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25 育ての親との決別 ②
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私の気が変わったので会うことにするという旨を、エルンベル伯爵家に連絡を入れた。
すると「いつでも来てくれてかまわない」との連絡が返ってきた。
すでに養子縁組の解消をするという書類は役所に提出されていて、役所のほうから確認の連絡があった。
私が書類にサインをして役所が受理すれば役所からエルンベル伯爵家に連絡がいくので、私はギリギリまで提出しないことにした。
そうすれば、私が嫌がっているように勘違いするのではないかと思ったからだ。
エルンベル伯爵家に向かう当日の朝、部屋で出かける準備をしていると、一緒に行ってくれるというミオ様が部屋まで来てくれた。
「いよいよですわね」
「はい。今までは親だからという理由で私に干渉できていたものが、これからはできなくなるということをわかってもらおうと思います」
「自分の子供だからといって好き勝手しても良いわけではありませんけどね」
「それはそう思います。自分の子供が一番可愛いという気持ちはわかりますけど」
「……そう言われればそうかもしれないですわね。でも、養子にした以上は、自分の子供でなくとも大事にするべきです」
ミオ様は大きく息を吐いた。
ミオ様が一緒に行ってくださる理由は、私がミオ様の侍女になると決めたからだ。
どうして養子縁組を解消したのか、確認したいという理由で付いてきてくれる。
他にやらなければいけないことはある。
でも、今は一つ一つ片付けていくことにする。
まずはエルンベル伯爵夫妻からだ。
「シェリル、浮かない顔をしていますわね。何か不安なことでもあるんですの?」
「……今まで世話をしてきてもらった分のお礼をしなければならないのかと思いまして」
「向こうから縁を切ったのだから良いんじゃないのかしら。気になるのなら私がお金を渡しましょうか」
「そう言ってくださるお気持ちはとても嬉しいので、お気持ちだけ有り難く受け取っておきますが、金銭はご遠慮させてください」
深々と頭を下げると、ミオ様は眉尻を下げはしたものの納得して頷いてくれた。
******
3日後の朝、まずは役所に養子縁組の解消を承諾するというサインをした書類を提出した。
その後はエルンベル伯爵家の近くでロータス様と合流し、簡単に今日の段取りを確認した。
まずは私とミオ様がエルンベル伯爵夫妻と話をする。
話し合いの内容によって、ミオ様が無礼だと判断した場合はメイドに頼んで、門の前で待機しているロータス様を呼び出してもらうことになった。
約束の時間になりエルンベル伯爵邸に行くと、私だけが来ると思っていたらしい伯爵夫妻は、ミオ様が一緒にいると知って慌てて応接室に私たちを案内させた。
私だけなら立ち話で済ませるつもりだったようだ。
「ミオ様が来てくださるなんて思ってもおりませんでしたわ。先にご連絡をいただけていましたら、盛大なお出迎えをさせていただきましたのに」
「私はそういうものは苦手だから結構ですわ。突然、押しかけるような真似をしてしまい、迷惑をかけたようで申し訳ございません」
ミオ様は本心半分、嫌味半分といった感じかしら。
軽く一礼したあと、向かいに座っているエルンベル伯爵夫人に微笑みかけた。
今日の話し合いにはエルンベル伯爵夫妻だけでなく、ミシェルもお兄様もいた。
お兄様のことも、もう兄妹ではないのだから、エルンベル卿と呼ばなければならない。
エルンベル卿は暗い表情でテーブルの角を見つめていて何を考えているのかわからない。
逆に、エルンベル卿以外は笑みを隠しきれないといった感じでわかりやすかった。
ミオ様に私の悪口でも吹き込もうと思っているのかもしれない。
どうしてこの人たちは、皆が皆、エルンベル伯爵家のように他人に冷たいと思い込めるのかしら。
悲しいことに他人に優しくない人は多い。
でも、そんな人たちでも友人や知り合い、恋人には優しくできる人が多い。
たとえ、ミオ様たちが他人に優しくない人たちだったとしても、友人である私には優しいかもしれないと思うことはなかったのかしら。
自分に都合の良いものしか見えない人たちなんでしょうね。
深呼吸をしてから、エルンベル伯爵夫妻に話しかける。
「本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか」
「かまわない」
「養子縁組の解消の件ですが」
「嫌だと言っても解消以外しか選択肢はないからな。お前のここ最近の動向が酷すぎる」
エルンベル伯爵が話の途中で言葉を挟んできたので尋ねる。
「動向が酷いというのは、どういうことでしょうか」
「まずは離婚という馬鹿な選択をしたこと。それから、ミシェルが浮気をしていないというのにそれを否定したこと。妹の好きな人だと知っていて、その男性の家に居座っていることなどだ」
「妹の好きな人だと知っていてと言われましても、ミシェルはサンニ子爵令息の妻でしょう。それから、フェリックス様がいるからお世話になっていたわけではありません。ミオ様がいるからお世話になっているのです」
言い返すと、エルンベル伯爵夫妻とミシェルが眉根を寄せた。
そんな三人の表情に満足してから笑顔で話を続ける。
「そんな娘はいらないからと養子縁組を解消ということですわよね。大変嬉しいです。本当にありがとうございます。感謝の気持ちをお伝えしたくて、今日はここまで足を運ばせていただきました」
