35 / 44
35 新しい生活と夫の後悔 ③
働き始めてすぐに長期休みを取るのはどうかと考えたけれど、話を聞いたディーラス公爵から孤児院に連絡があった。私が休みを取って困るようなら、臨時で公爵家のメイドを貸してくれるとのことだった。
行く行かないは自由だと言われている。でも、王妃陛下からの申し出だし、孤児院の人たちも休む理由を知らないのに、休みを取っても良いと言ってくれた。
どうして王妃陛下がトータムを呼びつけたのかがわからない。その理由を知りたいこともあって、私は話を聞きに行くことにした。
王城に足を踏み入れたことのない私は、当日、ラフリード様たちと一緒に王城に向かうことになった。王妃陛下がラフリード様も来るようにと命令されたそうだが、二人きりだとトータムに知られた時に、また面倒くさいことを言い出しそうだ。
そう考えたラフリード様がそのことを王妃陛下に伝えると、ファルナ様の同席も許された。
トータムと王妃陛下の話を私たちが聞く必要があるのか。それも謎だわ。その疑問を王妃陛下への返事に書くと、トータムと話をする当日、彼よりも前に謁見させてもらえることになった。
その際、ラフリード様も同席するようにとのことだった。ラフリード様も自分が呼ばれた理由がわからず困惑している様子だった。
当日、案内された応接室の豪奢な椅子に座っている王妃陛下を見た時、やはり、王族になる人はオーラが違うのだなと感じた。
結婚パレードの時、遠目に一度だけ見たことがある王妃陛下は、ストレートの黒髪を背中に流した、芯の強そうな美しい女性だ。
私とラフリード様が挨拶をすると、王妃陛下は口を開く。
「よく来てくれたな。そこの椅子にかけて楽にしてくれ」
私とラフリード様が近くのソファに腰を下ろすと、王妃陛下は微笑する。
「ラフリードはまだしも、ミアリナは驚いただろう?」
「王妃陛下にお会いできて光栄でございます」
素直に驚きました、と答えて良いのかわからず、当たり障りのない答えを返すと、王妃陛下は笑う。
「緊張しなくても良いと言っても無駄だよな。緊張で疲れてしまわないうちに私がトータムをなぜ呼びつけたのか理由を話そう」
王妃陛下は赤色の瞳を私に向けたあと、すぐにラフリード様に目を移す。
「ラフリード、お前は理由がわかっているのだろう?」
「……考えられるとしたら、先代のビレディ侯爵の再婚相手と娘の件……でしょうか」
ウララ様とフララさん?
どうして王妃陛下が、その二人のことでトータムを呼び出すの?
驚いてラフリード様を見ると、彼は苦笑する。
「あなたも娘の評判が良くないことは知っているんだろう?」
「……はい。お金が好きで、学生時代は貴族のご令息に声をかけていたという話は聞きました」
「母親もそうなんだ」
「そうだったんですね。薬を入手できたのも、その関係ということですか?」
私の問いかけに、ラフリード様は無言で頷く。
ウララ様の悪事についてはわかってきたけれど、どうして、その話にトータムが関係あるの?
