44 / 69
44 自分なりの復讐
しおりを挟む
「何の連絡もしてこないなんて、お前は本当に親不孝な娘だ! 心配で食事もろくに喉を通らなかったんだぞ!」
誕生日パーティーの会場となるダイニングルームに着くと、サマンサが横にいるにも関わらず、お父さまは私に近寄ってきて叫んだ。
何十日かぶりに会ったけれど、痩せたようには見えないし、どちらかといえば、太っているようにも思えた。
サマンサには席に着いていてもらい、私はお父様と入り口付近で話すことにした。
「お父さま、お久しぶりです。それにしても、久しぶりに会った娘に対して、開口一番の言葉がそれですか? リアムから聞きましたが、贅沢に過ごされているようですね」
「そ、それはまあ……、その、なんだ。まあ、色々とあるだろう」
私が冷たく言い返すと、お父さまは都合が悪そうに、ゴニョゴニョと言いながら視線をそらした。
最近、リアムに教えてもらったのだけれど、前にココルと街で出会った時に、リアムは私の家族を街から遠ざけなければいけないと考えた。
プリステッド公爵令嬢との話が落ち着いてから、リアムは私の家族に、森の奥深くにある大きな一軒家を買い与え、その屋敷に引っ越させたらしい。
その際、馬車は与えず、通いの人間を雇って、必要なものがあれば、その人が買ってくるようにさせた。
ノマド男爵家での仕事は優秀な人を雇い、その人に代理でさせているらしいけれど、このままいくと、ノマド家の血を一切ひかない人間がノマド家の当主になるかもしれなかった。
もしくは、リアムがノマド家の爵位を買い取ってくれる可能性はあるけれど、そちらについては、まだ先の話なので、今は考えないでおく。
ちなみに、今日は馬車を自分達で予約して、その馬車でここまで来たらしい。
「お姉さま、お誕生日おめでとう! 今日はスペシャルなプレゼントを持ってきたわ! お姉さまが喜んでくれたらいいけど!」
ショッキングピンクのフリルがたくさんついたドレスを着たココルが近付いてきて、私に笑顔で言った。
「何だかわからないけど、プレゼントをくれるのね? ありがとう。私もあなた達に渡したいものがあるのよ」
そう言って、後ろに控えていたエニスからペンと折りたたまれた白い紙を2枚受け取る。
家族に祝ってほしいわけではないから、先に終わらせることにして、ゆっくり、サマンサ達にお祝いしてもらおうと思った。
「どうかしたの?」
お母様も近寄ってきたので、三人に向かって差し出す。
「サインして欲しいの」
「何なの?」
訝しげな顔をして、ココル達は紙を受け取り、内容を読むと、満面の笑みをこちらに向けた。
「本当にいいの!?」
「ええ」
聞いてきたココルに頷いた。
「アイリス!」
部屋の奥にいたリアムが私の所へ来ようとしてくれたけど、来なくて大丈夫だと、首を横に振る。
リアムは困ったような顔をして足を止めた。
お父様達に渡した紙には、リアムから私に小遣いとして渡されていた、現在までのお金を、全て現金で渡すと書いてある。
かなりの額になっているから、お父様達はそれは上機嫌になった。
「サインしたらくれるんだな?」
「ええ。その代わり、家族全員のサインがほしいわ」
「いいわ!」
ココルが代表して頷き、それはもう喜んで、三人共サインをしてくれた。
「1枚はプレゼントするわ。こっちはトーイが預かってもらえますか?」
「……わかりました」
ダイニングルームの奥で、リアムと一緒に様子を見守ってくれていたトーイに紙を差し出すと、彼は困惑の表情を浮かべながらも受け取ってくれた。
「アイリス?」
心配そうな顔をしているリアムのところに行って微笑む。
「大丈夫ですから、心配しないでください」
「でも……」
「リアム、信じて下さい」
手を一度強く握ると、リアムは握り返してくれた。
「わかったよ」
「ありがとうございます」
お礼を言ってリアムの手をはなし、サインしてもらったもう1枚の紙を家族に手渡す前に、私はやらなければいけないことをする。
「成功しました。私の悪戯」
ココル達に向かって微笑み、事情を話しているエニスから燭台を受け取り、ロウソクの火で紙の空白部分を炙った。
すると、文字が浮かび上がる。
浮かび上がった文章を家族に見せると、三人の表情が驚愕のものに変わった。
浮かび上がった内容は、こうだった。
『アイリス・マオニールと縁を切る事を誓う。二度と彼女の目の前に姿を現さず、連絡もしないことを誓う。もし、家族の誰か一人でもそれを破れば、家族全員が最北の地で労役に服する事を誓う』
お金を受け取れるけれど、三人はこの約束も守らないといけなくなったのだった。
誕生日パーティーの会場となるダイニングルームに着くと、サマンサが横にいるにも関わらず、お父さまは私に近寄ってきて叫んだ。
何十日かぶりに会ったけれど、痩せたようには見えないし、どちらかといえば、太っているようにも思えた。
サマンサには席に着いていてもらい、私はお父様と入り口付近で話すことにした。
「お父さま、お久しぶりです。それにしても、久しぶりに会った娘に対して、開口一番の言葉がそれですか? リアムから聞きましたが、贅沢に過ごされているようですね」
「そ、それはまあ……、その、なんだ。まあ、色々とあるだろう」
私が冷たく言い返すと、お父さまは都合が悪そうに、ゴニョゴニョと言いながら視線をそらした。
最近、リアムに教えてもらったのだけれど、前にココルと街で出会った時に、リアムは私の家族を街から遠ざけなければいけないと考えた。
