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29 幸せではありませんか? お別れしたのですが?
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「ちょうど良かったですわ。レイング伯爵令嬢とゆっくりお話したかったんです」
「申し訳ございませんが、私はもう家に帰らせていただきます。またの機会にお話しましょう?」
話しかけてきたミレン様に笑顔で答えてから、マリアン様を促す。
「マリアン様は先にお帰りになられたら?」
「え…っ…と。はい…。ありがとう…ございますっ…」
マリアン様は言葉はゆっくりだけれど、すごい速さで頭を下げた後、待ってくれていた自分の馬車に向かって走っていく。
彼女が御者に馬車の中に入れてもらうのを確認した後、双子に向かって言う。
「では、ごきげんよう。お話する日時に関しては、私の方からご連絡させていただきますわね」
「ちょっとお待ち下さい!」
素直に帰してくれるとは思っていなかったので、視線を二人に向けると、ミレン様が口を開く。
「ミゲル様はあなたの事が好きなんですよ! なのに、どうして…」
「ミゲル様が私を好き? そんな訳ないでしょう。好きなら、あんな態度は取れないはずですわ」
「過去のレイング伯爵令嬢に関しては、特に魅力を感じていなかった様ですが、ミゲル様は、今のあなたが好きなんだそうです」
ミレン様の言葉を否定すると、エレン様が言った。
今の私が好き?
自分の言葉に言い返す方が好きって事?
それとも、蹴られて、何かが目覚めた?
「私は私ですので、今の私が好きという意味が理解できないのですが? それに、あなた方はミゲル様が好きなのでしょう? どうして、そんなに私にミゲル様を認めさせようとするんですの?」
「私達は、ミゲラーではありますが、恋をしているのではありません。推しているのです」
私の言葉に、ミレン様がきっぱりと答えた。
「推している?」
「憧れの存在の人が幸せになってほしいと思っているだけなんです」
「それって…」
もしかして、日本でいうオタク系のやつかな?
男性アイドルオタクの事しか詳しくは知らないけど、一部過激ファンが付きまといもしていたし、共演の女性に対してSNSで嫌がらせしたりで問題になっていた。
公共交通機関を止めたとかも話題になってたな。
私の推しグループのメンバーの一人が、ファンから出待ちだけではなく、鞄の中に使用済みの下着を入れられたという事件もあったし、ミゲファンのナンバー1から3までは、どちらかというとそのタイプなのかもしれない。
そして、今、ここにいる双子はというと、ミゲルは推しではあるが、リア恋ではなく、遠巻きで見ているだけでオッケーというオタクなのかもしれない。
私もどちらかというと、そのタイプだ。
ただ、彼女達の様に、彼の為に何かしてあげたいとかまではなかったけど。
CDが出たら買うし、ライブは当たれば絶対に行ってたし、ライブグッズだって、欲しいものは買ってた。
だけど、スキャンダルが出ても、気にならなかったし、それで彼らが幸せになるんならそれで良いと思ってた。
まあ、私の場合は、双子みたいに本人に直撃なんてしなかったし、出来るわけもなかったけど。
何より、そんな事をしにいこうとも考えなかった。
「ちょっと待っていただけます? では、御二人はミゲル様が幸せになってくれるのであれば良いということなんですわね?」
「そういう事になりますわね」
「でも、それって、私の幸せはどこにありますの?」
「ミゲル様と一緒になれるなら幸せではありませんか!」
ミレン様が叫ぶので首を傾げる。
「幸せになれないと思ったから、お別れしたのですが?」
「ミゲル様は心を入れかえて、今度こそ、レイング伯爵令嬢だけを愛されるに決まっています! お願いします! これ以上、悲しそうなミゲル様を見ていられないんです!」
ミレン様とエレン様が二人揃って同時に頭を下げてきた。
推しの為に頑張る気持ちはわからんでもない。
だけど、私の選択肢どこいった?
私の幸せはどこに!?
