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30 別れの朝
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面接が終わったとメイドが伝えに来てくれたので、私とリュカは早速、お父様の元へと向かった。
お父様は私たちが来ることは知っていたので、すぐに執務室に入れてもらえた。
ソファに座ってから、どうなったのかを聞いてみると、お父様は苦笑する。
「今すぐに答えは出せないから、後日連絡すると伝えたよ」
「ワガママだとはわかっています。ですが、彼だけはどうしても採用しないでほしいんです。お願いします、お父様」
「俺からもお願いします」
私と一緒にリュカも頭を下げてくれたので、お父様は慌てた声を上げる。
「リュカ殿下にまで頭を下げられたら嫌とは言えませんよ。リリー、お前を信じて良いんだね?」
「はい」
「わかった。明日にでも断りの連絡を入れることにしよう」
「ありがとうございます、お父様」
向かい側に座っているお父様に感謝の気持を述べると、難しそうな顔をして応えてくれる。
「リリーに言われたからかもしれないが、どうも彼と話をしていると嫌悪感が湧いてきたんだ。エマロン伯爵は何か悪いことを考えて、彼をこの家に送り込もうとしたのかもしれない。向こうからは何か言われるかもしれないが、彼を採用することはないから安心しなさい」
「はい」
私が笑顔で頷くと、お父様は優しく微笑んでくれた。
*****
「とりあえず一安心といったところかしら」
「そうだな。これからは、一人になるけど大丈夫そうか?」
お父様の執務室を出て、私の部屋に向かいながらリュカが心配そうに尋ねてきた。
彼が何のことを言っているか理解できたので、力強く頷く。
「大丈夫。何かあったら、お父様たちに連絡するし、学園のことなら大丈夫よ。テレサとはどこでどう出会ったかは覚えているから、同じ時刻に同じ場所には行かないようにするわ」
できるだけ彼女と出会った場所には近付かないようにはしよう。
どうせ出会わないといけないにしたって、違う出会い方をすれば、また違った運命になるはずだもの。
ティナ様が関わってくる以上、テレサとは会わないといけないから、それをしたって無意味かもしれないけれど、未来を変えていく努力はしないといけない。
今のままだと、私は同じ未来を辿る可能性がある。
「一緒にいてやれなくてごめんな」
「リュカが謝ることじゃないわ。どうしようもないことだもの。でも、リュカだって大変なはずよ。あなたの命を奪おうとまでは考えていないのかもしれないけれど、失脚を狙う人物が必ずいるわ。だから気を抜かないでね」
リュカを嵌めようとした人物が誰かも、その理由もわかっていない。
今の状況ではリュカのほうが危険なはずだった。
「わかってる。気を抜いたりはしないよ」
「あと、あなたが国に帰ったあと、学園の長い休みがある時はあなたに会いにいってもいいかしら?」
「もしくは君の休みの日に合わせて俺が会いに来るよ」
「そんなことをして大丈夫なの?」
「頻繁には無理だけど、たまには良いだろ。母上が絶対に許してくれる」
「そうね。エマ様は私たちのことを応援してくれているものね」
二人で顔を見合わせて笑った。
*****
それから数日後の朝。
さすがに仕事をいつまでも放置してはいられないと、リュカはトラブレル王国に戻ることになった。
昨日の晩から急に寂しくなって寝付けなかった。
でも、そんな様子は一切見せないように心がけた。
私が不安そうにしていたら、リュカは心配して旅立てないもの。
「じゃあな、リリー、何かあったらすぐに連絡してくれ」
「ええ。でも、私よりリュカのほうが心配だわ。一人で抱え込まずに何かあったら連絡してね。何があっても駆けつけるから」
「ありがとう」
リュカは照れくさそうな笑みを浮かべたあと、そっと私の頬に触れた。
「あのさ、リリー」
「……どうしたの?」
リュカが真剣な眼差しで見つめてくるので、ドキドキして聞き返した時だった。
「リュカ殿下、もう出立いたしませんと、お帰りが遅くなりますよ!」
お父様がいきなり大きな声を出した。
「もう、あなたったら!」
お母様が呆れた顔でお父様を叱ると、リュカが私から手を離した。
「失礼しました。ごめん、リリー」
「ううん。気にしないで」
お父さまが何も言わなければ、リュカは何を言おうとしていたのかしら。
気になるけれど、今は聞かないでおこう。
また会える時の楽しみになるものね。
なぜか頬をパタパタと手であおぎながら、距離を取ってしまったリュカに私は笑顔で言う。
「気を付けて帰ってね」
「ああ」
そう言ったあと、リュカは私の家族や見送りに来ていた使用人たちに頭を下げる。
「急な来訪にも関わらず、温かく迎えていただいた上に、細やかな気遣いまで本当にありがとうございました」
そう言ったあと、リュカは頭を上げて私に手を振る。
「じゃあ、リリー、また会おう。無理はするなよ」
「あなたも元気でね。次に会えるのを楽しみにしているわ」
私たちはリュカが乗った馬車が見えなくなるまで見送った。
馬車が見えなくなると、急に心細くなって目に涙が浮かび、鼻がつんと痛んだ。
