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29 父に相談する午後
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次の日の昼過ぎに、お父様に時間を作ってもらい、執事についての話を聞いてみた。
問われたお父様は驚いた顔をして聞き返してくる。
「執事が辞めるんじゃないかって、どうしてリリーがそのことを知っているんだ? 本人から話を聞いたのかい?」
「いいえ。ふと、気になっただけです。長く勤めてくれているし、だいぶ高齢でもありますから、先のことを考えていたりするのかと思いまして」
「そうか。実は彼には前々から相談を受けていてね。ちょうど代わりに来てもらう人の面接をしようと思っていたところだったから驚いたよ」
お父様が苦笑して教えてくれたので、とりあえずどんな人か聞いてみることにする。
「面接は募集をかけたのですか? それとも誰かからの紹介か何かでしょうか」
「今のところ、エマロン伯爵から紹介を受けた人と会おうと思っている」
「エマロン伯爵の?」
「駄目だったかな。エマロン伯爵からは息子との婚約を破棄したんだから、これくらいはお願いを聞いてくれと言われたんだよ」
私が眉根を寄せて聞き返すと、お父様は困った顔をして、事の経緯を説明してくれた。
今思えば、執事はエマロン伯爵のスパイだったんだわ。
だから、お父様たちの予定や動きが丸わかりだったのね。
屋敷の中に自分の手先を潜り込ませていただなんて信じられない。
お父様たちが迂闊だったところもあるかもしれないけれど、私が責められるものじゃない。
でも、そうなると、エマロン伯爵やアイザックは時間を戻す前から、私たちを巻き込むつもりでいたということかしら。
「リリー、どうかしたのか?」
考え込んでいた私をお父様が心配して話しかけてくれた。
「あ、いえ、お父様。無茶なことを承知でお願いしたいのですが、その面接ですが、お断りしていただくことはできないでしょうか」
「断れだなんて。リリー、いきなりどうしたんだ」
「あんな形で婚約の話を無しにしたんですもの。エマロン伯爵から恨まれていてもおかしくないでしょう? アイザック様は私のことを好きだと言っておられましたが、私には信じられません。何か裏があるはずです」
アイザックたちの本性を知っているということは口にできない。
曖昧なことしか言えない私の肩に、お父様は両手を置いて微笑む。
「そんな話をするということは、何か思い当たることがあるんだね」
「すみません、お父様。証拠などは何もないのです。ただ、その方はやめておいたほうが良いとしか言えません。胸騒ぎがするといいますか」
「……そうか」
お父様は私の言葉に頷いたあと話を続ける。
「婚約の話が無しになったのは、うちの勝手ではあるが、向こうが頑なにリリーと婚約をしたがっていることも気にはなっていたんだ。だから、リリーの言うように裏があるのかもしれないな。だが悪いけれど、今さら、面接を取りやめることは出来ない」
「どうしてですか?」
「もうすぐ来てしまうんだ」
「え?」
「今日が面接の日なんだよ」
お父様が苦笑して話を続ける。
「執事のことについては、リリーにはあとからでも良いだろうと思って言わないでいたんだ。それなのに、リリーから話をしてくるということは、これも神様の忠告なのかもしれない。こんなことを言うのはなんだけれど、面接をしてみて採用できないと言えるような何かを見つけるようにしてみるよ」
「ありがとうございます、お父様!」
私は笑顔になって、お父様に抱きついた。
きっと、私の相手がリュカでなければ、お父様も私の言葉を信じたりしなかったでしょうね。
隣国の王子と婚約するだなんて考えてもいなかったことが起こったから、信じやすくなってくれているのかもしれないわ。
それにマララのこともあるし、疑い深くなっているのかもしれない。
お父様の胸にしがみつきながら、私はそんなことを思った。
その後、面接の時間になるまで、私はリュカと一緒に過ごした。
時間が近づいてくると、リュカと共にエントランスホールが見渡せる場所に移動した。
そこで、何気ない会話をしながら待っていると、約束の少し前の時間になって訪問してきた人物がいた。
「あれか?」
リュカは二階に続く階段の上から少しだけ顔を出して、どんな人物か確認した。
そして、すぐに顔を引っ込めて私に尋ねてくる。
「確認するわ」
私もリュカと同じように少しだけ顔を出して、すぐに引っ込めてから頷く。
「うん。間違いないわ。お父様のことだから、うまく彼を採用しないようにしてくれると思うわ」
「それならいい。とにかく、彼が帰るまでは部屋に戻るか」
「そうね。面接が終わったら、どんな感じだったかお父様に教えてもらうのだけど、リュカも話を聞くわよね? 私がリュカの部屋まで呼びに行けばいいかしら」
「部屋に戻ってもやることもないし、どうせだから、リリーの部屋で待っていてもいいか?」
執事が例の人物かどうか確認できたので、私たちは並んで歩きながら話す。
「そうね。どうせ、そんなに時間はかからないだろうし」
「あと、そろそろ俺も自分の国に帰らないといけないし、これからの話もしたいしさ」
「そっか。そうよね」
改めて、リュカが隣国の人間だと感じて、私は少しだけ心細くなった。
問われたお父様は驚いた顔をして聞き返してくる。
「執事が辞めるんじゃないかって、どうしてリリーがそのことを知っているんだ? 本人から話を聞いたのかい?」
「いいえ。ふと、気になっただけです。長く勤めてくれているし、だいぶ高齢でもありますから、先のことを考えていたりするのかと思いまして」
「そうか。実は彼には前々から相談を受けていてね。ちょうど代わりに来てもらう人の面接をしようと思っていたところだったから驚いたよ」
お父様が苦笑して教えてくれたので、とりあえずどんな人か聞いてみることにする。
「面接は募集をかけたのですか? それとも誰かからの紹介か何かでしょうか」
「今のところ、エマロン伯爵から紹介を受けた人と会おうと思っている」
「エマロン伯爵の?」
「駄目だったかな。エマロン伯爵からは息子との婚約を破棄したんだから、これくらいはお願いを聞いてくれと言われたんだよ」
私が眉根を寄せて聞き返すと、お父様は困った顔をして、事の経緯を説明してくれた。
今思えば、執事はエマロン伯爵のスパイだったんだわ。
だから、お父様たちの予定や動きが丸わかりだったのね。
屋敷の中に自分の手先を潜り込ませていただなんて信じられない。
お父様たちが迂闊だったところもあるかもしれないけれど、私が責められるものじゃない。
でも、そうなると、エマロン伯爵やアイザックは時間を戻す前から、私たちを巻き込むつもりでいたということかしら。
「リリー、どうかしたのか?」
考え込んでいた私をお父様が心配して話しかけてくれた。
「あ、いえ、お父様。無茶なことを承知でお願いしたいのですが、その面接ですが、お断りしていただくことはできないでしょうか」
「断れだなんて。リリー、いきなりどうしたんだ」
「あんな形で婚約の話を無しにしたんですもの。エマロン伯爵から恨まれていてもおかしくないでしょう? アイザック様は私のことを好きだと言っておられましたが、私には信じられません。何か裏があるはずです」
アイザックたちの本性を知っているということは口にできない。
曖昧なことしか言えない私の肩に、お父様は両手を置いて微笑む。
「そんな話をするということは、何か思い当たることがあるんだね」
「すみません、お父様。証拠などは何もないのです。ただ、その方はやめておいたほうが良いとしか言えません。胸騒ぎがするといいますか」
「……そうか」
お父様は私の言葉に頷いたあと話を続ける。
「婚約の話が無しになったのは、うちの勝手ではあるが、向こうが頑なにリリーと婚約をしたがっていることも気にはなっていたんだ。だから、リリーの言うように裏があるのかもしれないな。だが悪いけれど、今さら、面接を取りやめることは出来ない」
「どうしてですか?」
「もうすぐ来てしまうんだ」
「え?」
「今日が面接の日なんだよ」
お父様が苦笑して話を続ける。
「執事のことについては、リリーにはあとからでも良いだろうと思って言わないでいたんだ。それなのに、リリーから話をしてくるということは、これも神様の忠告なのかもしれない。こんなことを言うのはなんだけれど、面接をしてみて採用できないと言えるような何かを見つけるようにしてみるよ」
「ありがとうございます、お父様!」
私は笑顔になって、お父様に抱きついた。
きっと、私の相手がリュカでなければ、お父様も私の言葉を信じたりしなかったでしょうね。
隣国の王子と婚約するだなんて考えてもいなかったことが起こったから、信じやすくなってくれているのかもしれないわ。
それにマララのこともあるし、疑い深くなっているのかもしれない。
お父様の胸にしがみつきながら、私はそんなことを思った。
その後、面接の時間になるまで、私はリュカと一緒に過ごした。
時間が近づいてくると、リュカと共にエントランスホールが見渡せる場所に移動した。
そこで、何気ない会話をしながら待っていると、約束の少し前の時間になって訪問してきた人物がいた。
「あれか?」
リュカは二階に続く階段の上から少しだけ顔を出して、どんな人物か確認した。
そして、すぐに顔を引っ込めて私に尋ねてくる。
「確認するわ」
私もリュカと同じように少しだけ顔を出して、すぐに引っ込めてから頷く。
「うん。間違いないわ。お父様のことだから、うまく彼を採用しないようにしてくれると思うわ」
「それならいい。とにかく、彼が帰るまでは部屋に戻るか」
「そうね。面接が終わったら、どんな感じだったかお父様に教えてもらうのだけど、リュカも話を聞くわよね? 私がリュカの部屋まで呼びに行けばいいかしら」
「部屋に戻ってもやることもないし、どうせだから、リリーの部屋で待っていてもいいか?」
執事が例の人物かどうか確認できたので、私たちは並んで歩きながら話す。
「そうね。どうせ、そんなに時間はかからないだろうし」
「あと、そろそろ俺も自分の国に帰らないといけないし、これからの話もしたいしさ」
「そっか。そうよね」
改めて、リュカが隣国の人間だと感じて、私は少しだけ心細くなった。
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