「見ない様にしたらどうです?」
「……はい?」
私の言葉に二人はゆっくりと顔を上げて聞き返してきた。
「ミゲル様に近付くのはやめましょう。彼を甘やかしてはいけませんわ。どうしてもというなら、あなた方が彼を慰めて、私を忘れさせてあげて下さいませ」
「それが…、恋愛したいわけじゃないんです」
「そうなんです。どちらかというと、私達は結婚するなら、トルマリア公爵家の方と…」
ミレン様とエレン様は恥ずかしそうに顔を見合わせながら言った。
「それなのに、ロゼッタ様の前であんな事を…?」
推しを悪く言われたらムキになる気持ちはわからんでもない。
ネットで推しが悪く言われてると、何も知らないくせに、って私もなっていたし。
だけど、本命のお母様の前であれはいかん。
そこは大人になるべきだと思うけど、18歳って、日本でいえば、精神はまだ子供って感じするしなぁ。
もちろん、しっかりしている子もたくさんいるだろうけど。
でも、あれは駄目よ。
私の言葉に、ミレン様が答える。
「あれは、興奮してしまって、我を忘れてしまって…。ミゲル様の事しか頭になかったんです」
「何にしても、駄目だと思いますわ。ロゼッタ様は息子さんの事を可愛がってらっしゃいますからね」
「そんなぁ」
二人が声を揃えてがっかりした声を上げた。
「それに、実の妹をいじめようとしてませんでしたか? その時点でもう…」
「失礼ですわ! 別にいじめたりだなんてしていません! 注意をしようとしていたんです! あの子、オドオドして声も小さいし、愛想笑いも出来ないんです! あれで公爵夫人なんて務まります!?」
「そうです! 私達は彼女にしっかりしてほしいだけです!」
「あなた達が怖くて萎縮しているわけではないんですのね? お仕置きだと、先程は言っておられませんでした?」
眉を寄せて二人に聞き返すと、エレン様が答える。
「お仕置きとミレンが言ったのは確かです。ですが、暴力をふるったりしているわけではないですので。あの子が言葉の暴力と言うのなら、そうなのかもしれませんが」
「エレンの言う通りです! レイング伯爵令嬢にお尋ねしたいですわ。あなたも昔は、マリアンの様な方でしたわよね? でも今は別人の様です。どうしたら、あの子もあなたの様に変われるんでしょうか?」
私の様になるには、入れ替わらないと無理かな。
だけど、本当にマリアン様が変わりたいなら、私みたいに性格が悪くなるのではなく、自信を持つだけで、また違ってくると思う。
「とにかく、マリアン様次第だと思います」
その後、ミレン様とエレン様から、マリアン様と話をしてほしいと頼まれたので、本人が嫌でなければ、という条件で承諾した。
それから、帰り際、二人から忠告される。
「ミゲラーも面倒かもしれませんが、一番、大変なのは、あなたが女伯爵になる事を良く思っていない男性達です。社交場ではお気をつけ下さい」
「ミレンの言う通りです。社交場に出るのであれば、パートナーはザック様の方がよろしいでしょうね。相手が公爵令息では強く出れませんから」
ミレン様とエレン様は、そう言ったあと私に背を向けて、待たせていた馬車に向かっていったけれど、二人の話す声が聞こえてきた。
「ああ。私ったら何をしてるのよ! しっかりしているところを見せて、ロゼッタ様にザラス様の婚約者はマリアンよりも私が良いって思ってもらうつもりが!」
「止められなくてごめんね。私もザック様の事を悪く言ってしまったし、もう無理ね」
二人の言葉を聞いて、やはり冷静になる事は必要だと、しみじみ思った。
「申し訳ございませんが、私はもう家に帰らせていただきます。またの機会にお話しましょう?」
話しかけてきたミレン様に笑顔で答えてから、マリアン様を促す。
「マリアン様は先にお帰りになられたら?」
「え…っ…と。はい…。ありがとう…ございますっ…」
マリアン様は言葉はゆっくりだけれど、すごい速さで頭を下げた後、待ってくれていた自分の馬車に向かって走っていく。
彼女が御者に馬車の中に入れてもらうのを確認した後、双子に向かって言う。
「では、ごきげんよう。お話する日時に関しては、私の方からご連絡させていただきますわね」
「ちょっとお待ち下さい!」
素直に帰してくれるとは思っていなかったので、視線を二人に向けると、ミレン様が口を開く。
「ミゲル様はあなたの事が好きなんですよ! なのに、どうして…」
「ミゲル様が私を好き? そんな訳ないでしょう。好きなら、あんな態度は取れないはずですわ」
「過去のレイング伯爵令嬢に関しては、特に魅力を感じていなかった様ですが、ミゲル様は、今のあなたが好きなんだそうです」
ミレン様の言葉を否定すると、エレン様が言った。
今の私が好き?
自分の言葉に言い返す方が好きって事?
それとも、蹴られて、何かが目覚めた?
「私は私ですので、今の私が好きという意味が理解できないのですが? それに、あなた方はミゲル様が好きなのでしょう? どうして、そんなに私にミゲル様を認めさせようとするんですの?」
「私達は、ミゲラーではありますが、恋をしているのではありません。推しているのです」
私の言葉に、ミレン様がきっぱりと答えた。
「推している?」
「憧れの存在の人が幸せになってほしいと思っているだけなんです」
「それって…」
もしかして、日本でいうオタク系のやつかな?
