そうね、あなたは本当に可哀想だわ」
うんうんと頷いたものの、女性はゲッティから少し距離を取る。そのことに気がついた彼が口を開こうとした時、責任者が女性を引き連れて戻ってきた。
そして、その女性を見たゲッティは目を見開いた。
(そうだった。彼女はここに来ていたんだった。まあ、大丈夫だろう。彼女は僕のことが好きだしな)
わかってはいたが、そう大した問題ではない。そう判断して、ゲッティは笑顔で話しかける。
「ノーリー様、お久しぶりですね」
「あら、ゲッティじゃないの。その無様な姿はどうしたの? 私でさえそこまでやられたことはないわ。あなた、よっぽど鳩たちに嫌われているのね」
髪をシニヨンにし、薄汚れたドレスを着たノーリーは、フンまみれのゲッティを見て鼻で笑った。
「不幸な目に遭った人を笑うなんて失礼だろう!」
「何を言っているのよ! 私はあなたのせいで、今、こんな不幸な目に遭っているの! 笑うことくらいさせてくれなくちゃやっていられないわ!」
「僕のせいにしないでくれ! 僕や君がこんな所で再会することになったのはティファリーのせいだ! ティファリーがっ」
ゲッティは怒りに任せて、暴言を吐こうとした。しかし、慌てて口を閉ざした。
責任者の背後に屈強な男たちの姿が見えたからだ。
(ティファリーの悪口なんて言ったら、後ろの男たちに何をされるかわからない!)
黙り込んだゲッティに、赤髪の女性が問いかける。
「ねえ、ゲッティ。この方はノーリー様よね? あなたに付きまとっていた人でしょう?」
ゲッティは女性たちにその場その場で嘘をついてきた。ノーリーのことも正直に話していなかった。
「はあ? 何を言っているの? 近づいたのは私だけど付きまとってなんかいないわ」
(やばい。やばいぞ。どうにかしなくちゃ)
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