「「「は?」」」
親子だからだろうか、エルンベル卿以外の三人の声が見事に揃ったのだった。
すると「いつでも来てくれてかまわない」との連絡が返ってきた。
すでに養子縁組の解消をするという書類は役所に提出されていて、役所のほうから確認の連絡があった。
私が書類にサインをして役所が受理すれば役所からエルンベル伯爵家に連絡がいくので、私はギリギリまで提出しないことにした。
そうすれば、私が嫌がっているように勘違いするのではないかと思ったからだ。
エルンベル伯爵家に向かう当日の朝、部屋で出かける準備をしていると、一緒に行ってくれるというミオ様が部屋まで来てくれた。
「いよいよですわね」
「はい。今までは親だからという理由で私に干渉できていたものが、これからはできなくなるということをわかってもらおうと思います」
「自分の子供だからといって好き勝手しても良いわけではありませんけどね」
「それはそう思います。自分の子供が一番可愛いという気持ちはわかりますけど」
「……そう言われればそうかもしれないですわね。でも、養子にした以上は、自分の子供でなくとも大事にするべきです」
ミオ様は大きく息を吐いた。
ミオ様が一緒に行ってくださる理由は、私がミオ様の侍女になると決めたからだ。
どうして養子縁組を解消したのか、確認したいという理由で付いてきてくれる。
他にやらなければいけないことはある。
でも、今は一つ一つ片付けていくことにする。
まずはエルンベル伯爵夫妻からだ。
「シェリル、浮かない顔をしていますわね。何か不安なことでもあるんですの?」
「……今まで世話をしてきてもらった分のお礼をしなければならないのかと思いまして」
「向こうから縁を切ったのだから良いんじゃないのかしら。気になるのなら私がお金を渡しましょうか」
「そう言ってくださるお気持ちはとても嬉しいので、お気持ちだけ有り難く受け取っておきますが、金銭はご遠慮させてください」
深々と頭を下げると、ミオ様は眉尻を下げはしたものの納得して頷いてくれた。
******
3日後の朝、まずは役所に養子縁組の解消を承諾するというサインをした書類を提出した。
その後はエルンベル伯爵家の近くでロータス様と合流し、簡単に今日の段取りを確認した。
まずは私とミオ様がエルンベル伯爵夫妻と話をする。
話し合いの内容によって、ミオ様が無礼だと判断した場合はメイドに頼んで、門の前で待機しているロータス様を呼び出してもらうことになった。
約束の時間になりエルンベル伯爵邸に行くと、私だけが来ると思っていたらしい伯爵夫妻は、ミオ様が一緒にいると知って慌てて応接室に私たちを案内させた。
私だけなら立ち話で済ませるつもりだったようだ。
「ミオ様が来てくださるなんて思ってもおりませんでしたわ。先にご連絡をいただけていましたら、盛大なお出迎えをさせていただきましたのに」
「私はそういうものは苦手だから結構ですわ。突然、押しかけるような真似をしてしまい、迷惑をかけたようで申し訳ございません」
ミオ様は本心半分、嫌味半分といった感じかしら。
軽く一礼したあと、向かいに座っているエルンベル伯爵夫人に微笑みかけた。
今日の話し合いにはエルンベル伯爵夫妻だけでなく、ミシェルもお兄様もいた。
お兄様のことも、もう兄妹ではないのだから、エルンベル卿と呼ばなければならない。
エルンベル卿は暗い表情でテーブルの角を見つめていて何を考えているのかわからない。
逆に、エルンベル卿以外は笑みを隠しきれないといった感じでわかりやすかった。
ミオ様に私の悪口でも吹き込もうと思っているのかもしれない。
どうしてこの人たちは、皆が皆、エルンベル伯爵家のように他人に冷たいと思い込めるのかしら。
悲しいことに他人に優しくない人は多い。
でも、そんな人たちでも友人や知り合い、恋人には優しくできる人が多い。
たとえ、ミオ様たちが他人に優しくない人たちだったとしても、友人である私には優しいかもしれないと思うことはなかったのかしら。
自分に都合の良いものしか見えない人たちなんでしょうね。
深呼吸をしてから、エルンベル伯爵夫妻に話しかける。
「本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか」
「かまわない」
「養子縁組の解消の件ですが」
「嫌だと言っても解消以外しか選択肢はないからな。お前のここ最近の動向が酷すぎる」
エルンベル伯爵が話の途中で言葉を挟んできたので尋ねる。
「動向が酷いというのは、どういうことでしょうか」
「まずは離婚という馬鹿な選択をしたこと。それから、ミシェルが浮気をしていないというのにそれを否定したこと。妹の好きな人だと知っていて、その男性の家に居座っていることなどだ」
「妹の好きな人だと知っていてと言われましても、ミシェルはサンニ子爵令息の妻でしょう。それから、フェリックス様がいるからお世話になっていたわけではありません。ミオ様がいるからお世話になっているのです」
言い返すと、エルンベル伯爵夫妻とミシェルが眉根を寄せた。
そんな三人の表情に満足してから笑顔で話を続ける。
「そんな娘はいらないからと養子縁組を解消ということですわよね。大変嬉しいです。本当にありがとうございます。感謝の気持ちをお伝えしたくて、今日はここまで足を運ばせていただきました」
「「「は?」」」
親子だからだろうか、エルンベル卿以外の三人の声が見事に揃ったのだった。
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