あなた方が後悔しても私にはどうでもいいことです

風見ゆうみ

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8  そんな話が通じると思っているのかしら

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 リックたちが初めて私の家を訪ねてきた前日の昼、クプンマ王国の森で狩猟が行われていたことは知っていた。
 そこで何者かに襲われたリックは、護衛騎士から逃げるように言われ、イセンさんと共にその場から離れ、森に迷い込んだと聞いている。

 その時は私も子供だったから、それ以上は詳しく聞かなかったし考えもしなかった。
 王太子だったから命を狙われたのだろうか。
 そういえば、犯人は捕まったのかしら。普通ならば国境を越える際に検問所があるはずなのに、助けを求めなかったのも変ね。
 詳しい話が聞けるなら聞いてみたいけれど、今はそれどころではないか。

「リファーラ! どうして今までこのことを黙っていたんだ!」

 周りからの冷たい視線に耐えられなくなったのか、父が私を責めた。

「聞かれませんでしたので」
「……は?」
「言う機会がなかったと言ったほうがよろしいでしょうか。私とフレデリック殿下の交流は私に婚約者ができてからは途絶えました。その間はメイドやフットマンに食料や古着などを持ってこさせるだけで、様子を見に来たことなど一度もなかったでしょう?」
「そ、それは……っ」

 父は悔しそうな顔をして唇を噛んだ。

 なぜ、一人で山小屋に住むことになったのか。この理由をあまり人に知られたくない。
 理由を知られれば、私と父の関係を疑い、心ない噂をする人間もいる。
 ありもしない噂話を立てられるのも嫌だし、両親も姉弟も私の家族と思いたくない。

 愛着のあるあの家に住めなくなるのはつらいが仕方がない。どうせ、婚約破棄が決まったら、両親は私を追い出すつもりだったはず。そう思ったから、家を出ていく準備はできている。

 リックの件は今は考えないことにして、本題を済ませてしまいましょう。

「ワウキロヤ様」

 私が話しかけると、彼は飛び跳ねるように体を震わせた。

「な、なんだ?」
「婚約の破棄を承諾いたします」
「え、あ、でも」
「あなたと姉は愛し合っているのでしょう? 二人の邪魔はいたしませんわ。先ほど伝えた条件も撤回いたします」
「……い、いいのか?」

 ワウキロヤ様は喜んでいるようには見えず、目に涙が浮かんでいる。

「ええ。あなた方が嘘の発表をしたら、この場にいる方々からどう思われるかくらいわかりますでしょう?」
「そ、それは、そのっ」

 ワウキロヤ様は助けを求めるように、首を左右に動かした。
 誰かに助けを求めようとしているらしいが、実の両親にまでも知らんふりをされている。

 それはそれでどうかと思うが、息子の浮気を責めなかった人たちだから、非常識なタイプなのかもしれない。

 父や公爵といい、こんな貴族ばかりでこの国は大丈夫なのかしら。
 ……駄目だから、併合されるという噂が出ているのか。

「婚約を破棄する書類に署名をしようと思いますが、用意はしてくださっているのですよね?」
「え、いや、まあ、してはいるんだけど」

 どうも、ワウキロヤ様の話は歯切れが悪い。まさか迷っているんじゃないでしょうね。

 そんな考えが頭をよぎった時、ワウキロヤ様はとんでもないことを言い出した。

「ごめん。今までの話は全部嘘なんだ」
「……はい?」
「婚約を破棄するなんて嘘だよ。驚かせて君の反応を見たかっただけなんだ」

 眉根を寄せた私を見つめ、ワウキロヤ様はヘラヘラ笑いながら言った。

 この人、本気でそんな話が通じると思っているのかしら。




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