あなた方が後悔しても私にはどうでもいいことです

風見ゆうみ

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4  もちろん受け入れますとも

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 どうしても視界にステーキが入ってしまうので、私は食べながら話を聞くことにした。

「あの、立って食べるわけにはいきませんので場所を移動してもよろしいでしょうか」
「た、食べる?」
「はい」

 聞き返してきたワウキロヤ様に笑顔で皿を掲げて見せると、彼は白けた顔をしてうなずく。

「好きなようにすればいい」
「ありがとうございます!」

 空いている席を探そうと見回してみると、クプンマ王国の国旗が置かれたテーブルに座るお二人が、自分たちの横のスペースが空いていると手で示してくれた。

「おい! あそこは駄目だ。あちらにおられるお二人はクプンマ王国の両陛下だぞ」

 ワウキロヤ様が焦った顔で耳打ちしてきた。
 現在、クルリン王国がクプンマ王国に併合されるという噂が上がっており、特にクルリン王国の貴族は神経質になっている。

 どうするべきかしら。

「こちらにお座りなさいな」
「ありがとうございます」

 王妃陛下に促されたのだから、断るわけにもいかず、私は笑顔で承諾した。
 金色の艷やかな髪をシニヨンにした王妃陛下は、色白でグラマー体型の美女だ。その隣に座る漆黒の髪に赤色の瞳を持つ陛下は、長い足を組んでふんぞり返っている。
 国王陛下を見た時、面立ちが誰かを思い出させることに気がついた。

 切れ長の目で一見冷たそうに見えるけれど、私を見つめる目は優しい。
 この感じに覚えがあるのだけど思い出せない。 

 ここまで出てきているのに該当する人物が思い出せずモヤモヤしたが、笑顔で手招きする王妃陛下を待たせるわけにはいかない。

 ステーキが落ちないよう大事にお皿を抱えながら、指示されたソファに座る。
 赤い一人掛けのソファで、両陛下が座るソファの隣に置かれているものだ。

「お肉が好きなのは相変わらずなのね」
「は、はい」

 王妃陛下はなぜか満面の笑みを浮かべて私を見つめている。
 クプンマ王国って、お肉をたくさん食べる女性が好まれているのかしら。
 というか、どうして私がお肉好きなことを知っているのだろうか。

「ショ、ショックを受けているから、そんな風にいっぱい食べて気持ちをごまかそうとしているのね」

 姉は目の前にやって来ると、私を見下ろして言った。

「まあ、そういうことにしておきましょうか」

 一口サイズに切られたステーキをフォークで刺して口に運ぶ。
 うう。 
 冷めているのに柔らかくて美味しい!

 温かいものならもっと肉汁が溢れてきて美味しいんでしょうね。
 止まらなくなってパクパク食べていると、しびれを切らしたワウキロヤ様が叫ぶ。

「おい! 何を呑気に食べているんだ!」
「失礼いたしました」

 皿とフォークを近くのテーブルに置き、咀嚼し終えてから続ける。

「先程の話の続きですが、私はあなたに婚約を破棄されるということでよろしいですね?」
「そうだ。全部お前が悪いんだからな」 
 
 すると、姉がワウキロヤ様にしがみついた。

「ワウキロヤ様、違います! 私が悪いのです! 本当にごめんなさい」
「何を言っているんだ。キュージーは悪くない!」
「でもっ! 妹の婚約者を奪うなんて最低だわ!」

 演技で涙を流せるのだから、この人の涙の価値なんてないようなものだ。
 クルリン王国の貴族の中で、そのことに気づける人はどれくらいいるのだろうか。
 9割はお姉様が本当に涙を流しているのだと信じ、信じていない残りの1割は大多数の声にかき消されてしまうといったところか。

 だからこそ、私はこの場を選んだ。

 他国の貴族や王族はお姉様の評判なんて詳しくは知らない。先入観がないからこそ、公正な判断をしてくれるはずだ。

「悪いのはリファーラだ! この婚約破棄の原因は全てリファーラにある!」 

 ワウキロヤ様は大声で叫んだ。

 ホール内にいる人たちは皆、私たちの会話に集中している。
 これなら私の低い声も、多くの人に届くでしょう。

「原因とはどのようなものでしょうか」
「そ、それは、その」

 答えを用意していなかったのか。もしくは多くの視線にプレッシャーを感じたのか、ワウキロヤ様はしどろもどろになった。
 すると、姉が助けに入った。

「ああ、ごめんなさい、リファーラ、許してちょうだい!」 
「どうして謝るのですか?」
「だ、だって、あなたという婚約者がワウキロヤ様にいると知っているのに惹かれ合ってしまったわ」
「そうですか。それならきっとお二人は運命の相手なのでしょう」

 浮気野郎と猫かぶり女なら、とてもお似合いですわ。
 と言いたかったが、聞いている人に悪い印象を与えたくないし、イセンさんに聞かれたら確実に怒られる。
 ……そういえば、イセンさんはまだ戻ってこないわね。

「リファーラ、とにかく婚約の破棄を受け入れるんだな?」
「ええ、もちろん受け入れますとも。ただ、条件があります」
「なんだと?」

 ワウキロヤ様は私を睨みつけて聞き返した。

「今回の婚約破棄はお二人の都合です。破棄の理由は婚約者がいるにもかかわらず他の女性に心を奪われたワウキロヤ様と、妹の婚約者だと知っていて、恋仲になってから私に謝るお姉様でしょう? なら、そのことを公に発表してくださいませ」
「ふざけるな! 悪いのはお前だ! 僕たちは悪くない!」

 ワウキロヤ様が私に怒鳴ったあと、急にホール内が騒がしくなった。

「どうして、彼女が悪いことになるの?」
「えっ」

 クプンマ王国の王妃陛下からの問いかけに、ワウキロヤ様は言葉を詰まらせた。

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