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5 友人の正体
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「あなたは、エイド・ミゲスダット公爵令息?」
訝しげな顔をしてポスティム公爵令嬢が呟いた。
ちょ、ちょっと待って。
エッちゃんが公爵令息ですって?
姓だって私が知っているものとは違うし、ロキみたいに身分を隠していたということ?
王太子と公爵令息が私たちみたいな身分の低い貴族や平民と一緒に勉強してたと思うと恐れ多いわ。
エッちゃんがミゲスダット公爵令息だというのなら、シフォン様の親族ということじゃないの。
ロキもエッちゃんも立ち居振る舞いが、とても上品だったし、私たちから見えないところでは、公爵令息と王太子殿下の暮らしをしていたのかもしれないわ。
ありえないことだと思っていたから考えたこともなかった。
真実がわかってから考えてみれば、エイドという名前で気付けないこともなかったのかもしれない。
でも、姓が違えば名前が同じということはあるし、気付けなくてもしょうがなかったのだと思うことにする。
「廊下で騒ぐのはやめて下さい」
「申し訳ございません!」
私も含め、その場にいた全員がエッちゃんに謝って頭を下げる。
「こんなところで長居をするのはやめてください」
エッちゃんが遠回しに早く帰れと言っているのだと気付き、慌てて移動することにする。
「承知しました。では失礼いたします」
いち早く去ろうとすると、エッちゃんに呼び止められる。
「あ、あなたは待って下さい」
「……はい?」
「お話したいことがあります。他の方はお帰りいただいて結構です」
エッちゃんは有無を言わせぬ口調で、他の令嬢たちに向けて言った。
私に絡んできていた人たちは不服そうな顔をして歩き出そうとしない。
「アイラ様、これからのことで確認したいことがいくつかございますので、どうぞこちらに」
「は、はい」
私が頷いたのを確認すると、エッちゃんは背を向けて歩き始める。
私付きのメイドたちに目を向けると、三人共、無言で首を縦に振った。
エッちゃんに付いていけという意味だろうと判断して、足を踏み出すと、小さく舌打ちする音が聞こえた。
足を止めて視線を向けると、ポスティム公爵令嬢のメイドの一人が私にあからさまな敵意を向けていることがわかった。
なんだかお腹減ってしまったわ。
あの悪意の視線を食べ物に変えられたら良いのに。
……でも、悪意のあるものを食べたらお腹を壊すかもしれないし意味がないわね。
そんなことを思っていると、ポスティム公爵令嬢が口を開く。
「お前の気持ちはよくわかるわ。あんな女が王太子妃候補だなんて信じられない。お可哀そうに、ロキアス様はあの女に騙されていらっしゃるんだわ」
メイドに向かって言ったように見せかけて、私に聞こえる様に大きな声で言うと、エッちゃんが歩いて行った逆方向に向かって歩き始めた。
個人的にポスティム公爵令嬢には王妃になってほしくないわ。
こんなことを言ったら勝手な決めつけになるので良くないかもしれないけれど、ポスティム公爵令嬢は性格が悪そうだもの。
お腹がかなり減っているし、今の時刻はランチどころかティータイムくらいかもしれない。。
エディーさんが作ってくれるパンケーキは、とても美味しいから無性に食べたくなってきた。
お腹をさすりながら付いて歩いていると、エッちゃんは首の後ろで一つにまとめた黒く長い髪を揺らして振り返る。
「ロキからのラブレターは読みましたか?」
ラブレター?
あの手紙のことかしら。
「まだ、でございます」
「……なんですか、その話し方。もしかして立場を気にしているのでしょうか。気にせずに話し方は今まで通りでいいですよ」
「公爵令息に対して今まで通りに接するなんて無理です。それに、ロキ、いえ、ロキアス様のこともそうてわす。今まで無礼を働いてしまい申し訳ございませんでした」
「……騙していた私たちを嫌いになりましたか?」
エッちゃんが立ち止まり、近くの部屋の扉を開けてから聞いてきた。
私に向けてきた笑顔がどこか悲しそうに見えて、すぐに首を横に振る。
「いいえ。嫌いになったりはしません。事情を聞かせていただきたいのが本音です」
「良かったです。ロキもとても気にしていました。もちろん私も気にしていましたが」
私を案内してくれた部屋は応接間らしく、4人が座れるソファが黒のローテーブルをはさんで向かい合って置かれていて、部屋の奥には暖炉があった。
ソファに座るように促されたので、指示された場所にドレスがシワにならないように気を付けて座ってから尋ねる。
「あの、お聞きしたいのですが、ロキアス様とエイド様はどういうご関係なんですか?」
「従兄弟です」
「その設定は嘘じゃなかったんですね」
「……アイラ、その、普通に話してくれませんか。あなたにそんな話し方をされると落ち着きません」
「それは公爵令息としての命令でしょうか」
「そうですね。そういうことにしておきましょう」
エッちゃんが苦笑して頷いた。
敬語に関しては時と場合によるとして、さすがにもう学園は卒業して社会人なのだし、エッちゃん呼びは駄目かと思うので、エイド様と呼び方を変えることにする。
「学園時代の知り合い以外の前では敬語を使うけれど、今のような場であれば普通に話をしてもよろしいでしょうか」
「それでかまいません」
「エイド様とお呼びしますわね」
「エイドでかまいません」
「……では、エイドで。どうしてあなたは身分を偽っていたの?」
エイドに詳しい話を聞いてみたところ、自分たちの身分を伝えてしまうと、公爵などの高位貴族としか触れ合うことができない。
でも、身分を隠していれば、私たちのような爵位の低い貴族と話したりすることが出来るから、色々と学べるものがあるのだという。
他には市井に出て、城では学べない人々の暮らしを学ぶという理由もあって、ロキとエイドは協力して男爵家の人間と身分を偽って学園に通っていたらしい。
エイドの場合はたまにパーティーには出席していたけど、普段は病弱のため学園には行っていないという設定だったらしい。
パーティーに出るとしても招待客の中に、同じ学園に通っている人がいる場合は出席しなかったそうだから、パーティーにはほとんど参加していないとのことだった。
ポスティム公爵令嬢がエイドを知っていたのは、3日前にパーティーで見かけたのが理由ではないかとも教えてくれた。
彼らがお忍びで学園に通っていたことを知っているのは、ミゼスダット公爵家と王族、そして、学園長などの先生、それから、エイドやロキのお世話をするごく一部の使用人と貴族だけだった。
城の関係者の人たちは、王太子殿下がどこかの学園に通っているのは知っていても、どんな名前でどこの学園に通っているかは知らないのだそうだ。
秘密にしないといけなかった理由はわかる。
でも、なんだか複雑だわ。
そういえば、友人のサラはこのことを知っているのかしら。
「聞きたいんだけれど、サラにはちゃんとこの話をしているの?」
「な、なんで、どうしてサラの名前が出てくるんですか」
エイドが焦った顔になったあと、慌てて私から視線を逸らした。
サラというのは私の親友の名前だ。
5年連続で私とサラ、ロキとエイドは同じクラスだった。
今のこの状況になって思う。
……怪しいわ。
何らかの力が働いている気がする。
仕返しではないけれど、どんな反応をするのか気になって聞いてみる。
「別に話題に出してもいいでしょう。伝えていないのならいないで考えはあるわ。
「あなたと同じようにサラには伝えていません。ところで話を変えますが、君がここに来たということは、ロキの妻になるという意思があると思って良いのですね?」
「ごめんなさい。それについては何も考えてなかったこよ。元々、ここに来たのも」
「謝礼金のためですか?」
「そうよ」
「それはロキが付け足した条件なんですよ」
エイドはこめかみを押さえて話を続ける。
「彼は君の考えることはお見通しだったようですね。あなたは自分が王妃になるだなんて考えは一切ないだろうから、ここはお金で釣るしかないと考えたようですよ」
「何か、その言い方だとお金でしか動かないみたいじゃない」
お金に困っているという話をしていたから、そんな考えになったということはわかる。
不満をエイドにぶつけると、彼はこめかみから手を離して応える。
「でも、謝礼金をもらうために、君はここに来たわけでしょう」
「それはそうよ」
「即答ですね。まあ、結果的に良かったということにしましょう。ちなみに、そのお金はロキがお祖父様から生前贈与してもらったお金だそうです」
「うう。そんなことを聞いたら貰いづらくなるじゃないの」
国から出るお金じゃなくて、ロキのお金だと思うと貰いづらい。
いや、国から出るお金でも十分申し訳ないとは思う。
たしか、先代の国王陛下は自分で事業をたちあげて、その分の儲けで平民の税収を軽くしてくれた人だから余計に申し訳ない気持ちになってしまう。
「その分、あなたは頑張ればいいんですよ。王太子妃候補の頂点に立って王妃になれば、あなたの家は救えますよ」
「別に王妃にならなくても家は救えると思うわ」
きっぱりと答えた私にエイドが眉根を寄せた。
訝しげな顔をしてポスティム公爵令嬢が呟いた。
ちょ、ちょっと待って。
エッちゃんが公爵令息ですって?
姓だって私が知っているものとは違うし、ロキみたいに身分を隠していたということ?
王太子と公爵令息が私たちみたいな身分の低い貴族や平民と一緒に勉強してたと思うと恐れ多いわ。
エッちゃんがミゲスダット公爵令息だというのなら、シフォン様の親族ということじゃないの。
ロキもエッちゃんも立ち居振る舞いが、とても上品だったし、私たちから見えないところでは、公爵令息と王太子殿下の暮らしをしていたのかもしれないわ。
ありえないことだと思っていたから考えたこともなかった。
真実がわかってから考えてみれば、エイドという名前で気付けないこともなかったのかもしれない。
でも、姓が違えば名前が同じということはあるし、気付けなくてもしょうがなかったのだと思うことにする。
「廊下で騒ぐのはやめて下さい」
「申し訳ございません!」
私も含め、その場にいた全員がエッちゃんに謝って頭を下げる。
「こんなところで長居をするのはやめてください」
エッちゃんが遠回しに早く帰れと言っているのだと気付き、慌てて移動することにする。
「承知しました。では失礼いたします」
いち早く去ろうとすると、エッちゃんに呼び止められる。
「あ、あなたは待って下さい」
「……はい?」
「お話したいことがあります。他の方はお帰りいただいて結構です」
エッちゃんは有無を言わせぬ口調で、他の令嬢たちに向けて言った。
私に絡んできていた人たちは不服そうな顔をして歩き出そうとしない。
「アイラ様、これからのことで確認したいことがいくつかございますので、どうぞこちらに」
「は、はい」
私が頷いたのを確認すると、エッちゃんは背を向けて歩き始める。
私付きのメイドたちに目を向けると、三人共、無言で首を縦に振った。
エッちゃんに付いていけという意味だろうと判断して、足を踏み出すと、小さく舌打ちする音が聞こえた。
足を止めて視線を向けると、ポスティム公爵令嬢のメイドの一人が私にあからさまな敵意を向けていることがわかった。
なんだかお腹減ってしまったわ。
あの悪意の視線を食べ物に変えられたら良いのに。
……でも、悪意のあるものを食べたらお腹を壊すかもしれないし意味がないわね。
そんなことを思っていると、ポスティム公爵令嬢が口を開く。
「お前の気持ちはよくわかるわ。あんな女が王太子妃候補だなんて信じられない。お可哀そうに、ロキアス様はあの女に騙されていらっしゃるんだわ」
メイドに向かって言ったように見せかけて、私に聞こえる様に大きな声で言うと、エッちゃんが歩いて行った逆方向に向かって歩き始めた。
個人的にポスティム公爵令嬢には王妃になってほしくないわ。
こんなことを言ったら勝手な決めつけになるので良くないかもしれないけれど、ポスティム公爵令嬢は性格が悪そうだもの。
お腹がかなり減っているし、今の時刻はランチどころかティータイムくらいかもしれない。。
エディーさんが作ってくれるパンケーキは、とても美味しいから無性に食べたくなってきた。
お腹をさすりながら付いて歩いていると、エッちゃんは首の後ろで一つにまとめた黒く長い髪を揺らして振り返る。
「ロキからのラブレターは読みましたか?」
ラブレター?
あの手紙のことかしら。
「まだ、でございます」
「……なんですか、その話し方。もしかして立場を気にしているのでしょうか。気にせずに話し方は今まで通りでいいですよ」
「公爵令息に対して今まで通りに接するなんて無理です。それに、ロキ、いえ、ロキアス様のこともそうてわす。今まで無礼を働いてしまい申し訳ございませんでした」
「……騙していた私たちを嫌いになりましたか?」
エッちゃんが立ち止まり、近くの部屋の扉を開けてから聞いてきた。
私に向けてきた笑顔がどこか悲しそうに見えて、すぐに首を横に振る。
「いいえ。嫌いになったりはしません。事情を聞かせていただきたいのが本音です」
「良かったです。ロキもとても気にしていました。もちろん私も気にしていましたが」
私を案内してくれた部屋は応接間らしく、4人が座れるソファが黒のローテーブルをはさんで向かい合って置かれていて、部屋の奥には暖炉があった。
ソファに座るように促されたので、指示された場所にドレスがシワにならないように気を付けて座ってから尋ねる。
「あの、お聞きしたいのですが、ロキアス様とエイド様はどういうご関係なんですか?」
「従兄弟です」
「その設定は嘘じゃなかったんですね」
「……アイラ、その、普通に話してくれませんか。あなたにそんな話し方をされると落ち着きません」
「それは公爵令息としての命令でしょうか」
「そうですね。そういうことにしておきましょう」
エッちゃんが苦笑して頷いた。
敬語に関しては時と場合によるとして、さすがにもう学園は卒業して社会人なのだし、エッちゃん呼びは駄目かと思うので、エイド様と呼び方を変えることにする。
「学園時代の知り合い以外の前では敬語を使うけれど、今のような場であれば普通に話をしてもよろしいでしょうか」
「それでかまいません」
「エイド様とお呼びしますわね」
「エイドでかまいません」
「……では、エイドで。どうしてあなたは身分を偽っていたの?」
エイドに詳しい話を聞いてみたところ、自分たちの身分を伝えてしまうと、公爵などの高位貴族としか触れ合うことができない。
でも、身分を隠していれば、私たちのような爵位の低い貴族と話したりすることが出来るから、色々と学べるものがあるのだという。
他には市井に出て、城では学べない人々の暮らしを学ぶという理由もあって、ロキとエイドは協力して男爵家の人間と身分を偽って学園に通っていたらしい。
エイドの場合はたまにパーティーには出席していたけど、普段は病弱のため学園には行っていないという設定だったらしい。
パーティーに出るとしても招待客の中に、同じ学園に通っている人がいる場合は出席しなかったそうだから、パーティーにはほとんど参加していないとのことだった。
ポスティム公爵令嬢がエイドを知っていたのは、3日前にパーティーで見かけたのが理由ではないかとも教えてくれた。
彼らがお忍びで学園に通っていたことを知っているのは、ミゼスダット公爵家と王族、そして、学園長などの先生、それから、エイドやロキのお世話をするごく一部の使用人と貴族だけだった。
城の関係者の人たちは、王太子殿下がどこかの学園に通っているのは知っていても、どんな名前でどこの学園に通っているかは知らないのだそうだ。
秘密にしないといけなかった理由はわかる。
でも、なんだか複雑だわ。
そういえば、友人のサラはこのことを知っているのかしら。
「聞きたいんだけれど、サラにはちゃんとこの話をしているの?」
「な、なんで、どうしてサラの名前が出てくるんですか」
エイドが焦った顔になったあと、慌てて私から視線を逸らした。
サラというのは私の親友の名前だ。
5年連続で私とサラ、ロキとエイドは同じクラスだった。
今のこの状況になって思う。
……怪しいわ。
何らかの力が働いている気がする。
仕返しではないけれど、どんな反応をするのか気になって聞いてみる。
「別に話題に出してもいいでしょう。伝えていないのならいないで考えはあるわ。
「あなたと同じようにサラには伝えていません。ところで話を変えますが、君がここに来たということは、ロキの妻になるという意思があると思って良いのですね?」
「ごめんなさい。それについては何も考えてなかったこよ。元々、ここに来たのも」
「謝礼金のためですか?」
「そうよ」
「それはロキが付け足した条件なんですよ」
エイドはこめかみを押さえて話を続ける。
「彼は君の考えることはお見通しだったようですね。あなたは自分が王妃になるだなんて考えは一切ないだろうから、ここはお金で釣るしかないと考えたようですよ」
「何か、その言い方だとお金でしか動かないみたいじゃない」
お金に困っているという話をしていたから、そんな考えになったということはわかる。
不満をエイドにぶつけると、彼はこめかみから手を離して応える。
「でも、謝礼金をもらうために、君はここに来たわけでしょう」
「それはそうよ」
「即答ですね。まあ、結果的に良かったということにしましょう。ちなみに、そのお金はロキがお祖父様から生前贈与してもらったお金だそうです」
「うう。そんなことを聞いたら貰いづらくなるじゃないの」
国から出るお金じゃなくて、ロキのお金だと思うと貰いづらい。
いや、国から出るお金でも十分申し訳ないとは思う。
たしか、先代の国王陛下は自分で事業をたちあげて、その分の儲けで平民の税収を軽くしてくれた人だから余計に申し訳ない気持ちになってしまう。
「その分、あなたは頑張ればいいんですよ。王太子妃候補の頂点に立って王妃になれば、あなたの家は救えますよ」
「別に王妃にならなくても家は救えると思うわ」
きっぱりと答えた私にエイドが眉根を寄せた。
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