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8 殿下と呼び方
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「アーク殿下、ちょっと失礼します」
そう言って、私はアーク殿下に近付いて、彼の端正な顔を覗き込む。
今は高いヒールをはいているせいで、彼との身長差はほとんどないから、いつもより顔が近くに見えるので、彼の顔をじっくりと見てみる。
男前だとは思う。
色も白いし、肌はすべすべ。
目つきは悪いけど、性格と相違ないから、見ただけで気が強そうなのがわかるから良し。
あとは、ドキドキするか…?
そう思った時、突然、両頬をつかまれたかと思うと、アーク殿下がキスしようとしてきたので、慌てて、自分の手を彼の口に当てる。
「な、何をするんですか! 変態ですか!」
「惚れた女が顔を近付けてきてるから、キスしてほしいのかと思った」
「そんな訳ないでしょう!」
「いや、俺がミアにされたら、そう思う」
「誤解をしそうな見つめ方ではあったかも…」
レオだけではなく、ミア様にまで言われてしまった。
ショックを受けていると、ミア様が苦笑する。
「キス待ちというよりかは、ルルアからキスするのかと思って、ドキドキしたと言った方が正しいかしら?」
「それは失礼しました」
両頬をつかまれ、手をアーク殿下の口に当てたままなので、ミア様の方に顔を向けられずに謝ると、殿下は片手を頬からはなし、私の手首をつかむ。
「というわけで手をどけろ」
「どけたら、あなた、キスしますよね!?」
「する。何年我慢してると思ってる」
「はあ?」
「もう10年以上は我慢してる。させろ」
「嫌ですよ! するにしたって、こんな公衆の面前では無理です!」
「ほう。言ったな?」
殿下がにやりと極悪な笑みを浮かべた。
「今から人を殺しに行くような笑みを浮かべておられましたが?」
「失礼な奴だな。レオ、ミア、俺達は先に帰る」
「承知いたしました。ウィンスレット伯爵にはそう伝えておきます」
ミア様がアーク殿下に頭を下げる。
「ルルア、頑張れよー」
「頑張って!」
「私に味方はいないんですか!?」
レオと頭を上げたミア様に手を振られて、私はなすすべもなく、アーク殿下に外へ連れ出された。
「あ、お姉さまに帰る前に時間をちょうだいと言われていたんですが…」
馬車が玄関前に来るのを待ちながら言うと、殿下が眉をひそめて聞いてくる。
「姉と話をしたかったのか?」
「いいえ」
「そう思ったから、ミアもレオも俺達が帰るのを止めなかったんだろ」
「…私ったら。ミア様とレオに謝らないと」
2人から見捨てられたのかと思ってしまった。
よくよく考えたら、そんな人達ではないのに。
「…気になっていたんだが」
「なんです?」
「どうして、レオだけ呼び捨てなんだ?」
「レオだから、ですかね?」
「意味がわからん」
「ちなみに、ポールの事も呼び捨てにしてますよ」
ポールの名を聞いた途端、アーク殿下の眉間のシワが深くなった。
ポールというのは、ミア様の兄で、私の初恋の相手でもある。
アーク殿下も含め、私達3人は赤ちゃんの頃からの付き合いで、ポールは次期公爵だというのに奔放でやんちゃで、がさつなのに、ここぞという時には優しくしてくる人だ。
姉の本性もすぐに見抜いて、お姉さまに「お前なんかよりミアとルルアの方が可愛い」と、私をミア様と同一のように扱ってくれた。
ちょっとシスコン気味だけど、私にも意地悪な時もあったけれど優しかった。
そのせいで、男性に免疫のなかった私は、ころりと落ちた。
彼に婚約者が出来た時点で、私は彼の事を忘れる事に決めたし、今ではもちろん未練もない。
アーク殿下は私がポールを好きだった事を知っているから、不機嫌になったんだと思われる。
「では、俺の事もアークと呼べ」
「何を今さら言い出すんですか! それに、あなたは王太子ですよ?」
「気に食わん」
「そんな風に思ってたなら、もっと幼い頃に言って下さいよ。今から呼び方を変えるなんて難しいです」
「お前はワガママだな」
「どの口が言うんですか!」
言い返したと同時に「ルルア!」と私の名を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、お姉さまがこちらに向かってきている姿が見えた。
大きな声で騒いでしまったからなのか、それとも、私が見えなくなった事に気が付いたのか、どちらかはわからないけれど、お姉さまは私の前で立ち止まると言った。
「話をしたいんだけど!」
「なんでしょうか」
「ここではちょっと…」
お姉さまは殿下の方をチラリと見た。
すると、殿下は私の腕をとって、お姉さまに言った。
「俺達は忙しい。話は今度にしろ」
彼が言い終えると同時に、待っていた馬車が到着したので、お姉さまが何か言う前に、殿下が私を馬車の中へと押し込んだ。
そう言って、私はアーク殿下に近付いて、彼の端正な顔を覗き込む。
今は高いヒールをはいているせいで、彼との身長差はほとんどないから、いつもより顔が近くに見えるので、彼の顔をじっくりと見てみる。
男前だとは思う。
色も白いし、肌はすべすべ。
目つきは悪いけど、性格と相違ないから、見ただけで気が強そうなのがわかるから良し。
あとは、ドキドキするか…?
