幸せなお飾りの妻になります!

風見ゆうみ

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18 嫌な手紙

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 プリステッド公爵令嬢と会った日から数日後、お義母様と二人で、中庭のガゼボでお茶を飲んでいた時だった。

「アイリスさんは結婚式を挙げたいと思ったことはないの?」
「結婚式……ですか?」

 突然、そんな話題になったので驚いて聞き返すと、お義母様は笑顔で頷く。

「ええ。私の時はウエディングドレスに憧れたものだけれど、アイリスさんは何も言わないから」
「お飾りの妻ですから、そういうことは必要はないと思いますし、パーティーのようなものも苦手なんです」
「そうね。アイリスさんはあまり注目をあびたくないのよね?」
「そうなんです。家族のこともあって、そういう催し物のサプライズも楽しめないですし、サプライズがあるんじゃないかって思ってしまうと、パーティー自体が楽しめなくなってきて……」

 ご期待にそえなくて申し訳ないと思っていると、お義母様は優しく微笑む。

「結婚式は挙げなくてもいいけれど、ウエディングドレスを着てみるのはどうかしら?」
「ですが、お金がもったいないかと」
「何を言っているの。本来なら結婚式だって披露宴だってしないといけないのに、何一つ出来ていないのよ?」
「世間体では、家族のみで結婚式を挙げたことになっていますから……」

 苦笑して言うと、お義母様は首を横に振る。

「本来ならアイリスさんが経験するものを、リアムのせいで出来なかったと思うと、本当に申し訳ないのよ」
「お義母様、私は今でも十分幸せなんです。あの家から出してくれたリアム様には感謝しかないんです」
「……私は、あなたには本当に感謝しかないわ」
「そんな! それは私のほうです。お飾りの妻だとわかっているのに、こんなに優しくしていただけて、お義母様にもお義父様にも感謝しています」
「何も出来ていないので感謝してもらえる理由はわからないが、こちらも感謝している」

 お義母様の声ではなく、心地よいバリトンボイスが聞こえて後ろを振り返ると、お義父様とリアム様がいた。

「あなた、いらしてたんですか」
「少し、用事があってな」

 先程の声の主はお義父様だったようで、お義父様は私を見て苦笑する。

「話の途中に割って入ってすまない」
「お気になさらないでください。お義父様に会えて光栄です」
「ありがとう。今日は君に話があって来たんだ」
「私に……ですか?」
「ああ。君は聞きたくないことかもしれないが、いつかは話をしないといけなくなるだろうから、早いうちに話をしておきたい」
「どのような内容なのでしょうか?」

 ドキドキしながら尋ねると、お義父様はお義母様の隣の椅子に座ってから口を開く。

「君のお父上からこちらに連絡が来た」
「も、申し訳ございません!」
 
 どうせ、お金をせびる話をお義父様宛に書いたたのだろうと思い、椅子から立ち上がって腰を折り曲げて謝る。

 すると、隣りに座ったリアム様が、私の腕を優しくつかんで座らせる。

「アイリス。父上は内容については、まだ何も言ってないだろ。それに話を聞いたとしても、君は悪くないから謝るな」
「ありがとうございます……。でも、不快な思いをさせてしまったことは確かだと思うんです。お義父様、私の両親はなんといってきたのでしょうか?」

 斜向かいに座っている、お義父様に恐る恐る尋ねると、手紙に書かれていた内容を教えてくれる。

「両家の顔合わせの場所を指定してきたのと、その分の手間賃や、そこに行くまでの交通費の請求、それから一度、君を家に戻すようにと書かれてあった」
「僕が日にちを延ばしていたから気に食わなくて、父上の方に連絡したみたいだ。本当にごめん」
「リアム様は悪くありません! お忙しいのですからスケジュールの調整もあるでしょうから! それに、私が家族と会いたくないから引き延ばしてくださっていたのでしょう?」
「……そんな、今にも泣きそうな顔をしないでよ」

 リアム様はよしよし、と私の頭をなでてくださったあと、お義父様の方に向き直って言う。

「顔合わせなんですが、結婚記念のパーティーという名目で、大勢の客を呼び、短い時間になりますが、その場で顔を合わせてもらおうかと思ってたんですが」
「俺はそれでかまわない。ただ、ノマド男爵が勝手に店を予約したようだ。こちらが行かないと断っても、どうせ彼らは行くだろうし、予約は無駄にはならんだろ。請求がきたら金くらいは払ってやれ」
「わかりました」

 頷いたリアム様に慌てて言う。

「お支払する必要なんてありません! 自分達に出させるべきです」
「君の家族は僕にとっても家族なんだから、僕が出せばいいだろ」
「そうよ、アイリスさん。夫婦なんだから、そこまで遠慮しなくてもいいのよ」

 お義母様の言葉のあと、お義父様も無言で首を縦に振ってくれた。

「でも、私の家族の事です。好きなようにさせていると調子にのるでしょうから、お店をキャンセルした方が良いのではないでしょうか?」
「それでいいんだよ」

 意味がわからなくて、リアム様に聞き返す。

「どういうことでしょうか?」
「どうせなら、幸せだと感じている時に、どん底に落とす方がいいだろ?」
「そのとおりだ。それに、義理の家族の飲食費を出さない公爵家だと思われても困る」

 リアム様の言葉にお義父様が同意された。

「……私も何かお手伝いをしたいのですが」
「気持ちはありがたいけど、汚れ仕事は僕や周りがやるから、アイリスは気にしなくていいよ」

 リアム様はまた、私の頭を撫でてから微笑んで言った。
 
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