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31 夫にさよならを ②
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まさか、こんな大勢の前で離婚をお願いしてくるなど考えてもみなかったんでしょう。
トータムは目を見開いて私を見つめている。
この人に恋をしていた時期もあった。そう昔の話ではないはずなのに、彼への愛情が今は浮かんでこない。社会的立場なんてどうでもいい。大勢の前での離婚発言なのに、罪悪感も羞恥心も全て気にならないくらい、彼と離婚したいという気持ちが強かった。
私の人生、こんな人たちのために無駄にしてやるもんですか!
愛されていなくても一緒にいたいと思うならまだしも、私はそうじゃないんだから。
「な、何を言っているんだよ。フララと僕の仲が良いからって嫉妬しているのか?」
我に返ったトータムに尋ねられたので、彼を睨んだまま尋ねる。
「最初はそうだったのかもしれない。だけど、あなたの中の私の価値がフララさんよりも下だとわかった時、一気に気持ちが冷めたわ」
「だから言っているだろう? フララは僕の妹になったんだ。妹との結婚は認められていない。家族を大事にして何が悪いって言うんだ?」
「家族を大事にすることを悪いとは言っていないの。明らかに私は悪くないのに、フララさんに味方するあなたに嫌気がさしたの。ワガママだと言われてもいい。私が好きだったあなたはもういない。お互いの幸せのためにも別れたほうがいいのよ」
「お互いの幸せだって? 自分の幸せのためだけだろう! 僕の幸せは君との結婚生活を続けて、フララと幸せに暮らすことだ」
トータムの発言を聞いた周りがざわめく。今の言い方だと、妻の私よりも妹のフララさんを優先するように聞こえたのでしょう。
すると、ラフリード様が私に尋ねてくる。
「彼女は先代の侯爵夫人の連れ子だったな?」
「そうです」
「養子縁組はしているのか?」
そうよね。普通は気にするところよね。トータムたちにとっては当たり前のことすぎて、頭が回らなかったのかもしれない。もしくは、義父が嘘をついていたか。
私が答えようとした時、今まで静かだったウララ様が人をかき分けて、私たちの所へやってきた。
「今日はフララのおめでたい日なのよ! パーティーをぶち壊すのはやめてちょうだい!」
嫌な予感でもしたんだろうか。ウララ様は私の手を掴んで訴える。
「話があるのなら私が聞くわ。フララが嫌いだからって彼女の明るい未来を潰すことは許されるものじゃないのよ!」
「私は夫と話をしているんですけど?」
「こんな大勢の前で話しておいて、夫と話をしているですって? 晒し者にしているだけじゃないの!」
危機を察知する能力には長けているらしい。
ここでしつこく食い下がったら、私の印象が悪くなりそうだから、ここは大人しく引き下がっておこうか。
今までの会話でまともな人間なら、トータムと私たちの関係性に気づいてくれたでしょうから。
「そうですわね。失礼いたしました」
頷いたあと、ウララ様からトータムに視線を移す。
「話は後ほどにしましょう」
「話すことなんてない!」
「お兄様! どこに行くのよ!」
「放っておいてくれ!」
トータムはヒステリックに叫ぶと、フララさんが止めるにも関わらず、会場から逃げ出そうとする。
「トータム! 今晩しか話し合う時間はないわよ! もし、どこかへ逃げるようなら、円満に別れるチャンスはなくなるから!」
「うるさい!」
トータムは兵士たちの制止を振りきって、会場を出ていってしまった。
「まるで子供だな」
呆れた様子のラフリード様に頷き、私は先ほどの質問に改めて答える前に、フララさんに尋ねる。
「あなたはトータムと浮気していないと言える?」
「ええ。だって兄妹だもの!」
はっきりと答えたフララさんに、違う質問をぶつける。
「あなたたちは兄妹だから許される愛情しか持っていないということね?」
「そうですけど?」
「わかったわ。教えてくれてありがとう。では、兄だと思っていた人とどうぞお幸せに」
微笑んで頭を下げ、招待客のほうに体を向ける。
「お騒がせして申し訳ございませんでした。どうぞ引き続き、パーティーをお楽しみください」
カーテシーをしたあと、私はファルナ様たちと一緒に会場をあとにした。
トータムは目を見開いて私を見つめている。
この人に恋をしていた時期もあった。そう昔の話ではないはずなのに、彼への愛情が今は浮かんでこない。社会的立場なんてどうでもいい。大勢の前での離婚発言なのに、罪悪感も羞恥心も全て気にならないくらい、彼と離婚したいという気持ちが強かった。
私の人生、こんな人たちのために無駄にしてやるもんですか!
愛されていなくても一緒にいたいと思うならまだしも、私はそうじゃないんだから。
「な、何を言っているんだよ。フララと僕の仲が良いからって嫉妬しているのか?」
我に返ったトータムに尋ねられたので、彼を睨んだまま尋ねる。
「最初はそうだったのかもしれない。だけど、あなたの中の私の価値がフララさんよりも下だとわかった時、一気に気持ちが冷めたわ」
「だから言っているだろう? フララは僕の妹になったんだ。妹との結婚は認められていない。家族を大事にして何が悪いって言うんだ?」
「家族を大事にすることを悪いとは言っていないの。明らかに私は悪くないのに、フララさんに味方するあなたに嫌気がさしたの。ワガママだと言われてもいい。私が好きだったあなたはもういない。お互いの幸せのためにも別れたほうがいいのよ」
「お互いの幸せだって? 自分の幸せのためだけだろう! 僕の幸せは君との結婚生活を続けて、フララと幸せに暮らすことだ」
トータムの発言を聞いた周りがざわめく。今の言い方だと、妻の私よりも妹のフララさんを優先するように聞こえたのでしょう。
すると、ラフリード様が私に尋ねてくる。
「彼女は先代の侯爵夫人の連れ子だったな?」
「そうです」
「養子縁組はしているのか?」
そうよね。普通は気にするところよね。トータムたちにとっては当たり前のことすぎて、頭が回らなかったのかもしれない。もしくは、義父が嘘をついていたか。
私が答えようとした時、今まで静かだったウララ様が人をかき分けて、私たちの所へやってきた。
「今日はフララのおめでたい日なのよ! パーティーをぶち壊すのはやめてちょうだい!」
嫌な予感でもしたんだろうか。ウララ様は私の手を掴んで訴える。
「話があるのなら私が聞くわ。フララが嫌いだからって彼女の明るい未来を潰すことは許されるものじゃないのよ!」
「私は夫と話をしているんですけど?」
「こんな大勢の前で話しておいて、夫と話をしているですって? 晒し者にしているだけじゃないの!」
危機を察知する能力には長けているらしい。
ここでしつこく食い下がったら、私の印象が悪くなりそうだから、ここは大人しく引き下がっておこうか。
今までの会話でまともな人間なら、トータムと私たちの関係性に気づいてくれたでしょうから。
「そうですわね。失礼いたしました」
頷いたあと、ウララ様からトータムに視線を移す。
「話は後ほどにしましょう」
「話すことなんてない!」
「お兄様! どこに行くのよ!」
「放っておいてくれ!」
トータムはヒステリックに叫ぶと、フララさんが止めるにも関わらず、会場から逃げ出そうとする。
「トータム! 今晩しか話し合う時間はないわよ! もし、どこかへ逃げるようなら、円満に別れるチャンスはなくなるから!」
「うるさい!」
トータムは兵士たちの制止を振りきって、会場を出ていってしまった。
「まるで子供だな」
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「あなたはトータムと浮気していないと言える?」
「ええ。だって兄妹だもの!」
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「あなたたちは兄妹だから許される愛情しか持っていないということね?」
「そうですけど?」
「わかったわ。教えてくれてありがとう。では、兄だと思っていた人とどうぞお幸せに」
微笑んで頭を下げ、招待客のほうに体を向ける。
「お騒がせして申し訳ございませんでした。どうぞ引き続き、パーティーをお楽しみください」
カーテシーをしたあと、私はファルナ様たちと一緒に会場をあとにした。
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