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16 義両親との顔合わせ
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約束の時間が近付いたため、私とリアム様は、公爵家の敷地のすぐ近くにある、リアム様のご両親が住んでいる屋敷に向かった。
先代の公爵夫妻の屋敷は、お二人と執事などの使用人、騎士が寝泊まりする部屋もあるからか、マオニール邸ほど大きくはないにしても、3階建ての大きな洋館だった。
約束をしているから、すぐに邸内にいれてもらえ、応接間に案内してくれるメイドの後に付いて歩いていると、リアム様が言う。
「アイリス、手と足が一緒に出てる」
「えっ!?」
緊張のあまりか、無意識の内にそんな事になってしまっていたらしく、隣を歩くリアム様に笑われてしまった。
「申し訳ございません」
「謝らなくてもいいよ」
「……リアム様は意地悪ですわね。人が緊張している姿を見て笑うだなんて酷いですわ」
少しだけムッとして、この国で上品だと言われている言葉遣いで話すと、リアム様が手を合わせて謝ってくれる。
「ごめんごめん、意地悪じゃなくて可愛いなって微笑ましく思っただけだよ」
「からかってますわね?」
「本当にそう思ったんだって」
そんな事を言ってくれているけど、クスクス笑っているから、可愛いだなんて絶対に思っていないに決まっている。
こんな風に笑われているのに、本気で腹が立たないのは、リアム様の笑顔から悪意を感じられないからかもしれない。
私に対する悪戯が成功して、その反応を見て大笑いしている時のことを思い出す。
あの時の不快感に比べれば、リアム様の笑顔はそれこそ可愛らしいものだ。
「アイリス、本当に可愛いと思ったんだよ。嫌な思いをさせたならごめん」
いつもよりも声が近くに聞こえると思って、いつの間にか俯いてしまっていた顔を上げた。
すると、リアム様の顔が私の顔のすぐ近くにあって、驚いて横に飛ぶように逃げる。
「ひゃあ!?」
「そんなに嫌がらなくても……。距離感を間違えてたことについては謝る」
「嫌がっているわけではないですわ! リアム様のお顔が近くにあると色々と辛いだけです」
「え、どういう事?」
お顔がとっても良いので、至近距離で見ると心臓に悪いんです!
とは言えず、不思議そうにしているリアム様に、とっさに思い付いた答えを返す。
「その、顔が白くて」
「え? その答えを聞いたら、余計に気になるんだけど? 白いと辛いの?」
リアム様が眉を寄せて聞き返してきた時、前を歩いていたメイドが足を止めた。
その為、私とリアム様も足を止め、メイドの行動に集中する。
メイドは部屋の扉をノックし、中から声が返ってくると、扉を開けてくれた。
まずはリアム様が中に入ると、部屋の入り口の横に立ち、私が入るのを待ってくれる。
私は一礼してから部屋の中に足を踏み入れて立ち止まった。
入って正面には応接セットがあり、そこに、リアム様のご両親である、エリザベス様とアンサム様が座っていた。
私の横にリアム様が立つと、お二人共がソファーから立ち上がって出迎えて下さり、お二人が座っておられた、向かい側のソファーに座るようにすすめてくださった。
エリザベス様もアンサム様も、リアム様のご両親だと納得できてしまうほどの美男美女だった。
ご夫婦共に40歳手前らしいのだけれど、20代だと言われても疑わない程に若々しく見える。
エリザベス様は肌がとても白くて、好奇心のせいなのか、私に向けている、ぱっちりとした大きな赤い瞳がキラキラしていて可愛らしい。
アンサム様はリアム様がお父さま似なのだと一目でわかるほど、調った顔をされていて、まるで幼さのなくなったリアム様といった感じだった。
「父上、母上、紹介が遅くなり申し訳ございません。彼女が急遽、僕の我儘で嫁に来てくれたアイリスです」
「アイリスと申します。ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ございませんでした」
カーテシーをすると、リアム様が今度は私に、ご両親を紹介してくれる。
「アイリス、こちらに座っている二人が僕の両親だよ」
リアム様の言葉を受けて、アンサム様が私を見て言う。
「はじめまして。リアムの父のアンサムだ。よろしく」
「私がリアムの母のエリザベスよ。よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。あの、エリザベス様、お礼が遅くなりましたが、先日は素敵なお部屋をご用意いただき、ありがとうございました」
頭を下げると、腰まである長いウェーブのかかった黒髪を揺らし、エリザベス様は両手を口の前で合わせて聞いてこられた。
「気に入ってもらえたかしら? 娘がいたら、こんな部屋にしてあげたいな、って思っていたものにしたんだけれど、どうだった? 好みもあるだろうからと思って、たくさん選んでしまってごめんなさいね?」
「とても素敵で、どの部屋を使わせていただくか迷ってしまいました」
エリザベス様が用意して下さったお部屋は、木製の家具以外はピンク、白、水色のものが多く、どの部屋にも天蓋付きのベッドがあって、自分がお姫様になった様な気分になれる。
そんな可愛らしい部屋が何個も用意されていたものだから、エリザベス様の気持ちを無駄にしたくないこともあり、何日かごとに部屋を移動することに決めた。
「嬉しいわ! 一生懸命、選んでよかった! 良かったら、色々と他にも選んでもよいかしら?」
エリザベス様が嬉しそうに微笑んだ時だった。
黙って話を聞いていたアンサム様がエリザベス様の背中に手を回したかと思うと、後ろから本を一冊引っ張り出し、エリザベス様の顔の前に持っていった。
すると、エリザベス様は明るかった表情を暗いものに変えて、いきなり黙り込んでしまった。
「あの、どうかされましたか?」
「いや、全然、役に立っていないもんだから、再認識させただけだ」
尋ねた私に、アンサム様は持っていた本の表紙をこちらに向けて見せてくれた。
本の題名は「息子の嫁に嫌われない、姑、舅になる為の本」と書かれていた。
「アイリスさん、ごめんなさい。あまりにも嬉しくて調子にのってしまったわ。不快な思いをさせてしまったわよね?」
エリザベス様は可愛らしいお顔を両手で覆って言った。
「気になさらないで下さい。エリザベス様、私は何も不快な思いなんてしておりませんので」
「……そう言ってもらえると助かるわ。ありがとう」
そう返してくれたけれど、なぜかエリザベス様は顔を覆ったまま、指の隙間から、チラチラと私を見ているのがわかった。
――何か仰っしゃりたいことがあるのかしら?
尋ねようか迷っていると、とんとん、と横に座っているリアム様が私の肩を優しく叩いた。
「どうかされましたか?」
「エリザベス様っていう呼び方が嫌みたいだよ」
「そ、そんな……! では、なんとお呼びすれば良いのでしょうか?」
「母上は僕の母上だけど、君の義理の母でもあるよね?」
「……」
リアム様は苦笑する。
エリザベス様が何を言おうとしているのかはわかったけれど、そう呼んでもいいのかわからない。
――だって、私はお飾りの妻なのよ?
でも、エリザベス様は顔を覆ったまま待ってくださっているし、ここは、お飾りの妻としての役目をはたさないといけないわよね。
「あの、お義母様? とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「ありがとう! とても嬉しいわ!」
私が小首を傾げると、エリザベス様は両手を顔からはなし、ぱあっと明るい表情を見せてくれた。
「妻が面倒くさくてすまない」
「母上がごめんね」
そんなエリザベス様を見た、アンサム様とリアム様が謝って下さる。
「謝らないでくださいませ。お義母様のお気持ちは本当に嬉しいんです」
私にしてみれば、エリザベス様に可愛がっていただけそうな気がして嬉しかったのは確かだった。
先代の公爵夫妻の屋敷は、お二人と執事などの使用人、騎士が寝泊まりする部屋もあるからか、マオニール邸ほど大きくはないにしても、3階建ての大きな洋館だった。
約束をしているから、すぐに邸内にいれてもらえ、応接間に案内してくれるメイドの後に付いて歩いていると、リアム様が言う。
「アイリス、手と足が一緒に出てる」
「えっ!?」
緊張のあまりか、無意識の内にそんな事になってしまっていたらしく、隣を歩くリアム様に笑われてしまった。
「申し訳ございません」
「謝らなくてもいいよ」
「……リアム様は意地悪ですわね。人が緊張している姿を見て笑うだなんて酷いですわ」
少しだけムッとして、この国で上品だと言われている言葉遣いで話すと、リアム様が手を合わせて謝ってくれる。
「ごめんごめん、意地悪じゃなくて可愛いなって微笑ましく思っただけだよ」
「からかってますわね?」
「本当にそう思ったんだって」
そんな事を言ってくれているけど、クスクス笑っているから、可愛いだなんて絶対に思っていないに決まっている。
こんな風に笑われているのに、本気で腹が立たないのは、リアム様の笑顔から悪意を感じられないからかもしれない。
私に対する悪戯が成功して、その反応を見て大笑いしている時のことを思い出す。
あの時の不快感に比べれば、リアム様の笑顔はそれこそ可愛らしいものだ。
「アイリス、本当に可愛いと思ったんだよ。嫌な思いをさせたならごめん」
いつもよりも声が近くに聞こえると思って、いつの間にか俯いてしまっていた顔を上げた。
すると、リアム様の顔が私の顔のすぐ近くにあって、驚いて横に飛ぶように逃げる。
「ひゃあ!?」
「そんなに嫌がらなくても……。距離感を間違えてたことについては謝る」
「嫌がっているわけではないですわ! リアム様のお顔が近くにあると色々と辛いだけです」
「え、どういう事?」
お顔がとっても良いので、至近距離で見ると心臓に悪いんです!
とは言えず、不思議そうにしているリアム様に、とっさに思い付いた答えを返す。
「その、顔が白くて」
「え? その答えを聞いたら、余計に気になるんだけど? 白いと辛いの?」
リアム様が眉を寄せて聞き返してきた時、前を歩いていたメイドが足を止めた。
その為、私とリアム様も足を止め、メイドの行動に集中する。
メイドは部屋の扉をノックし、中から声が返ってくると、扉を開けてくれた。
まずはリアム様が中に入ると、部屋の入り口の横に立ち、私が入るのを待ってくれる。
私は一礼してから部屋の中に足を踏み入れて立ち止まった。
入って正面には応接セットがあり、そこに、リアム様のご両親である、エリザベス様とアンサム様が座っていた。
私の横にリアム様が立つと、お二人共がソファーから立ち上がって出迎えて下さり、お二人が座っておられた、向かい側のソファーに座るようにすすめてくださった。
エリザベス様もアンサム様も、リアム様のご両親だと納得できてしまうほどの美男美女だった。
ご夫婦共に40歳手前らしいのだけれど、20代だと言われても疑わない程に若々しく見える。
エリザベス様は肌がとても白くて、好奇心のせいなのか、私に向けている、ぱっちりとした大きな赤い瞳がキラキラしていて可愛らしい。
アンサム様はリアム様がお父さま似なのだと一目でわかるほど、調った顔をされていて、まるで幼さのなくなったリアム様といった感じだった。
「父上、母上、紹介が遅くなり申し訳ございません。彼女が急遽、僕の我儘で嫁に来てくれたアイリスです」
「アイリスと申します。ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ございませんでした」
カーテシーをすると、リアム様が今度は私に、ご両親を紹介してくれる。
「アイリス、こちらに座っている二人が僕の両親だよ」
リアム様の言葉を受けて、アンサム様が私を見て言う。
「はじめまして。リアムの父のアンサムだ。よろしく」
「私がリアムの母のエリザベスよ。よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。あの、エリザベス様、お礼が遅くなりましたが、先日は素敵なお部屋をご用意いただき、ありがとうございました」
頭を下げると、腰まである長いウェーブのかかった黒髪を揺らし、エリザベス様は両手を口の前で合わせて聞いてこられた。
「気に入ってもらえたかしら? 娘がいたら、こんな部屋にしてあげたいな、って思っていたものにしたんだけれど、どうだった? 好みもあるだろうからと思って、たくさん選んでしまってごめんなさいね?」
「とても素敵で、どの部屋を使わせていただくか迷ってしまいました」
エリザベス様が用意して下さったお部屋は、木製の家具以外はピンク、白、水色のものが多く、どの部屋にも天蓋付きのベッドがあって、自分がお姫様になった様な気分になれる。
そんな可愛らしい部屋が何個も用意されていたものだから、エリザベス様の気持ちを無駄にしたくないこともあり、何日かごとに部屋を移動することに決めた。
「嬉しいわ! 一生懸命、選んでよかった! 良かったら、色々と他にも選んでもよいかしら?」
エリザベス様が嬉しそうに微笑んだ時だった。
黙って話を聞いていたアンサム様がエリザベス様の背中に手を回したかと思うと、後ろから本を一冊引っ張り出し、エリザベス様の顔の前に持っていった。
すると、エリザベス様は明るかった表情を暗いものに変えて、いきなり黙り込んでしまった。
「あの、どうかされましたか?」
「いや、全然、役に立っていないもんだから、再認識させただけだ」
尋ねた私に、アンサム様は持っていた本の表紙をこちらに向けて見せてくれた。
本の題名は「息子の嫁に嫌われない、姑、舅になる為の本」と書かれていた。
「アイリスさん、ごめんなさい。あまりにも嬉しくて調子にのってしまったわ。不快な思いをさせてしまったわよね?」
エリザベス様は可愛らしいお顔を両手で覆って言った。
「気になさらないで下さい。エリザベス様、私は何も不快な思いなんてしておりませんので」
「……そう言ってもらえると助かるわ。ありがとう」
そう返してくれたけれど、なぜかエリザベス様は顔を覆ったまま、指の隙間から、チラチラと私を見ているのがわかった。
――何か仰っしゃりたいことがあるのかしら?
尋ねようか迷っていると、とんとん、と横に座っているリアム様が私の肩を優しく叩いた。
「どうかされましたか?」
「エリザベス様っていう呼び方が嫌みたいだよ」
「そ、そんな……! では、なんとお呼びすれば良いのでしょうか?」
「母上は僕の母上だけど、君の義理の母でもあるよね?」
「……」
リアム様は苦笑する。
エリザベス様が何を言おうとしているのかはわかったけれど、そう呼んでもいいのかわからない。
――だって、私はお飾りの妻なのよ?
でも、エリザベス様は顔を覆ったまま待ってくださっているし、ここは、お飾りの妻としての役目をはたさないといけないわよね。
「あの、お義母様? とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「ありがとう! とても嬉しいわ!」
私が小首を傾げると、エリザベス様は両手を顔からはなし、ぱあっと明るい表情を見せてくれた。
「妻が面倒くさくてすまない」
「母上がごめんね」
そんなエリザベス様を見た、アンサム様とリアム様が謝って下さる。
「謝らないでくださいませ。お義母様のお気持ちは本当に嬉しいんです」
私にしてみれば、エリザベス様に可愛がっていただけそうな気がして嬉しかったのは確かだった。
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