プリステッド公爵令嬢との話が落ち着いてから、リアムは私の家族に、森の奥深くにある大きな一軒家を買い与え、その屋敷に引っ越させたらしい。
その際、馬車は与えず、通いの人間を雇って、必要なものがあれば、その人が買ってくるようにさせた。
ノマド男爵家での仕事は優秀な人を雇い、その人に代理でさせているらしいけれど、このままいくと、ノマド家の血を一切ひかない人間がノマド家の当主になるかもしれなかった。
もしくは、リアムがノマド家の爵位を買い取ってくれる可能性はあるけれど、そちらについては、まだ先の話なので、今は考えないでおく。
ちなみに、今日は馬車を自分達で予約して、その馬車でここまで来たらしい。
「お姉さま、お誕生日おめでとう! 今日はスペシャルなプレゼントを持ってきたわ! お姉さまが喜んでくれたらいいけど!」
ショッキングピンクのフリルがたくさんついたドレスを着たココルが近付いてきて、私に笑顔で言った。
「何だかわからないけど、プレゼントをくれるのね? ありがとう。私もあなた達に渡したいものがあるのよ」
そう言って、後ろに控えていたエニスからペンと折りたたまれた白い紙を2枚受け取る。
家族に祝ってほしいわけではないから、先に終わらせることにして、ゆっくり、サマンサ達にお祝いしてもらおうと思った。
「どうかしたの?」
お母様も近寄ってきたので、三人に向かって差し出す。
「サインして欲しいの」
「何なの?」
訝しげな顔をして、ココル達は紙を受け取り、内容を読むと、満面の笑みをこちらに向けた。
「本当にいいの!?」
「ええ」
聞いてきたココルに頷いた。
「アイリス!」
部屋の奥にいたリアムが私の所へ来ようとしてくれたけど、来なくて大丈夫だと、首を横に振る。
リアムは困ったような顔をして足を止めた。
お父様達に渡した紙には、リアムから私に小遣いとして渡されていた、現在までのお金を、全て現金で渡すと書いてある。
かなりの額になっているから、お父様達はそれは上機嫌になった。
「サインしたらくれるんだな?」
「ええ。その代わり、家族全員のサインがほしいわ」
「いいわ!」
ココルが代表して頷き、それはもう喜んで、三人共サインをしてくれた。
「1枚はプレゼントするわ。こっちはトーイが預かってもらえますか?」
「……わかりました」
ダイニングルームの奥で、リアムと一緒に様子を見守ってくれていたトーイに紙を差し出すと、彼は困惑の表情を浮かべながらも受け取ってくれた。
「アイリス?」
心配そうな顔をしているリアムのところに行って微笑む。
「大丈夫ですから、心配しないでください」
「でも……」
「リアム、信じて下さい」
手を一度強く握ると、リアムは握り返してくれた。
「わかったよ」
「ありがとうございます」
お礼を言ってリアムの手をはなし、サインしてもらったもう1枚の紙を家族に手渡す前に、私はやらなければいけないことをする。
「成功しました。私の悪戯」
ココル達に向かって微笑み、事情を話しているエニスから燭台を受け取り、ロウソクの火で紙の空白部分を炙った。
すると、文字が浮かび上がる。
浮かび上がった文章を家族に見せると、三人の表情が驚愕のものに変わった。
浮かび上がった内容は、こうだった。
『アイリス・マオニールと縁を切る事を誓う。二度と彼女の目の前に姿を現さず、連絡もしないことを誓う。もし、家族の誰か一人でもそれを破れば、家族全員が最北の地で労役に服する事を誓う』
お金を受け取れるけれど、三人はこの約束も守らないといけなくなったのだった。
132
あなたにおすすめの小説
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
【完結】金貨三枚から始まる運命の出会い~家族に虐げられてきた家出令嬢が田舎町で出会ったのは、SSランクイケメン冒険者でした~
夏芽空
恋愛
両親と妹に虐げられ続けてきたミレア・エルドール。
エルドール子爵家から出ていこうと思ったことは一度や二度ではないが、それでも彼女は家に居続けた。
それは、七年付き合っている大好きな婚約者と離れたくなかったからだ。
だがある日、婚約者に婚約破棄を言い渡されてしまう。
「君との婚約を解消させて欲しい。心から愛せる人を、僕は見つけたんだ」
婚約者の心から愛する人とは、ミレアの妹だった。
迷惑料として、金貨三枚。それだけ渡されて、ミレアは一方的に別れを告げられてしまう。
婚約破棄されたことで、家にいる理由を無くしたミレア。
家族と縁を切り、遠く離れた田舎街で生きて行くことを決めた。
その地でミレアは、冒険者のラルフと出会う。
彼との出会いが、ミレアの運命を大きく変えていくのだった。
【完結】ご期待に、お応えいたします
楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。
ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー
ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。
小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。
そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。
けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる