22 / 34
第五章 初恋の人の正体
4
しおりを挟む
婚約披露パーティーの日まで少し時間があり、その間に今まで行方がわからなかった、ロゼリアの元婚約者であり、ノエルファと駆け落ちしたトーショの現在が判明した。
ズキチーケ王国の国王のザッハから直接手紙をもらったロゼリアは、仕事の休憩時間に、まだ話を聞いていないというルディウスに、ザッハからの手紙の内容を話した。
「捕まったら処刑されるとわかっているから、必死に逃げているみたい。でも、近いうちに捕まると思うわ。お金もなくなって、精神的にも体力的にも追い詰められているらしいから」
「そいつは逃亡生活は覚悟していたんだろう?」
「ノエルファ様と一緒なら乗り越えられると思っていたんじゃないかしら」
「理想と現実は違っていたということか」
「きっとそうだと思う」
ノエルファはトーショの前では、可憐で大人しい女性だった。彼女を守りたいと思ったから彼は騎士になった。
思いを打ち明けてもらった時は、薔薇色の人生が待ち受けているのだろうと思い込んでいた。
今になって、考えが甘かったと実感していることでしょう。
ロゼリアはそう考えたあと、ルディウスに自分の気持ちを話す。
「私は彼に裏切られた。そして、彼はノエルファ様に裏切られた。私の気持ちを彼が少しでも味わってくれていればいいけど」
「反省していたなら許すのか?」
どこか冷めた声で問いかけられ、ロゼリアはルディウスを見つめる。
「私は彼を許すような人間に見える?」
「……今のロゼリアからは思えない。でも、ロゼリアはなんだかんだ言って我慢するだろ」
「我慢というよりは、処刑をしてもいいと自分で判断するのが嫌なのよ」
ロゼリアが許そうが許すまいが、トーショは処刑される。
トーショは処刑を回避するには、ロゼリアに許してもらえれば良いと考えているようだと、ザッハからの手紙には書かれていた。
そのことをルディウスに伝えると、休憩中のロゼリアとは違い、仕事をしながら話をしていた彼は仕事の手を止めた。
「彼は君を恨むと思うのか?」
「たぶんね」
「恨むべき相手はノエルファだろう?」
「そんな話が通じる人ではないわ。駆け落ちするくらいなんだもの。ノエルファ様が悪いなんて思ってもいないはずよ」
「信じられないな」
ルディウスはロゼリアの横に座り、ソファの背にもたれかかった。
「恋愛って人によっては人生を狂わせるものなのよ」
「……経験者は語る、みたいな話し方だな」
ルディウスが顔を覗き込んできたので、ロゼリアは顔を背ける。
「我を失うほどの恋に落ちたことはないわ」
ロゼリアは小さな声でそう答えた。
そう、今はまだ――。
心の中で、ロゼリアはそう付け加えた。
******
トーショが捕まらないまま日は過ぎ、婚約披露パーティーの日になった。
彼がレフス王国との国境付近で目撃されたこともあり、国境付近の警備は普段よりも厳しいものになっているが、パーティーを開くことに問題はないと判断された。
王城のダンスホールに作られたセンターステージで国王であるリンツが開会の話をしたあと、深紅のドレスに身を包んだロゼリアが紹介された時、ステージに近づこうとしたラブックが警備兵によって止められた。
「ロゼリア、聞いてくれ。ルディウスは僕から君を奪って優越感に浸りたいだけだ。君を愛しているわけじゃない!」
ラブックは必死の形相で、ロゼリアに訴えた。
ズキチーケ王国の国王のザッハから直接手紙をもらったロゼリアは、仕事の休憩時間に、まだ話を聞いていないというルディウスに、ザッハからの手紙の内容を話した。
「捕まったら処刑されるとわかっているから、必死に逃げているみたい。でも、近いうちに捕まると思うわ。お金もなくなって、精神的にも体力的にも追い詰められているらしいから」
「そいつは逃亡生活は覚悟していたんだろう?」
「ノエルファ様と一緒なら乗り越えられると思っていたんじゃないかしら」
「理想と現実は違っていたということか」
「きっとそうだと思う」
ノエルファはトーショの前では、可憐で大人しい女性だった。彼女を守りたいと思ったから彼は騎士になった。
思いを打ち明けてもらった時は、薔薇色の人生が待ち受けているのだろうと思い込んでいた。
今になって、考えが甘かったと実感していることでしょう。
ロゼリアはそう考えたあと、ルディウスに自分の気持ちを話す。
「私は彼に裏切られた。そして、彼はノエルファ様に裏切られた。私の気持ちを彼が少しでも味わってくれていればいいけど」
「反省していたなら許すのか?」
どこか冷めた声で問いかけられ、ロゼリアはルディウスを見つめる。
「私は彼を許すような人間に見える?」
「……今のロゼリアからは思えない。でも、ロゼリアはなんだかんだ言って我慢するだろ」
「我慢というよりは、処刑をしてもいいと自分で判断するのが嫌なのよ」
ロゼリアが許そうが許すまいが、トーショは処刑される。
トーショは処刑を回避するには、ロゼリアに許してもらえれば良いと考えているようだと、ザッハからの手紙には書かれていた。
そのことをルディウスに伝えると、休憩中のロゼリアとは違い、仕事をしながら話をしていた彼は仕事の手を止めた。
「彼は君を恨むと思うのか?」
「たぶんね」
「恨むべき相手はノエルファだろう?」
「そんな話が通じる人ではないわ。駆け落ちするくらいなんだもの。ノエルファ様が悪いなんて思ってもいないはずよ」
「信じられないな」
ルディウスはロゼリアの横に座り、ソファの背にもたれかかった。
「恋愛って人によっては人生を狂わせるものなのよ」
「……経験者は語る、みたいな話し方だな」
ルディウスが顔を覗き込んできたので、ロゼリアは顔を背ける。
「我を失うほどの恋に落ちたことはないわ」
ロゼリアは小さな声でそう答えた。
そう、今はまだ――。
心の中で、ロゼリアはそう付け加えた。
******
トーショが捕まらないまま日は過ぎ、婚約披露パーティーの日になった。
彼がレフス王国との国境付近で目撃されたこともあり、国境付近の警備は普段よりも厳しいものになっているが、パーティーを開くことに問題はないと判断された。
王城のダンスホールに作られたセンターステージで国王であるリンツが開会の話をしたあと、深紅のドレスに身を包んだロゼリアが紹介された時、ステージに近づこうとしたラブックが警備兵によって止められた。
「ロゼリア、聞いてくれ。ルディウスは僕から君を奪って優越感に浸りたいだけだ。君を愛しているわけじゃない!」
ラブックは必死の形相で、ロゼリアに訴えた。
881
あなたにおすすめの小説
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
もう演じなくて結構です
梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。
愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。
11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
感想などいただけると、嬉しいです。
11/14 完結いたしました。
11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】完璧令嬢の『誰にでも優しい婚約者様』
恋せよ恋
恋愛
名門で富豪のレーヴェン伯爵家の跡取り
リリアーナ・レーヴェン(17)
容姿端麗、頭脳明晰、誰もが憧れる
完璧な令嬢と評される“白薔薇の令嬢”
エルンスト侯爵家三男で騎士課三年生
ユリウス・エルンスト(17)
誰にでも優しいが故に令嬢たちに囲まれる”白薔薇の婚約者“
祖父たちが、親しい学友であった縁から
エルンスト侯爵家への経済支援をきっかけに
5歳の頃、家族に祝福され結ばれた婚約。
果たして、この婚約は”政略“なのか?
幼かった二人は悩み、すれ違っていくーー
今日もリリアーナの胸はざわつく…
🔶登場人物・設定は作者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます✨
お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる