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第7章 それぞれの執着心
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王女殿下は悔しそうな顔をしていたけれど、国王陛下に逆らうわけにはいかなかったようで、暴力をふるわれたりすることはなく、今回は終わってしまった。
王女殿下の無礼な発言については、国王陛下に謝られてしまったのでは、戦争になる理由には出来ない。
もっと、大きな何かがなければ駄目だわ。
国王陛下がいない時を狙わなくちゃ。
ため息を吐きながら謁見の間を出ると、廊下にはランシード様が立っていた。
「どうされたのですか?」
「婚約者が心配だから待ってた。おかしいかな?」
「おかしくはありません」
微笑んでから、ランシード様に頭を下げる。
「心配していただきありがとうございます」
「お礼を言われるのも何だか変だね」
「わたしは未だに、ランシード様のその言葉遣いに違和感を覚えてしまいます」
苦笑すると、ランシード様はわたしに近づいてきて白手袋をはめた手を差し出してくる。
「この後の予定は?」
「家に帰るだけですわ」
「なら、一緒に過ごさない? 式の日取りとか色々と話さないといけないことがあるから」
「はい。喜んで。というか、もう式のお話ですか?」
「うん。そのほうが君も動きやすいだろ?」
差し出された手の上に自分の手をのせると、ランシード様は優しく手を握ってくれた。
「お願いしておきながら言うのもなんですが、ランシード様は本当にわたしで良かったのですか?」
「何でそんなことを聞くの?」
「わたしは後悔していませんが、ランシード様はやっぱり断れば良かったと思っているのではないかと思いまして」
「思ってないよ。そんな安易な気持ちで話を受けたわけじゃない」
ランシード様は先に歩くメイドの背中を追うように、わたしの手を握ったまま歩き出す。
「そういえば、ランシード様は今まで婚約者はいらっしゃらなかったのですか?」
「いたのはいたけど、解消したんだ」
「解消?」
「言おうとは思っていたし、ちょうど良い機会だから、今話すけど、ノノルーってわかるよね?」
「ディエル様の妹のノノルー様ですよね?」
「そう」
ランシード様は頷いてから苦笑する。
「ノノルーは僕の婚約者だった。でも、彼女はワガママなとこがあって、僕みたいな優等生は嫌いだって言ってたんだ」
「優等生?」
シード様の時のランシード様を知っているから、優等生だとはまったく思えない。
「表向きは今の状況だったから」
ランシード様は苦笑してから、メイドに聞こえないようにか、わたしの耳元で囁く。
「ノノルーは乱暴な俺が好みなんだってよ」
「どういうことです?」
聞き返すと、ランシード様の顔に戻って話をしてくれる。
「セフィリアの感覚で言えば、ランシードは嫌いだけど、シードは好きみたいな感じかな」
「ですが、シード様は貴族っぽくない感じはしますし、王太子殿下としては乱暴すぎるかと思うのですが、どうなのでしょう?」
「普通はそう思うんだけど、彼女はそうじゃなくて、弱そうだから僕との婚約を破棄したいって言ったんだ。で、僕も別にそんな理由で婚約の破棄を望むような人に妻になってもらいたくないし、解消ということで落ち着いた。それから、少しして、シードの役をするようになったんだ」
「そうだったんですね」
「うん。セフィリアは困惑はしてたけど、僕でも俺でも態度を変えなかったから嬉しい」
にこりと微笑むランシード様を見て、ノノルー様に対して恋愛感情があったかどうかはわからないけれど、その時は傷ついたのかもしれないと思ってしまった。
「ランシード様もシード様も心の根の部分は同じだと思います」
「ありがとう。で、話を戻すけど、ノノルーは僕と再婚約したがってるから、君にキツく当たったんだと思う。本当にごめん」
「シード様の姿を見られたのですか?」
「セフィリアを昨日攫うみたいに馬車に乗せただろ? それが良かったんだってさ」
「信じられません!」
お母様の復讐もそうだし、今の王家を潰したいという理由で、ランシード様との婚約をやめるつもりはなかった。
ノノルー様の話を聞いたら、余計に婚約を解消するという選択肢はなくなったと思った。
王女殿下の無礼な発言については、国王陛下に謝られてしまったのでは、戦争になる理由には出来ない。
もっと、大きな何かがなければ駄目だわ。
国王陛下がいない時を狙わなくちゃ。
ため息を吐きながら謁見の間を出ると、廊下にはランシード様が立っていた。
「どうされたのですか?」
「婚約者が心配だから待ってた。おかしいかな?」
「おかしくはありません」
微笑んでから、ランシード様に頭を下げる。
「心配していただきありがとうございます」
「お礼を言われるのも何だか変だね」
「わたしは未だに、ランシード様のその言葉遣いに違和感を覚えてしまいます」
苦笑すると、ランシード様はわたしに近づいてきて白手袋をはめた手を差し出してくる。
「この後の予定は?」
「家に帰るだけですわ」
「なら、一緒に過ごさない? 式の日取りとか色々と話さないといけないことがあるから」
「はい。喜んで。というか、もう式のお話ですか?」
「うん。そのほうが君も動きやすいだろ?」
差し出された手の上に自分の手をのせると、ランシード様は優しく手を握ってくれた。
「お願いしておきながら言うのもなんですが、ランシード様は本当にわたしで良かったのですか?」
「何でそんなことを聞くの?」
「わたしは後悔していませんが、ランシード様はやっぱり断れば良かったと思っているのではないかと思いまして」
「思ってないよ。そんな安易な気持ちで話を受けたわけじゃない」
ランシード様は先に歩くメイドの背中を追うように、わたしの手を握ったまま歩き出す。
「そういえば、ランシード様は今まで婚約者はいらっしゃらなかったのですか?」
「いたのはいたけど、解消したんだ」
「解消?」
「言おうとは思っていたし、ちょうど良い機会だから、今話すけど、ノノルーってわかるよね?」
「ディエル様の妹のノノルー様ですよね?」
「そう」
ランシード様は頷いてから苦笑する。
「ノノルーは僕の婚約者だった。でも、彼女はワガママなとこがあって、僕みたいな優等生は嫌いだって言ってたんだ」
「優等生?」
シード様の時のランシード様を知っているから、優等生だとはまったく思えない。
「表向きは今の状況だったから」
ランシード様は苦笑してから、メイドに聞こえないようにか、わたしの耳元で囁く。
「ノノルーは乱暴な俺が好みなんだってよ」
「どういうことです?」
聞き返すと、ランシード様の顔に戻って話をしてくれる。
「セフィリアの感覚で言えば、ランシードは嫌いだけど、シードは好きみたいな感じかな」
「ですが、シード様は貴族っぽくない感じはしますし、王太子殿下としては乱暴すぎるかと思うのですが、どうなのでしょう?」
「普通はそう思うんだけど、彼女はそうじゃなくて、弱そうだから僕との婚約を破棄したいって言ったんだ。で、僕も別にそんな理由で婚約の破棄を望むような人に妻になってもらいたくないし、解消ということで落ち着いた。それから、少しして、シードの役をするようになったんだ」
「そうだったんですね」
「うん。セフィリアは困惑はしてたけど、僕でも俺でも態度を変えなかったから嬉しい」
にこりと微笑むランシード様を見て、ノノルー様に対して恋愛感情があったかどうかはわからないけれど、その時は傷ついたのかもしれないと思ってしまった。
「ランシード様もシード様も心の根の部分は同じだと思います」
「ありがとう。で、話を戻すけど、ノノルーは僕と再婚約したがってるから、君にキツく当たったんだと思う。本当にごめん」
「シード様の姿を見られたのですか?」
「セフィリアを昨日攫うみたいに馬車に乗せただろ? それが良かったんだってさ」
「信じられません!」
お母様の復讐もそうだし、今の王家を潰したいという理由で、ランシード様との婚約をやめるつもりはなかった。
ノノルー様の話を聞いたら、余計に婚約を解消するという選択肢はなくなったと思った。
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