36 / 69
36 直接対決①
しおりを挟む
「色々とありましたけれど、アイリス様はとてもお優しい方だとお聞きしておりますので、今日の無礼はお許しくださいますよね?」
席に座ったのはいいものの沈黙が続き、私も特に口を開かなかったからか、プリステッド公爵令嬢が話しかけてきたので対応する。
「許さないことも優しさかとは思いますが、今回については反省していらっしゃるなら許しますわ。もちろん、主人には連絡させていただきますけれど」
「……あの令嬢達に罰を与えるおつもりですか?」
訝しげな顔をしたプリステッド公爵令嬢に微笑む。
「いいえ。あのお二人の処遇に感してはプリステッド公爵令嬢が考えてくださるのでしょう? 私が主人に話すことは別の話ですわ」
「では、何をお話されるおつもりなのです?」
どこか不安げな表情のプリステッド公爵令嬢に向かって笑みを絶やさぬまままま答える。
「今日起こったお話をさせていただくつもりですわ。時間を間違えたと言われたり、違う場所に案内されたり、こちらが嫌がらせだと受けとってもおかしくないことをされておられますからね?」
「嫌がらせだなんて!」
プリステッド公爵令嬢が必死の形相で叫び、残っている二人の令嬢に助けを求める。
「お聞きになりましたか!? わたくしが嫌がらせをしたと、アイリス様が仰っしゃりましたわよね!?」
「え……、えっと……」
尋ねられた令嬢達は明らかに返答に困っていた。
プリステッド公爵令嬢を助けたとしても、都合が悪くなれば見捨てられてしまうのなら、どちらについたほうが得なのかは、考えなくてもわかることだと思われる。
「嫌がらせだと受け取ってもおかしくない、と言われただけで、嫌がらせとは言っておられないような……」
令嬢の裏切りに、プリステッド公爵令嬢は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「あなた! わたくしが間違ったことを言っていると仰るの!?」
「い、いえ、その、間違ったと言っているわけではっ!」
令嬢が泣き出しそうになってしまったので、助けに入ることにする。
「プリステッド公爵令嬢、彼女の言うとおりですわ。私はプリステッド公爵令嬢に嫌がらせをされただなんて言葉にしてはおりません。嫌がらせだと受け取ってもおかしくない、とお伝えしただけですわ」
そこで言葉を区切り、にっこり微笑んで尋ねる。
「それとも、やはり嫌がらせでしたの?」
「ち、違いますわ!」
「それなら、そこまで必死になる必要はありまして?」
「わ、わたくしの名誉が……っ!」
「プリステッド公爵令嬢は名誉を気にされておられるようですが、他の皆様は知らないことを、ここで口にしてしまってもよろしいのでしょうか? そちらの方が名誉を傷つける話だと思いますが」
リアム達が調べてくれた限りでは、プリステッド公爵令嬢が警察に事情聴取をされたことは、多くの貴族には伝わっていない。
知っているのは他の公爵家や王家、警察関係者くらいなので、ここにいる令嬢達もその親ももちろん、知っているわけがない。
それが知られてしまうと、プリステッド公爵家の権力が落ちるはずなので、プリステッド公爵令嬢だって知られたくないはずだった。
「な、わたくしにはっ、別にやましい事などっ!」
「そうですか。では、お話させていただきますわね」
「アイリス様っ!」
プリステッド公爵令嬢は顔を真っ赤にしたまま立ち上がると、私を睨みつける。
「あら、どうかされましたか? やましいことがないようでしたら、そこまでお怒りになる必要はないのでは?」
「失礼な言い方をあなたがしてくるからですわ!」
好戦的な気持ちが沸き上がってくるのをなんとかこらえて、冷静に対応する。
「気に障るようなことを言ってしまったのでしたら謝りますわ。ただ、何が気に障ってしまったのか教えていただけませんでしょうか。二度と同じことをしたくはありませんので」
「それは、その、わたくしが、まるで、嫌がらせをしたみたいに!」
「実際は嫌がらせではなかったのでしょう?」
「それは……、そうですがっ」
プリステッド公爵令嬢は必死に言い返す言葉を探しているようだった。
他の令嬢二人の方に目をやると、二人共、泣き出しそうな顔をしているので声をかける。
「お二人共、気分が優れないようですわね。今日はお帰りになったらいかがでしょう?」
「で、ですが……」
令嬢達が困った顔でプリステッド公爵令嬢のほうを見た。
しょうがないわね。
帰りやすいようにしてあげましょう。
「プリステッド公爵令嬢、ここにいるお二方はあなたのお友達なのでしょう? 気分が優れないと言ってらっしゃる友人を帰らせないだなんてことはありませんわよね?」
「も、もちろんですわっ」
プリステッド公爵令嬢は頷くと、二人に今日は帰るように促した。
そして、ガゼボの中には、私とプリステッド公爵令嬢だけが残った。
さあ、ここからが本番だわ。
予想外の展開だけれど、打たれ強さには自信はある。
あとは、リアムやお義父様やお義母様の名誉を守るためにも、どれだけ冷静に対応できるかだわ。
席に座ったのはいいものの沈黙が続き、私も特に口を開かなかったからか、プリステッド公爵令嬢が話しかけてきたので対応する。
「許さないことも優しさかとは思いますが、今回については反省していらっしゃるなら許しますわ。もちろん、主人には連絡させていただきますけれど」
「……あの令嬢達に罰を与えるおつもりですか?」
訝しげな顔をしたプリステッド公爵令嬢に微笑む。
「いいえ。あのお二人の処遇に感してはプリステッド公爵令嬢が考えてくださるのでしょう? 私が主人に話すことは別の話ですわ」
「では、何をお話されるおつもりなのです?」
どこか不安げな表情のプリステッド公爵令嬢に向かって笑みを絶やさぬまままま答える。
「今日起こったお話をさせていただくつもりですわ。時間を間違えたと言われたり、違う場所に案内されたり、こちらが嫌がらせだと受けとってもおかしくないことをされておられますからね?」
