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6 不機嫌な公爵令息 ②
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振り返ったメイドたちは彼が後ろにいることに、今初めて気がついたようで、焦った顔になって叫ぶ。
「ど、どうして付いてきているのですか!? お待ちいただくようにお願いしたはずです!」
「どこで待てとは言われていない。俺にエントランスホールで立って待ってろと言うのであれば、その時に言え」
ラフリード様はメイドたちをにらみつけながら答えた。
……それはそうね。相手は公爵令息。いくら約束がなかったからといっても、エントランスホールで立って待ってろはないわね。
ラフリード様は長身痩躯で黒い服ばかり着ているせいか、陰で死神と揶揄する人がいると聞いたことがある。
眉目秀麗ではあるが、吊り目気味であることと、いつも眉間にシワを寄せているから、不機嫌が服を着て歩いていると言う人もいるらしい。
……たぶん、そんな噂を流しているのは、彼のことをライバル視している、高位貴族の誰かでしょう。
私としては透き通るような白い肌に黒色の髪と赤色の瞳が映えて見えるので、芸術品のように思えた。
「どうして聞いてくださらなかったのですか! そうすればご案内しましたのに!」
公爵令息にこんな口が聞けるのは、今まで高位貴族に接触してこなかったからかしら。
メイド長にしっかり礼儀を覚えさせるように言わなくちゃ。
……メイド長も私の言うことは聞かないかしら。それならそれでいいわ。
どうせ彼女たちはクビになるでしょう。
メイドたちがただの礼儀知らずなだけなら、私も助け舟を出したかもしれない。でも、彼女たちは散々私を馬鹿にしてきた相手だ。
助けてあげる必要はないわよね?
ラフリード様は大きなため息を吐いて答える。
「どこで待てば良いのか聞こうと思ったが、お前たちがくだらない話で盛り上がっていて、俺の声を無視していただろう」
彼の声はとても低くて聞き取りにくい。おかしいと思って話しかけても、彼女たちの甲高い話し声にかき消されてしまったのでしょう。
普通なら気配で気づくものだろうけれど、彼女たちの会話を聞いたラフリード様は、わざと気配を消したのではないだろうか。
本人に聞いてみないと、全て憶測でしかないわね。今は考えないでおきましょう。
ラフリード様は目を細めて私を見ると、眉間のシワを深くした。
「こんな所で何をしていたんだ」
「……反省会をさせられていました」
「反省会?」
ラフリード様が私に話しかけている間に、メイドたちは泣きそうな顔になって逃げていく。
逃げても無駄よ。ラフリード様が覚えていなくても、私はしっかりと覚えているから。
メイドたちの背中を一瞥しながら思ったあと、ラフリード様に答える。
「はい。定期的に納屋に閉じ込められて、反省しろと言われているのです」
「定期的という意味がわからん」
「あの、ラフリード様、それよりもメイドが無礼な態度を取ってしまい申し訳ございません」
「メイド長を管轄しているのは君の義母だろう。責任は彼女かメイド長に取らせるから気にするな」
「寛大なご対応をありがとうございます」
ずっと不機嫌そうに目を細めているラフリード様について、プライベートな情報はほとんど知らない。
遅くなった挨拶を交わしたあと、ラフリード様に尋ねる。
「申し訳ございませんが、夫は外出しているのです。私で良ければお話を聞かせていただきますが、それでよろしいでしょうか」
「突然押しかけてきたこちらが悪い。それから、君と先代の夫人に話があって来ただけで、当主には今日は用はない」
ラフリード様はトータムがいないとわかっていて、わざと訪ねてきたみたいだ。
約束もなく来訪することで、段取りされていない日常を見ようとしたといったところかしら。
「立ち話もなんですから、応接室にご案内いたします」
「悪いな」
二人で屋敷に向かって歩き出すと、血相を変えた義母がやって来ると、ラフリード様に挨拶もなく言い訳を始める。
「ラフリード様、違うんです! ミアリナさんが家のお金を盗もうとしたので罰を与えたのです!」
呼吸するみたいに嘘をつけるのは、ある意味特技なのかも。
呆れが勝ってしまい否定するのが遅れてしまったが、ラフリード様は、はなから義母の言うことなど信用していなかった。
「くだらない嘘はつくな。それよりも、ここの当主がジゼル公爵家の客室を浮気するための休憩所に使っていたことについて話がある」
浮気をするために自分の家を使われていたことに腹を立てるのはわかる。
でも、どうして本人抜きで話をしようとするのかしら。
「ど、どうして付いてきているのですか!? お待ちいただくようにお願いしたはずです!」
「どこで待てとは言われていない。俺にエントランスホールで立って待ってろと言うのであれば、その時に言え」
ラフリード様はメイドたちをにらみつけながら答えた。
……それはそうね。相手は公爵令息。いくら約束がなかったからといっても、エントランスホールで立って待ってろはないわね。
ラフリード様は長身痩躯で黒い服ばかり着ているせいか、陰で死神と揶揄する人がいると聞いたことがある。
眉目秀麗ではあるが、吊り目気味であることと、いつも眉間にシワを寄せているから、不機嫌が服を着て歩いていると言う人もいるらしい。
……たぶん、そんな噂を流しているのは、彼のことをライバル視している、高位貴族の誰かでしょう。
私としては透き通るような白い肌に黒色の髪と赤色の瞳が映えて見えるので、芸術品のように思えた。
「どうして聞いてくださらなかったのですか! そうすればご案内しましたのに!」
公爵令息にこんな口が聞けるのは、今まで高位貴族に接触してこなかったからかしら。
メイド長にしっかり礼儀を覚えさせるように言わなくちゃ。
……メイド長も私の言うことは聞かないかしら。それならそれでいいわ。
どうせ彼女たちはクビになるでしょう。
メイドたちがただの礼儀知らずなだけなら、私も助け舟を出したかもしれない。でも、彼女たちは散々私を馬鹿にしてきた相手だ。
助けてあげる必要はないわよね?
ラフリード様は大きなため息を吐いて答える。
「どこで待てば良いのか聞こうと思ったが、お前たちがくだらない話で盛り上がっていて、俺の声を無視していただろう」
彼の声はとても低くて聞き取りにくい。おかしいと思って話しかけても、彼女たちの甲高い話し声にかき消されてしまったのでしょう。
普通なら気配で気づくものだろうけれど、彼女たちの会話を聞いたラフリード様は、わざと気配を消したのではないだろうか。
本人に聞いてみないと、全て憶測でしかないわね。今は考えないでおきましょう。
ラフリード様は目を細めて私を見ると、眉間のシワを深くした。
「こんな所で何をしていたんだ」
「……反省会をさせられていました」
「反省会?」
ラフリード様が私に話しかけている間に、メイドたちは泣きそうな顔になって逃げていく。
逃げても無駄よ。ラフリード様が覚えていなくても、私はしっかりと覚えているから。
メイドたちの背中を一瞥しながら思ったあと、ラフリード様に答える。
「はい。定期的に納屋に閉じ込められて、反省しろと言われているのです」
「定期的という意味がわからん」
「あの、ラフリード様、それよりもメイドが無礼な態度を取ってしまい申し訳ございません」
「メイド長を管轄しているのは君の義母だろう。責任は彼女かメイド長に取らせるから気にするな」
「寛大なご対応をありがとうございます」
ずっと不機嫌そうに目を細めているラフリード様について、プライベートな情報はほとんど知らない。
遅くなった挨拶を交わしたあと、ラフリード様に尋ねる。
「申し訳ございませんが、夫は外出しているのです。私で良ければお話を聞かせていただきますが、それでよろしいでしょうか」
「突然押しかけてきたこちらが悪い。それから、君と先代の夫人に話があって来ただけで、当主には今日は用はない」
ラフリード様はトータムがいないとわかっていて、わざと訪ねてきたみたいだ。
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「くだらない嘘はつくな。それよりも、ここの当主がジゼル公爵家の客室を浮気するための休憩所に使っていたことについて話がある」
浮気をするために自分の家を使われていたことに腹を立てるのはわかる。
でも、どうして本人抜きで話をしようとするのかしら。
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