愛しているだなんて戯言を言われても迷惑です

風見ゆうみ

文字の大きさ
7 / 34

7  愛している? 寝言は寝てから言いなさいよ!

しおりを挟む
「ルキア、どうしたんだ。何かあったのか?」

 部屋の中に入ると、執務机で書類を見ていた、お父様が顔を上げた。

「お父様、離婚したいです!」
「はあ? どうしたんだ、いきなり」

 見た目は、私がスズだった頃と年の変わらない年代で、ルキアの髪色と同じ短髪に同じ瞳の色を持つ、少し渋い感じのお父様は、私の言葉を聞いて目を丸くした。
 ミゲルが慌てて会話に割って入ってくる。

「すみません。ルキアと少し喧嘩になってしまいまして…」
「別れたいです、お父様。こんな浮気男無理です。今すぐ追い出しましょう」
「ルキア、君は黙っていてくれ。君は混乱しているんだ」
「黙るのはあなたよ! 大体、あなたにどうこう言われたくないわよ。それに、何を混乱する事があるって言うの」

 私とミゲルの様子に困惑している、お父様に近付き、事情を話す。

「ミゲルが私を愛していないのはしょうがない事です。恋愛結婚ではありませんしね! でも、結婚初日に、私を自室に帰らせて、毒見役のピノを寝室に連れ込んでいたんです!」
「何だと!?」

 お父様が怒りと驚愕が入り混じった表情で椅子から立ち上がった。

「違います、誤解です! ルキアと少し喧嘩をしてしまいまして、彼女は拗ねているだけなんです!」
「お父様、彼は嘘をついています! 証人もいます!」
 
 お父様に事情を説明したところ、すぐにピノが呼ばれ、夜勤だった使用人達も集められた。

「昨日の晩の出来事だが、お前はミゲルと関係を持ったのか…?」
「いいえ」

 お父様の問いかけに、ピノは大きく首を横に振った。
 腹立たしい事に、私と話をしていた時にはシニヨンにしていた髪を、今は全ておろしていて、キスマークを見えなくしている。
 これに関しても、他の男につけられたと言われたらおしまいだ。

 ミゲルの奴。
 ピノを上手い事、丸め込んだみたい。

 けれど、昨日、ルキアが追い出され、自室に戻るところは他の使用人も見ているはず。
 だから、それを訴えてみたけれど、使用人達は全員、ミゲルの肩を持ち、ルキアが寝室から出たのは朝方だったと証言した。

 どいつもこいつも!
 
 こんな事を言ってはいけないとわかっているけど、こうなったのは、私のせいでもあるし、ルキアのせいでもある。

 ルキアに対して、使用人達の信頼度がないんだ。

 いつも、メソメソして言いたい事を言えないルキアよりも、ハキハキ物を言う、顔だけイケメンな残念男である、ミゲルの味方についた方が良いと判断されてしまった。

 ほんと腹立つ!
 これは、予測出来ていなかった私に対してもだけど!

「ルキアがこれだけ必死になって訴えているのだから、嘘とは思えん」

 静まり返っていた室内に、お父様の優しい言葉が響く。

「今までのルキアは、言いたい事があっても口には出さなかった。だから、こうやって主張するというのなら、親としては信じてやりたい」

 お父様。
 娘を信じてくれるんだ…。
 でも、中身は娘じゃないんだよ。
 本当にごめんなさい。
 だけど、娘さんの身体は幸せにさせるから許してほしい。
 ルキアの意識が戻ったなら、私が本当に死んでしまう事を覚悟しておこう。

 感動していると、お父様が厳しい表情で、ミゲルに話しかける。
 
「ミゲル」
「は、はい!」
「近々、君に爵位を継がせる為に仕事の引き継ぎを考えていたが延期する」
「えっ!?」
「君は結婚初日に浮気をしていたかもしれないんだ。そんな疑いがある男に我が家の家督は継がせられない」
「そんな! 僕は浮気なんかしていません!」
「それなら、証明してみせるんだ!」

 2人が話をしている間に、私はピノに話しかける。

「ねえ、このままだと、あなた、ミゲルと一緒になれないわよ?」
「その手にはのりません! ミゲル様が爵位を継ぐまでは、このお屋敷で顔を合わせ、継がれた後には、私が伯爵夫人に!」
「残念ね。それは無理よ」
「……え?」

 笑顔で言うと、ピノは不思議そうな顔をした。

「あなたは解雇してもらうから」
「い、嫌です、そんな!」
「ミゲルの事がなくても、あなたは解雇されるのは当たり前。あなた、だいぶ前から、私が食べる料理の一部に、何か入れてたでしょう? 少しくらいなら大丈夫だと思ってたかもしれないけど、毎日食べてたら、体調が悪くなってもおかしくないわ」
「そ…そんな…、そんなつもりじゃ…、というか、私、そんな事はしていません!」

 ピノは慌てて首を横に振った。

「悪いけど、料理に何か入れられていた事は料理人が確認済みよ。自分が作った料理にいらない事をされて、腹を立てていたし、この件に関しては、あなたは逃れられないわよ」
「そ、そんな…」

 ピノは助けを求める様にミゲルを見た。
 話が聞こえていたのか、お父様は憤怒の表情だった。
 すると、ミゲルがピノを見つめながら、口を開いた。

「もしかして、僕の事を好きすぎて、ルキアに嫌がらせをしたのか?」

 ミゲルは、やっぱり馬鹿だった。

 ピノとあなたが会ったのは昨日の夕食時でしょうが。
 だいぶ前からって言ってるのに。

「私はそんな事してません! ルキア様の妄想です! そうです! 若旦那様も言っておられましたよね? ルキア様の様子がおかしいと…」
「そ、そうだな。その話はしていた」
「旦那様! ルキア様は朝から様子がおかしいんです! ですから、ルキア様の言葉は信じない方が良いかと思われます!」
「そうです! 何かと嘘をついて横柄な態度で…」

 ミゲルがピノに加勢しようとした時だった。

「ミゲル…」

 お父様は、ミゲルを睨んで続ける。

「君は先程、ルキアと喧嘩になってしまった、と言っていたが、どんな内容だったんだ?」
「そ、それは…」
「お父様! この人は爵位を継ぐ事しか頭にありません! 私の事を大事にするという頭はないんです! 自分の事しか考えられない人に爵位を継がせるなんて駄目です!」

 えーい、どうせなら、この場で言ってしまおう。

「お父様、私が女伯爵になります! だから、この人と離婚できる様にお力添えをお願いいたします!」

 ミゲルは爵位が欲しいんだから、継げなくなったと思ったら諦めるはず!

 そう思ったのだけど。

「僕は離婚したくありません! ルキアは…、ルキアは僕を愛しているんです! だから、こんな事を言っているんです!」

 ミゲルが声高らかに言い放った。

「……は?」

 突然の出来事に私を含め、他の皆もフリーズしていたけれど、いち早く我に返った私は、怒りに任せてミゲルに近付いた。

「寝言は寝てから言いなさいよ!」

 腹パンしたかったけど、ルキアの力ではダメージを与えられそうになかった為、近くにあった辞書くらいに分厚い本を持ち上げ、その本の角を、ミゲルの口に突っ込んでやった。

 しまった!
 本が犠牲になってしまったあ!
 ごめん、本…。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

[完結]貴方なんか、要りません

シマ
恋愛
私、ロゼッタ・チャールストン15歳には婚約者がいる。 バカで女にだらしなくて、ギャンブル好きのクズだ。公爵家当主に土下座する勢いで頼まれた婚約だったから断われなかった。 だから、条件を付けて学園を卒業するまでに、全てクリアする事を約束した筈なのに…… 一つもクリア出来ない貴方なんか要りません。絶対に婚約破棄します。

気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。 「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」 ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。 本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。

わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。 王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。 アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。 断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。 毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。 ※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。 ※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

“ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う

棚から現ナマ
恋愛
いままで虐げられてきたから “ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う? 侯爵令嬢のアイリス=ハーナンは、成人を祝うパーティー会場の中央で、私から全てを奪ってきた両親と妹を相手に “ざまぁ” を行っていた。私の幼馴染である王子様に協力してもらってね! アーネスト王子、私の恋人のフリをよろしくね! 恋人のフリよ、フリ。フリって言っているでしょう! ちょっと近すぎるわよ。肩を抱かないでいいし、腰を抱き寄せないでいいから。抱きしめないでいいってば。だからフリって言っているじゃない。何で皆の前でプロポーズなんかするのよっ!! 頑張って “ざまぁ” しようとしているのに、何故か違う方向に話が行ってしまう、ハッピーエンドなお話。 他サイトにも投稿しています。

【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との
恋愛
「彼が亡くなった?」 突然の悲報に青褪めたライラは婚約者の葬儀の直後、彼の弟と婚約させられてしまった。 「あり得ないわ⋯⋯あんな粗野で自分勝手な奴と婚約だなんて! 家の為だからと言われても、優しかった婚約者の面影が消えないうちに決めるなんて耐えられない」 次々に変わる恋人を腕に抱いて暴言を吐く新婚約者に苛立ちが募っていく。 家と会社の不正、生徒会での横領事件。 「わたくしは⋯⋯完全なる婚約破棄を準備致します!」 『彼』がいるから、そして『彼』がいたから⋯⋯ずっと前を向いていられる。 人が亡くなるシーンの描写がちょっとあります。グロくはないと思います⋯⋯。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

私を愛すると言った婚約者は、私の全てを奪えると思い込んでいる

迷い人
恋愛
 お爺様は何時も私に言っていた。 「女侯爵としての人生は大変なものだ。 だから愛する人と人生を共にしなさい」  そう語っていた祖父が亡くなって半年が経過した頃……。  祖父が定めた婚約者だと言う男がやってきた。  シラキス公爵家の三男カール。  外交官としての実績も積み、背も高く、細身の男性。  シラキス公爵家を守護する神により、社交性の加護を与えられている。  そんなカールとの婚約は、渡りに船……と言う者は多いだろう。  でも、私に愛を語る彼は私を知らない。  でも、彼を拒絶する私は彼を知っている。  だからその婚約を受け入れるつもりはなかった。  なのに気が付けば、婚約を??  婚約者なのだからと屋敷に入り込み。  婚約者なのだからと、恩人(隣国の姫)を連れ込む。  そして……私を脅した。  私の全てを奪えると思い込んでいるなんて甘いのよ!!

処理中です...