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28.5 日光浴でもしていただこうかと思っています
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少し時は遡り、ミアーナはマーベリックの元に向かう前に、ラゲクの所に立ち寄っていた。
「お話し中に申し訳ございません。お義父様に娘としての最後のお願いがあってやってまいりました」
「どうした?」
頼まれたわけでもないのだが、ヨーカに聞かせないほうが良いのではないかと察したラゲクが執務室の外に出ると、満面の笑みを浮かべたミアーナとさるぐつわを噛まされた状態で兵士に羽交い絞めにされているロコッドがいた。
「んー、んー!」
とロコッドは涙目でラゲクに訴えかけたが、どうせロコッドが余計なことをしたのだろうと、ラゲクは気づかないふりをしてミアーナに話しかける。
「どうかしたのか」
「ロコッド様には離婚をするための書類にサインをいただきました。役所に提出をしに行こうと思ったのですが、ロコッド様が邪魔をしようとするのです。というわけで少しの間、少しだけ乱暴な手段で拘束させていただいてもよろしいでしょうか」
「かまわないが、どうするつもりだ? 部屋に監禁でもするのか?」
「いいえ。私が外出しようとすると、自分も外に出たいとおっしゃるので庭で日光浴でもしていただこうかと思っています」
「……何を考えているのかわからんが、危険な真似はしないでくれ」
「もちろんですわ! 本人は身動きが取れませんが、もし、毒虫などが這ってこようとしましたら、さすがに兵士に妨害してもらいますのでご心配なく」
笑みを絶やさずに答えたミアーナを見つめて、ラゲクは暫し考える。
(彼女の評判は優しくて面倒見が良いというものばかりだったが、中には変わっている。自分に害を及ぼす人間には容赦がないと言う人間もいた。どちらも間違っていないということだろうな)
「わかった。この家の主として一定時間だけロコッドへの対応を自由にできる権限を君に与えよう」
「ありがとうございます! お義父様が心配なさらないように見える所でロコッド様を拘束させていただきますわね。また改めてご挨拶にまいりますので、この場は失礼いたします」
ミアーナは深々と頭を下げると、ロコッドを兵士に抱えさせ歩き去っていく。
(誰が当主だかわからないな)
多くのメイドや兵士がミアーナに付いていく姿を見つめ、ラゲクは自嘲したあと、ヨーカとの話し合いを再開するために執務室内に戻った。ヨーカはマーベリックへの殺意を認めず、離婚などしたくないと訴えて話が長引いていた時だった。
「や、やめろ、放してくれ!」
外からロコッドの叫ぶ声が聞こえ、ヨーカは会話を中断して窓際に駆け寄った。そして、すぐに「いやああっ!」と甲高い悲鳴を上げた。その悲鳴に驚いたラゲクが慌てて窓に駆け寄ると、ロープでぐるぐる巻きにされたロコッドが、近くの大木の太い枝に吊り下げられていた。
「いやあああ、ロコッド! ロコッド!」
(まるでヨーカに人質として見せつけているようだな)
窓を開け、取り乱して叫ぶヨーカの横でラゲクはそう思ったあと、ロコッドを見張っている兵士の一人に尋ねる。
「ミアーナの姿が見えないが、もう外出したのか?」
「いいえ。マーベリック様の所に行ってから、また当主様の所へ戻るとおっしゃっていました」
「そうか」
その話を聞いたラゲクは、ミアーナが来るまでに片を付けることにした。
「お話し中に申し訳ございません。お義父様に娘としての最後のお願いがあってやってまいりました」
「どうした?」
頼まれたわけでもないのだが、ヨーカに聞かせないほうが良いのではないかと察したラゲクが執務室の外に出ると、満面の笑みを浮かべたミアーナとさるぐつわを噛まされた状態で兵士に羽交い絞めにされているロコッドがいた。
「んー、んー!」
とロコッドは涙目でラゲクに訴えかけたが、どうせロコッドが余計なことをしたのだろうと、ラゲクは気づかないふりをしてミアーナに話しかける。
「どうかしたのか」
「ロコッド様には離婚をするための書類にサインをいただきました。役所に提出をしに行こうと思ったのですが、ロコッド様が邪魔をしようとするのです。というわけで少しの間、少しだけ乱暴な手段で拘束させていただいてもよろしいでしょうか」
「かまわないが、どうするつもりだ? 部屋に監禁でもするのか?」
「いいえ。私が外出しようとすると、自分も外に出たいとおっしゃるので庭で日光浴でもしていただこうかと思っています」
「……何を考えているのかわからんが、危険な真似はしないでくれ」
「もちろんですわ! 本人は身動きが取れませんが、もし、毒虫などが這ってこようとしましたら、さすがに兵士に妨害してもらいますのでご心配なく」
笑みを絶やさずに答えたミアーナを見つめて、ラゲクは暫し考える。
(彼女の評判は優しくて面倒見が良いというものばかりだったが、中には変わっている。自分に害を及ぼす人間には容赦がないと言う人間もいた。どちらも間違っていないということだろうな)
「わかった。この家の主として一定時間だけロコッドへの対応を自由にできる権限を君に与えよう」
「ありがとうございます! お義父様が心配なさらないように見える所でロコッド様を拘束させていただきますわね。また改めてご挨拶にまいりますので、この場は失礼いたします」
ミアーナは深々と頭を下げると、ロコッドを兵士に抱えさせ歩き去っていく。
(誰が当主だかわからないな)
多くのメイドや兵士がミアーナに付いていく姿を見つめ、ラゲクは自嘲したあと、ヨーカとの話し合いを再開するために執務室内に戻った。ヨーカはマーベリックへの殺意を認めず、離婚などしたくないと訴えて話が長引いていた時だった。
「や、やめろ、放してくれ!」
外からロコッドの叫ぶ声が聞こえ、ヨーカは会話を中断して窓際に駆け寄った。そして、すぐに「いやああっ!」と甲高い悲鳴を上げた。その悲鳴に驚いたラゲクが慌てて窓に駆け寄ると、ロープでぐるぐる巻きにされたロコッドが、近くの大木の太い枝に吊り下げられていた。
「いやあああ、ロコッド! ロコッド!」
(まるでヨーカに人質として見せつけているようだな)
窓を開け、取り乱して叫ぶヨーカの横でラゲクはそう思ったあと、ロコッドを見張っている兵士の一人に尋ねる。
「ミアーナの姿が見えないが、もう外出したのか?」
「いいえ。マーベリック様の所に行ってから、また当主様の所へ戻るとおっしゃっていました」
「そうか」
その話を聞いたラゲクは、ミアーナが来るまでに片を付けることにした。
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