「嫌がらせだなんて!」
プリステッド公爵令嬢が必死の形相で叫び、残っている二人の令嬢に助けを求める。
「お聞きになりましたか!? わたくしが嫌がらせをしたと、アイリス様が仰っしゃりましたわよね!?」
「え……、えっと……」
尋ねられた令嬢達は明らかに返答に困っていた。
プリステッド公爵令嬢を助けたとしても、都合が悪くなれば見捨てられてしまうのなら、どちらについたほうが得なのかは、考えなくてもわかることだと思われる。
「嫌がらせだと受け取ってもおかしくない、と言われただけで、嫌がらせとは言っておられないような……」
令嬢の裏切りに、プリステッド公爵令嬢は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「あなた! わたくしが間違ったことを言っていると仰るの!?」
「い、いえ、その、間違ったと言っているわけではっ!」
令嬢が泣き出しそうになってしまったので、助けに入ることにする。
「プリステッド公爵令嬢、彼女の言うとおりですわ。私はプリステッド公爵令嬢に嫌がらせをされただなんて言葉にしてはおりません。嫌がらせだと受け取ってもおかしくない、とお伝えしただけですわ」
そこで言葉を区切り、にっこり微笑んで尋ねる。
「それとも、やはり嫌がらせでしたの?」
「ち、違いますわ!」
「それなら、そこまで必死になる必要はありまして?」
「わ、わたくしの名誉が……っ!」
「プリステッド公爵令嬢は名誉を気にされておられるようですが、他の皆様は知らないことを、ここで口にしてしまってもよろしいのでしょうか? そちらの方が名誉を傷つける話だと思いますが」
リアム達が調べてくれた限りでは、プリステッド公爵令嬢が警察に事情聴取をされたことは、多くの貴族には伝わっていない。
知っているのは他の公爵家や王家、警察関係者くらいなので、ここにいる令嬢達もその親ももちろん、知っているわけがない。
それが知られてしまうと、プリステッド公爵家の権力が落ちるはずなので、プリステッド公爵令嬢だって知られたくないはずだった。
「な、わたくしにはっ、別にやましい事などっ!」
「そうですか。では、お話させていただきますわね」
「アイリス様っ!」
プリステッド公爵令嬢は顔を真っ赤にしたまま立ち上がると、私を睨みつける。
「あら、どうかされましたか? やましいことがないようでしたら、そこまでお怒りになる必要はないのでは?」
「失礼な言い方をあなたがしてくるからですわ!」
好戦的な気持ちが沸き上がってくるのをなんとかこらえて、冷静に対応する。
「気に障るようなことを言ってしまったのでしたら謝りますわ。ただ、何が気に障ってしまったのか教えていただけませんでしょうか。二度と同じことをしたくはありませんので」
「それは、その、わたくしが、まるで、嫌がらせをしたみたいに!」
「実際は嫌がらせではなかったのでしょう?」
「それは……、そうですがっ」
プリステッド公爵令嬢は必死に言い返す言葉を探しているようだった。
他の令嬢二人の方に目をやると、二人共、泣き出しそうな顔をしているので声をかける。
「お二人共、気分が優れないようですわね。今日はお帰りになったらいかがでしょう?」
「で、ですが……」
令嬢達が困った顔でプリステッド公爵令嬢のほうを見た。
しょうがないわね。
帰りやすいようにしてあげましょう。
「プリステッド公爵令嬢、ここにいるお二方はあなたのお友達なのでしょう? 気分が優れないと言ってらっしゃる友人を帰らせないだなんてことはありませんわよね?」
「も、もちろんですわっ」
プリステッド公爵令嬢は頷くと、二人に今日は帰るように促した。
そして、ガゼボの中には、私とプリステッド公爵令嬢だけが残った。
さあ、ここからが本番だわ。
予想外の展開だけれど、打たれ強さには自信はある。
あとは、リアムやお義父様やお義母様の名誉を守るためにも、どれだけ冷静に対応できるかだわ。
149
あなたにおすすめの小説
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
【完結】金貨三枚から始まる運命の出会い~家族に虐げられてきた家出令嬢が田舎町で出会ったのは、SSランクイケメン冒険者でした~
夏芽空
恋愛
両親と妹に虐げられ続けてきたミレア・エルドール。
エルドール子爵家から出ていこうと思ったことは一度や二度ではないが、それでも彼女は家に居続けた。
それは、七年付き合っている大好きな婚約者と離れたくなかったからだ。
だがある日、婚約者に婚約破棄を言い渡されてしまう。
「君との婚約を解消させて欲しい。心から愛せる人を、僕は見つけたんだ」
婚約者の心から愛する人とは、ミレアの妹だった。
迷惑料として、金貨三枚。それだけ渡されて、ミレアは一方的に別れを告げられてしまう。
婚約破棄されたことで、家にいる理由を無くしたミレア。
家族と縁を切り、遠く離れた田舎街で生きて行くことを決めた。
その地でミレアは、冒険者のラルフと出会う。
彼との出会いが、ミレアの運命を大きく変えていくのだった。
【完結】ご期待に、お応えいたします
楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。
ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー
ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。
小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。
そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。
けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる