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5 最高だわ!
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タワオ邸の談話室でジーネをマルティン先生に診てもらった。
すると、ジーネの鼻は今の医療では綺麗に治りそうにないと言われてしまった。
こんなことを言うのは良くないけれど、私の家のメイドを帰らせておいて本当に良かったわ。
帰らせていなかったら、被害者が増えていたはずだもの。
ジーネを巻き込んでしまった責任は私にあるし、本当に申し訳ないわ。
出来る限りのことはしようと思い、彼女に尋ねてみる。
「あなたは貴族の娘なの?」
「……はい。男爵家です」
「そう。婚約者はいるの?」
「……いないので働いています」
ジーネはボロボロと涙を流しながら首を横に振った。
もう結婚は無理だと諦めてしまったみたいね。
「ジーネ、泣かないでちょうだい。あなたがお嫁に行きたいなら、お嫁に行けるように全力でサポートするわ」
「絶対に無理に決まっています」
「まだわからないわよ。世の中、顔だけで相手を選ぶ人ばかりじゃないわ」
「私はレイティア様に意地悪なことをしようとした人間ですよ」
「悪いことをしたと思って反省しているのなら、誰に対してもあんなことをしないでちょうだい」
ジーネは良い人間じゃないかもしれない。
でも、改心の兆しは見れるわ。
その時、談話室の扉がノックされ、リュージ様を診てくれていたマルティン先生が談話室に入ってきた。
「傷は深くありませんでしたので、消毒をして包帯を巻いておきました。明日には王都の病院か医者に行くようにと伝えてあります」
背が高く痩せすぎと言っても過言ではない、中年のマルティン先生は、私にそう報告してくれた。
その後はジーネの様子を診るために「また明日にお伺いします」と言って帰っていった。
*****
その日の晩、ジーネは私の権限で休ませ、他のメイドにダイニングルームまで案内してもらった。
ジーネ以外にメイドは4人、フットマンが2人いた。
全員がフェアララさんの味方であり、私には敵意をむき出しにしてきた。
一人ひとりを相手にするのは面倒なので「余計なことをされたら、私の騎士にそこにいる使用人を斬り捨ててと言ってしまうかもしれないわ」と言ったところ、すぐに全員が大人しくなった。
ダイニングルームに入ると、なぜか笑みを浮かべているフェアララさんが立っていた。
手にはスープが波々と入った皿を持っている。
私にかけようとしているという魂胆が見え見えだわ。
「あんたの言うとおり、メイドとしての役割を果たすわ」
フェアララさんはそう言って近付いてくる。
「フェアララさん、あなた、テーブルが見えていないの? スープはテーブルに置けばいいのよ? テーブルはあちら」
テーブルを指差して教えてあげる。
彼女の目的が何かはわかっているけれど、茶番に付き合ってあげた形だ。
「わかっているわよ! あ! 躓いちゃった!」
そう言って、フェアララさんはスープを私にかけようとしてきた。
もちろん避けてから、彼女に言う。
「フェアララさん。お若いのに足が弱っているのね。もっと運動したほうが良いわ」
「う、うるさい!」
そう言って、フェアララさんは何とかしてスープを私にかけようと何度もチャレンジした。
スープの中身がどんどん減っていく。
どうしても彼女は私の服を汚したいみたい。
そんなことをしたら自分が大変なことになるのだということをわからないなんて気の毒ね。
このままだとスープが勿体ないし、床の掃除も大変だわ。
子供の相手をしてあげる気持ちで、すっかり温くなったであろうスープをお望み通りにほんの少しだけ服で受け止めてあげた。
「あらあ、ごめんなさい! 一張羅が汚れてしまったわね! 可哀想なことをしちゃったわ!」
勝ち誇ったような表情を浮かべるフェアララさんを見て笑ってしまいそうになる。
わざと避けなかっただけなのに、それに気が付かない、あなたも可哀想だわ。
また、こんなことをされても困るので潰しておくことにする。
「今のはフェアララさんに非があるわよね?」
「え?」
「あなたはごめんなさいと謝ったのだから、私の服を汚してしまったことを悪いと思っているのよね?」
「そ、それは、まあ、そうだけど」
「では、弁償してちょうだい」
笑顔で言うと、フェアララさんはきょとんとした顔をする。
「え? なんで?」
「この服は安く見えるかもしれないけれど、10万イェンしたのよ」
「い、今、なんて言ったの? じゅ、10万!?」
フェアララさんが困惑した様子で尋ねてきた。
イェンというのはこの国の通貨の名前で、10万イェンは平民のお給金の50日分くらいにあたる。
男爵家出身の彼女には、かなり大きな金額のはずだった。
ちなみに悪気のない人が相手なら、こんな意地悪なことは言わない。
「そうよ。だから、ドレス代を弁償してくれと言っているの」
「な、な、なんでそんなことをしなくちゃいけないのよ!? あたしはリュージ様の恋人なのよ!?」
「あなたがリュージ様の恋人だろうが愛人だろうがどうでもいいわ。私にしてみれば、あなたはこの屋敷のメイド。わざと人のドレスを汚すメイドなんてクビにしても良いのよ?」
「ふざけんなババア!」
フェアララさんは可愛らしい顔を歪めて叫んだ。
「ババアって、あなた、私よりも年上よね? 自分の年齢も忘れたの?」
「う、うるさいガキ!」
フェアララさんのせいでリュージ様の言葉遣いが悪くなったのか、リュージ様のせいでフェアララさんの言葉遣いが悪くなったのかはわからない。
どっちにしても酷すぎるわ。
「あのね、私はババアでもガキっていう名前でもないの。さっきも言ったでしょう? 私にはあなたをクビにする権利があるの」
「そんなのハッタリよ!」
「一体、なんの騒ぎだ!」
ダイニングルームに入ってきたリュージ様は、フェアララさんを守るように立つと、私を睨みつけてくる。
「嫁いで来てすぐにいじめか。公爵令嬢のくせに野蛮な女だ」
「あなたは公爵のくせに野蛮ですわね」
「お前に野蛮だなどと言われたくない!」
「でしたら、私のほうも私のことを何も知らないあなたに野蛮だなんて言われたくありませんわ」
「生意気なんだよ!」
リュージ様が激高しながら私に近付いてこようとしたので、素早く腕を前に伸ばし、持っていた扇の先を彼の顎に突きつけた。
「それ以上は近付かないでくださいませ。契約書にサインしたことをもうお忘れですか?」
契約書の中には『レイティアには必要以上に近付かない』と書かれていた。
「う、うるさい! 今は緊急事態だ!」
先程、この扇で痛い目に遭っているからか、リュージ様は後退りしながら叫んだ。
「緊急事態? 何のです? リュージ様の頭の緊急事態ですか? それなら病院に行く、もしくは医者を呼ぶことをお薦めしますわ。どちらもされないのであれば、とにかく安静になさったらどうです?」
心配そうな表情を作って言ってみると、リュージ様は顔を真っ赤にして怒る。
「どうしてお前は俺をそんなに馬鹿にするんだ!」
「馬鹿にはしておりません。出来れば相手にしたくないので部屋で大人しくしていただきたいだけです。もちろん、病院に入院していただいてもかまいませんわ」
「その間の仕事はどうするんだ!? 俺がいなければ仕事は回らないだろう!?」
「本気でそう思っておられるのですか?」
リュージ様に冷たい目を向けると、怯んだのか視線を逸らしてフェアララさんに話しかける。
「こんな女を相手にしても無駄だ。行こう」
「はい!」
フェアララさんは持っていたスープの皿をテーブルの上に置いて頷いた。
「服の弁償代はリュージ様のお小遣いから引かせていただきますわね」
「な、なんの話だ!?」
「詳しい話はフェアララさんからお聞きくださいませ。あと、病院代はタワオ邸のお金から出しますので、お金の心配はせずに病院へ行ってきてくださいませね」
リュージ様には笑顔でそう促してから、フェアララさんに話しかける。
「フェアララさん、あなたは明日の朝からリュージ様と一緒に王都の病院に行ってちょうだい。病院に行ったあとは、リュージ様が許す分は好きなだけ食べたり飲んだり買い物してくれたらいいわ」
「ほ、本当にいいの!?」