そう思った時、突然、両頬をつかまれたかと思うと、アーク殿下がキスしようとしてきたので、慌てて、自分の手を彼の口に当てる。
「な、何をするんですか! 変態ですか!」
「惚れた女が顔を近付けてきてるから、キスしてほしいのかと思った」
「そんな訳ないでしょう!」
「いや、俺がミアにされたら、そう思う」
「誤解をしそうな見つめ方ではあったかも…」
レオだけではなく、ミア様にまで言われてしまった。
ショックを受けていると、ミア様が苦笑する。
「キス待ちというよりかは、ルルアからキスするのかと思って、ドキドキしたと言った方が正しいかしら?」
「それは失礼しました」
両頬をつかまれ、手をアーク殿下の口に当てたままなので、ミア様の方に顔を向けられずに謝ると、殿下は片手を頬からはなし、私の手首をつかむ。
「というわけで手をどけろ」
「どけたら、あなた、キスしますよね!?」
「する。何年我慢してると思ってる」
「はあ?」
「もう10年以上は我慢してる。させろ」
「嫌ですよ! するにしたって、こんな公衆の面前では無理です!」
「ほう。言ったな?」
殿下がにやりと極悪な笑みを浮かべた。
「今から人を殺しに行くような笑みを浮かべておられましたが?」
「失礼な奴だな。レオ、ミア、俺達は先に帰る」
「承知いたしました。ウィンスレット伯爵にはそう伝えておきます」
ミア様がアーク殿下に頭を下げる。
「ルルア、頑張れよー」
「頑張って!」
「私に味方はいないんですか!?」
レオと頭を上げたミア様に手を振られて、私はなすすべもなく、アーク殿下に外へ連れ出された。
「あ、お姉さまに帰る前に時間をちょうだいと言われていたんですが…」
馬車が玄関前に来るのを待ちながら言うと、殿下が眉をひそめて聞いてくる。
「姉と話をしたかったのか?」
「いいえ」
「そう思ったから、ミアもレオも俺達が帰るのを止めなかったんだろ」
「…私ったら。ミア様とレオに謝らないと」
2人から見捨てられたのかと思ってしまった。
よくよく考えたら、そんな人達ではないのに。
「…気になっていたんだが」
「なんです?」
「どうして、レオだけ呼び捨てなんだ?」
「レオだから、ですかね?」
「意味がわからん」
「ちなみに、ポールの事も呼び捨てにしてますよ」
ポールの名を聞いた途端、アーク殿下の眉間のシワが深くなった。
ポールというのは、ミア様の兄で、私の初恋の相手でもある。
アーク殿下も含め、私達3人は赤ちゃんの頃からの付き合いで、ポールは次期公爵だというのに奔放でやんちゃで、がさつなのに、ここぞという時には優しくしてくる人だ。
姉の本性もすぐに見抜いて、お姉さまに「お前なんかよりミアとルルアの方が可愛い」と、私をミア様と同一のように扱ってくれた。
ちょっとシスコン気味だけど、私にも意地悪な時もあったけれど優しかった。
そのせいで、男性に免疫のなかった私は、ころりと落ちた。
彼に婚約者が出来た時点で、私は彼の事を忘れる事に決めたし、今ではもちろん未練もない。
アーク殿下は私がポールを好きだった事を知っているから、不機嫌になったんだと思われる。
「では、俺の事もアークと呼べ」
「何を今さら言い出すんですか! それに、あなたは王太子ですよ?」
「気に食わん」
「そんな風に思ってたなら、もっと幼い頃に言って下さいよ。今から呼び方を変えるなんて難しいです」
「お前はワガママだな」
「どの口が言うんですか!」
言い返したと同時に「ルルア!」と私の名を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、お姉さまがこちらに向かってきている姿が見えた。
大きな声で騒いでしまったからなのか、それとも、私が見えなくなった事に気が付いたのか、どちらかはわからないけれど、お姉さまは私の前で立ち止まると言った。
「話をしたいんだけど!」
「なんでしょうか」
「ここではちょっと…」
お姉さまは殿下の方をチラリと見た。
すると、殿下は私の腕をとって、お姉さまに言った。
「俺達は忙しい。話は今度にしろ」
彼が言い終えると同時に、待っていた馬車が到着したので、お姉さまが何か言う前に、殿下が私を馬車の中へと押し込んだ。
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