騙されていたのは私ではありません

風見ゆうみ

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プロローグ

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 それは、私、ソア・エヴァンスが十五歳の時で、心地よい気温が続いていた時期の、よく晴れた日の昼下がりのことだ。
 虫の知らせというものなのかわからないが、嫌な予感がして無性に婚約者の顔が見たくなった。

 その時の私は、嫌な予感というものが、彼の身に危険が迫っているのではないかと思ったから、会って安心したかったのだ。急いで馬車の手配をしてもらうと、家紋付きの馬車は兄が使っていたため、お忍びで出かける時に使う、地味な馬車を使うことになった。
 準備が整うと、先触れもなしに婚約者であるタオズク・レドジェンの住むレドジェン邸に向かったのだ。

 向かう途中、人通りの多い道を走るため、馬車は徐行し始めた。その時、私は馬車の中から、タオズクと私の親友が、平民の姿に変装をして腕を組んで歩いているところを目撃してしまった。
 
 いつもと服装が違うだけで、帽子をかぶるわけでもなく、素顔をさらけ出していたので、見間違いだということはないと断言できる。

 そういえば、親友のナターシャは『恋人はいつか別れるかもしれないけれど、友情は永遠よ』なんてことを言っていたけど、その時にはタオズクとそんな関係だったんだろうか。

 私とナターシャは親友ではないみたいね。だって、私は自分の婚約者と浮気している人を親友だとは思えない。
 
 友情が永遠だなんて、全ての人が当てはまるものではないんだわ――

 馬車の窓に映る私は、悔しさと悲しみで、今にも泣き出しそうな情けない顔をしていた。

 こんな顔を誰かに見られたくない。侍女を連れて来なくて本当に良かった。

 人混みにまぎれて遠ざかっていく二人を目で追いながら、そんなことを考えた。二人の姿が見えなくなると、前を向いて気持ちを切り替え、御者に声をかける。

「悪いけど、行き先の変更をお願いできるかしら」
「かまいませんが、どちらへ向かわれますか?」
「密偵を探したいの。どこへ行けば良いかわかる?」
「では、仕事紹介所が良いでしょう。仕事を募集している人間と、仕事を頼みたい人間の橋渡しをしているんです。受付に密偵を探しているといえば紹介してもらえると思います」

 御者はそう答えると、詳しい話は聞こうとはせずに馬車の行き先を変えてくれた。

 二人の浮気の証拠を押さえて、婚約破棄に持っていきましょう。二人共、お願いだから、潔く浮気を認めてね。私は浮気をした、してないだなんてくだらない話し合いで、時間を無駄にしたくはないのよ。

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