でも、弱気な気持ちを振り払い、一緒に見送ってくれていた家族と共に一緒に屋敷の中へ入った。
お父様は私たちが来ることは知っていたので、すぐに執務室に入れてもらえた。
ソファに座ってから、どうなったのかを聞いてみると、お父様は苦笑する。
「今すぐに答えは出せないから、後日連絡すると伝えたよ」
「ワガママだとはわかっています。ですが、彼だけはどうしても採用しないでほしいんです。お願いします、お父様」
「俺からもお願いします」
私と一緒にリュカも頭を下げてくれたので、お父様は慌てた声を上げる。
「リュカ殿下にまで頭を下げられたら嫌とは言えませんよ。リリー、お前を信じて良いんだね?」
「はい」
「わかった。明日にでも断りの連絡を入れることにしよう」
「ありがとうございます、お父様」
向かい側に座っているお父様に感謝の気持を述べると、難しそうな顔をして応えてくれる。
「リリーに言われたからかもしれないが、どうも彼と話をしていると嫌悪感が湧いてきたんだ。エマロン伯爵は何か悪いことを考えて、彼をこの家に送り込もうとしたのかもしれない。向こうからは何か言われるかもしれないが、彼を採用することはないから安心しなさい」
「はい」
私が笑顔で頷くと、お父様は優しく微笑んでくれた。
*****
「とりあえず一安心といったところかしら」
「そうだな。これからは、一人になるけど大丈夫そうか?」
お父様の執務室を出て、私の部屋に向かいながらリュカが心配そうに尋ねてきた。
彼が何のことを言っているか理解できたので、力強く頷く。
「大丈夫。何かあったら、お父様たちに連絡するし、学園のことなら大丈夫よ。テレサとはどこでどう出会ったかは覚えているから、同じ時刻に同じ場所には行かないようにするわ」
できるだけ彼女と出会った場所には近付かないようにはしよう。
どうせ出会わないといけないにしたって、違う出会い方をすれば、また違った運命になるはずだもの。
ティナ様が関わってくる以上、テレサとは会わないといけないから、それをしたって無意味かもしれないけれど、未来を変えていく努力はしないといけない。
今のままだと、私は同じ未来を辿る可能性がある。
「一緒にいてやれなくてごめんな」
「リュカが謝ることじゃないわ。どうしようもないことだもの。でも、リュカだって大変なはずよ。あなたの命を奪おうとまでは考えていないのかもしれないけれど、失脚を狙う人物が必ずいるわ。だから気を抜かないでね」
リュカを嵌めようとした人物が誰かも、その理由もわかっていない。
今の状況ではリュカのほうが危険なはずだった。
「わかってる。気を抜いたりはしないよ」
「あと、あなたが国に帰ったあと、学園の長い休みがある時はあなたに会いにいってもいいかしら?」
「もしくは君の休みの日に合わせて俺が会いに来るよ」
「そんなことをして大丈夫なの?」
「頻繁には無理だけど、たまには良いだろ。母上が絶対に許してくれる」
「そうね。エマ様は私たちのことを応援してくれているものね」
二人で顔を見合わせて笑った。
*****
それから数日後の朝。
さすがに仕事をいつまでも放置してはいられないと、リュカはトラブレル王国に戻ることになった。
昨日の晩から急に寂しくなって寝付けなかった。
でも、そんな様子は一切見せないように心がけた。
私が不安そうにしていたら、リュカは心配して旅立てないもの。
「じゃあな、リリー、何かあったらすぐに連絡してくれ」
「ええ。でも、私よりリュカのほうが心配だわ。一人で抱え込まずに何かあったら連絡してね。何があっても駆けつけるから」
「ありがとう」
リュカは照れくさそうな笑みを浮かべたあと、そっと私の頬に触れた。
「あのさ、リリー」
「……どうしたの?」
リュカが真剣な眼差しで見つめてくるので、ドキドキして聞き返した時だった。
「リュカ殿下、もう出立いたしませんと、お帰りが遅くなりますよ!」
お父様がいきなり大きな声を出した。
「もう、あなたったら!」
お母様が呆れた顔でお父様を叱ると、リュカが私から手を離した。
「失礼しました。ごめん、リリー」
「ううん。気にしないで」
お父さまが何も言わなければ、リュカは何を言おうとしていたのかしら。
気になるけれど、今は聞かないでおこう。
また会える時の楽しみになるものね。
なぜか頬をパタパタと手であおぎながら、距離を取ってしまったリュカに私は笑顔で言う。
「気を付けて帰ってね」
「ああ」
そう言ったあと、リュカは私の家族や見送りに来ていた使用人たちに頭を下げる。
「急な来訪にも関わらず、温かく迎えていただいた上に、細やかな気遣いまで本当にありがとうございました」
そう言ったあと、リュカは頭を上げて私に手を振る。
「じゃあ、リリー、また会おう。無理はするなよ」
「あなたも元気でね。次に会えるのを楽しみにしているわ」
私たちはリュカが乗った馬車が見えなくなるまで見送った。
馬車が見えなくなると、急に心細くなって目に涙が浮かび、鼻がつんと痛んだ。
でも、弱気な気持ちを振り払い、一緒に見送ってくれていた家族と共に一緒に屋敷の中へ入った。
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