「リュージ様を医者や病院に連れて行かなければ、その話は無しよ。それから、さっきも言ったけれど、リュージ様が持っているお金の範囲内でね? 経理を担当していたのなら、この家の財政状況はわかるでしょう?」
「え? あ、まあ、そうね。状況を考えながら買い物するわ」
本当にわかっているのかわからないけれど、フェアララさんは首を縦に振った。
そして、リュージ様の腕を掴んで言う。
「さあ、リュージ様、明日の朝から出かけるんですから準備をしましょう!」
「王都にある病院に行くならライナオナ病院がおすすめよ」
フェアララ様は買い物ができるということで機嫌が良いのか、私の提言に素直に頷く。
「わかったわ! ライナオナ病院ね!」
「おい、フェアララ! 本当に行くのか?」
「だって、リュージ様のことが心配だもの!」
「……フェアララが言うなら仕方がないな」
リュージ様は渋々といった形で、フェアララさんと一緒にダイニングルームを出て行った。
あの人、食事をしに来たんじゃないのかしら。
まあ、いいわ。
「レイティア様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。拭くものを貸してくれる?」
話しかけてきたメイドに濡れたハンカチを借りて、簡単に汚れを拭く。
そして、着替えるために部屋に戻ることにした。
病院というものは王都にしかなく、数も2つしかない。
お医者様自体も少ないので、王都内で他の病院や個人の医者にリュージ様が罹ったとしても、診察拒否をしてもらい、ライナオナ病院に行くようにしてもらう手筈は整っている。
そして、ライナオナ病院のほうには、リュージ様が来たら強制的に入院させ、最低でも3日は帰らせないようにお願いしている。
頭がおかしいという理由で診察を受けなくても、手の傷のことがあるから病院には行くはずだわ。
それに、リュージ様が渋ってもフェアララさんは乗り気だったようだし、何とかなるでしょう。
退院したら王都で遊ぶでしょうから、少なくとも4日間は邸内を調べることができる。
ついでに、リュージ様の仕事とやらもやってあげましょう。
普通の花嫁なら、この状況を悲しむでしょうけれど、私は違った。
新婚早々、旦那がいないって最高だわ!
すると、ジーネの鼻は今の医療では綺麗に治りそうにないと言われてしまった。
こんなことを言うのは良くないけれど、私の家のメイドを帰らせておいて本当に良かったわ。
帰らせていなかったら、被害者が増えていたはずだもの。
ジーネを巻き込んでしまった責任は私にあるし、本当に申し訳ないわ。
出来る限りのことはしようと思い、彼女に尋ねてみる。
「あなたは貴族の娘なの?」
「……はい。男爵家です」
「そう。婚約者はいるの?」
「……いないので働いています」
ジーネはボロボロと涙を流しながら首を横に振った。
もう結婚は無理だと諦めてしまったみたいね。
「ジーネ、泣かないでちょうだい。あなたがお嫁に行きたいなら、お嫁に行けるように全力でサポートするわ」
「絶対に無理に決まっています」
「まだわからないわよ。世の中、顔だけで相手を選ぶ人ばかりじゃないわ」
「私はレイティア様に意地悪なことをしようとした人間ですよ」
「悪いことをしたと思って反省しているのなら、誰に対してもあんなことをしないでちょうだい」
ジーネは良い人間じゃないかもしれない。
でも、改心の兆しは見れるわ。
その時、談話室の扉がノックされ、リュージ様を診てくれていたマルティン先生が談話室に入ってきた。
「傷は深くありませんでしたので、消毒をして包帯を巻いておきました。明日には王都の病院か医者に行くようにと伝えてあります」
背が高く痩せすぎと言っても過言ではない、中年のマルティン先生は、私にそう報告してくれた。
その後はジーネの様子を診るために「また明日にお伺いします」と言って帰っていった。
*****
その日の晩、ジーネは私の権限で休ませ、他のメイドにダイニングルームまで案内してもらった。
ジーネ以外にメイドは4人、フットマンが2人いた。
全員がフェアララさんの味方であり、私には敵意をむき出しにしてきた。
一人ひとりを相手にするのは面倒なので「余計なことをされたら、私の騎士にそこにいる使用人を斬り捨ててと言ってしまうかもしれないわ」と言ったところ、すぐに全員が大人しくなった。
ダイニングルームに入ると、なぜか笑みを浮かべているフェアララさんが立っていた。
手にはスープが波々と入った皿を持っている。
私にかけようとしているという魂胆が見え見えだわ。
「あんたの言うとおり、メイドとしての役割を果たすわ」
フェアララさんはそう言って近付いてくる。
「フェアララさん、あなた、テーブルが見えていないの? スープはテーブルに置けばいいのよ? テーブルはあちら」
テーブルを指差して教えてあげる。
彼女の目的が何かはわかっているけれど、茶番に付き合ってあげた形だ。
「わかっているわよ! あ! 躓いちゃった!」
そう言って、フェアララさんはスープを私にかけようとしてきた。
もちろん避けてから、彼女に言う。
「フェアララさん。お若いのに足が弱っているのね。もっと運動したほうが良いわ」
「う、うるさい!」
そう言って、フェアララさんは何とかしてスープを私にかけようと何度もチャレンジした。
スープの中身がどんどん減っていく。
どうしても彼女は私の服を汚したいみたい。
そんなことをしたら自分が大変なことになるのだということをわからないなんて気の毒ね。
このままだとスープが勿体ないし、床の掃除も大変だわ。
子供の相手をしてあげる気持ちで、すっかり温くなったであろうスープをお望み通りにほんの少しだけ服で受け止めてあげた。
「あらあ、ごめんなさい! 一張羅が汚れてしまったわね! 可哀想なことをしちゃったわ!」
勝ち誇ったような表情を浮かべるフェアララさんを見て笑ってしまいそうになる。
わざと避けなかっただけなのに、それに気が付かない、あなたも可哀想だわ。
また、こんなことをされても困るので潰しておくことにする。
「今のはフェアララさんに非があるわよね?」
「え?」
「あなたはごめんなさいと謝ったのだから、私の服を汚してしまったことを悪いと思っているのよね?」
「そ、それは、まあ、そうだけど」
「では、弁償してちょうだい」
笑顔で言うと、フェアララさんはきょとんとした顔をする。
「え? なんで?」
「この服は安く見えるかもしれないけれど、10万イェンしたのよ」
「い、今、なんて言ったの? じゅ、10万!?」
フェアララさんが困惑した様子で尋ねてきた。
イェンというのはこの国の通貨の名前で、10万イェンは平民のお給金の50日分くらいにあたる。
男爵家出身の彼女には、かなり大きな金額のはずだった。
ちなみに悪気のない人が相手なら、こんな意地悪なことは言わない。
「そうよ。だから、ドレス代を弁償してくれと言っているの」
「な、な、なんでそんなことをしなくちゃいけないのよ!? あたしはリュージ様の恋人なのよ!?」
「あなたがリュージ様の恋人だろうが愛人だろうがどうでもいいわ。私にしてみれば、あなたはこの屋敷のメイド。わざと人のドレスを汚すメイドなんてクビにしても良いのよ?」
「ふざけんなババア!」
フェアララさんは可愛らしい顔を歪めて叫んだ。
「ババアって、あなた、私よりも年上よね? 自分の年齢も忘れたの?」
「う、うるさいガキ!」
フェアララさんのせいでリュージ様の言葉遣いが悪くなったのか、リュージ様のせいでフェアララさんの言葉遣いが悪くなったのかはわからない。
どっちにしても酷すぎるわ。
「あのね、私はババアでもガキっていう名前でもないの。さっきも言ったでしょう? 私にはあなたをクビにする権利があるの」
「そんなのハッタリよ!」
「一体、なんの騒ぎだ!」
ダイニングルームに入ってきたリュージ様は、フェアララさんを守るように立つと、私を睨みつけてくる。
「嫁いで来てすぐにいじめか。公爵令嬢のくせに野蛮な女だ」
「あなたは公爵のくせに野蛮ですわね」
「お前に野蛮だなどと言われたくない!」
「でしたら、私のほうも私のことを何も知らないあなたに野蛮だなんて言われたくありませんわ」
「生意気なんだよ!」
リュージ様が激高しながら私に近付いてこようとしたので、素早く腕を前に伸ばし、持っていた扇の先を彼の顎に突きつけた。
「それ以上は近付かないでくださいませ。契約書にサインしたことをもうお忘れですか?」
契約書の中には『レイティアには必要以上に近付かない』と書かれていた。
「う、うるさい! 今は緊急事態だ!」
先程、この扇で痛い目に遭っているからか、リュージ様は後退りしながら叫んだ。
「緊急事態? 何のです? リュージ様の頭の緊急事態ですか? それなら病院に行く、もしくは医者を呼ぶことをお薦めしますわ。どちらもされないのであれば、とにかく安静になさったらどうです?」
心配そうな表情を作って言ってみると、リュージ様は顔を真っ赤にして怒る。
「どうしてお前は俺をそんなに馬鹿にするんだ!」
「馬鹿にはしておりません。出来れば相手にしたくないので部屋で大人しくしていただきたいだけです。もちろん、病院に入院していただいてもかまいませんわ」
「その間の仕事はどうするんだ!? 俺がいなければ仕事は回らないだろう!?」
「本気でそう思っておられるのですか?」
リュージ様に冷たい目を向けると、怯んだのか視線を逸らしてフェアララさんに話しかける。
「こんな女を相手にしても無駄だ。行こう」
「はい!」
フェアララさんは持っていたスープの皿をテーブルの上に置いて頷いた。
「服の弁償代はリュージ様のお小遣いから引かせていただきますわね」
「な、なんの話だ!?」
「詳しい話はフェアララさんからお聞きくださいませ。あと、病院代はタワオ邸のお金から出しますので、お金の心配はせずに病院へ行ってきてくださいませね」
リュージ様には笑顔でそう促してから、フェアララさんに話しかける。
「フェアララさん、あなたは明日の朝からリュージ様と一緒に王都の病院に行ってちょうだい。病院に行ったあとは、リュージ様が許す分は好きなだけ食べたり飲んだり買い物してくれたらいいわ」
「ほ、本当にいいの!?」
「リュージ様を医者や病院に連れて行かなければ、その話は無しよ。それから、さっきも言ったけれど、リュージ様が持っているお金の範囲内でね? 経理を担当していたのなら、この家の財政状況はわかるでしょう?」
「え? あ、まあ、そうね。状況を考えながら買い物するわ」
本当にわかっているのかわからないけれど、フェアララさんは首を縦に振った。
そして、リュージ様の腕を掴んで言う。
「さあ、リュージ様、明日の朝から出かけるんですから準備をしましょう!」
「王都にある病院に行くならライナオナ病院がおすすめよ」
フェアララ様は買い物ができるということで機嫌が良いのか、私の提言に素直に頷く。
「わかったわ! ライナオナ病院ね!」
「おい、フェアララ! 本当に行くのか?」
「だって、リュージ様のことが心配だもの!」
「……フェアララが言うなら仕方がないな」
リュージ様は渋々といった形で、フェアララさんと一緒にダイニングルームを出て行った。
あの人、食事をしに来たんじゃないのかしら。
まあ、いいわ。
「レイティア様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。拭くものを貸してくれる?」
話しかけてきたメイドに濡れたハンカチを借りて、簡単に汚れを拭く。
そして、着替えるために部屋に戻ることにした。
病院というものは王都にしかなく、数も2つしかない。
お医者様自体も少ないので、王都内で他の病院や個人の医者にリュージ様が罹ったとしても、診察拒否をしてもらい、ライナオナ病院に行くようにしてもらう手筈は整っている。
そして、ライナオナ病院のほうには、リュージ様が来たら強制的に入院させ、最低でも3日は帰らせないようにお願いしている。
頭がおかしいという理由で診察を受けなくても、手の傷のことがあるから病院には行くはずだわ。
それに、リュージ様が渋ってもフェアララさんは乗り気だったようだし、何とかなるでしょう。
退院したら王都で遊ぶでしょうから、少なくとも4日間は邸内を調べることができる。
ついでに、リュージ様の仕事とやらもやってあげましょう。
普通の花嫁なら、この状況を悲しむでしょうけれど、私は違った。
新婚早々、旦那がいないって最高だわ!
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