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32 伝わったようで伝わってない

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 お茶会に行くと決まってからのリアムの私に対する態度が、今までと変わってしまい、かなり困惑していた。
 冷たい態度をとるようになったとか、そういうことではなく、逆に、私に甘くなったような気がしているから、どうしたら良いのかわからなかった。

 もしかして、私と別れたくなったとか?
 後ろめたい気持ちがあって優しくしているのかもしれない。

 そう思うと不安になって雑念が入ってしまうため、特訓中はなるべくリアムに会わないようにした。

 けれど、何事もやりすぎはいけないし、ちゃんと考えていることを本人に確認しなければならないのだと思い知らされることが起きた。

 それは、リアムが朝食中をとっている間に花を替え終わり、執務室から出た時だった。

「アイリス、ちょっと話があるんだけど」

 リアムが待ち構えていた。
 私に話しかけてきたリアムは笑顔を見せてくれてはいたけれど、目は笑っていなかった。

「あの……、私、何かしてしまいましたでしょうか」

 逃げられないようにか、壁と壁に手をつけたリアムに、私の体は挟まれてしまい身動きがとりにくい。
 その為、ビクビクしながら問いかけた。

「それは僕のセリフだよ。どうして僕を避けるのかな? 知らない間に、僕は君の嫌がることをしてしまった?」
「リアムは何もしていません!」
「じゃあ、どうして避けるの?」
「避けているといいますか、リアムの迷惑にならないようにしているだけです」
「僕に迷惑? どういうこと?」

 リアムが顔を近づけてくるので、パニックになりそうになる。

 顔が良い上に、好きな人に顔を近づけられて、冷静でいられるはずがないわ。
 それに、私はこの気持ちを知られてはいけないんだから!

 何とか冷静になって答える。

「その、プリステッド公爵令嬢のお茶会が近付いてきて、リアムは憂鬱そうですし、それは私のせいだと思いまして!」
「どうしてアイリスのせいなの?」
「私が、幼い頃から貴族としての教育を受けた女性でしたら、リアムはこんなことに悩まされずに済んだはずですので……」

 あなたは私と別れたいんですよね?

 なんて、聞けるはずもなく、思い付いた理由を言ってみた。

「僕を悩ませていると思っていたから避けてたってこと?」
「リアムがあまりにも優しいので、気を遣ってくれているのかなと思ったんです! それなら気を遣わせないように会わないほうが良いのかと思いまして!」

 リアムから視線をそらし、目を斜め下に向けて言うと、リアムの大きなため息が頭上から聞こえた。

「避けたりせずに、そう言ってくれたら良かったのに」
「で、ですが、そう言っても、リアムは私に優しくすると思ったんです」
「だからって避けるっておかしくない?」
「その時はそうしたほうが良いと思い込んでいたんです。これからは気をつけますので」

 リアムは壁につけていた手を、今度は私の両頬に当てて、自分の方に顔を向けさせる。

「ちゃんとこっち見て」
「はい」

 顔は向けられたけれど、リアムの目を直視できない。

「アイリス、最近、様子が変だよね? 君が僕に気を遣って避けているというのは、今までにもあったけど、ここまであからさまなことはなかったから。もしかして、僕の気持ちに気付いてる?」
「リアムの……気持ち?」

 胸に不安が広がっていく。

 やっぱり、リアムは私の事を面倒だと思い始めている?

 もっと普通の貴族の女性を選べば良かったと思っているのかもしれない。

「契約違反だって怒ってる?」
「怒ってなんかいません。リアムは何も悪くありませんから」
「でも、僕が言い出したことだよ」
「大丈夫です。覚悟はしています」
「え? 覚悟?」

 リアムが焦った顔をしたので、これ以上、困らせてはいけないと思って、笑顔で言う。

「とにかく、リアムが幸せに生きていけるように、プリステッド公爵令嬢とのお茶会を済ませてしまいますね! それから、将来のことについてお話するというのはいかがでしょう?」
「将来? アイリス、それってどういう意味?」
「リアムは私と別れたいのでしょう?」
「は?」

 リアムは呆気にとられた顔をしたあと、私の頬を自分の顔により近付けて言う。

「なんで、そんな事になってるんだよ?」
「そういうことじゃないんですか?」
「ないよ!」
「本当ですか!」

 リアムが私と別れたがっているんじゃないとわかって嬉しくなり、リアムの両手に私の両手を重ねる。

「嬉しいです! リアムが優しいから言い出しにくいのかと思ってました」
「え!? いや、そんなわけないだろ?」
「では、心置きなく頑張れそうです。リアム、話しかけてくださり、ありがとうございます」

 リアムの手をつかみ、そっと私の頬からはなし、カーテシーをする。

「では、特訓の時間ですので、失礼いたしますわ」
「え!? アイリス!?」

 リアムは何か言いたげにしていたけれど、約束の時間が本当に迫っていたので、急いで自分の部屋に戻ることにしたのだった。
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