少しだけ考えて気がついた。
トータムのお父様がウララ様に殺されたと仮定した場合、どうして、ウララ様がそんなことをしたかというと、お金のためだ。
「……まさか」
「気がついたか? 私はそれを阻止してやろうと思う。依怙贔屓だと言われるかもしれないが、私も人間だ。友人の息子の命は助けたい。だから、忠告してやろうと思う。そして、私はラフリードの母の友人でもある」
ジゼル公爵夫人の話がなぜここで出てきたのか。
私とラフリード様が顔を見合わせると、王妃陛下は言う。
「ジゼル公爵夫人はどうしてもラフリードを結婚させたいらしい。しかも、ラフリードに相手にされなくても傷つかない女性とだ」
「傷つけるようなことはしません」
ラフリード様が眉根を寄せて言うと、王妃陛下は首を横に振る。
「そうだな。お前のことを知っている人間はそう思うだろう。だが、それがわかる以前にお前は多くの女性から敬遠されて、相手にしてもらえないじゃないか。それとも、フララとかいう娘の婿になりたいか」
「いいえ」
「だろう?」
「どうして私なのでしょうか」
ジゼル公爵夫人も理由を書いてくれていたけれど、私である必要はないはずだ。
「先代のビレディ侯爵は性格の良い男だった。そんな彼が大事な妻の形見をミアリナに渡したんだ。ミアリナは心の優しい女性であるに違いない。だから、ミアリナが嫌じゃない限り、私もラフリードとミアリナの結婚を望む。それだけだ」
……ラフリード様の気持ちは関係無しなのね。
気の毒に思ってラフリード様を見ると、彼は「俺のせいですまない」と眉尻を下げた。
でも、ここまで私を評価してもらえるなんて、私が思っていた以上に先代のビレディ侯爵夫妻は人格者だったんだわ。
二人とも、とても優しかったことを覚えているけれど、きっと、それだけではなかったんでしょうね。
でもそれなら、どうしてウララ様の思惑に気づかなかったのかも気になるわ。
「ラフリード様は悪くありません。評価していただけることはありがたいですし」
辛いことがあっても、誰かに当たらないように思いやりの心を忘れないように生きてきた。
それが認められたと言うのなら、見ている人は見てくれているのだとわかって嬉しい。
正直な気持ちを伝えたあと、王妃陛下に尋ねる。
「王妃陛下が現ビレディ侯爵を呼んだ理由は二つということでしょうか」
「そうだ。このままだと殺される可能性があるということ。それから、いい加減に現実を見ろと伝えるためだ」
私が言っても響かなかった。でも、王妃陛下なら、どんな反応をするかしら。
そして、自分の命が狙われるかもしれないと知って、ウララ様たちのことをどう思うのかしら。
行く行かないは自由だと言われている。でも、王妃陛下からの申し出だし、孤児院の人たちも休む理由を知らないのに、休みを取っても良いと言ってくれた。
どうして王妃陛下がトータムを呼びつけたのかがわからない。その理由を知りたいこともあって、私は話を聞きに行くことにした。
王城に足を踏み入れたことのない私は、当日、ラフリード様たちと一緒に王城に向かうことになった。王妃陛下がラフリード様も来るようにと命令されたそうだが、二人きりだとトータムに知られた時に、また面倒くさいことを言い出しそうだ。
そう考えたラフリード様がそのことを王妃陛下に伝えると、ファルナ様の同席も許された。
トータムと王妃陛下の話を私たちが聞く必要があるのか。それも謎だわ。その疑問を王妃陛下への返事に書くと、トータムと話をする当日、彼よりも前に謁見させてもらえることになった。
その際、ラフリード様も同席するようにとのことだった。ラフリード様も自分が呼ばれた理由がわからず困惑している様子だった。
当日、案内された応接室の豪奢な椅子に座っている王妃陛下を見た時、やはり、王族になる人はオーラが違うのだなと感じた。
結婚パレードの時、遠目に一度だけ見たことがある王妃陛下は、ストレートの黒髪を背中に流した、芯の強そうな美しい女性だ。
私とラフリード様が挨拶をすると、王妃陛下は口を開く。
「よく来てくれたな。そこの椅子にかけて楽にしてくれ」
私とラフリード様が近くのソファに腰を下ろすと、王妃陛下は微笑する。
「ラフリードはまだしも、ミアリナは驚いただろう?」
「王妃陛下にお会いできて光栄でございます」
素直に驚きました、と答えて良いのかわからず、当たり障りのない答えを返すと、王妃陛下は笑う。
「緊張しなくても良いと言っても無駄だよな。緊張で疲れてしまわないうちに私がトータムをなぜ呼びつけたのか理由を話そう」
王妃陛下は赤色の瞳を私に向けたあと、すぐにラフリード様に目を移す。
「ラフリード、お前は理由がわかっているのだろう?」
「……考えられるとしたら、先代のビレディ侯爵の再婚相手と娘の件……でしょうか」
ウララ様とフララさん?
どうして王妃陛下が、その二人のことでトータムを呼び出すの?
驚いてラフリード様を見ると、彼は苦笑する。
「あなたも娘の評判が良くないことは知っているんだろう?」
「……はい。お金が好きで、学生時代は貴族のご令息に声をかけていたという話は聞きました」
「母親もそうなんだ」
「そうだったんですね。薬を入手できたのも、その関係ということですか?」
私の問いかけに、ラフリード様は無言で頷く。
ウララ様の悪事についてはわかってきたけれど、どうして、その話にトータムが関係あるの?
