22 / 23
21 朝早くからの訪問者
しおりを挟む
それから、私とお母様は2人で馬車に乗り込み、目的地へと向かった。
目的地は、王妃様がこれから住む事になる屋敷だ。
お母様は王妃様の侍女に、私はその屋敷でメイドとして働く事になった。
王妃様にはお母様と一緒に話をしたところ、私がアーク殿下の元を離れる事には渋い顔はされたけれど、彼に居場所を教えない事を約束してくれ、私達の住む部屋も急遽、用意してくれると言って下さった。
屋敷に着いた私達は、屋敷の掃除などをして日々を過ごし、それから約20日後、やって来た王妃様をお迎えした。
王妃様からはアーク殿下の話を散々された。
彼に居場所を伝えないという約束は守って下さったけれど、それがとても辛かったらしい。
「あんなアークを見たのは初めてだわ。ねえ、ルルア、アークに教えちゃ駄目?」
「殿下なら、きっと乗り越えて下さるはずです」
「そうかしら…。諦めるとは思えないんだけど…」
そんな事を話していた数日後の事、朝早くに、私の部屋の扉をノックする誰かがいた。
「誰ですか?」
返事が返ってこない。
さすがに屋敷の中だし、危険な人物ではないかと思い、寝間着のままだけれど扉を開ける。
「おはようルア」
「で、殿下!? どうしてここに!?」
廊下に立っていたのは、アーク殿下だった。
お別れして一ヶ月くらいしか経っていないのに、急激に痩せたように見えて、一瞬、病気かと思ってしまった。
「会いたかった」
殿下はそう言うと、泣き出しそうな顔になってから、私を抱きしめてきた。
「ちょ!? 殿下!?」
「お前がいないと無理だ。生きていけない。責任をとれ」
「な、何を言ってらっしゃるんです!?」
「ポールとティーダから話を聞いた。余計な事を言った奴がいたとな」
「そ、それは…」
「全部片付けた」
「え?」
殿下の背中に腕をまわして、ぽんぽんと慰めるように叩きながら聞き返す。
「俺からお前を奪うような奴らを野放しにしてるわけないだろ」
「え、それは、どういう? 元父と元姉はどうなったんです?」
「捕まえたに決まってるだろ」
殿下は私を抱きしめたまま、部屋の中に入ってこようとする。
このままだと誰かに見られてしまうので、しょうがなく部屋に入れると、殿下が肘で扉を閉めた。
それと同時に抱きしめる腕の力が強くなった。
「あの、アーク殿下」
「戻って来い」
「それは…」
「今までも会えない日があったが、いつでも会いに行ける距離だから我慢出来た。だけど、ここではお前に何かあっても、すぐには来れないんだ」
「……まだ私を諦めないつもりですか」
「諦めるつもりは一切ない。もし、お前が嫌がるなら、嫌われても既成事実を作る。その責任をとって妻にする。そうすれば嫌われていても近くにいれるからな」
耳元で囁かれて、鼓動が早鐘を打った。
既成事実は困る。
そういうのはお互いにそういう気分になってからじゃないと嫌。
少なくとも、私はまだ、そこまでじゃない。
というか、殿下への気持ちが、自分の中ではっきりしていない。
好きなんだと思う。
だけど、それが同情なのか、恋なのか、まだはっきりしない。
恋している事を否定したい自分の方が強い。
何より、今の私は平民なのだから、殿下とどうしたって結婚はできない。
「殿下、私はもう伯爵令嬢どころか、貴族ではないんですよ」
「そう言うだろうと思ったから、手は打ってある」
「はい?」
「母上がお前の母に爵位を授ける事を決めた」
「ええ!?」
「王妃の侍女が平民というわけにもいかないだろ?」
「そう言われればそうですね」
どうして、そんな事に今まで気付かなかったのかしら。
私も、精神的に参ってたのかな…。
ため息を吐いてから、話題を変える。
「そういえば私の居場所、誰が漏らしたんです?」
「ミア」
間髪入れずに、殿下が答えた。
ミア様相手なら、私が怒らないという事は皆わかっているからだろう。
けれど、居場所を知らせた本当の相手はミア様じゃなかった。
「先にお前の母から連絡が来た。その連絡があったのを伝えたから、ミアも白状したんだがな」
「お母様はなんて?」
「ルルアは自分と一緒にいます、と書かれていた。けど、お前に気を遣ったんだろうな。どこにいるかは書かれてなくて、どうしても知りたいならミアに聞けと」
「母がどうしてるか殿下は知らなかったんですね」
「調べようとしたが足取りがつかめなかったんだ。皆、わかってて隠していたな」
殿下が舌打ちする。
「まあまあ、私に免じて許してあげて下さい」
「なら、戻ってくるんだな?」
「何でそうなるんですか」
「教えなかった奴らを処分するぞ」
「そんな事をしたら困るのは殿下ですよ」
「……」
そこはちゃんと理解できるらしい。
黙り込んでしまった。
「王妃様のお許しが出れば戻ります」
「じゃあ、今から母上に確認してくる」
そう言うと、殿下は私からはなれて、部屋から飛び出ると、王妃様の部屋がある方向に向かって走っていってしまった。
「まだ朝早いのに…」
しょうがない。
まだちょっと時間は早いけれど、動き出す準備をしましょうか。
目的地は、王妃様がこれから住む事になる屋敷だ。
お母様は王妃様の侍女に、私はその屋敷でメイドとして働く事になった。
王妃様にはお母様と一緒に話をしたところ、私がアーク殿下の元を離れる事には渋い顔はされたけれど、彼に居場所を教えない事を約束してくれ、私達の住む部屋も急遽、用意してくれると言って下さった。
屋敷に着いた私達は、屋敷の掃除などをして日々を過ごし、それから約20日後、やって来た王妃様をお迎えした。
王妃様からはアーク殿下の話を散々された。
彼に居場所を伝えないという約束は守って下さったけれど、それがとても辛かったらしい。
「あんなアークを見たのは初めてだわ。ねえ、ルルア、アークに教えちゃ駄目?」
「殿下なら、きっと乗り越えて下さるはずです」
「そうかしら…。諦めるとは思えないんだけど…」
そんな事を話していた数日後の事、朝早くに、私の部屋の扉をノックする誰かがいた。
「誰ですか?」
返事が返ってこない。
さすがに屋敷の中だし、危険な人物ではないかと思い、寝間着のままだけれど扉を開ける。
「おはようルア」
「で、殿下!? どうしてここに!?」
廊下に立っていたのは、アーク殿下だった。
お別れして一ヶ月くらいしか経っていないのに、急激に痩せたように見えて、一瞬、病気かと思ってしまった。
「会いたかった」
殿下はそう言うと、泣き出しそうな顔になってから、私を抱きしめてきた。
「ちょ!? 殿下!?」
「お前がいないと無理だ。生きていけない。責任をとれ」
「な、何を言ってらっしゃるんです!?」
「ポールとティーダから話を聞いた。余計な事を言った奴がいたとな」
「そ、それは…」
「全部片付けた」
「え?」
殿下の背中に腕をまわして、ぽんぽんと慰めるように叩きながら聞き返す。
「俺からお前を奪うような奴らを野放しにしてるわけないだろ」
「え、それは、どういう? 元父と元姉はどうなったんです?」
「捕まえたに決まってるだろ」
殿下は私を抱きしめたまま、部屋の中に入ってこようとする。
このままだと誰かに見られてしまうので、しょうがなく部屋に入れると、殿下が肘で扉を閉めた。
それと同時に抱きしめる腕の力が強くなった。
「あの、アーク殿下」
「戻って来い」
「それは…」
「今までも会えない日があったが、いつでも会いに行ける距離だから我慢出来た。だけど、ここではお前に何かあっても、すぐには来れないんだ」
「……まだ私を諦めないつもりですか」
「諦めるつもりは一切ない。もし、お前が嫌がるなら、嫌われても既成事実を作る。その責任をとって妻にする。そうすれば嫌われていても近くにいれるからな」
耳元で囁かれて、鼓動が早鐘を打った。
既成事実は困る。
そういうのはお互いにそういう気分になってからじゃないと嫌。
少なくとも、私はまだ、そこまでじゃない。
というか、殿下への気持ちが、自分の中ではっきりしていない。
好きなんだと思う。
だけど、それが同情なのか、恋なのか、まだはっきりしない。
恋している事を否定したい自分の方が強い。
何より、今の私は平民なのだから、殿下とどうしたって結婚はできない。
「殿下、私はもう伯爵令嬢どころか、貴族ではないんですよ」
「そう言うだろうと思ったから、手は打ってある」
「はい?」
「母上がお前の母に爵位を授ける事を決めた」
「ええ!?」
「王妃の侍女が平民というわけにもいかないだろ?」
「そう言われればそうですね」
どうして、そんな事に今まで気付かなかったのかしら。
私も、精神的に参ってたのかな…。
ため息を吐いてから、話題を変える。
「そういえば私の居場所、誰が漏らしたんです?」
「ミア」
間髪入れずに、殿下が答えた。
ミア様相手なら、私が怒らないという事は皆わかっているからだろう。
けれど、居場所を知らせた本当の相手はミア様じゃなかった。
「先にお前の母から連絡が来た。その連絡があったのを伝えたから、ミアも白状したんだがな」
「お母様はなんて?」
「ルルアは自分と一緒にいます、と書かれていた。けど、お前に気を遣ったんだろうな。どこにいるかは書かれてなくて、どうしても知りたいならミアに聞けと」
「母がどうしてるか殿下は知らなかったんですね」
「調べようとしたが足取りがつかめなかったんだ。皆、わかってて隠していたな」
殿下が舌打ちする。
「まあまあ、私に免じて許してあげて下さい」
「なら、戻ってくるんだな?」
「何でそうなるんですか」
「教えなかった奴らを処分するぞ」
「そんな事をしたら困るのは殿下ですよ」
「……」
そこはちゃんと理解できるらしい。
黙り込んでしまった。
「王妃様のお許しが出れば戻ります」
「じゃあ、今から母上に確認してくる」
そう言うと、殿下は私からはなれて、部屋から飛び出ると、王妃様の部屋がある方向に向かって走っていってしまった。
「まだ朝早いのに…」
しょうがない。
まだちょっと時間は早いけれど、動き出す準備をしましょうか。
応援ありがとうございます!
13
お気に入りに追加
1,695
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる