【完結】お姉様ごめんなさい。幸せになったのは私でした

風見ゆうみ

文字の大きさ
13 / 34

11  隠し子

 次の日の朝、ソーダ伯爵家に苦情を入れようとしたところ、待ったがかかった。
 義父に呼び出されたファリアーナは、アシュと共に義父の執務室に向かった。

「王弟殿下からこの件は内密にしろと連絡があった」 

 朝の挨拶を交わすと、アシュと同じく黒色の髪に赤色の瞳を持ち、アシュと兄弟だと言っても疑わないくらいに若々しく見えるレイン公爵は、整った顔を歪めて言った。
 
「どうして王弟殿下が関わってくるんです?」

 アシュの問いかけには答えず、レイン公爵はファリアーナに視線を向ける。

「キッファンの出自を知っているか?」
「申し訳ございません。詳しいことは聞いていないのです。どこかの貴族から養子にもらったということでしたが、まさか、王弟殿下が関わっているのでしょうか」
「介入してくるということはそういうことだろう。調べを進めるが相手は王弟殿下だからな。慎重にせねば」

 重い表情をしているレイン公爵を見たファリアーナは、なんとか力になることができないかと考えるが、すぐには良い考えが思い浮かばなかった。

 アシュと共に部屋を出たファリアーナの表情が暗いため、アシュは彼女の頭を優しく撫でる。
 
「気にしなくていい。ファリアーナとキッファンは仲が良かったわけでもないんだろう? 彼のことを知らないのが普通だ」
「……両親が話をしているのを、子供の頃に聞いたことがあるんです。ただ、あまりにも昔なのできっかけがないと思い出せなくて。それに、昔は見知らぬ男性が家に何度か訪れて、キッファンの様子を見ていました」
「見知らぬ男性?」
「はい。印象の残りにくい顔立ちの人でした」

 話の後は朝食を一緒にとることになっていたので、ダイニングルームに向かいながら、アシュはファリアーナに尋ねる。

「愛人の子とか?」
「……そうかもしれません。でも、それなら出自がもっとはっきりしていると思うんです」

 王弟は愛妻家で有名だ。愛人がいるとは思えないが、もし、隠していただけならばどうだろうかと、ファリアーナは考えた。
 そして、閃いたことがあった。ファリアーナは周りに人がいないことを確認して、アシュに小声で訴える。

「キッファンは王弟殿下の隠し子かもしれません」
「……隠し子か。ありえないこともないか。ファリアーナは知らなかったみたいだが、キッファンは爵位を授かってすぐの男爵家から養子に入っている。ちなみにその男爵家は今、現在は存在しない」
「ということは、国王陛下も知っておられるのでしょうか」
「隠し子の件は知っているかもな。だが、キッファンが甘やかされていた育っていることは知らないんじゃないか?」

(ただでさえ、ソーダ伯爵家はサシャ様の件で目立っている。そこへキッファンの話まで出てきたら、国王陛下がソーダ伯爵家の跡継ぎ問題に口を出す可能性があるから大事にされたくないといったところかしら)

 アシュの言葉に頷き、ファリアーナは強気の笑みを浮かべる。

「隠し子の件が公にされたら、王弟殿下は困るわけですよね。それなのに連絡を取ってきたということは、キッファンに泣きつかれた、もしくは脅されたのでしょうか」

 秘密を守るのは一般的な常識だ。だが、弱みを握り、ここぞという時に切り札として出すのも悪くないだろうとファリアーナたちは考えた。

「もし、この仮説が当たっていたなら、僕たちは王弟殿下に恩を売ることになる」
「キッファンを黙らせることもできますね! バレたら困るのは彼も同じのはずです」
「そうだな」

 仮説をレイン公爵に話すため、ファリアーナはアシュと共に元来た道を戻ったのだった。



◇◆◇◆◇◆


 シルフィーナはご機嫌斜めだった。ロヴァンスと再婚したはいいが、朝から晩まで義母から愚痴を聞かされ、夜に寝室に行こうとすると、メイドから「ロヴァンス様はもうお休みになられました」と告げられる。

 だが、シルフィーナはそんな言葉を信じなかった。夜中に聞こえて来る嬌声は、きっと彼とメイドのものなのだろうと察した。

 浮気性だということはわかっていた。だが、自分よりも他の女を選ぶわけがないと思い込んでいた。

 思う通りにいかないくて苛立つシルフィーナに、義母は言う。

「まだ初夜を迎えていないの? それって、あなたに魅力がないからじゃない? 子供を生まない嫁なんていらないのよ」
「……っ!」

『うるさいのよ、このババア!』と叫びたくなるのをグッと堪えた。そして、自分に言い聞かせる。

 レイン公爵家にいるファリアーナは、自分よりも辛い目に遭っている。こんな状況でも私は幸せなのだと――。

 我慢の限界を感じながらも日々を過ごし、とうとう結婚式の日を迎えることになったのだった。
感想 79

あなたにおすすめの小説

婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。 そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?

婚約破棄? ありがとうございます。やっと本当の人生が始まります

たくわん
恋愛
婚約破棄された令嬢がすべきことといえば、泣くか、喚くか、復讐を誓うか——らしい。 リーナ・フォスター公爵令嬢がしたことは、荷造りだった。 「冷たくて人を愛せない」と王太子に切り捨てられた夜、リーナは一度も振り返らずに王城を出た。向かった先は辺境の荒れ地。目的は薬草の栽培と薬品事業の立ち上げ。前世の記憶から温めてきた、誰にも言えなかった計画の実行だ。 リーナはそこで不器用だが誠実な騎士ヴァルターと出会う。一方、残された王太子とその新しい婚約者は、少しずつ、静かに、取り返しのつかない方向へと歩んでいたーー。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

【完結】あなたにすべて差し上げます

野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。 王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。 しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。 女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、 すべてを清算して、いなくなってしまった。 残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