少しだけ考えて気がついた。
トータムのお父様がウララ様に殺されたと仮定した場合、どうして、ウララ様がそんなことをしたかというと、お金のためだ。
「……まさか」
「気がついたか? 私はそれを阻止してやろうと思う。依怙贔屓だと言われるかもしれないが、私も人間だ。友人の息子の命は助けたい。だから、忠告してやろうと思う。そして、私はラフリードの母の友人でもある」
ジゼル公爵夫人の話がなぜここで出てきたのか。
私とラフリード様が顔を見合わせると、王妃陛下は言う。
「ジゼル公爵夫人はどうしてもラフリードを結婚させたいらしい。しかも、ラフリードに相手にされなくても傷つかない女性とだ」
「傷つけるようなことはしません」
ラフリード様が眉根を寄せて言うと、王妃陛下は首を横に振る。
「そうだな。お前のことを知っている人間はそう思うだろう。だが、それがわかる以前にお前は多くの女性から敬遠されて、相手にしてもらえないじゃないか。それとも、フララとかいう娘の婿になりたいか」
「いいえ」
「だろう?」
「どうして私なのでしょうか」
ジゼル公爵夫人も理由を書いてくれていたけれど、私である必要はないはずだ。
「先代のビレディ侯爵は性格の良い男だった。そんな彼が大事な妻の形見をミアリナに渡したんだ。ミアリナは心の優しい女性であるに違いない。だから、ミアリナが嫌じゃない限り、私もラフリードとミアリナの結婚を望む。それだけだ」
……ラフリード様の気持ちは関係無しなのね。
気の毒に思ってラフリード様を見ると、彼は「俺のせいですまない」と眉尻を下げた。
でも、ここまで私を評価してもらえるなんて、私が思っていた以上に先代のビレディ侯爵夫妻は人格者だったんだわ。
二人とも、とても優しかったことを覚えているけれど、きっと、それだけではなかったんでしょうね。
でもそれなら、どうしてウララ様の思惑に気づかなかったのかも気になるわ。
「ラフリード様は悪くありません。評価していただけることはありがたいですし」
辛いことがあっても、誰かに当たらないように思いやりの心を忘れないように生きてきた。
それが認められたと言うのなら、見ている人は見てくれているのだとわかって嬉しい。
正直な気持ちを伝えたあと、王妃陛下に尋ねる。
「王妃陛下が現ビレディ侯爵を呼んだ理由は二つということでしょうか」
「そうだ。このままだと殺される可能性があるということ。それから、いい加減に現実を見ろと伝えるためだ」
私が言っても響かなかった。でも、王妃陛下なら、どんな反応をするかしら。
そして、自分の命が狙われるかもしれないと知って、ウララ様たちのことをどう思うのかしら。
あなたにおすすめの小説
真実の愛の取扱説明
ましろ
恋愛
「これは契約結婚だ。私には愛する人がいる。
君を抱く気はないし、子供を産むのも君ではない」
「あら、では私は美味しいとこ取りをしてよいということですのね?」
「は?」
真実の愛の為に契約結婚を持ち掛ける男と、そんな男の浪漫を打ち砕く女のお話。
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
・話のタイトルを変更しました。
王子の婚約者は逃げた
ましろ
恋愛
王太子殿下の婚約者が逃亡した。
13歳で婚約し、順調に王太子妃教育も進み、あと半年で結婚するという時期になってのことだった。
「内密に頼む。少し不安になっただけだろう」
マクシミリアン王子は周囲をそう説得し、秘密裏にジュリエットの捜索を命じた。
彼女はなぜ逃げたのか?
それは───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
幼馴染を溺愛する婚約者を懇切丁寧に説得してみた。
ましろ
恋愛
この度、婚約が決まりました。
100%政略。一度もお会いしたことはございませんが、社交界ではチラホラと噂有りの難物でございます。
曰く、幼馴染を溺愛しているとか。
それならばそのお二人で結婚したらいいのに、とは思いますが、決まったものは仕方がありません。
さて、どうしましょうか?
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
旦那様、離婚してくださいませ!
ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。
まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。
離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。
今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。
夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。
それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。
お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに……
なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
再会の約束の場所に彼は現れなかった
四折 柊
恋愛
ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。
そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)