愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか

風見ゆうみ

文字の大きさ
39 / 56

28 祖父母とは思えない行動

 エルンベル元伯爵は怒りの矛先を自分の息子に変更した。
 ミシェルに平手打ちしたことや、自分たちを追い出したことが元伯爵にとっては裏切り行為と思えたようだった。

 こんな話を聞くと、ますますエルンベル男爵がミシェルたちと縁を切りたくなる気持ちがわかる。
 だから、エルンベル男爵を狙う彼の父を放っておいてよいのか迷っていた。

 ちょうどその頃、ミオ様と一緒にエイト公爵家の別邸に戻った私の所に、元エルンベル伯爵夫人が手紙を送ってきた。

 内容を読んでみると、現在、夫婦揃ってサンニ子爵家に居候していると書かれていた。
 そして、自分の夫が恐ろしいことを考えているので、何とか助けてもらえないだろうかとも書かれていた。

 次の日、フェリックスが様子を見に来てくれたので、ミオ様にも相談した話をフェリックスにも伝えてみた。

「甥っ子を誘拐しようとしてるだって?」
「ええ。元エルンベル伯爵夫人はそう書いてきていたの。エルンベル男爵……、エルンベルばかりでややこしいから、ソラン様と呼ばせてもらうけど、ソラン様は自分の家族、特に子供を可愛がっているから、子供が誘拐されたらかなりショックだろうと思っているみたいよ」

 ソラン様が自分の妻や子供だけを可愛がるのは、自分の父親のようになりたくないという理由らしい。
 父親を反面教師にして、自分が子供の頃に味わった寂しさを、自分は息子に感じさせないようにしたいそうだ。

「どの親も自分の子供は可愛いだろうからな。自分に何かあるよりも辛いだろう。だけど、元エルンベル伯爵にしてみれば、自分の孫だぞ? 可愛くないなんてことはないだろ」
「元伯爵夫人は孫を殺すだなんて馬鹿なことはしないと思っているみたいよ」
「どうして自分で止めないんだ?」
「聞く耳を持たないって書いてあったわ。少し胡散臭い気もするから、どうしたら良いか迷ってるの。それから、ミシェルも賛成しているみたい」
「賛成してる?」

 フェリックスが眉根を寄せて聞き返してきた。

「ええ。ソラン様が自分の頬を叩いたことを、まだ怒っているみたい」
「体罰は良くないが、彼女には口で言っても通じないからな」
「そうなのよね。あと、ロータス様にも連絡を入れたら、奥様の実家に連絡を入れてくれたみたい」
「そういえば今は、エルンベル男爵の嫁は実家に帰ってるのか」
「ええ。予定日が近いし、出産から少し経つまで男爵夫人には知らせないようにしてもらったわ」

 ソラン様の奥様の実家は子爵家だけど、裕福なほうだから、護衛を雇うお金はある。
 狙われている子供は、しばらくは外には出さないと約束してくれた。

 自分の孫が狙われているとわかったのだから、外に出すような馬鹿なことはしないわよね。

「ならいい。でも、元エルンベル伯爵は孫に会う権利はあるだろう。孫に会いたいと言って訪ねてきたらどうするつもりなんだ」
「無事に第二子を出産してから連絡すると応えるとのことだそうよ」
「そうか」

 フェリックスは少し考える表情になってから頷いた。
 そんな彼に言い訳をする。

「もう関係ないから知らないふりをしようかと思ったけれど、小さな子供が危険な目に遭うかもしれないとわかっているのに何もしないわけにはいかなかったのよ」
「別に何も言ってないだろ。エルンベル男爵の子供には何の罪もないしな」
「……ええ。それにしても本当にエルンベルの子供じゃなくなって良かったわ」

 大きくため息を吐くと、向かい側のソファに座るフェリックスが苦笑する。

「エルンベル男爵の子供のことはシェリルは気にしなくていい。俺が手を打つ」
「何をするつもりなの」
「シミュレーションを何度か頭の中で繰り返さないと、はっきりとは言えない」
「何よ、それ」

 不服そうに言うと、フェリックスは渋々といった感じで、これから起こり得るであろう話を私にしてくれた。

「そんな馬鹿なことをするかしら」
「スケープゴートを用意している可能性もあるだろ」
「結局、元エルンベル伯爵はそんなことをして何がしたいのかしら」
「エルンベル男爵を苦しめたいだけだろ」
「ということは……」

 元伯爵夫人が私に連絡してくることもおかしいとは思っていた。

 ふと思いついた最悪なシナリオを頭から振り払う。
 そして、甘い考えを持っていた自分に喝を入れる。

 人間の本質なんてそう変わらない。
 相手が悪い人間だとわかっているならば、悲しいことではあるけれど、信じる前に疑わなければならない。
 



******



 それから数日後、ソラン様の奥様が無事に子供を出産したとの連絡があった。
 そして、私の名前で出産祝いがソラン様の奥様に届けられた。

 私の名前であろうが誰であろうが警戒するように伝えていたので、贈り物はすぐに開封されて、中身を確認された。

 贈り物はクッキーなどのお菓子で、ターゲットにしている長男に食べさせてあげてほしいというメッセージカードが添えられていた。

 調べた結果、見ただけではわからないようにか、クッキーの表面から見えない部分にピーナッツがすり潰されたものが入っていた。

 私たちが住んでいる国の子爵家では毒見はされないことが多い。

 だから、何者かがソラン様の長男を殺すつもりなのだとわかった。

 長男はピーナッツアレルギーだから、食べてしまうと死に至る可能性が高い。

 ソラン様を恨んでいたのは元伯爵だけではなかった。
 元伯爵夫人もだった。
 自分の孫を殺めてでも、ソラン様を苦しめようとした。
 そして、私に罪をなすりつけようとしたというところかしら。
 でも、どうしてそれなら、私に連絡してきたのかわからない。

 何にしても絶対に許せない。
 私はミオ様から許可をもらい、元エルンベル伯爵夫妻に別邸まで、来てもらうことにした。
 フェリックスも同席したいというので、その旨を書いて送ると、ミシェルも含めた3人で伺うと返事が来た。

 ミシェルはお呼びじゃないのだけど、まあいいわ。
 彼女の目の前でフェリックスと仲良くして、ミシェルの両親には然るべき処置をさせてもらうことにした。

 


次の話はミシェル視点です。
感想 145

あなたにおすすめの小説

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

政略結婚のルールくらい守って下さい

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

私を愛すると言った婚約者は、私の全てを奪えると思い込んでいる

迷い人
恋愛
 お爺様は何時も私に言っていた。 「女侯爵としての人生は大変なものだ。 だから愛する人と人生を共にしなさい」  そう語っていた祖父が亡くなって半年が経過した頃……。  祖父が定めた婚約者だと言う男がやってきた。  シラキス公爵家の三男カール。  外交官としての実績も積み、背も高く、細身の男性。  シラキス公爵家を守護する神により、社交性の加護を与えられている。  そんなカールとの婚約は、渡りに船……と言う者は多いだろう。  でも、私に愛を語る彼は私を知らない。  でも、彼を拒絶する私は彼を知っている。  だからその婚約を受け入れるつもりはなかった。  なのに気が付けば、婚約を??  婚約者なのだからと屋敷に入り込み。  婚約者なのだからと、恩人(隣国の姫)を連れ込む。  そして……私を脅した。  私の全てを奪えると思い込んでいるなんて甘いのよ!!

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。