男性アイドルオタクの事しか詳しくは知らないけど、一部過激ファンが付きまといもしていたし、共演の女性に対してSNSで嫌がらせしたりで問題になっていた。
公共交通機関を止めたとかも話題になってたな。
私の推しグループのメンバーの一人が、ファンから出待ちだけではなく、鞄の中に使用済みの下着を入れられたという事件もあったし、ミゲファンのナンバー1から3までは、どちらかというとそのタイプなのかもしれない。
そして、今、ここにいる双子はというと、ミゲルは推しではあるが、リア恋ではなく、遠巻きで見ているだけでオッケーというオタクなのかもしれない。
私もどちらかというと、そのタイプだ。
ただ、彼女達の様に、彼の為に何かしてあげたいとかまではなかったけど。
CDが出たら買うし、ライブは当たれば絶対に行ってたし、ライブグッズだって、欲しいものは買ってた。
だけど、スキャンダルが出ても、気にならなかったし、それで彼らが幸せになるんならそれで良いと思ってた。
まあ、私の場合は、双子みたいに本人に直撃なんてしなかったし、出来るわけもなかったけど。
何より、そんな事をしにいこうとも考えなかった。
「ちょっと待っていただけます? では、御二人はミゲル様が幸せになってくれるのであれば良いということなんですわね?」
「そういう事になりますわね」
「でも、それって、私の幸せはどこにありますの?」
「ミゲル様と一緒になれるなら幸せではありませんか!」
ミレン様が叫ぶので首を傾げる。
「幸せになれないと思ったから、お別れしたのですが?」
「ミゲル様は心を入れかえて、今度こそ、レイング伯爵令嬢だけを愛されるに決まっています! お願いします! これ以上、悲しそうなミゲル様を見ていられないんです!」
ミレン様とエレン様が二人揃って同時に頭を下げてきた。
推しの為に頑張る気持ちはわからんでもない。
だけど、私の選択肢どこいった?
私の幸せはどこに!?
「見ない様にしたらどうです?」
「……はい?」
私の言葉に二人はゆっくりと顔を上げて聞き返してきた。
「ミゲル様に近付くのはやめましょう。彼を甘やかしてはいけませんわ。どうしてもというなら、あなた方が彼を慰めて、私を忘れさせてあげて下さいませ」
「それが…、恋愛したいわけじゃないんです」
「そうなんです。どちらかというと、私達は結婚するなら、トルマリア公爵家の方と…」
ミレン様とエレン様は恥ずかしそうに顔を見合わせながら言った。
「それなのに、ロゼッタ様の前であんな事を…?」
推しを悪く言われたらムキになる気持ちはわからんでもない。
ネットで推しが悪く言われてると、何も知らないくせに、って私もなっていたし。
だけど、本命のお母様の前であれはいかん。
そこは大人になるべきだと思うけど、18歳って、日本でいえば、精神はまだ子供って感じするしなぁ。
もちろん、しっかりしている子もたくさんいるだろうけど。
でも、あれは駄目よ。
私の言葉に、ミレン様が答える。
「あれは、興奮してしまって、我を忘れてしまって…。ミゲル様の事しか頭になかったんです」
「何にしても、駄目だと思いますわ。ロゼッタ様は息子さんの事を可愛がってらっしゃいますからね」
「そんなぁ」
二人が声を揃えてがっかりした声を上げた。
「それに、実の妹をいじめようとしてませんでしたか? その時点でもう…」
「失礼ですわ! 別にいじめたりだなんてしていません! 注意をしようとしていたんです! あの子、オドオドして声も小さいし、愛想笑いも出来ないんです! あれで公爵夫人なんて務まります!?」
「そうです! 私達は彼女にしっかりしてほしいだけです!」
「あなた達が怖くて萎縮しているわけではないんですのね? お仕置きだと、先程は言っておられませんでした?」
眉を寄せて二人に聞き返すと、エレン様が答える。
「お仕置きとミレンが言ったのは確かです。ですが、暴力をふるったりしているわけではないですので。あの子が言葉の暴力と言うのなら、そうなのかもしれませんが」
「エレンの言う通りです! レイング伯爵令嬢にお尋ねしたいですわ。あなたも昔は、マリアンの様な方でしたわよね? でも今は別人の様です。どうしたら、あの子もあなたの様に変われるんでしょうか?」
私の様になるには、入れ替わらないと無理かな。
だけど、本当にマリアン様が変わりたいなら、私みたいに性格が悪くなるのではなく、自信を持つだけで、また違ってくると思う。
「とにかく、マリアン様次第だと思います」
その後、ミレン様とエレン様から、マリアン様と話をしてほしいと頼まれたので、本人が嫌でなければ、という条件で承諾した。
それから、帰り際、二人から忠告される。
「ミゲラーも面倒かもしれませんが、一番、大変なのは、あなたが女伯爵になる事を良く思っていない男性達です。社交場ではお気をつけ下さい」
「ミレンの言う通りです。社交場に出るのであれば、パートナーはザック様の方がよろしいでしょうね。相手が公爵令息では強く出れませんから」
ミレン様とエレン様は、そう言ったあと私に背を向けて、待たせていた馬車に向かっていったけれど、二人の話す声が聞こえてきた。
「ああ。私ったら何をしてるのよ! しっかりしているところを見せて、ロゼッタ様にザラス様の婚約者はマリアンよりも私が良いって思ってもらうつもりが!」
「止められなくてごめんね。私もザック様の事を悪く言ってしまったし、もう無理ね」
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