5 / 51
4 もちろん受け入れますとも
どうしても視界にステーキが入ってしまうので、私は食べながら話を聞くことにした。
「あの、立って食べるわけにはいきませんので場所を移動してもよろしいでしょうか」
「た、食べる?」
「はい」
聞き返してきたワウキロヤ様に笑顔で皿を掲げて見せると、彼は白けた顔をしてうなずく。
「好きなようにすればいい」
「ありがとうございます!」
空いている席を探そうと見回してみると、クプンマ王国の国旗が置かれたテーブルに座るお二人が、自分たちの横のスペースが空いていると手で示してくれた。
「おい! あそこは駄目だ。あちらにおられるお二人はクプンマ王国の両陛下だぞ」
ワウキロヤ様が焦った顔で耳打ちしてきた。
現在、クルリン王国がクプンマ王国に併合されるという噂が上がっており、特にクルリン王国の貴族は神経質になっている。
どうするべきかしら。
「こちらにお座りなさいな」
「ありがとうございます」
王妃陛下に促されたのだから、断るわけにもいかず、私は笑顔で承諾した。
金色の艷やかな髪をシニヨンにした王妃陛下は、色白でグラマー体型の美女だ。その隣に座る漆黒の髪に赤色の瞳を持つ陛下は、長い足を組んでふんぞり返っている。
国王陛下を見た時、面立ちが誰かを思い出させることに気がついた。
切れ長の目で一見冷たそうに見えるけれど、私を見つめる目は優しい。
この感じに覚えがあるのだけど思い出せない。
ここまで出てきているのに該当する人物が思い出せずモヤモヤしたが、笑顔で手招きする王妃陛下を待たせるわけにはいかない。
ステーキが落ちないよう大事にお皿を抱えながら、指示されたソファに座る。
赤い一人掛けのソファで、両陛下が座るソファの隣に置かれているものだ。
「お肉が好きなのは相変わらずなのね」
「は、はい」
王妃陛下はなぜか満面の笑みを浮かべて私を見つめている。
クプンマ王国って、お肉をたくさん食べる女性が好まれているのかしら。
というか、どうして私がお肉好きなことを知っているのだろうか。
「ショ、ショックを受けているから、そんな風にいっぱい食べて気持ちをごまかそうとしているのね」
姉は目の前にやって来ると、私を見下ろして言った。
「まあ、そういうことにしておきましょうか」
一口サイズに切られたステーキをフォークで刺して口に運ぶ。
うう。
冷めているのに柔らかくて美味しい!
温かいものならもっと肉汁が溢れてきて美味しいんでしょうね。
止まらなくなってパクパク食べていると、しびれを切らしたワウキロヤ様が叫ぶ。
「おい! 何を呑気に食べているんだ!」
「失礼いたしました」
皿とフォークを近くのテーブルに置き、咀嚼し終えてから続ける。
「先程の話の続きですが、私はあなたに婚約を破棄されるということでよろしいですね?」
「そうだ。全部お前が悪いんだからな」
すると、姉がワウキロヤ様にしがみついた。
「ワウキロヤ様、違います! 私が悪いのです! 本当にごめんなさい」
「何を言っているんだ。キュージーは悪くない!」
「でもっ! 妹の婚約者を奪うなんて最低だわ!」
演技で涙を流せるのだから、この人の涙の価値なんてないようなものだ。
クルリン王国の貴族の中で、そのことに気づける人はどれくらいいるのだろうか。
9割はお姉様が本当に涙を流しているのだと信じ、信じていない残りの1割は大多数の声にかき消されてしまうといったところか。
だからこそ、私はこの場を選んだ。
他国の貴族や王族はお姉様の評判なんて詳しくは知らない。先入観がないからこそ、公正な判断をしてくれるはずだ。
「悪いのはリファーラだ! この婚約破棄の原因は全てリファーラにある!」
ワウキロヤ様は大声で叫んだ。
ホール内にいる人たちは皆、私たちの会話に集中している。
これなら私の低い声も、多くの人に届くでしょう。
「原因とはどのようなものでしょうか」
「そ、それは、その」
答えを用意していなかったのか。もしくは多くの視線にプレッシャーを感じたのか、ワウキロヤ様はしどろもどろになった。
すると、姉が助けに入った。
「ああ、ごめんなさい、リファーラ、許してちょうだい!」
「どうして謝るのですか?」
「だ、だって、あなたという婚約者がワウキロヤ様にいると知っているのに惹かれ合ってしまったわ」
「そうですか。それならきっとお二人は運命の相手なのでしょう」
浮気野郎と猫かぶり女なら、とてもお似合いですわ。
と言いたかったが、聞いている人に悪い印象を与えたくないし、イセンさんに聞かれたら確実に怒られる。
……そういえば、イセンさんはまだ戻ってこないわね。
「リファーラ、とにかく婚約の破棄を受け入れるんだな?」
「ええ、もちろん受け入れますとも。ただ、条件があります」
「なんだと?」
ワウキロヤ様は私を睨みつけて聞き返した。
「今回の婚約破棄はお二人の都合です。破棄の理由は婚約者がいるにもかかわらず他の女性に心を奪われたワウキロヤ様と、妹の婚約者だと知っていて、恋仲になってから私に謝るお姉様でしょう? なら、そのことを公に発表してくださいませ」
「ふざけるな! 悪いのはお前だ! 僕たちは悪くない!」
ワウキロヤ様が私に怒鳴ったあと、急にホール内が騒がしくなった。
「どうして、彼女が悪いことになるの?」
「えっ」
クプンマ王国の王妃陛下からの問いかけに、ワウキロヤ様は言葉を詰まらせた。
「あの、立って食べるわけにはいきませんので場所を移動してもよろしいでしょうか」
「た、食べる?」
「はい」
聞き返してきたワウキロヤ様に笑顔で皿を掲げて見せると、彼は白けた顔をしてうなずく。
「好きなようにすればいい」
「ありがとうございます!」
空いている席を探そうと見回してみると、クプンマ王国の国旗が置かれたテーブルに座るお二人が、自分たちの横のスペースが空いていると手で示してくれた。
「おい! あそこは駄目だ。あちらにおられるお二人はクプンマ王国の両陛下だぞ」
ワウキロヤ様が焦った顔で耳打ちしてきた。
現在、クルリン王国がクプンマ王国に併合されるという噂が上がっており、特にクルリン王国の貴族は神経質になっている。
どうするべきかしら。
「こちらにお座りなさいな」
「ありがとうございます」
王妃陛下に促されたのだから、断るわけにもいかず、私は笑顔で承諾した。
金色の艷やかな髪をシニヨンにした王妃陛下は、色白でグラマー体型の美女だ。その隣に座る漆黒の髪に赤色の瞳を持つ陛下は、長い足を組んでふんぞり返っている。
国王陛下を見た時、面立ちが誰かを思い出させることに気がついた。
切れ長の目で一見冷たそうに見えるけれど、私を見つめる目は優しい。
この感じに覚えがあるのだけど思い出せない。
ここまで出てきているのに該当する人物が思い出せずモヤモヤしたが、笑顔で手招きする王妃陛下を待たせるわけにはいかない。
ステーキが落ちないよう大事にお皿を抱えながら、指示されたソファに座る。
赤い一人掛けのソファで、両陛下が座るソファの隣に置かれているものだ。
「お肉が好きなのは相変わらずなのね」
「は、はい」
王妃陛下はなぜか満面の笑みを浮かべて私を見つめている。
クプンマ王国って、お肉をたくさん食べる女性が好まれているのかしら。
というか、どうして私がお肉好きなことを知っているのだろうか。
「ショ、ショックを受けているから、そんな風にいっぱい食べて気持ちをごまかそうとしているのね」
姉は目の前にやって来ると、私を見下ろして言った。
「まあ、そういうことにしておきましょうか」
一口サイズに切られたステーキをフォークで刺して口に運ぶ。
うう。
冷めているのに柔らかくて美味しい!
温かいものならもっと肉汁が溢れてきて美味しいんでしょうね。
止まらなくなってパクパク食べていると、しびれを切らしたワウキロヤ様が叫ぶ。
「おい! 何を呑気に食べているんだ!」
「失礼いたしました」
皿とフォークを近くのテーブルに置き、咀嚼し終えてから続ける。
「先程の話の続きですが、私はあなたに婚約を破棄されるということでよろしいですね?」
「そうだ。全部お前が悪いんだからな」
すると、姉がワウキロヤ様にしがみついた。
「ワウキロヤ様、違います! 私が悪いのです! 本当にごめんなさい」
「何を言っているんだ。キュージーは悪くない!」
「でもっ! 妹の婚約者を奪うなんて最低だわ!」
演技で涙を流せるのだから、この人の涙の価値なんてないようなものだ。
クルリン王国の貴族の中で、そのことに気づける人はどれくらいいるのだろうか。
9割はお姉様が本当に涙を流しているのだと信じ、信じていない残りの1割は大多数の声にかき消されてしまうといったところか。
だからこそ、私はこの場を選んだ。
他国の貴族や王族はお姉様の評判なんて詳しくは知らない。先入観がないからこそ、公正な判断をしてくれるはずだ。
「悪いのはリファーラだ! この婚約破棄の原因は全てリファーラにある!」
ワウキロヤ様は大声で叫んだ。
ホール内にいる人たちは皆、私たちの会話に集中している。
これなら私の低い声も、多くの人に届くでしょう。
「原因とはどのようなものでしょうか」
「そ、それは、その」
答えを用意していなかったのか。もしくは多くの視線にプレッシャーを感じたのか、ワウキロヤ様はしどろもどろになった。
すると、姉が助けに入った。
「ああ、ごめんなさい、リファーラ、許してちょうだい!」
「どうして謝るのですか?」
「だ、だって、あなたという婚約者がワウキロヤ様にいると知っているのに惹かれ合ってしまったわ」
「そうですか。それならきっとお二人は運命の相手なのでしょう」
浮気野郎と猫かぶり女なら、とてもお似合いですわ。
と言いたかったが、聞いている人に悪い印象を与えたくないし、イセンさんに聞かれたら確実に怒られる。
……そういえば、イセンさんはまだ戻ってこないわね。
「リファーラ、とにかく婚約の破棄を受け入れるんだな?」
「ええ、もちろん受け入れますとも。ただ、条件があります」
「なんだと?」
ワウキロヤ様は私を睨みつけて聞き返した。
「今回の婚約破棄はお二人の都合です。破棄の理由は婚約者がいるにもかかわらず他の女性に心を奪われたワウキロヤ様と、妹の婚約者だと知っていて、恋仲になってから私に謝るお姉様でしょう? なら、そのことを公に発表してくださいませ」
「ふざけるな! 悪いのはお前だ! 僕たちは悪くない!」
ワウキロヤ様が私に怒鳴ったあと、急にホール内が騒がしくなった。
「どうして、彼女が悪いことになるの?」
「えっ」
クプンマ王国の王妃陛下からの問いかけに、ワウキロヤ様は言葉を詰まらせた。
あなたにおすすめの小説
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。
婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。
待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。
そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。